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前川氏報道で批判浴びる読売新聞

「報道機関としての存在を否定するに等しい、組織の不祥事」

郷原信郎 弁護士

 読売新聞は、5月22日に、「前川前次官 出会い系バー通い 文科省在職中、平日夜」と題し、前川喜平前文部科学事務次官(以下、「前川氏」)が、新宿の「出会い系バー」に頻繁に出入りし、代金交渉までして売春の客となっていたかのように報じる記事を大々的に掲載した。

記事によって前川氏の会見発言の価値が大きく減殺

読売新聞が5月22日付朝刊で報じた出会い系バー通いの記事(右)と、6月3日付の社会部長名の記事
 それは、前川氏が記者会見を開き、加計学園の獣医学部の新設の認可に関して、「総理のご意向」などと記された記録文書が「確実に存在している」「公平公正であるべき行政のあり方がゆがめられた」などと発言する3日前のことだった。

 菅義偉官房長官は、5月26日の定例会見で、前川氏に関して、「常識的に言って、教育行政の最高の責任者がそうした店に出入りし、小遣いを渡すことは到底考えられない」などと発言した。

 読売記事と官房長官の発言を受けて、前川氏に対して批判が高まり、加計学園問題に関する前川氏の記者会見での発言の価値を大きく減殺する効果が生じた。

 読売記事では、前川氏の「出会い系バー」への出入りに対して、「不適切な行動に対し、批判が上がりそうだ」としているが、「出会い系バー」に頻繁に出入りしていた事実だけでは、批判の根拠にならない。

 それを新聞で報じ社会的批判の対象にするのであれば、重要なことは、前川氏が、そこで、売春や援助交際に関わったのかどうかだ。記事では、「出会い系バー」の一般的実態に関する「一般的に女性の側から売春、援助交際を持ち掛け、店は直接、こうした『交渉』には関与しない」との記述を受ける形で、「複数の店の関係者」「店に出入りする女性の一人」の証言として「同席した女性と交渉し、連れ立って店外に出たこともあった」「値段の交渉をしていた女の子もいる」「私も誘われたことがある」と書かれている。この流れからして「交渉」が「売春、援助交際の価格交渉」の意味で使われていることは明らかであり、「前川氏が売春等の交渉を行った」ということが、まさに記事が伝えようとした事実の核心だ。

「売春」や「援助交際」を否定する、関係者証言

 しかし、会見当日、前川氏の独占インタビューを掲載し、同氏が記者会見で発言する内容を事前に詳細に報じていた「週刊文春」は、6月8日発売号で、「出会い系バー相手女性」と題する記事を掲載した。前川氏と3年間で3~40回会った「A子さん」のほか「A子さんから前川氏を紹介された女性」、「前川氏とA子さんが通っていたダーツバーの当時の店員」も、前川氏と女性達との間には、売春や援助交際などは全くなく、生活や就職等の相談に乗り、小遣いを渡していただけであったことを証言している。それに加え、週刊FLASH6月13日号の記事でも、前川氏と「店外交際」した複数の女性が、「お小遣いを渡されただけで、大人のおつき合いはなし」と証言したことが書かれている。

 読売新聞も、前川氏が出入りしていた出会い系バーの取材をして、「関係者証言」をとっていれば、上記のような実態が把握できたはずだ。

 読売の記事については、二つの可能性が考えられる。一つは、官邸サイドから前川氏が出会い系バーに出入りしていたことの情報を入手しただけで、何の取材も行わずに(「関係者証言」をでっち上げて)記事にした可能性。もう一つは、関係者取材をして、売春・援助交際を目的とするものではなかったことを把握していたが、それでは、前川氏が「不適切」「社会的批判を受ける」とする理由がなくなるので、「交渉」「値段の交渉を行っていた」という曖昧な表現で(必ずしも「売春、援助交際の交渉」を意味するものではなく、「お小遣いの金額についての話」も「交渉」だと弁解する余地を残して)、前川氏が売春や援助交際に関わっていたかのような印象や事実認識を与えようとした可能性である。

 前者であれば、「関係者証言のねつ造」という、新聞として絶対に許されない重大な問題となる。後者であっても、前川氏に関して意図的に誤った印象を与えようとしたことになり、それも、新聞報道として許されることではない。

取材の核心に触れず、疑惑を深めた社会部長コメント

 記事に対する疑問や批判が高まったことを受けて、6月3日の読売新聞の紙面に、原口隆則社会部長のコメントが掲載された。記事掲載の正当性を主張した上、「本紙は独自の取材で、前川氏が売春や援助交際の交渉の場となっている『出会い系バー』に頻繁に出入りしていることをつかみ」と述べている。しかし、肝心の、「交渉」「値段の交渉」がいかなる取材や証言に基づくものかには全く触れていない。この社会部長コメントは、記事に対する疑惑を一層深めるものとなった。それだけでなく、社会部長がコメントすることで「社会部の記事」であることを明確に認めることになり、「新聞の社会部報道」に対する一般的信頼をも大きく損なうこととなった。

 今回の読売の記事に関しては、不可解な点が多々ある。読売新聞は、

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