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「抵抗の手引書」でトランプ政権に対抗

ダイナミックなアメリカの市民運動がさらに活発に

芦澤久仁子 アメリカン大学講師(国際関係論)及びジャパンプログラムコーディネーター

トランプ政権にとって大打撃の法案否決

米連邦議会前でトランプ大統領に抗議する市民ら=4月15日、ワシントン 拡大米連邦議会前でトランプ大統領に抗議する市民ら=4月15日、ワシントン

 米国バージニア州での白人至上主義者グループとその反対派との間の衝突、北朝鮮ミサイル発射問題、そしてテキサス州で甚大な洪水被害をもたらしたハリケーン「ハービー」などで、あわただしく過ぎ去ったワシントンの夏。9月の第一月曜日のレイバー・デー(労働者の日の祝日)の翌日には、1カ月間の夏休みに入っていた米議会も再開し、政治の季節の到来である。

 前会期の議会において最大の話題は、オバマケア(医療保険制度改革)の廃止を目指した法案が上院で否決されたこと。オバマケア廃止が選挙公約のトランプ政権にとっては、大きな打撃だった。

 オバマケア廃止の最初の法案が下院に提案されたのは2月で、半年も前のこと。トランプ政権の重要政策に位置づけられ、共和党の党是であり、両院とも共和党が過半数を占めるにもかかわらず、なぜ、うまくいかなかったのか?

市民による抗議活動は全米中で展開中

 大統領の指導力不足、共和党内での不協和などが理由として挙げられているが、もう一つ注目されたのは、全米中で見られた、一般市民たちの、しつようなまでの抗議活動である。

 2月以降、数々の共和党議員たちが、アイオワ、ルイジアナ、コロラド、ユタ州といったそれぞれの地元で開催するタウンホール・ミーティング(政治家と市民との対話集会)で、オバマケア廃止に反対する聴衆から、廃止法案について質問攻めにあい、時に「恥を知れ!」、「きちんとした仕事をしろ!」などの怒号を浴びるという状況に陥ったのだ。

 怒れる市民たちからの質問に、オバマケア廃止法案支持を表明していた議員たちはしどろもどろになり、あるカリフォルニア州下院議員などは、興奮した市民を前に、警察官にエスコートされて会場を出るはめになった。

 そしてこれらの様子が、YouTubeや地元メディアを通じて、またたく間に全国レベルで伝えられたのである。

 このような形でプレッシャーを受けた共和党議員の一部が、当初の廃止法案に反対し、議決プロセスは混迷状態に陥った。その後の代替案も二転三転し、上院での否決に至ったという経緯がある。

抵抗の手引書「インディビジブル・ガイド」

 もちろん、タウンホール・ミーティングで市民が質問すること自体は珍しいことではない。しかし、この数カ月の状況は、抗議者の規模と激しさの点で、尋常といえるレベルをはるかに超えており、ターゲットになった議員たちは「一体、何が起きているんだ!」と驚きの表情を隠せなかった。

 実は、この激しい抗議活動の陰に存在していたのが、トランプ政権の政策に抵抗するための実用手引書「インディビジブル(Indivisible)・ガイド」である。

 30代の元下院議員スタッフたちが去年の12月に作成。リーダーのエズラ・レヴィン氏が自身のツイッター(その時点でのフォロワーは650人)を使って宣伝したところ、大反響を呼び、数日後には数十万人にシェアされたという。エズラ・レヴィン氏のツイートは以下のリンクを参照。
https://twitter.com/ezralevin/status/809189430141583361

エズラ・レヴィン氏のツイート画面拡大エズラ・レヴィン氏のツイート画面

 ちなみに、「インディビジブル」とは、「不可分、分かつことの出来ない」という意味で、アメリカの公式行事や学校で暗唱される、「忠誠の誓い」の中の言葉である。この「忠誠の誓い」は、19世紀の終わりに愛国心を高める行為として始まったもので、国旗に向かい、胸に手をあてて暗唱される。アメリカ人なら誰でも知っている動作であり、子供たちもしっかり暗唱出来る。「インディビジブル」という言葉は、「合衆国は確実に団結し、もう分かつことは出来ない」という意味で使われている。

26ページからなる手引書

抵抗の手引書「インディビジブル・ガイド」拡大抵抗の手引書「インディビジブル・ガイド」

 この26ページからなる手引書「インディビジブル・ガイド」が提案するのは、以下の2点。

1. トランプ政権に抵抗するために、まず、政権側が進める新しい政策が実現しないように頑張ろう。そのためには国会議員に直接アプローチするのが非常に重要だ。

2. その国会議員たちが一番気にすることは何かというと、再選、再選、再選。だったら、あなたの地元で「抵抗グループ」を作って行動するのが一番効果的だ。

 その上で、「国会議員が地元で開催するタウンホール・ミーティングにグループで参加して質問を集中砲火する」「地元事務所にグループとして直接訪問する」「議員事務所に電話攻撃する」という具体的な活動アイテムを提案。特にタウンホール・ミーティングという公開の場所が、議員にプレッシャーをかけるのに最も効果的だと強調したのだ。

 この「インディビジブル・ガイド」に触発された人々が、全国各地で「インディビジブル」グループを立ち上げ、その数はすでに6000近くになっている。こうした大きな反響に答えて、制作者側は独自のウェブサイトを立ち上げ、「インディビジブル・ガイド」に加え、タウンホール・ミーティングの予定スケジュールや議会での法案審議経過といった「抵抗のための便利情報」を掲載している。

https://www.indivisibleguide.com/

(「インディビジブル・ガイド」を含めたすべての情報は、無料で公開されている)

 つまり、前述のオバマケア廃止法案阻止のために、共和党議員のタウンホール・ミーティングに集まってきた人たちの多くが、地元「インディビジブル」グループのメンバーだったのである。

作ったのは元米議会内部関係者

 それにしても、なぜ、たった26ページの文書が、6000ものグループを立ち上げ、トランプ政策抵抗運動を巻き起こすことが出来たのだろうか?

 三つの理由が挙げられる。

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筆者

芦澤久仁子

芦澤久仁子(あしざわ・くにこ) アメリカン大学講師(国際関係論)及びジャパンプログラムコーディネーター

ワシントンDC在住。東京生まれ。慶応大学経済学部卒業。テレビ東京勤務後(ニュース番組制作等担当)渡米。2005年にタフツ大学フレッチャー法律外交大学院博士課程(国際関係論)を終了し、英国オックスフォードブルックス大学(准教授)を経て2012年から現職。また、米国ウッドローウイルソン国際学術センター、東西センター、ライシャワー東アジア研究所に招聘研究員として滞在。主な研究分野は日本外交、日米関係、アジア地域機構、グローバルガバナンス。研究論文は、International Studies Review, Pacific Review, Journal of Peacebuilding and Development等の英文学術誌および編著本に多数発表。著書、Japan, the U.S. and Regional Institution-Building in the New Asia: When Identity Matter (Palgrave McMillan)が、2015年度大平正芳記念賞を受賞。

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