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ドイツ総選挙―極右政党が躍進し第3党に(上)

ドイツ連邦議会選挙の結果はドイツ戦後史の曲がり角を示している

熊谷徹 在独ジャーナリスト

ドイツ政治史に見られなかった地殻変動

キリスト教民主同盟の党本部で演説するメルケル首相(中央)=ベルリン、9月24日キリスト教民主同盟の党本部で演説するメルケル首相(中央)=ベルリン、9月24日

 ドイツの民主主義体制が、第2次世界大戦後最大の試練に直面している。右派ポピュリズムの波は、英国や米国に続き、ドイツの足下にも押し寄せた。

 2017年9月24日に行われた連邦議会選挙では、極右政党「ドイツのための選択肢(AfD)」の得票率が前回の選挙に比べて2.7倍に増え、12.6%となった。排外思想を持つ極右政党が第3党となり、100人近い議員団を議会に送り込むのは、戦後初めてのことである。

 有権者は、これまで大連立政権を組んでいた大政党を厳しく罰した。アンゲラ・メルケル首相が率いるキリスト教民主同盟、姉妹政党のキリスト教社会同盟(CDU・CSU)は、得票率を前回に比べて8.6ポイント減らした。1949年以来最低の得票率だ。

記者会見する社会民主党のシュルツ党首=9月25日、ベルリン記者会見する社会民主党のシュルツ党首=9月25日、ベルリン

 社会民主党(SPD)の得票率は、20.5%という第2次世界大戦後最も低い水準まで落ち込み、敗軍の将マルティン・シュルツ党首は、新政権に加わらず野に下る方針を明らかにした。

 約590万人もの有権者が、AfDを選んだ。前回の選挙ではCDU・CSU、SPD、緑の党、左派政党リンケを選んだ有権者189万人が、今回はAfDにくら替えした。

 旧東ドイツでは、AfDがCDUに次ぐ第2党となり、その差がわずか5ポイント。旧東ドイツのザクセン州では、AfDがCDUを抜いて首位に立った。同州東部の選挙区では、AfDの有力政治家が37%もの票を確保した。AfDは旧西ドイツ南部でも、約12%の得票率を記録した。これは、ドイツの政治史で長年見られなかった地殻変動である。

排外主義の矛先がイスラム教に対して向けられた

 開票結果が判明すると、ミュンヘン・北バイエルン・ユダヤ文化協議会のシャルロッテ・クノープロッホ会長は、陰鬱(いんうつ)な声明を出した。

 「恐れていた悪夢が現実になった。ナチスによるユダヤ人虐殺(ホロコースト)はなかったと主張する者たち、差別主義者たちが連邦議会に入る。憎しみをまきちらす悪霊が、再び出現した」

 1932年にユダヤ人弁護士の娘として生まれたクノープロッホ氏は、知人が農家にかくまってくれたために命拾いした。彼女を育てた祖母はテレジエンシュタット強制収容所で殺害されている。

 ドイツ・ユダヤ人中央評議会のヨーゼフ・シュスター会長も、「極右思想を持つ党員を抱え、少数者への敵意を煽(あお)る党が、連邦議会に入るという我々の危惧が、現実化した。我々はドイツの民主勢力に対し、AfDの仮面を剝(は)がして、ポピュリスト的な実態を暴露することを望む。民主勢力は結束して、AfDがドイツの未来にとっての選択肢ではないことを明らかにするとともに、議会から追い出してほしい」と述べて、この国に住むユダヤ人たちの強い危機感を表現した。

 またドイツ・イスラム教徒中央評議会のアイマン・マジェク会長は、「ドイツではイスラム教徒に対するヘイト・スピーチが、以前ほど批判されなくなっている。AfDの躍進によって、我々イスラム教徒の間では不安が強まっている。我々はAfDの危険性をこれまで何度も指摘してきたが、多くのドイツ人は我々の警告を無視した」と述べ、ドイツ社会に対しても批判的な態度を打ち出している。

 彼らがAfDに対して特に強い不安感を抱く理由は、AfDの排外主義の矛先がイスラム教に対して最も強く向けられているからだ。

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