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「安倍一強」を可能にしたものとは

政治・行政改革の合理的帰結が生みだした問題に対する、根本的な議論がこそが必要

吉田徹 北海道大学教授

「安倍1強」を実現した5つの要素

 安倍晋三政権がこれまで「1強政治」を実現できてきたのには、幾つかの理由がある。

 具体的に言えば、経済政策をアベノミクスで押し切り、支持率を維持する期待値のマネジメント▽解散総選挙のタイミングをはかりつつ、相対的勝利を収めた後に安保関連法案など論争的な政策を進めるスケジュール感▽マスメディアを選択的に用いる世論コントロール▽首相と似たような信念を持つ政治家や官僚を重用する人材のアロケーション▽政権批判の受け皿がないという環境――という、見方によっては「強引な政権運営」とも見える5つの要素がそろって、5年もの長きにわたって安定した支持率を維持することに成功してきたのは間違いない。

 とはいえ、これらの要素は1強政治を可能にする「条件」に過ぎない。より目を向けるべきなのは、こうした条件を可能にした制度的要因だ。それというのも、皮肉なことに1強政治を可能にしたこうした条件こそが、いまになって安倍政権の足を引っ張っているからだ。

「共謀罪」の趣旨を含む組織的犯罪処罰法改正案が可決された衆院法務委=5月19日拡大「共謀罪」の趣旨を含む組織的犯罪処罰法改正案が可決された衆院法務委=5月19日

おごりが招いた支持率の下落

 たとえば支持率。安倍政権の支持率は6月からフリーフォールのごとく落ちはじめ、8月の内閣改造で下げ止まったものの、不支持率が支持率を上回ったままだ。

 自民党議員のスキャンダル、稲田元防衛大臣の失言などの逆風があったのは事実だが、支持率はそれ以前の5月末から落ちはじめている。タイミングからみて支持率下落の直接的なきっかけは、「共謀罪」(対テロ等準備罪)の衆議院法務委員会採決(5月19日)、さらに加計学園の獣医学部設置についての疑惑報道(5月17日)にあると推定できる(詳細は「北海道世論調査会」ウェッブサイトを参照)。

 共謀罪については、参議院の法務委員会の採決を省略して可決するという強引な手法が批判を浴び、加計疑惑では、官邸の不透明な介入で設置基準が恣意(しい)的に変更させられたのではないかという疑念が世の中に広がった。こうした国会審議の軽視や行政への介入疑惑は、「読売新聞を読んでください」、「民主党時代に決まったこと」などと言い放った首相個人の国会答弁と相まって、1強政治のおごりと受け止められ、支持離れを引き起こした言える。

1強政治を生んだ90年代以降の政治改革

 しかし、安倍政権の1強政治を生んだのは、その強引な政権運営ゆえでは決してない。それは、1990年代から20年間以上にわたって日本政治が進めてきた「改革」の必然的な結果である。

 1993年に自民党一党支配が崩れて実現したのは、与野党で合意した選挙制度改正を含む政治改革4法だった。改革の目玉は、衆議院への小選挙区制の導入(500議席中300議席が小選挙区。残りは比例代表制)にあった。これによって政党本位の選挙を実現し、緩やかな二大政党制、さらにそのもとで政権交代のある民主主義が目指された。

 小選挙区制は、多数の死票を出す一方、議席の大きなスイングを生み出し、議会の多数派形成を容易にするため、巨大与党の誕生につながりやすい。この小選挙区制の特性の恩恵を受けたのが、たとえば郵政選挙として記憶される2005年衆院選の小泉純一郎政権であり、歴史的な政権交代をもたらした2009年衆院選の民主党政権である。ともに中選挙区制だった「55年体制」のもとでは考えられなかったほどの議席を獲得している。

 言うまでもなく、現在の安倍政権も2012、2014年の2回の衆院選で、自公の与党が衆議院の総議席数の3分の2を越える大量の議席を獲得している。

 当選枠が1人の小選挙区制においては、自民党の複数の議員が選挙区で競い合う図式が消え、派閥政治の衰退が進んだ。また、後援会による「個人商店型」の選挙というよりも、政党同士の「百貨店型」の選挙が前面に出るようになったため、公認権を持ち候補者の生殺与奪を持つ政党執行部や幹部の影響力が増し、組織の中央集権化が進んだ。その結果、党内で有力なライバルが出現する余地は狭まり、党の純化路線に歯止めが効かなくなっていく。

「変換型」から「アリーナ型」議会に

 政党本位の選挙では、政党による〝首尾一貫〟した選挙公約が重視されるから、選挙後の議会においても、自党の政治主張や政策の優位性を一方的に謳(うた)い、相手のそれを貶(おとし)める「敵対の政治」が定着していくことになる。その結果、55年体制のもとで当たり前のように見られた、「妥協」や「対話」を是としていた政治文化が、与野党間はもとより政権与党内でも時代遅れになった。

 ここで、小泉首相もまた、国会答弁では誠実からは程遠い態度だったことを想起してもいいだろう。安倍首相は南スーダンの武力衝突は戦闘行為ではないと言い切ったが、小泉首相もイラクへの自衛隊派遣にあたり、「(自衛隊が)活動している地域が非戦闘地域」と詭弁(きべん)に近い答弁をしていたのである。

 議会研究で有名なアメリカの政治学者ポルスビーは、各国議会を議会・議員主導の「変換型」と政権与党・政党主導の「アリーナ型」の二極に分けたことで知られる。たとえば、二大政党による党派性の強い政治で知られるイギリス議会は「熟議の府」などではなく、与党の一方的な主張とそれを揶揄(やゆ)する野党とが対決する「アリーナ型」である。そして、日本の国会は政治改革を経て、明らかに「変換型」から「アリーナ型」へと重心を移していったのである。

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筆者

吉田徹

吉田徹(よしだ・とおる) 北海道大学教授

1975年生まれ。慶応義塾大学卒。東京大学大学院総合文化研究家博士修了。学術博士。専門は比較政治、ヨーロッパ政治。著書に『ミッテラン社会党の転換』(法政大学出版局)、『「野党」論』(ちくま新書)、『ポピュリズムを考える』(日本放送出版協会)、共編著に『ヨーロッパ統合とフランス』(法律文化社)、『政権交代と民主主義』(東京大学出版会)など。