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北朝鮮危機と日米同盟の逆説・ジレンマの克服

主体的な外交ビジョンによる多角的対話チャンネルの構築

渡邊啓貴 東京外国語大学大学院教授、国際関係研究所所長(ヨーロッパ政治外交、国際関係論)

北朝鮮危機と同盟の逆説・ジレンマ

平壌の人民劇場で開かれた水爆実験の成功を祝賀する講演で拍手する金正恩朝鮮労働党委員長(前列中央)と李雪主夫人(前列右から3人目)。日時は不明=労働新聞ホームページから 拡大平壌の人民劇場で開かれた水爆実験の成功を祝賀する講演で拍手する金正恩朝鮮労働党委員長(前列中央)と李雪主夫人(前列右から3人目)。日時は不明=労働新聞ホームページから

1.静かな国内議論と日本核武装論の関連
 北朝鮮がICBM(大陸間弾道弾)の打ち上げと水爆実験に成功し、核弾頭の小型化も確実に視野に入れ始めた今日、国内の議論はどれだけ熱を帯びているだろうか。

 もちろん各地で防災訓練も行われている。ニュース番組は連日、北朝鮮の核兵器をめぐる軍事的脅威について論じ、政府は北朝鮮に対する制裁を強化して、国際的包囲網を強め、北朝鮮の核兵器開発の停止、核兵器の放棄に向けようと懸命に努力している。

 しかし何か充足感がない。もっとやるべきこと、考えることはないのか。いやこうなる前にやることはなかったのか。筆者にはそう思われる。それは筆者の偏った見方であり、日本外交に対する過剰な期待なのだろうか。

 いまさらと言われるかもしれないが、東アジアの「戦争も平和もない」状況、文字通り「冷戦」だ。しかも過去の冷戦時代とは国際構造が違う。今後の対応を念頭に、改めて日本外交の可能性について考えてみる必要はあるだろう。

北朝鮮核ミサイル危機を前にした国民心理

 まず国民心理はどうであろうか。北朝鮮ミサイル危機は日本が眼前にする危機であるが、2006年以来10年以上が経過する。北朝鮮の最初のNPT(核不拡散条約)離脱宣言から考えると、四半世紀近くが経っている。国際社会の批判や制裁にもかかわらず、かの国は依然として核武装強化をやめようとしない。これはもう説得できない。そんな気持ちを多くの国民は持っているのではないか。

 最後にはアメリカが中心となって、力の掣肘(せいちゅう)を加えるしかない、もちろん日本もそれに協力する、かの国を抑えるには、軍事的解決ではなく、外交的解決が望ましいが、もうその時期は過ぎているのかもしれない……。日本もかつては北朝鮮との特別のルートを通じて平和交渉を行おうとした。もちろん今日でも外交努力はしている。国際社会でのアピールも機会も逃すことなく、何かあるごとに迅速に対応している。日本の危機感は国連でもよく伝わっていると思う。

 しかし、言ってもダメなのだ、一部にはそういう声もある。であれば、やるべきことを粛々と行い、「備えあれば憂いなし」の体制を作っておくこと、まずはそれをきちんと行っておくことである。日米同盟の枠組みを逸脱しない範囲で、外交努力を淡々と積み重ねるだけだ。うまくいくこともあるかもしれない。国内の議論は対北朝鮮外交そのものよりも、アメリカとの防衛協力と軍事技術、制裁の効果というような、実務的な話が大半を占めている。中露に対する日本の影響力がないことは明白だ。そして、あとは事態がどう動くのか。それを注意深く見守ること、そして出来うるなら大事に至らないこと――そんな国民感情が支配的ではないのか。

 妙に動いて当事者を刺激し、事態を悪化させることは得策ではない。希望的楽観主義と他律的待機主義の混合が、実は現在の国民感情の本音ではないか。いざとなれば、つまり北朝鮮のミサイルが日本領土を本格的に標的とし、軍事衝突が起きることになれば、日米同盟がこれだけ強固なのだから、アメリカが何とかしてくれるだろうし、日本もある程度のところまではできるはずだ……。しかしそれに確証があるわけではない。それではどうするのか。

世界の論調―日本核武装論の脅威と東アジアの分裂

 その点を考える前に、まず世界はこの危機と日本の対応をどう見ているのか、確認しておいたほうがよいだろう。中露については、すでに言い尽くされているが、いくつかの点を確認しておこう。

 中国はまず、北朝鮮の極端な弱体化と体制変換(直近の金正恩体制の崩壊)を望んではいない。そのことは中朝国境付近での難民の発生などの混乱状態を意味するし、第一に北朝鮮の崩壊は韓国主導の朝鮮半島統一の機運を一気に高めることになることが予想される。それは中国にとって緩衝国家としての北朝鮮の喪失となる。他方でロシアにとっても同様のことが言える。とくに朝鮮半島の統一によって、米日による圧力が大陸に強まることはロシア外交の磁場の後退につながる。

 それではアメリカはどう見ているであろうか。アメリカはできるだけ軍事介入はしたくない。しかし北朝鮮の核の脅威は払拭(ふっしょく)したい。その脅威を中国に圧力をかけて最小限にしたい。したがって金体制の崩壊と核兵器の放棄が最良のシナリオとなる。それを最優先するために、北朝鮮の多少の軍事的威嚇に対しては直接反応しないであろう。

 むしろ北朝鮮の意向を半ば受け入れる方向を模索することになるだろう。北朝鮮はアメリカと交渉して北朝鮮を承認してほしいというのが最大の要求だ。アメリカは公式にはこれを拒否しているが、実際にはニューヨークで非公式交渉が行われている。対北朝鮮政策担当ジョゼフ・ユン米特使と北朝鮮外交官パク・ソン・イン両氏の「非公式ルート(バックチャンネル)」である。

 米朝直接対話の進展が予告なく、日本に降りかかってくることもなしとはしない。あるいは中国の北朝鮮への圧力をトランプ政権は強く期待しているが、米中の間でそのための条件交換が行われていることは大いに予想される。加えて、米国政府高官の一部には北朝鮮の核抑止力を容認する意見もある。北朝鮮の核抑止力をどのように管理していくのか。むしろ論点はそちらに移っていく可能性もなしとはしない。

 こうした中で、アメリカの日韓両同盟国への対応は慎重を要する。外交的解決と両同盟国との協力関係をいかに調整していくのか、ということはアメリカにとってきわめて重要なことになる。対北朝鮮外交のイニシアチブをめぐって日韓への対応を誤ると、つまり日韓が対米同盟関係に疑念を高めると、両国が核兵器を自ら保有する可能性が高まる。世界にはその懸念は強い。日韓の核保有は国際社会全体の議論となるだろう。従来キッシンジャーが指摘してきた点であり、最近でも『ザ・ネーション』紙(The Nation、8月19日) でその懸念を吐露している。

 実は、地球の反対側のヨーロッパからすると、その観測はごく自然に見える。対日視線の厳しい英高級紙『ガーディアン・ウィークリー』紙(9月1日)では、「封じ込め政策」の立案者で世界的に著名な歴史家・ジョージ・ケナンが、かつて日米パートナーシップは「不自然な緊密」と言い、キッシンジャーが日本への対応を苦慮したことや、スコウクロト元米国国家安全保障担当大統領補佐官が「日本は最も難しい国」と呼んだことを取りあげている。そして事態は米中接近の一方で、日中対立の深刻化によるアジアの分裂へと発展する懸念を指摘する。

「なる外交」の克服

 国民の多くは日本の核武装論を基本的には支持しないだろう。しかし事態がさらに緊迫してきたときには一部のそうした声が力を持つ可能性は十分にある。そしてそれに流されていく可能性もなしとはしない。平和外交を国是としていながら、アメリカの「核の傘」に安住して外交的解決を十分に準備してこなかった結果である。かつて日中国交回復以前に将来の日中関係の改善を見越して高碕達之助と廖承志両氏の間で維持されてきたLT貿易(日中総合貿易)協定を締結して国交正常化への道を開いたが、表向きの制裁対応の一方で、北朝鮮との間にそれに相当するパイプはないのだろうか。

 むしろ勇ましいが情緒的な選択が行われることが最も怖い。日ごろから本質的な論点をめぐる議論と責任を回避し、事実上判断停止状態の中で時流に流される、そして成り行きの結果をやむを得ず受け入れる。よい意味では、摩擦を避けて自然な解決を見いだすという日本流の妥協手段だが、悪い意味では最近流行の言葉の「ポスト・トゥルース」になりかねない。私たちにはそうした国民的政治社会文化がある。

 「なる論理」と「なる外交」だ。

 しかし実は、この選択肢も基本的にはない。国内での核武装論議が高まったとしても、それは世界の日本に対する警戒感を増幅させるだけだ。先に述べたキッシンジャーの意見は典型的なものだが、アジアでもヨーロッパでも日本の軍拡に対する脅威感は強い。今の日本には武断外交の選択肢もない。日本外交の限界が露呈しているのだ。

 改めて論じたいと思うが、今日の日本外交の限界は戦後第二世代以後の日本の「リアリズム」路線の限界である。そしてその背景には、より主体的な世界との関わりを考える「グローバル・プレーヤー」としての意識の欠如がある。グローバル・プレイヤーは「グローバル・パートナー」ではない。実は外交行動の範囲を狭めてきたのは日本特有の政治文化、つまり日本自身でもある。

2.日本外交の閉塞状態からの脱却

日米同盟のジレンマ

 北朝鮮危機をめぐる日本外交の閉塞感はどこから来るのであろうか。

 それは日米同盟を隠れみのにした他律的日本外交の論理的帰結だ。まさに安全を求めた上での自縄自縛。日米同盟のジレンマである。

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筆者

渡邊啓貴

渡邊啓貴(わたなべ・ひろたか) 東京外国語大学大学院教授、国際関係研究所所長(ヨーロッパ政治外交、国際関係論)

1954年生。東京外国語大学卒業、慶応義塾大学・パリ第1大学大学院博士課程修了、高等研究大学院客員教授(パリ)、リヨン高等師範大学校、ジョージ・ワシントン大学シグール研究センター客員教授、在仏日本国大使館公使、雑誌『外交』『Cahiers du Japon』編集委員長などをへて現職。『ミッテラン時代のフランス』芦書房、『ポスト帝国』駿河台出版、『米欧同盟の協調と対立』有斐閣、『フランスの文化外交戦略に学ぶ』大修館、『シャルル・ドゴール』慶応大学出版会、『現代フランス』岩波書店など。

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