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民主主義を大事にするため守るべき「流儀」

記者は総会屋とは違う。真実にこだわれ。政権の言いなりになるな。

牧太郎 毎日新聞客員編集委員

「最後の総会屋」の口癖

 記者の「流儀」について書く。

 40年も前のことだ。約5年間、警視庁捜査2課4課(知能犯・組織暴力)担当の事件記者だった。汚れた役人、詐欺師、暴力団の類だけでなく、大企業が恐れていた「総会屋」も重要な取材対象だった。映画「最後の総会屋」のモデルとされた人物とも親しくなっていた。

 彼は会うたびに、口癖のように、こう言った。

 「同じネタを書いても、キミたちは“天下の××”の記者さん。俺は嫌われものの総会屋。その違い、分かるか? 俺は特定の人間の利益のために暴露記事を書いたり、秘密情報をチラつかせながら脅したりする。要するに、怪文書で飯を食っているんだ。キミたちは不特定多数の読者を相手に、安い給料で頑張って“真実”を書く。ご立派だが、キミたちは、いつまでたっても貧乏人だ」

 自嘲気味ではあるが、彼一流の表現で「怪情報の価値」を説明した。権力を持つ、あるいは財力を持つ「特定の人間」だけを相手にすれば、「怪しい情報」でも高く売れる! 彼が言いたかったのはそういうことだ。

 この人物は〝怪しい情報?〟で稼いだカネで、当時、一世を風靡していた超人気アイドル「ピンクレディ」の〝隠れオーナー〟になっていた。

記者はただただ「真実」にこだわる

 でも、我々、記者の「流儀」は違う。貧乏人のままであろうと、なかろうと、私生活までも台無しにして、日々、「朝駆け夜打ち」を繰り返す。ただただ「事実」にこだわるがためだ。

 現場をはいずり回っているころの僕は、記者会見で知らされる「発表もの」なんて、どうでもよいと思っていた。追っかけたのは、誰もが知っている役所や大企業、有名人、もちろん政治家に関する「誰も知らないニュース」だ。できるだけ多くの人たちには、どこよりも早く「特ダネ」を伝えたいと思った。これは歴史を最初にデッサンする仕事だ。いささか気負った自負もこめて、そう信じていた。

 まるで、オリンピック精神のような気分で頑張った。たまにではあるが「歴史に残る真実」を掘り当てることもある。それこそ、カネに代えられない「スクープの醍醐味」である。

 もちろん、紙媒体、電波媒体、ネット……それぞれに「流儀」が違う。新聞だって、朝日、東京、読売、日経、産経、僕の所属していた毎日も、それぞれ「流儀」が違うのが当然である。それでも、根っこの部分では、通じ合うものが合ったと思う。

読売新聞の奇妙スキャンダル記事

 ことし5月22日、読売新聞朝刊の社会面に、「前川前次官 出会い系バー通い/文科省在職中、平日夜」という見出しの記事が掲載された。文科省の前川喜平・前次官が在職中、歌舞伎町の出会い系バーに頻繁に出入りしていたという内容だった。

日本記者クラブでの会見でメディアと権力の関係について語る前川喜平・前文科事務次官=6月23日拡大日本記者クラブでの会見でメディアと権力の関係について語る前川喜平・前文科事務次官=6月23日

 そもそも、“出会い系バー”なるものを知らなかった。見出しを見て、「悪徳官僚が業者にたかって接待を受けていた」のか、と思った。だが、読んでみると、そうでもないらしい。記事には、「女性らは『割り切り』と称して、売春や援助交際を男性客に持ちかけることが多い」とある。ということは、前川さんに買春の疑いがあるのか? とも思ったが、読み進めても、具体的な「犯罪的行為」に言及しているわけではない。

 ヘンな記事だ!と思った。

 その前川さんは今や超有名人である。「加計」問題で記者会見を開き、安倍内閣が推し進めた「学校法人加計学園の国家戦略特区の獣医学部新設」について「行政が歪められた」と証言した。それを裏付ける文書が共有されていた、と主張した。俗に言う「前川の乱」だ。

 「一強」といわれる安倍政権に盾をついた告発記者会見は、この奇妙な醜聞記事が読売新聞に掲載されてから3日後だった。多くの人が読売の「出会い系バー通い」の記事を思い出しただろう。首相官邸もこの記事を引いて前川さんを攻撃した。

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筆者

牧太郎

牧太郎(まき・たろう) 毎日新聞客員編集委員

1944生まれ。早稲田大学卒業後、毎日新聞に入社。社会部、政治部、「サンデー毎日」編集長などを歴任。91年に脳卒中で倒れるが、92年に職場復帰。マスメディアとして初めてオウム真理教を追究した点が評価され、97年に日本記者クラブ賞を受賞。著書に『社会部記者が見た――芸能界 裏の裏』、『たかり――KDDの陰謀』、『新聞記者で死にたい オウム事件と闘病の日々』など。