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「安倍主導」の改憲論議のいかがわしさ

信じられない「与野党でオープン」な議論。こんども欲しいのは結果だけ

武田砂鉄

安倍晋三首相の改憲に関する発言の後、はじめて開かれた衆院憲法審査会=5月18日拡大安倍晋三首相の改憲に関する発言の後、はじめて開かれた衆院憲法審査会=5月18日

 5月3日、読売新聞の単独インタビューに答え、「憲法改正 20年施行目標」を打ち上げた安倍首相。このところ、政府の意向に極めて従順な読売新聞は、インタビュー掲載に合わせ、あたかも塾講師のように「首相インタビューのポイント」と題した4項目の箇条書きを提示し、その最初の項目に「憲法改正を実現し、東京五輪・パラリンピックが開かれる2020年の施行を目指す」と記した。

 一体なぜ、憲法改正が東京五輪開催と絡んでくるのか。安倍首相が五輪にあわせて憲法を改正したいとする理由はどこにあるのか。該当部分を読売新聞のインタビューから抜粋してみる。

論拠のない2020年の改正憲法施行

 「私はかねがね、半世紀ぶりに日本で五輪が開催される2020年を、未来を見据えながら日本が新しく生まれ変わるきっかけにすべきだと申し上げてきた。かつて日本は1964年の東京五輪を目指して、新幹線、首都高速、ゴミのない美しい街並みなど、大きく生まれ変わった。私は当時10歳だったが、世界の強豪と肩を並べて活躍する日本選手の姿を見て、『やればできる』という大きな自信を持った。(五輪は)先進国へ急成長していく原動力となった。2020年も今、日本人にとって共通の目標の年だ」

 個人的に2020年はちっとも目標の年ではないが、これが、憲法改正を2020年に行いたいとし、「五輪」という言葉を憲法改正に絡めさせる論拠である。論拠、と言えるほどのものではないことがお分かりいただけるはず。この日の読売の社説は「2020年」を何度か使い、そのタイトルには「自公維で3年後の改正目指せ 『本丸』に着手するなら戦略的に」と、どこまでも従順且つアドバイスまで差し上げている。国会で憲法改正についての考えを表明したことを問われた安倍首相は、「読売新聞を熟読して」と答えたが、まったく蜜月である。

 かつての読売新聞社会部記者で、当時の社主・正力松太郎の意向に準じた記事作りを強いられることに嫌気がさして読売を辞したノンフィクション作家・本田靖春は、遺作『我、拗ね者として生涯を閉ず』のなかで「記者はおのれを権力と対置させなければならない。これは鉄則である。権力の側に身をすり寄せていけば、そうでなくとも弱い立場の人びとは、なおのこと隅っこに追いやられるのである」と書いている。まさに今、政府と一部メディアは、対置どころか結託し、「2020年」というスポーツの祭典を乱用して、あらゆる政治案件を思うがままに動かそうとしている。

1項・2項を残す理由、説明しない首相のズルさ

 インタビューで明らかにされた憲法改正の特筆すべき点は、9条について、1項・2項をそのまま残し、その上で自衛隊の記述を書き加えるという案。そして、高校教育の無償化だ。安倍首相は民進党の一部との合意を目指すこともあるのかと問われ、「そういう作業は、私は全くオープンだ。案を示し、賛成していただける方なら、どなたでも賛成してもらいたい」とした。くわえて、2012年に作成された自民党憲法改正草案は党の公式文書ではあるものの、「その後の議論の深化も踏まえ、草案をそのまま審査会に提案することは考えていない」とした。

 なるほどそうですか、と頷くわけにもいかない。自民党改憲草案では、現行憲法第9条1項にある「国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する」の文末を、「〜国際紛争を解決する手段としては用いない」とし、わざわざ「永久にこれを放棄」を切り取った。さらには「戦力の不保持」と「交戦権の否認」を定めた2項を丸ごと削除し、新たに「国防軍」の項目を設け、「内閣総理大臣を最高指揮官とする国防軍を保持する」と記していた。

 この改憲草案を提示した以降に、安保法制の解釈を強引に変更した経緯を踏まえれば、ここにきて「9条1項、2項をそのまま残し」と言い出した理由を安倍首相がこと細かに説明することなしに、「私は全くオープンだ」と言い切ることはできないはずだ。説明せずに「なんでも聞きますよ」とする姿勢がズルい。

自民党草案はひとまず置いて、に乗っていいのか?

 本稿はこのインタビューに基づき、とりわけ「9条加憲」論について書いてほしいとの依頼を受けたものではあるのだが、先日閉会した通常国会での実にいい加減な答弁や万事を未処理のまま忘れてもらおうと急かした姿勢を前にすると、憲法改正論議に乗っかること自体に危うさを覚える。

 インタビューで安倍首相は、これまでの自民党改憲草案はひとまず置いといて、野党も交えて積極的な議論をしましょう、との提言をした。だが思い出してみれば、たった半年前、年始の施政方針演説で安倍首相は「意見の違いはあっても、真摯かつ建設的な議論をたたかわせ、結果を出していこうではありませんか」と語っている。

 通常国会が終わった今、この言葉を思い返したい。「真摯かつ建設的な議論をたたかわせ、結果を出していこう」は露ほども果たされていない。真摯かつ建設的な議論をたたかわせる気など皆無だった。結果だけが欲しかった。だからこそ憲法改正について「全くオープン」とされても、信じることなどできない。次もまた、結果だけを欲していると勘繰るのが自然ではないか。

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筆者

武田砂鉄

武田砂鉄(たけだ・さてつ) 

1982年生まれ。東京都出身。大学卒業後、出版社勤務を経て、2014年からフリー。『紋切型社会――言葉で固まる現代を解きほぐす 』で第25回Bunkamuraドゥマゴ文学賞受賞。他の著書に『芸能人寛容論』、『せいのめざめ』(益田ミリ氏との共著)がある。