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「政権交代2・0」の時代が始まった

都議選で自民党が惨敗、内閣支持率の急落でみえてきた安倍政権の問題点とは

牧原出 東京大学先端科学技術研究センター教授(政治学・行政学)

都議選での安倍晋三首相の街頭演説にプラカードを掲げて抗議する人たち=7月1日、東京都千代田区

</Kiji>都議選での安倍晋三首相の街頭演説にプラカードを掲げて抗議する人たち=7月1日、東京都千代田区

都議選で予想を超えた自民惨敗、内閣支持率も急落

 7月2日の東京都議選の破壊力は凄まじかった。事前にメディア各社の世論調査が安倍晋三内閣の支持率について、10%ほど下がっていると報じていたとはいえ、まさかここまで自民党が惨敗するとは、誰も予想していなかった。その結果、自民党内をはじめ、連立のパートナーである公明党、そしてマスメディアが首相官邸に遠慮することなく、首相と周辺に対して批判的な姿勢をあからさまに見せるようになった。あたかも、「忖度」の呪縛が融けはじめたかの様相である。

 都議選後にメディア各社が次々に実施した世論調査の結果も衝撃的なものだった。NNN(7月7~9日に実施)が支持率31・9%、不支持率49・2%、読売新聞(同)は支持率36%、不支持率52%、朝日新聞(8~9日に実施)は支持率33%、不支持率47%、NHK(7~9日に実施)は支持率35%、不支持率48%。いずれも、前回調査と比べて支持が大きく減り、不支持が5割前後に達している。高い内閣支持率を最大の「政治資産」としてきた安倍政権と首相官邸にとって、事態は次第に深刻化しつつある。

実情は首相官邸の「一人負け」

 とはいえ、都議選の結果、第1党となった都民ファーストは、小池百合子都知事が今のところ自民党に近い批判勢力でもあるため、派閥政治が幅をきかせた「55年体制」になぞらえていえば、自民党の「非主流派」ともいいうる。そう考えると、今回の選挙結果は、広くとれば自民党の敗北であるとまでは言い切れない。

 また、かつて自民党の対抗勢力と目された民進党は、都議選においても凋落の一途をたどり、政権交代の受け皿になり得ていない。取って代わる政党が見当たらないため、与党は全体として支持率を落としつつあるとはいえ、依然安泰のようであり、自公政権が失速したとまでは言えない。連立の枠組みを堅固にし、内閣改造、さらには首相の交代で事態を乗り切ることは、不可能ではないからである。

 つまり、国政の与党は安泰のなか、ひとり首相官邸が沈んだというのが、今回の都議選の結果であった。「官邸主導」は今後、自民党内、公明党、そしてメディアから厳しい監視の目にさらされ、これまでのような他を圧する力を持つことはなくなったのである。

限界に達した?「官邸チーム」の力量

 どうして、このような事態に立ち至ったのか? 問題の一つは、「官邸チーム」の力量が限界に達しつつあることである。

 2012年暮れの第2次安倍政権発足から4年半、「官邸チーム」を形成してきた首相、官房長官、重要閣僚、官僚スタッフの主要メンバーはほとんど変わっていない。疲労の蓄積は当然、あるだろうし、発想の硬直化や、成功体験への過度な固執という弊害は十分考えられる。

 二つめの問題は、現政権が「短期」で結果を出そうと焦りすぎていることである。加計学園の問題では、国家戦略特区制度の運用が拙速に過ぎたのではないかと文科省側、なかんずく前川喜平・前事務次官が批判しているが、官邸は文書のあるなしを繰り返すばかりで、「拙速批判」そのものには満足な回答を示せていない。

「短期間で結果を出す」が招いた現在の苦境

 こうした短期的な結果を求め続けてきた代償が、現在の苦境である。仮に加計学園問題への批判をしのいだとしても、これまで政権が掲げてきた地方創生や一億総活躍といった施策を、首相の言葉通り「丁寧に」点検すれば、他にもさまざまな問題が浮かび上がる可能性は高い。政権はいかにも唐突に「人づくり革命」をこれから看板施策に掲げようとしているが、それもまた、これまで同様、拙速な決定の果てに、問題含みの結論しか生まないだろうという見通しが広がるのは当然であろう。

 要は、現政権は通常国会を軸に、1年単位でしか政権運営を考えられていないのである。そこに決定的な問題がある。振り返れば、2006年に発足した第1次安倍晋三政権以降、1年単位で政権が崩壊したパターンを、いまだ現政権は脱し切れていない。1年で崩壊しないことを念頭に、1年単位での課題処理に追われているのである。

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