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北朝鮮興南からの避難者を揚陸艦(LST)から韓国・米国軍の渡船に降す作業。米海軍提供 195012拡大韓国・米国軍の渡し船に降ろされる北朝鮮・興南からの避難民=1950年12月、米海軍提供

本来起こり得ない戦争

 韓国は1948年に建国したとはいえ、国内にゲリラ組織が存在するなど混乱の最中にあった。加えて、朝鮮半島においては北部に急流が多く、水力発電に適していたことから、工業地域が北朝鮮(韓国に遅れること約3週間、1948年9月9日に建国宣言を行った)に集中し、韓国は経済成長を支える産業を模索する必要があった。

 しかし、そうした状況下にもかかわらず、1950年6月25日に北朝鮮軍が国境を大きく越えて韓国国内に進軍したため、朝鮮戦争が勃発することとなる。

 冷静に考えてみれば、ようやく建国を果たした両国が、同じ民族の間で争うことはあまりに不自然である。「法律の整備」「経済政策の確立」「日本の植民地期に代わる新たな政治制度の導入」といった問題が山積している中で、国家の存亡をかけた戦いに打って出ることはリスクが大き過ぎよう。

 その決断が下された理由の多くは、両国の指導者の経歴に拠っている。韓国の初代大統領であった李承晩は1912年にアメリカに亡命し、34年間を海外で過ごした。そうした活動の経歴を重視したアメリカ軍政府は彼を指導者に選んだのである。また、李承晩自身も1945年に帰国した後、韓国国内での権力争いを勝ち抜き、その地位を築いていった。

 一方で、北朝鮮においては、かつてソ連の後押しを受けて抗日パルチザンとして活躍してきたとされる金日成が首相となっていた。彼も李承晩同様、国内の競争を勝ち抜き、大国の後押しの下、権力の座についた。つまり、当時の両国の指導者は権力基盤を大国に置きつつ、国内の支持基盤が十分ではなかったため、米ソの冷戦構造を受け入れざるを得ない面があったのである。

 また、より不可解なのは5年前まで同じ国の中(植民地下)で暮らし、言語、民族、宗教といった対立要因のない両国が500万人以上の犠牲者を出すという、まさに血で血を洗うような戦争を行ったということである。

 朝鮮戦争が始まってから半年後、文在寅の両親は北朝鮮から韓国にアメリカの貨物船で避難しているが、実際のところ、植民地期の朝鮮半島と、朝鮮戦争中の韓国の間には、それほど大きな経済システム上の違いはなく、現在の脱北者に比べれば、韓国社会に適合することにほとんど抵抗はなかった。

 つまり、韓国と北朝鮮の間には、資本主義と社会主義という冷戦構造以上の対立点はなく、前掲のように国内で思想上の転向も珍しくなかったことから、激化した対立はあくまで外来的なものであった。

アメリカに対する二つの評価

 その後の本稿の主人公二人の歩みを考えてみても、朴正煕にしろ、金大中にしろ、極めて意志の強い人間であり、経済上あるいは外交上の成果を見れば、両者は決して目先の効かない人物ではない。しかし、そうした二人が1945年から5年の間にしばしば自らの立場を変えつつ、将来を模索していたことを考えれば、当時の韓国と北朝鮮の大勢の国民が不安を抱えつつも、自らの意志ではなく、大国と自らの指導者の方針に従うままに戦争に巻き込まれていったのは無理からぬことであった。

 そして、もたらされた悲劇によって韓国国内に幾つかの思考傾向が生まれた。 ・・・続きを読む
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筆者

金恵京

金恵京(きむ・へぎょん) 日本大学危機管理学部准教授(国際法)

国際法学者。日本大学危機管理学部准教授、早稲田大学博士(国際関係学専攻)。1975年ソウル生まれ。幼い頃より日本への関心が強く、1996年に明治大学法学部入学。2000年に卒業後、早稲田大学大学院アジア太平洋研究科修士課程に入学、博士後期課程で国際法によるテロリズム規制を研究。2005年、アメリカに渡り、ローファームMorrison & Foester勤務を経て、ジョージ・ワシントン大学総合科学部専任講師、ハワイ大学東アジア学部客員教授を歴任。2012年より日本に戻り、明治大学法学部助教、日本大学総合科学研究所准教授を経て現在に至る。著書に、『テロ防止策の研究――国際法の現状及び将来への提言』(早稲田大学出版部、2011)、『涙と花札――韓流と日流のあいだで』(新潮社、2012)、『風に舞う一葉――身近な日韓友好のすすめ』(第三文明社、2015)、『柔らかな海峡――日本・韓国 和解への道』(集英社インターナショナル、2015)、最新刊に『無差別テロ――国際社会はどう対処すればよいか』(岩波書店、2016)。

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