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政府の側は内部告発者への違法な攻撃をやめるべき

公益通報者保護法制から見た文科省現旧職員の行動の意義と適法性

奥山俊宏 朝日新聞編集委員

加計学園問題をめぐって

記者会見する前川喜平・前文部科学事務次官=6月23日、東京・内幸町の日本記者クラブで、奥山俊宏撮影拡大記者会見する前川喜平・前文部科学事務次官=6月23日、東京・内幸町の日本記者クラブで、奥山俊宏撮影

 安倍晋三首相の長年の友人が経営する加計学園の獣医学部新設をめぐって、安倍政権が「総理のご意向」によって政府の行政を不公正に歪(ゆが)めたとの疑惑、さらに、その「ご意向」を記載した文書が文部科学省内に存在するのにその存在をなかったことにしようとしたとの疑惑が、文部科学省の現旧職員らによる内部告発で明らかになっている。政権の側は、それら内部告発者の側に対して、個人攻撃で報復し、「守秘義務に違反する可能性がある」との脅しまで繰り出している。私は2002年に、当時の小泉政権が公益通報者保護制度の検討を始めたのを契機にその取材を始め、日米英3カ国の内部告発の事例や法制度を取材してきた。その観点から今回の事態を分析してみたい。

「総理のご意向」文書の経緯は

NHKのウェブサイトで「文科省の審議会 新設獣医学部に『課題あり』と報告」というタイトルで5月16日21時32分に公開された動画の1場面のスクリーンショット拡大NHKのウェブサイトで「文科省の審議会 新設獣医学部に『課題あり』と報告」というタイトルで5月16日21時32分に公開された動画の1場面のスクリーンショット

 加計学園の獣医学部新設について、「官邸の最高レベルが言っている」などと書かれた文科省の内部文書は5月16日夜、NHKで、肝心の部分「官邸の最高レベル」の8文字を黒塗りにした上で報じられ、翌17日、朝日新聞の朝刊で初めて詳細に報じられた。すると、菅義偉・官房長官はその日の記者会見でそれを「怪文書みたいな文書」と切って捨て、松野博一・文部科学大臣は19日、「該当する文書の存在は確認できなかった」との調査結果を発表した。

 これに対して、今年1月まで文科省事務方の最高責任者を務めていた前川喜平・前文部科学事務次官が、朝日新聞や週刊文春の取材に応じ、次官在任中に文書を見たと明言。「あるものが、ないことにされてはならない」と語り、同月25日に記者会見を開き、獣医学部新設をめぐって「公正公平であるべき行政のあり方がゆがめられた」と述べた。

 これに続くようにして、文科省の現役職員が匿名で報道各社の取材に応じ、文書が現存すると明らかにした。こうした内部告発に後押しされて、6月9日、文科省はそれまでの姿勢を一転して再調査の方針を発表。同月15日、文書が存在するとの再調査結果を公表した。

 この間、前川氏について、菅義偉官房長官は5月25日の記者会見で、天下りあっせん問題をめぐって「当初は責任者として、自ら辞める意向を全く示さず、地位に恋々としがみついておりました」と批判。安倍晋三首相は6月1日のラジオ番組収録で「次官なら大臣と一緒に私のところに(獣医学部新設に関する私の意向の確認に)来ればいい」と述べた。

前川前文科事務次官の「出会い系バー通い」を報じた読売新聞社会面の記事拡大前川前文科事務次官の「出会い系バー通い」を報じた読売新聞社会面の記事

 また、5月22日の読売新聞で前川氏の「出会い系バー通い」がスキャンダルであるかのように報じられ、前川氏が「女性の貧困を扱う報道番組を見て、話を聞いてみたいと思った」と説明すると、菅官房長官は26日の記者会見で「教育行政の最高責任者がそうした店に出入りし、小遣いを渡すようなことは到底考えられない」と前川氏を重ねて批判した。

「守秘義務違反に当たらないか」と記者会見で質問した男性

 文科省の現役職員や前川氏について、守秘義務に違反しているのではないかと指摘する声も次々と上がった。

 5月25日の前川氏の記者会見で、「読売新聞です」と名乗る男性が最後に質問し、「在職中に知り得たものを出すことについて守秘義務違反に当たらないか」と発言。米カリフォルニア州弁護士でタレントでもあるケント・ギルバート氏は、産経新聞のウェブサイトに掲載されたコラムの中で、「『文書』が本物であれば守秘義務違反で捕まるべき人物がいるはずだ」と主張(「天下り問題、守秘義務違反を無視 前川氏はメディアに「敵の敵は味方」と認識されたのか」『ケント・ギルバートのニッポンの新常識』、2017年6月9日、http://www.sankei.com/politics/news/170609/plt1706090023-n2.html)。義家弘介・文科副大臣は6月13日の参院農水委員会で「非公知の行政運営上のプロセスを上司の許可なく外部に流出されることは国家公務員法(違反)になる可能性がある」と答弁し、守秘義務違反に当たりうるとの見解を示した。

人格攻撃の典型パターンとそっくり

 これらはいずれも、内部告発された組織の側が内部告発者に対して示す反応の典型パターンとそっくりだ。

 内部告発者、なかでも、本質的で重要な不正について内部告発をした人は、たいてい、あることないこと織り交ぜて誇張された人格攻撃にさらされる。また、守秘義務を破って情報を漏洩したとの非難が加えられ、まれに実際に罪に問われることがある。これは日本に限った話ではなく、古今東西に見られる共通の現象だ。

 精密機器メーカー、オリンパスの不正経理疑惑を追及した英国人社長もそうだったし、自衛隊内部のいじめ自殺の証拠の隠匿を遺族の側に知らせた自衛官も当初はそうだった。タバコの中毒性を告発した米国の大手タバコ会社元副社長の事例は、ハリウッドの映画『インサイダー』にもなった。

 大阪高検の公安部長だった三井環氏は、検察の裏金づくりについて、当初は匿名で月刊誌「噂の真相」や週刊誌の取材を受けていたが、やがて、表に出ての内部告発を決意し、2002年4月22日、テレビ局のインタビューを受ける予定だった。ところが、その当日の朝、詐欺や職権乱用の容疑で大阪地検特捜部に逮捕され、それにあわせて女性スキャンダルを報じられた。検察取材に定評のある村山治氏が朝日新書『ルポ 内部告発 なぜ組織は間違うのか』に寄せた原稿によれば、その数カ月前から、検察首脳は、三井氏の動きを察知し、大阪高検の検事と事務官に三井氏の周辺を調べさせ、そのなかで女性との関係の話をつかんだ、とされる。この逮捕と醜聞によって三井氏の内部告発は中途半端に終わらざるを得なかった。

なぜ人格を攻撃し、漏洩を非難するのか

 本来ならば、内部告発の内容と内部告発者の人格は関係がない。内部告発した人がどんな悪人であっても、内部告発の内容が真実であることはあり得る。内部告発した人がどんなに正直な人であっても、内部告発が誤解に基づくものである可能性もなくはない。

 内部告発の内容がウソだというのなら、内部告発された側はそれに反論すればいい。ところが、内部告発の内容について反論するよりも先に、内部告発者の人格を攻撃し、内部告発者の秘密漏洩を非難するのが、告発された側の人たちの多くに共通する習性だ。

 それはなぜか。

 一つは、痛いところを突かれたと感じ、「ばらしやがって」と怒り、思わず感情をあらわにしてしまう、というものだ。

 もう一つは、内部告発した人の評判を落とし、信用を貶(おとし)めて、内部告発の内容の信憑性を低めようとする狙いがあっての意図的な攻撃だ。

 しかし、それらだけが人格攻撃の理由ではない。

 これまでの様々な事例で共通して見られる、人格攻撃と漏洩非難の大きな狙いは、内部告発の連鎖を止めることにある。内部告発が別の新たな内部告発を呼び起こすことがないように、見せしめにしようということだ。

 放っておけば、正当な内部告発は必ず共感を呼び、別の内部者が声を上げる。それを止めるため、内部告発者に悲惨な末路を押しつけ、示しをつけようとする。見せしめにするのだ。

 このように、内部告発した人の多くは、人格を攻撃され、情報漏洩を非難される。日本だけでなく、アメリカでもそうだし、イギリスでもそうだ。これは一つのパターンだ。前川氏はまさにそうした人格攻撃の対象にされているように私には見えた。安倍政権幹部らの反応を見ると、いつものあのパターンだな、と私は感じざるを得ない。

守秘義務違反に当たるはずがない

 守秘義務を破ったとして前川氏や文科省職員を非難する人もいる。法を知らない人の意見だと私は思う。

 たしかに、国家公務員法100条は「職員は、職務上知ることのできた秘密を漏らしてはならない」「その職を退いた後といえども同様とする」と定めている。しかし、内部の情報だからといって、何もかもがここで言う「秘密」にあたるわけではない。

 最高裁判例は次のように「秘密」を限定する。

 実質的にもそれを秘密として保護するに価すると認められるものをいい、国家機関が単にある事項につき形式的に秘扱の指定をしただけでは足りない。(http://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=51065

 つまり、外部に情報を流す際に上司の許可がなかったからといって、それだけでは守秘義務違反にはならない。「官邸の最高レベルが言っている」などの記載のある文書は、「官邸の最高レベル」にとっては、「秘密」にしておきたいことなのかもしれない。しかし、それだけでは、国家公務員法の言う「秘密」には当たるとは言えない。

 守秘義務違反に当たるかどうかは、漏洩された情報の実質的な内容や漏洩の方法・態様を総合して判断するべきことだ。

 これまで日本で守秘義務違反を罪に問われた事例の大部分は、警察官が容疑者に捜査情報を漏らした、といったような極端に悪質な事件で占められている。報道機関への情報提供が有罪とされたのは、外務省の事務官が毎日新聞の記者に秘密の公電文案を渡した1972年の事件と、容疑者の精神鑑定を担当した医師がフリージャーナリストに供述調書や鑑定結果を見せたことが刑法の秘密漏示罪に問われた2006年の事件くらいしか例がない。防衛省情報本部電波部の課長が中国潜水艦の行動情報を読売新聞記者に漏らした2005年5月の事件、神奈川県警捜査二課の警部補が捜査情報を知り合いの週刊誌契約記者に電子メールで教えた2005年6月の事件については、漏洩した側が自衛隊法違反や地方公務員法違反の疑いで書類送検されたが、いずれも不起訴(起訴猶予)となった。公務員から記者への情報提供は毎日、無数にあるが、それらのうち、裁判で有罪になったのは過去70年でわずか1件しか知られていない、ということだ。

 これはかつての米国でも同様だった。米国の連邦法ではそもそも包括的な守秘義務が法律の定めになっていない。国家安全保障に関わる情報など特定の情報だけが法律上の守秘義務の対象になっている。報道機関への情報漏洩で連邦公務員が罪に問われた事例は2001年以前は2件しかなく、有罪になったのはうち1件だけだった。2001年以降のこの16年は、摘発のための技術の進歩もあって、11の訴追を数えることができるが、それでも年に1件あるかどうかの頻度である。

 国政の主権者は国民なのだから、政府など国家機関の持つ情報について、国民には知る権利がある。国家安全保障や外交など理由がある場合に限って、例外的に秘密にすることが許される。

 政府に関する情報を十分に知らされていないと、国民は有権者として選挙権行使の判断のしようがなくなってしまう。だから、民主主義を機能させるためにも、国民は政府の情報を十分に得ることができなければならない。

 このように国民には知る権利があると考えるのが法の原則なのだから、裁判所が「秘密」を限定的に解釈し、捜査当局が守秘義務違反を罪に問うのに謙抑的な姿勢であろうとするのは、民主主義国ならば当然のことだといえる。

 2010年、尖閣諸島沖で日本の巡視船と中国の漁船が衝突した様子を撮影した映像を動画サイト「YouTube」にアップロードした海上保安官について、警察は当初、守秘義務違反を罪に問おうとした。しかし、動画は「秘密」には当たらないとの見解が有力で、保安官の逮捕は見送られ、最終的に起訴猶予になった。

 日本弁護士連合会の宇都宮健児会長(当時)は「元海上保安官の行為は、『秘密』を漏らしたものとは評価できず……『嫌疑なし』として不起訴処分とすべき」との談話を発表した。(https://www.nichibenren.or.jp/activity/document/statement/year/2011/110121.html

 不起訴に先立って、保安官は停職の懲戒処分を受けた。「職務上の命令に違反した」など信用失墜行為がその第1の処分理由に挙げられ、「訴訟に関する書類を公にした」という守秘義務違反は第2の処分理由に挙げられるにとどめられた。もし仮に保安官が起訴されていれば、おそらく無罪になっただろう。

 特定秘密保護法の制定過程でも、秘密と内部告発との関係が議論された。

 たとえ「特定秘密」に指定された情報であっても、その内容によってはその指定が無効となり、内部告発のための公表が許され得る、との原則が議論の中で明らかにされている。

 自民党のウェブサイトの「特定秘密の保護に関する法律Q&A」というページ(https://www.jimin.jp/activity/colum/122766.html)には次のように記載されている。

 Q23. 違法行為を隠すために、これを「特定秘密」に指定した場合、内部告発できなくなるのではないですか?

 仮に、違法行為を隠蔽するために、これが特定秘密に指定されたとしても、このような指定は有効なものではなくこれらの事実について内部告発された場合、特定秘密の漏えいには該当せず、通報した者が処罰されることはありません。

 加計学園をめぐって問題となった文科省の内部文書は、防衛、外交、スパイ防止、テロ防止には関わりないので、「特定秘密」ではない。しかし、「特定秘密」に指定されている情報でさえ、このように内部告発のために漏洩することが許されるのだから、いわんや「特定秘密」ではなく、また、正式な手続きを経て秘密に指定されたわけでもない「個人メモ」だというのならば、なおさらその漏洩は違法性を欠き、許されるというべきだろう。

不公正な職務執行や事実に反するウソ発表は法令違反

 憲法15条2項は「すべて公務員は、全体の奉仕者であつて、一部の奉仕者ではない」と規定し、国家公務員法96条はそれを確認する形で「すべて職員は、国民全体の奉仕者として、公共の利益のために勤務し……なければならない」と定める。さらに、国家公務員倫理法3条は「常に公正な職務の執行に当たらなければならない」と一般職の公務員に義務づけている。国家公務員が行政を歪めるのに関与し、不公正な職務執行をするのは、これらの規定に違反する違法行為だ。

 また、国家公務員法99条は「職員は、その官職の信用を傷つけ、又は官職全体の不名誉となるような行為をしてはならない」と定め、一般職の国家公務員による信用失墜行為を禁止している。実際には文書が存在するのに、形ばかりのずさんな調査で「文書は確認できない」と発表するのは、その官庁の信用を失墜させる行為であり、そのような行為に加担すれば、それは、この規定に違反する違法行為だ。

 そして、これら法令違反の疑いを示す文書があ ・・・続きを読む
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筆者

奥山俊宏

奥山俊宏(おくやま・としひろ) 朝日新聞編集委員

1966年、岡山県生まれ。1989年、東京大学工学部卒、朝日新聞入社。水戸支局、福島支局、東京社会部、大阪社会部などを経て特別報道部。『法と経済のジャーナル』の編集も担当。著書に『内部告発の力 公益通報者保護法は何を守るのか』(現代人文社、2004年4月)、『ルポ 東京電力 原発危機1カ月』(朝日新書、2011年6月)、『秘密解除 ロッキード事件  田中角栄はなぜアメリカに嫌われたのか』(岩波書店、2016年7月)。共著に『偽装請負』(朝日新書、2007年5月)、『ルポ 内部告発 なぜ組織は間違うのか』(同、2008年9月)、『検証 東電テレビ会議』(朝日新聞出版、2012年12月)など。