民進党は分裂。先行き不安な新党。実は弱っている自民党。日本政治はどこにいく……
2017年10月27日
安倍晋三首相の「不意打ち」解散、希望の党の旗揚げ、民進党の分裂、立憲民主党の結成、と異例の展開をみせた衆議院選挙は、自民党が公示前の議席と並ぶ284議席を得て大勝。「安倍一強」のもと、自民党が国政選挙で5連勝した。長年連立を組む公明党と合わせると、憲法の改正発議に必要な定数の「3分の2」超を占め、まさに盤石の構えだ。民主党政権が挫折して5年近く。野党第1党だった民進党が分裂したことで、平成の政治改革が追い求めてきた「政権交代可能な政治への道」はついえてしまうのか。民進党の理念・政策の継承をするという立憲民主党、民進党から多数の議員が合流した希望の党など野党は、その道を再び、追えるのだろうか。
平成の政治改革の道のりを政治学者としてウォッチし続けてきた御厨貴・東京大学名誉教授に、今回の衆院選から見えてきた日本の政治の実情とこれからの課題を聞いた。(聞き手 WEBRONZA編集部・吉田貴文)
――異例尽くしの今回の衆院選をどうご覧になりましたか。
御厨 人心の落ち着き先は、統治の党たる与党とこれに対峙(たいじ)する野党にある。もっといえば、かつて55年体制のもとで対立した自民党と社会党のような「かたち」に、今なお有権者は郷愁がある。今回の衆院選の結果をみて、つくづくそう思いました。
30年近い平成の時代、政治改革を進める過程でさんざん批判されてきた55年体制ですが、昭和の政治のなかでは確かに安定的に機能していました。世の中がころころ変わり、北朝鮮情勢や社会保障問題など課題が山積み。とにかく不安な社会で、みんな安定した体制を求めている。それが、守る与党と攻める野党というシンプルで懐かしい「かたち」に人々がひかれたゆえんでしょう。
しかし、実は与党の自民党も決して安定しているわけではない。首相をはじめ主要なメンバーはこの5年間で確実に年をとり、飽きられつつあります。野党の立憲民主党にしても、にわか仕立てでスタンスが固まらず、新しい人材が出ているわけでもない。今ある課題に取り組むには、従来型ではない発想に立つ力強い政党が必要なのに、55年体制の時代と比べても、むしろ政党は縮んでいる印象です。
ひとたびは自民党に代わって政権を担った野党第1党の民進党が分裂し、選挙の直前に新党が次々と生まれるという異例の事態になった今回の衆院選は、政党政治の劣化をはからずも浮き彫りにしたと言えます。政権交代可能な政治を目ざした平成の政治改革とは何だったのか、政党とは何なのか、あらためて考えるべきでしょうね。
――1996(平成8)年の民主党結党から20年以上続いた政党にしては、民進党の分裂はあまりに唐突でした。
御厨 民進党(民主党)は不思議な政党です。所属する議員が自分たちの政権の悪口をしきりに言うんですね。2009年から3年余の民主党政権に問題があったのは確かです。でも、いいところも少なからずあり、その後、政権に返り咲いた自民党が継承している政策もあるのに、そこはあまり検証しない。
政権を取る前はマニフェストを掲げ、「この国のかたち」を大いに議論していたのに、政権から下野した後は、政権を再び奪還するといいながら安倍政権批判の一点張りで、マニフェストのマの字も口にしない。それっておかしいでしょう。政党とは本来、「この国のかたち」を考え、それにのっとって政策をつくり、有権者に選択肢を示す存在のはずです。
――党内に「右」から「左」までを抱え、うかつに政策に踏み込むと党が割れかねないという面もありましたが。
御厨 憲法や安全保障など国の大本をめぐる政策で党内に違いがあるならなおさら、野党の間に徹底的に議論して方針を決め、党がいったんは小さくなっても、合意をできない人とは袂(たもと)を分かつぐらいのことをするべきでした。5年もの間それをやらず、「まずは政権奪還だ」と言うばかりで、実質的に政権交代の準備をしてこなかった。その弱さを安倍首相につかれ、結果的に分裂に追い込まれた。ある意味、自業自得です。
――衆院解散とともに旗揚げし、民進党議員が合流した希望の党は、民進党の代替たり得ましたか。
御厨 今回、民進党の合流で希望の党が過半数の候補を擁立できる可能性がみえると、メディアは「政権選択選挙」と報じましたが、これってあり得ない話です。昨年末から小池新党の準備をはじめていたとはいうものの、想定外の解散で準備が間に合わず、政策もろくに固まっていない政党が、政権を担えるはずがありません。明らかにイリュージョンです。
――でも、小池百合子・希望の党代表の衆院選への立候補が取りざたされた時期は、ありえるシナリオとして、政界、メディアを騒がせました。
御厨 日本新党出身の小池さんには、1993年に日本新党の細川護熙代表を首相とする非自民連立政権が誕生したときのイメージが強くあったのではないでしょうか。当時、日本新党は東京都議選で躍進、直後の衆院選でも新人議員を多数当選させ、小沢一郎(新生党代表幹事)さんの「工作」で代表の細川さんがあっという間に首相になった。同じ道を小池さんは夢見たし、メディアも共振した。
しかし、細川政権は、自民党を飛び出した小沢さんの剛腕のたまものでした。やはり自民党を離党した新党さきがけの武村正義代表らが細川さんに協力したことも大きかった。でも、今回は自民党から誰かが出てくる気配はない。自民党はそのあたりをじっと見て、小池さんの「排除発言」をとらえて反撃にでたのでしょう。
――そういえば、民進党代表の前原誠司さんも小池さんも1993(平成5)年の衆院選で日本新党から衆議院に初当選しています。
御厨 平成のはじめ、日本新党の新人議員だった彼らが経験した自民党からの政権奪取を、平成の終わりにさしかかった今、再現しようとした。一度目は一応、成功した。今回は大失敗。
――結果をみると、希望の党は50議席。政権交代どころか、野党第1党の座さえ逃しました。小池さん、前原さんにすれば大誤算ではないですか。
御厨 前原さんは民進党の希望の党への合流にあたり、こんな風に考えたのではないでしょうか。
憲法や安全保障の問題について、自民党に反対するだけだと展望がない。この二つについては自民党より右にいく勢いで希望の党をひっぱり、自民党の主張にのる。そのうえで、内政では自民党とは異なるリベラルな政策を打ち出す。憲法・安保は右、内政は左で自民党を揺さぶる、と。小池さんも同じ考えだったと思います。
ところが、最後になって小池さんは躊躇(ちゅうちょ)した。政策もカネも人も前原さんが持ってくることで、民進党が希望の党を乗っ取るのではないか。そこで小池さんは「待った」をかけた。自らの存在意義を示すため、安保と憲法改正で選別をする姿勢を打ち出した。これが「排除の論理」と批判されたわけですが、そこには前原さんと小池さんとの微妙な心理戦争があったと思いますね。
――希望の党は今後、どうなるでしょう。
御厨 小池さんは代表にとどまる意向のようですが、50人の集団を誰がどのようにマネージするかがカギでしょう。自民党にすれば、憲法・安保の主張が近い希望の党は「補完要員」にみえるかもしれませんが、小池さんは自民党に無条件に使われるつもりはないでしょう。希望の党を触媒にして、自民党に影響を与えようと画策する可能性はあると思いますね。
御厨 冒頭で述べたように、立憲民主党が躍進した背景には、かつての自社2大政党制への郷愁があると思います。自民党と批判政党という組み合わせが、特に年配の人には分かりやすく、落ち着くようです。
――ただ、枝野さんはかつての万年野党の社会党になるつもりはないのではないですか。
御厨 枝野さんが本気で政権を狙うなら、今、支持している人たちとの間に隔たりができるかもしれませんね。立憲民主党を立ち上げた際、枝野さんは「リベラルであり、保守である」と言い、社民的なものとは一線を画しましたが、その後、社会党の左派だったメンバーも入って、党のイメージがどんどん左にいっている。枝野さんにすれば、今後、左派的なものとどう距離をとるかが課題になるでしょう。
――立憲民主党、希望の党といった新党はまだ多くの課題を抱えている。既存の野党、公明党や共産党、日本維新の会は議席を減らす。他方、自民党は、議席減が必至と言われたのに公示前と並ぶ議席を獲得する。「安倍一強」とともに、自民党はますます安泰にみえます。
御厨 安倍さんは首相になる直前の2012年衆院選から、5回連続して国政選挙で勝利を収めました。当然、政権構造は安定するはずですが、必ずしもそうならないのではないかと私はみています。
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