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「国難」という謳い文句はナチスも使った

権謀術数の衆院解散で問われているもの

小林正弥 千葉大学大学院社会科学研究院教授(政治学)

安倍晋三首相拡大安倍晋三首相が強調する「国難」とは何なのか?

北朝鮮危機を煽って解散する権謀術策

 安倍首相が9月25日の記者会見で衆院解散を表明し、「国難突破解散」と名付けた。消費増税の使途変更と少子高齢化、北朝鮮情勢を解散理由にあげているが、前2者が目くらましであり、こじつけの言い訳であることは誰の目にも明らかだ。北朝鮮危機で戦争が起こりかねない緊急時に、2年後の消費増税や中長期的な少子高齢化のために解散する必要があるわけない。

 「北朝鮮への脅威から国民を守るため」に解散するというのも、もちろん真の理由ではないだろう。首相は「選挙が北朝鮮の脅かしに左右されることがあってはならない」と述べたが、もともと選挙をする必要はないのだ。

 衆参両院で与党は3分の2以上の議席を有しており、事実上は好きなように立法ができるし、政策を決められる。安保法制や「共謀罪」法案を見ればわかるように、これまで国会審議を形骸化させてやりたい放題に立法をしてきたのだ。選挙で政治の空白を作ることこそ危険であり、国民の安全を危機にさらす行為である。

 よって狙いは、「国難」といって危機感を煽りたて、衆議院で新たに多数を得ること以外にはありえない。この解散は、北朝鮮問題を奇貨として自らの権力維持に利用する策略以外の何物でもないのだ。「「狐」と「獅子」、安倍政治はマキャベリズムだ――「狡猾で獰猛な君主」のごとき手法」(WEBRONZA)で書いたように、安倍政権は「マキャヴェリズム」と言われる権謀術策を常套手段としているが、その頂点がこの解散なのである。

戦争か平和か、専制か民主主義か

 この選挙で問われているのは何か。もちろん安倍政権の全てである。安保法制や「共謀罪」法、森友学園・加計学園問題、そして憲法蹂躙の数々と改憲問題……数え上げればきりがない。それらの問題の本質が、この解散の仕方に露骨に表れている。つまるところ、戦争か平和か、そして専制か民主主義か――これが争点なのである。

 野党は、森友学園・加計学園疑惑の追及を逃れるための解散だと批判している。もちろんこれは正しい。野党4党は6月22日に憲法53条(臨時会の召集)に基づいて臨時国会の招集を求めたが、政府は今まで約3カ月も棚さらしにしてきた。「ようやく招集された臨時国会で一切の審議もせずに解散というのでは53条違反だ」(石川健治・東大教授、毎日新聞、9月26日付)というように、この解散自体が違憲である。

 内閣改造をしたにもかかわらず所信表明も行わず、まったく審議を行わないで解散――国会無視もここに極まれり、というところだ。政府が議会をないがしろにしているのは周知の事実だが、もはやそれを隠そうともしていない。憲法では内閣が独断で国会を解散する権限を明文で認めているわけではないから、これは解散権の乱用であり、ここにも違憲の疑いがあるという指摘が憲法学者からあがっている。

 政府は選挙で勝ちさえすればいいと考えており、自分たちが最も有利に見えるタイミングを選んで解散した。解散自体が国民の信を問うためではなく、策略そのものだ。学校認可を私物化したとされる森友学園・加計学園疑惑と同じように、解散権を私物化しているという批判も、まさにその通りだ。

戦慄の最悪シナリオ――軍事的発火と選挙

 政府がこのような行動様式をとっている以上、悪夢のシナリオも考えてみる必要がある。 ・・・続きを読む
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筆者

小林正弥

小林正弥(こばやし・まさや) 千葉大学大学院社会科学研究院教授(政治学)

1963年生まれ。東京大学法学部卒業。2006年より千葉大学大学院人文社会科学研究科教授。千葉大学公共研究センター共同代表(公共哲学センター長、地球環境福祉研究センター長)。専門は、政治哲学、公共哲学、比較政治。マイケル・サンデル教授と交流が深く、「ハーバード白熱教室」では解説も務める。著書に『対話型講義 原発と正義』(光文社新書)、『日本版白熱教室 サンデルにならって正義を考えよう(文春新書)、『サンデル教授の対話術』(サンデル氏と共著、NHK出版)、『サンデルの政治哲学 〈正義〉とは何か』(平凡社新書)、『友愛革命は可能か――公共哲学から考える』(平凡社新書)、『人生も仕事も変える「対話力」――日本人に闘うディベートはいらない』(講談社+α新書)、『神社と政治』(角川新書)など多数。共訳書に『ハーバード白熱教室講義録+東大特別授業』(ハヤカワ文庫)など。

 

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