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小池都知事は日本のマクロンか?

率いる政党・支持勢力を選挙で圧勝させた両者の間にあるこれだけの違い

野中尚人 学習院大学教授

都議選後に耳にした「うわさ」

 都議選が終わってから数日がたったある日、ひとつの「うわさ」を耳にした。

 「私は日本のマクロンよ」。東京都議選で圧勝した「都民ファーストの会」の代表(選挙期間中だけだったが)だった小池百合子都知事が、駐日フランス大使に対してそう語ったというのが、うわさの中身だった。

 小池都知事がマクロン? フランス大統領選を現地まで見に行った私は、このうわさにどこか釈然とせず、後日、6月に赴任されたばかりのピック駐日フランス大使に、真偽のほどを伺ってみることにした。思えば、ずいぶんと不躾けな質問なのではあるが。すでに若干のアルコールが入っていたこともあってか、大使は嫌な顔をされるどころか、優れて知的、柔和な表情を一瞬大きく崩されながら、快く答えて下さった。

 「ありません。なぜなら、まだお会いしてないからです」

当選の花がついたボードの前に立つ「都民ファーストの会」の小池百合子代表=2日拡大当選の花がついたボードの前に立つ「都民ファーストの会」の小池百合子代表=7月2日

国政への野望を隠しつつ、自らをマクロンに重ねる?

 都議会議員選挙での都民ファーストの大勝利は大方の予想を超えていたし、自民党敗北の厳しさもおよそ想定外のレベルだったといってよいだろう。都民ファーストの大躍進は、新しい政治勢力が既成の大政党を完膚なきまでに打ちのめしたという点において、フランスにおけるマクロン新大統領の支持勢力による議会下院選挙の圧勝と似通った面があるのは確かだ。

 マクロン支持勢力は、およそ1年前に立ち上げられたばかりだったが、大統領選後におこなわれた6月の議会下院選挙で、一挙に単独過半数の議席を獲得している。

 自らの成功を、マクロン大統領のそれに重ねてみたいという気持ちを、きっと小池知事は持っているだろう。今のところ、国政への野望は隠しているんだろうけどね――。うわさの背景にあるのは、こうした世の中一般の受け止め方ではないか。

大量の「小池チルドレン」に抱く危惧

 ただ、若干の失礼を顧みないで言うならば、今回の都議選は結局のところ、大量の「小池チルドレン」を生み出したに過ぎないようにみえる。なるほど、彼らは「小池政経塾」で基礎的なことは学んではいるだろうが、議会の議員として必要な専門知識の不足は否めず、結局のところ、小池氏の言うがままになるのではないかという懸念が強い。

 さらに、いったん情勢に変化があると、自らの政治的な生き残り、つまり次回の選挙に向けた利害だけが関心事になるのではないか。自らの選挙基盤の脆弱さゆえ、有権者の代表としての仕事はどこかに消し飛んでしまうという傾向を抱えた議員たちではないか、という危惧が拭えないのである。

指示に従うだけの「軍用の長靴」と呼ばれる議員

 これは日本だけに限った現象ではない。フランスにもそうした議員、なんら主体的な判断もなく、リーダーの指示にただ従っていくだけの議員たちはいる。彼らのことをフランス語で、「ゴディヨ(軍用の長靴)」と呼ぶ。「踏まれても、ついて行きますゲタの雪」という表現に近いが、今から半世紀ほど前、ド・ゴール大統領が大きな権威を持っていた頃のド・ゴール派政党の様子を批判する際に、しばしばこの言葉が使われた。政治経験が乏しいマクロンの支持勢力の議員たちも、そうならないとは限らない。

 それでは、小池チルドレンとマクロンのゴディヨは同じなのだろうか。フランス政治を専門としてきた筆者の直感によれば、あの自由気ままなフランスの議員と、基本的に真面目な日本人とでは、やや違うのではないかと感じるが、大括りで考えれば、かなり似ているのではないかとも思う。

 すなわち、当面の間はマクロンのゴディヨも小池チルドレンも、議会という場所とそのルールが分からないので、ともに「上からの指令」どおりに行動するしかないだろう。マクロンのゴディヨたちは段々と勝手なことを言いはじめるだろうが、しょせん任期は4年。両者の相違が大きくなる前に終わることになろう。

 だが、早合点しないでいただきたい。私が本稿で指摘したいのは、むしろ議員たちのリーダーである小池氏とマクロン氏との間にみられる根本的な相違である。

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筆者

野中尚人

野中尚人(のなか・なおと) 学習院大学教授

1958年生まれ。東京大学大学院総合文化研究科国際関係論専攻博士課程修了。博士(学術)。専攻は比較政治学。著書に『自民党政治の終わり』(ちくま新書)、『さらばガラパゴス政治』(日本経済新聞出版社)など。