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「こども保険」をどう考える?(上)

小泉進次郎氏ら若手議員が提唱、子育て政策めぐる財源・メニューの議論のたたき台に

浜田陽太郎 朝日新聞デジタル編集部次長

 生まれる子どもの数がどんどん少なくなっている今の日本。この傾向に歯止めをかけようと、子育てがしやすい環境をつくるために必要なお金を、社会保険でまかなってはどうかという「こども保険」の提案が、波紋を広げています。6月に政府が決めた「骨太の方針」では、幼児教育や保育の早期無償化や待機児童の解消のため、この提案を念頭に「新たな社会保険方式の活用」という文言が盛り込まれましたが、「子育ては親の責任」という考えは根強く、社会がどこまで支援するべきなのか、意見は様々です。「子どものいない人まで保険料を払うのはおかしくない?」「そもそも消費税を使うはずではなかったの?」など、議論はつきません。

 こども保険を提唱した自民党の若手議員グループのリーダー小泉進次郎衆院議員は、子育て政策は待ったなしの課題、なかなか上がらない消費税に逃げるな! といいます。高齢者に手厚い社会保険のかたちを見直すことで、おじいちゃん、おばあちゃんたちが子育てを支える社会に変えたいとも。

 36歳、独身、将来の首相候補といわれる小泉氏が思い描く、子どもたちがいきいきと成長できる社会とはどういうものか? 社会保障問題に詳しい権丈善一・慶応大学教授とともに、熱く語ってもらいました。(司会は浜田陽太郎・朝日新聞デジタル編集部次長)

小泉進次郎氏(中)、権丈善一氏(左)、浜田陽太郎氏(右)拡大小泉進次郎氏(中)、権丈善一氏(左)、浜田陽太郎氏(右)

――小泉進次郎さんはこの3月、自民党の若手議員の人たちと一緒に、子育てを支援するための「こども保険=キーワード」を提唱されました。

こども保険 企業と従業員が折半して払っている厚生年金保険料の料率を0.1%ずつを上乗せして徴収。将来的には、それをそれぞれ0.5%まで引き上げるとともに、自営業者の国民年金も加算して財源を確保し、保育や幼児教育の無償化を実現するという提案。

 こども保険には、負担の問題によく踏み込んだと評価する声がある半面、子どものいない世帯から保険料を徴収していいのか、取りやすいところから取るのは問題ではないか、などの批判もあり、まさに議論百出です。小泉さんはどういう指摘には納得し、どんな指摘には疑問を持ったのか。まずは、そこからお聞きします。

子どもに保険? 何それ?

小泉 僕がまず言いたいのは、ネーミングのこと。こども保険がこれだけの議論を巻き起こしたのは、ひとえにネーミングのおかげですね。政策にありがちな、制度の中身を正しく説明した漢字8文字の名前だったら、ここまで世間の注目は集めなかっただろうし、政府の「骨太の方針」に入るなんてことにはならなかったと思います。

 子どもに保険? 何それ? この「何それ?」が大事。それがなければ、朝日新聞もわざわざオピニオン面の一面を割いて、「耕論 『子ども』×『保険』って?」注1)なんて特集はしなかったと思いますよ。

注1 朝日新聞2017年6月27日朝刊オピニオン面。「お金集めより育てやすさ」甲田恵子さん アズママ社長/「子のリスク 税で最小化を」相馬直子さん 横浜国立大学准教授/「逃げるな 国の全体像描け」仙谷由人 元民主党副代表・元官房長官

 ま、僕はなぜ、朝日新聞がこの3人の論者を選んだのか、その意図を聞いてみたい。朝日新聞さんは、こども保険に賛成なんですか? それとも反対なんですか?

――社内の意見はいろいろでしょうね。「私は賛成だ」ってはっきり言っている編集委員もいるし、そうではない人もいるし……。

「私ならこうする」の提案も

小泉進次郎氏拡大小泉進次郎氏

小泉 そうですか。浜田さんの問いかけに戻ると、「これはそうだね」と思ったのは、「高齢者に負担を求めていないじゃないか」、「もっと幅広く負担してもらったほうが、理解を得やすいんじゃないか」という指摘。

 そういったことに対し、私ならこうする、と言った提案をしてくれた一人が、この対談に加わってもらった権丈善一先生です。権丈先生は僕らが提案した年金保険料への賦課だけでなく、医療、介護、雇用保険の全てから拠出をしてもらうかたちで制度設計を考えたらどうかという、建設的な提案を投げてくれたわけです。いわば、「こども保険・権丈案」ですね、

 また、毎日新聞の吉田啓志記者は「『こども保険』に賛成する」という署名記事のなかで、こども保険と介護保険を一体化した「かぞく(家族)保険」の創設を提案してくれた。「こども保険・吉田案」だよね。朝日新聞もこういった形でやっていただければと思いますね。

――すでにある保険に上乗せをしてとることに、どこまで納得が得られるかという論点はありますね。逆に、疑問を感じた指摘はどういうものでしょうか。

「消費税から逃げるな」に疑問

小泉 「これはちょっとどうなのか」と感じたのは、「消費税から逃げるな」という議論ですね。僕は、特に新聞社がこれを言うのは、おかしいと思う。10%に引き上げても、新聞は軽減税率の適用対象です。自分は負担しないのに、消費増税を求める主張は、説得力がない。

 そもそも、こういう主張をする人は、消費税増税の難しさを理解していないんじゃないですか。世界的にみれば決して高くない水準の8%まで上げるのに、日本では何年かかりましたか? 幾つの政権を必要としましたか? 野田佳彦政権のもと、2012年に与野党が合意した「税と社会保障一体改革」も、安倍晋三政権で8%から10%へのアップが2回延期され、いまや風前の灯です。

――税金が上がるのは、誰しも嫌なものです。それでも、必要なら国民を説得し続けるのが、政治家の役割ではないでしょうか。

可能性のアートにかける

小泉進次郎氏拡大小泉進次郎氏
小泉 仮に首相が増税を決断したとして、実際に上がるのは2019年10月、今から2年後です。おまけに、10%に上がるとき、「子ども・子育て支援」に7千億円を使うことになっていますが、実はその7千億円はすべて先食いされている。つまり、10%が実現しても、新しい子育て支援策に使える余分な財源はないんですよ。

 そう考えると、子育て支援は消費税でという主張は、「消費税を11%以上に引き上げてからやれ」と言うのに等しい。いったい何年後の話をしているんですか。子ども子育てへの対応が待ったなしのなか、消費増税は選択肢にはならないというのが、僕らの判断。「消費増税から逃げるな」ではなく、「消費増税に逃げるな!」です。

 消費税を財源にというのは、一見、まともに聞こえるんですよ。だけど、現実には厳しい。「政治というのは、可能性のアートである」という金言がドイツの宰相ビスマルクにあるけど、まさにその通り。どうすれば、子ども・子育て政策の財源を捻出できるか、その可能性を追求した結果が、こども保険なのです。

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筆者

浜田陽太郎

浜田陽太郎(はまだ・ようたろう) 朝日新聞デジタル編集部次長

1966年生まれ。1990年、朝日新聞に入社。官邸記者クラブ、厚生労働省クラブ詰めを経験、社会保障担当の論説委員などを経て、デジタル編集部次長。17年4月に社会福祉士に登録。著書に『主婦とサラリーマンのための経済学』(共著、朝日新聞社)