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「習一強」と「習近平の時代」のあいだ

中国共産党大会での習総書記の3時間演説と、党指導部の人事から見えてくるものとは

川島真 東京大学大学院総合文化研究科国際社会科学専攻・教授

毛沢東時代のようなイメージ?

中国共産党の第19回党大会が開催された人民大会堂=10月18日、北京拡大中国共産党の第19回党大会が開催された人民大会堂=10月18日、北京

  中国語で「十九大」と言われる第19回中国共産党大会が先月24日、閉幕した。日本のメディアも、人事について(やや暴走気味ながら)報道し続けた。そこでは、習近平(シーチンピン)一強、習近平思想、王岐山の退任、3期以上の長期政権、党主席制度、そして後継者指名なし、といったことが話題になっていた。

 総じて、習近平・総書記が強力な権力を掌握した、と見る論調が大半である。強国中国の姿と相まって、中国が今後もいっそう強硬な対内外政策をとるのだろうという見方が、こうした論調の背後にうかがえる。かつての「一君万民体制」、毛沢東時代のようなイメージがあるのかもしれない。

 だが、果たしてどうなのだろうか。本稿では、習近平の演説と人事の2点をめぐり、演説についてはそれ自体をテキストとして読む作業によって、また人事については制度との関連性への考察を通じて検討してみたい。

冒頭の一節で何を述べたか

  習近平の3時間以上の講演は、幾つかの面で新しさを有していた。中国の共産党員たちからすれば、小さい頃から慣れ親しんできた幾つかのフレーズに変化が生じたことに、新しさを感じたであろう。こうした「言葉」は、あくまでも建前にすぎない。実態は異なるというのも確かだ。だが、今後、習近平の「言葉」によって政策が説明され、この「言葉」に合わせた予算申請がなされるなど、「言語」の持つ規範力は小さくない。

 習近平の演説の要点については、まず冒頭で掲げた一節に注目したい。

 歴代の指導者の演説では、これまでも要点を述べるに際して、「…を高く掲げて(「高挙…」)」というフレーズが用いられてきた。たとえば第15回党大会のときに江沢民は、「鄧小平理論の偉大なる旗幟(きし)を掲げ、中国的特色のある社会主義事業の建設を、21世紀に向けて推し進めていく」(「高举邓小平理论伟大旗帜,把建设有中国特色社会主义事业全面推向二十一世纪」1997年9月12日)と語り、第17回党大会の胡錦濤も、「中国的特色のある社会主義という偉大なる旗幟を掲げ、小康社会の全面的な建設という新たな勝利を得るために奮闘していく」(「高举中国特色社会主义伟大旗帜 为夺取全面建设小康社会新胜利而奋斗」2007年10月15日)などと述べていた。

 では、習近平はどのように述べたのか。それは、「中国的特色のある社会主義という偉大な旗幟を掲げ、全面的に小康社会を確立するために最終的な勝利を収めて、新時代の中国的特色のある社会主義の偉大なる勝利をえて、中華民族の偉大なる復興という中国の夢を実現するために、奮闘を惜しまない」(「高举中国特色社会主义伟大旗帜,决胜全面建成小康社会,夺取新时代中国特色社会主义伟大胜利,为实现中华民族伟大复兴的中国梦不懈奋斗」2017年10月18日)であった。

慣例を継承しつつ、新しさを出す

長時間にわたって政治報告を行う習近平総書記=10月18日、北京の人民大会堂拡大長時間にわたって政治報告を行う習近平総書記=10月18日、北京の人民大会堂

 習近平は、胡錦濤の述べた「中国的特色のある社会主義という偉大な旗幟を掲げ」という部分を継承した。ただし、「小康社会」を建設していくうえでは、「決勝」、つまり最終的な勝利を収めるといった語を使い、それが最終段階にあることを示した。さらに、「中国的特色のある社会主義」に「新時代」を加えることで、習近平時代に成し遂げられることが胡錦濤時代とは異なることを示し、「中華民族の偉大なる復興という中国の夢を実現するために、奮闘を惜しまない」と結んだのである。

 習近平は演説の後段で、「中国的特色ある社会主義近代化(現代化)強国」を目指していると述べており、「近代化(現代化)強国」という部分が「中華民族の偉大なる復興という中国の夢」の実現という部分に対応しているということになる。

 習近平が、一面では自らが「新時代」を築くことを主張しつつ、もう一面では胡錦濤時代のフレーズを継承していることもわかるであろう。3時間以上かかった演説であったが、「はじめに」に相当する部分(ここに「高挙〜」のフレーズが含まれる)→(2)過去の総括→(3)指導思想→(4)主要目標→(5)具体的な局面(経済、政治、文化、社会民生、生態、国防と軍隊、港澳台〈香港、マカオ、台湾〉、外交、党建設、新しい指導思想など)→(6)「おわりに」に相当する部分、という構成自体は従来と変化はなかった。時間が長くなったのは、(3)と(4)に関する部分が増えたためである。習近平もまた、これまでの慣例を継承しつつ、その中で新しさを出そうとしていることがうかがえる。

36年ぶりに変化した「矛盾」

 中国が中国共産党の領導する社会主義国家である以上、マルクス主義的な意味での「矛盾」とその解決こそが、政策の根幹として存在している。

 今回の習近平の演説では、それが1981年以来、36年ぶりに変わった。そして、その変化こそが、習近平の言う「立ち上がれ(站起来、革命=毛沢東)、豊かになれ(富起来、改革開放=鄧小平)、強くなれ(强起来、強国化=習近平)」という変化や、「新時代」ということの意味を示しているのである。これまでの言葉遣いをほぼ完全に暗記している党員たちは、このフレーズの変化を即座に感じたはずである。

 毛沢東の時代、たとえば1956年の第8回党大会では、「我が国内の主要矛盾は、人民の先進工業国家を建てたいという要求と、立ち遅れた農業国家という現実との矛盾」、「人民の経済文化の迅速な発展に対する需要と、目下の経済文化が人民の需要を満足させられないという状況との間にある矛盾」にあるとしていた。また、1962年の第8期10中全会では、「無産階級と資産階級との矛盾がすべての社会主義歴史段階における主要矛盾だ」としていた。階級闘争が中心だった革命時代の矛盾設定は、このようなものであった。

鄧小平、江沢民、胡錦濤は「ひとつの時代」

 こうした矛盾が変化したのは、鄧小平の時代である。

 第11期3中全会(1978年)で「改革開放」へと舵(かじ)が切られたことは広く知られているが、その3年後の第11期6中全会では、以下のように矛盾が変わっている。「我が国が解決しなければならない主要矛盾は、人民の日々増加する物質文化に対する需要と、立ち遅れた社会生産との間の矛盾」。それ以降、このフレーズは2012年の第18回党大会まで使用された。つまり、習近平時代の前期の5年も含め、36年間も続いたのであった。

 この時期は、鄧小平から江沢民、そして胡錦濤へと至る時期に当たる。今回の習近平の演説は、この時期を、主要矛盾を同じくする「ひとつの時代」と位置付けているようだ。いわば、「鄧小平期時代」ということになろう。

習近平の主要矛盾が抱える危うさ

 では、習近平は今回、主要矛盾をどのように変えたのだろうか。 ・・・続きを読む
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筆者

川島真

川島真(かわしま・しん) 東京大学大学院総合文化研究科国際社会科学専攻・教授

1968年生まれ。東京外国語大学外国語学部中国語学科卒業。 東京大学大学院人文社会系研究科アジア文化研究専攻(東洋史学)博士課程単位取得退学。博士(文学)。北海道大学大学院法学研究科助教授、東京大学大学院総合文化研究科国際社会科学専攻・准教授(東アジア国際関係史担当)などを経て現職。 主な著書に『中国近代外交の形成』(名古屋大学出版会)、『近代国家への模索 1894−1925』(シリーズ中国近現代史、岩波新書)、『21世紀の「中華」─習近平中国と東アジア』(中央公論新社)、『中国のフロンティア —揺れ動く境界から考える』(岩波新書)など。