変わりゆくアメリカ外交―リーダーシップは衰え、世界恒久平和の夢は遠のいていく
2017年09月23日
「ロケットマンは自爆行為に走っている」、「イラン政府は、偽民主主義の皮を被った腐敗した独裁」、「世界の一部は奈落(ならく)に向かっている」
9月19日、国連デビューをしたトランプ大統領。国連総会で一般討論演説を行い、外交分野における政権の理念と戦略を示したのだが、冒頭の言葉はその演説の中のもの。国連の場で通常使われる、控えめで洗練された言い回しとは大違いの、まさにトランプ節が炸裂(さくれつ)した演説だった。
ちなみに、「ロケットマン」は、北朝鮮の金正恩労働党委員長のこと。その北朝鮮に対して、トランプ大統領は、「もし米国とその同盟国を守らなければならない時には、北朝鮮を完全に破壊する以外に選択肢はない」と、強い言葉で警告した。
アメリカのメディアや外交専門家たちが注目したのは、トランプ演説が、この北朝鮮に加えて、イランとベネズエラを名指しした上で、かなりの時間を割いて非難・攻撃したことだ。トランプ大統領によると、これらの国は「ならず者 (rogue)」国家。そして、これら「ならず者」国家こそが地球上の苦難の原因であり、アメリカはそれに断固立ち向かう、という趣旨である。
つまり、アメリカを始めとした「正義」の国々と、「邪悪」な「ならず者」グループが対立するという、単純明快だが、同時に極めてダークな世界観を打ち出し、そこにアメリカ外交の方針を位置づけたのだ。
この限りでは、こういった「ならず者」国家の特徴である「独裁・専制主義」そのものに対して、トランプ政権は非常に批判的、対立的な立場をとっている、と見えるだろう。実際、今回の演説の中でも、トランプ大統領は、「独裁主義」や「専制主義」の言葉を駆使して、「ならず者」国家がいかにそれぞれの国民を苦しめているかを訴えていた。
アメリカのトランプ支持者達も、この演説を聞いて、「独裁者達に立ち向かう正義のアメリカ」というイメージを持ったであろう。
しかし、このイメージは、正しくない。
これまでのトランプ外交を見る限り、逆に、独裁・専制的なリーダー達との仲の良さ、距離の近さが、とても目立つのだ。それは、こちらの外交専門家や関係者たちによれば、「これまでのアメリカ大統領とはまったく違うレベル」。トランプ外交における最も深刻な問題との意見も多い。
本稿では、このトランプ政権と独裁リーダーとの距離の近さについて考察したい。
日本人にとって、トランプ大統領と距離が近い、独裁的リーダーとして、まず思い当たるのは、ロシアのプーチン大統領だろう。これは、アメリカでも同様で、特にトランプ批判者たちは、トランプ攻撃の主要材料の一つとして、プーチン大統領との関係を常に注目している。
プーチン氏以外で、よく指摘されるのは、エジプトのシーシ大統領。シーシ大統領は2013年に軍事クーデターで政権を奪取して以降、反対派への執拗な抑圧・迫害で非難されているのだが、トランプ大統領は、去年の大統領選挙中に、すでに個人的に面会している。
そして今年4月には、シーシ大統領をホワイトハウスに招待し、公式首脳会談を開催。シーシ大統領のことを「ファンタスティックな奴(fantastic guy)」と持ち上げている。オバマ大統領が、シーシ大統領のクーデターに抗議してアメリカからの軍事支援を一時停止し、シーシ大統領を一度もホワイトハウスに招待しなかったのとは、好対照をなしている。
トランプ大統領並みの過激発言で有名な、フィリピンのドゥテルテ大統領との関係も似ている。
去年の大統領就任以降、ドゥテルテ大統領が推し進める麻薬犯罪撲滅政策は、その残虐性と法律軽視で(数千人に上る被疑者たちを超法規的に殺害した、と報道されている)、国内外のメディアや人権団体から強く批判されている。
その問題政策を、トランプ大統領は「信じられないくらい素晴らしい成果」と評価。これは、ドゥテルテ大統領との電話会談での発言であるが、その際、ドゥテルテ大統領のアメリカ訪問(もちろん、ホワイトハウスへも)も正式提案している。
さらに直近では、マレーシアのナジブ首相による、今月12日のホワイトハウス訪問がある。
ナジブ首相は、反対派やジャーナリストを投獄し、自らの司法長官をクビにするなどの強権政策で知られるだけでなく、公金不正流用の疑惑で、現在、米司法省からの捜査を受けている。特に、米当局による司法捜査の当事者と首脳会談をするとは極めて異例なことだったので、訪問中止を求める声がメディアであがっていたが、トランプ政権は実行。「独裁者をホワイトハウスに招待し続けるトランプ政権」などと批判された。
中国との関係にも同様な現象が見られる。
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