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トランプ大統領はなぜ批判されるのか?

「反安倍」と決めたらトランプもイバンカも憎む党派性のドツボからのがれてみては

中川淳一郎 ネットニュース編集者

トランプへの反応は〝知識人〟のリトマス試験紙

米国のトランプ大統領(左)を出迎え、握手する安倍晋三首相=11月5日午後、埼玉県川越市の霞ケ関カンツリー倶楽部、代表撮影拡大米国のトランプ大統領(左)を出迎え、握手する安倍晋三首相=11月5日午後、埼玉県川越市の霞ケ関カンツリー倶楽部、代表撮影

 ドナルド・トランプ米大統領が来日し、これに対してどう反応するかが、日本のメディア、および〝知識人〟にとってのリトマス試験紙のような状況になっている。目につくのは、「トランプを高く評価するとバカだと思われるから、良いところを言えない」という空気。「トランプを評価すると、自分も人種差別主義の女性蔑視野郎だと思われるから評価できない」という雰囲気もあるようにみえる。

 要は、「トランプはすべてが悪の塊。一つもいいところはない」という観念にとりつかれているのか、知識人や言論人はトランプ氏の良い点を言いづらいのが現状のようだ。他方、前任のバラク・オバマ氏、及びトランプ氏と大統領選を戦ったヒラリー・クリントン氏のことは、悪く言えないという状況もある。

 ツイッターなどでもよく見られるが、いったんAという対象を批判すると決めたら、何があろうとも批判を続けなくてはいけないと考える人が、世の中には多い。そして、ひたすら「Aが悪い」という材料を血眼で探す作業にいそしむようになる。

 個人的には、こうした「党派性」なんてものは無視し、「是々非々」でトランプ氏を評価してみては、と言いたいところだが、「トランプは悪人派」から数々の悪事(と彼らが考えること)を突き付けられ、あえて「トランプにも良いところはあるよ」などと返そうとすると、代理戦争のごとき様相になってしまう。正直いってトランプ氏を何がなんでも擁護するほどの熱意はこちらにはないため、「はいはい、トランプは悪人で、世界を破滅させる悪の親玉なんですね。はいはい、もう面倒くさいからそういうことにしときましょう」となる。

安倍叩きのためにトランプも叩く

 ところで、一部の日本人からトランプ氏がここまで叩(たた)かれる理由の一つに、

 安倍晋三氏と案外ウマが合っている。
 リベラルにとっては敵であると認識されているから。海外のお墨付きもあるから。

 がある。

 ここ数年、「反安倍派」はメディアでもネットでも路上でも元気である。「アベ」とカタカナで書き、「アベ政治を許さない」「アベ辞めろ」と連呼する。カタカナで書く場合は特別な意味を包含するようになるが、「アベ」に込められた意図は、「独裁者」「極右」「弱者を斬る無慈悲者」など。そこにトランプ氏と安倍氏の共通点を見いだし、安倍叩きのためにはトランプ叩きもおこない、安倍叩きの論拠を強化しようとする。

 現在方針は変わってきてはいるとはいえ、難民に対して寛容な姿勢を見せた独・メルケル首相、カナダ・トルドー首相、仏・マクロン大統領を称賛し、立派なリーダーとしてあがめたてる。と同時に、安倍・トランプ両氏を落とすのである。

大統領の長女ゆえイバンカも非難の的

 さらに、これが高じてトランプ氏と関係の深い人も次々と叩かれる。たとえば大統領補佐官を務める長女のイバンカ・トランプ氏。氏も関与する基金「女性起業家資金イニシアチブ」に対し、「イバンカ基金に57億円の血税を出すのは許せない!」といったことを早とちりで言ったりもする。また、「イバンカフィーバー」とも言える日本のテレビメディアも批判する。その際の決めぜりふは、「米メディアは今回の日本メディアの狂騒にあきれている」である。得意の「外圧」利用である。

 まぁ、日本のメディアの狂騒は今にはじまったことではない。思えば、キャロライン・ケネディ氏がオバマ政権時代に日本大使に就任した時も発生した。外交実績があるわけでもないのに、日本で人気があるJFKの娘であること、華があることから、こぞって熱狂報道した。オバマ氏の妻・ミシェル氏についても、オシャレだとか良き母であるとかいった論調で熱っぽく報じていた。前出のトルドー氏やマクロン氏も「イケメン」文脈にあるように、基本的に華のある人物を日本のテレビメディアは好意的に報じる。

 これを反安倍派が積極的に批判していたかというと、多分そんなことはないだろう。今回はトランプ氏の娘だから批判されたのである。苦労知らずの二世うんぬんといった批判もあったが、ケネディ氏はそれ以上だろう。

 話を戻す。このように反安倍的な論者は「イバンカ基金」を問題視し、トランプ批判につなげる。基金が女性の社会進出を支援するものであっても、「トランプの娘がかかわっていて」「アベが言及した」ことによって叩く。トランプ氏が女性蔑視発言などをしたこともあるから、その娘が女性支援を謳(うた)っても説得力がないといった主張にもなる。

安倍氏はノーテンキ、トランプ氏は不安定

 安倍氏がトランプ氏との「ゴルフ外交」に先立ち、ゴルフの練習をするだけでもノーテンキだと叩く。おいおい、「アベは北朝鮮の危機をあおり過ぎる」と言っていたのは同じ舌じゃないのか?11月5日、某コメンテーターは安倍氏とトランプ氏の関係について、テレビで次のように言っていた。霞が関ゴルフクラブでゴルフをする前に2人が昼食をとった件についてだ。

 「日米関係の重要性を考えたら悪いことではない。でも、アメリカであまり良い状況ではない。(スーツを着てゴルフ前のパワーランチをしたことについては)安倍さんが国難といっているのに、遊んでいるように見せるわけにはいかないからですね。(ゴルフを一緒にすることについて)トランプ氏が排外主義と世界で批判されているので、仲がいいとその流れに追随していると思われるので、微妙なところがあります」

 また、アメリカ大統領の近くには常に核発射のボタンの入ったバッグを運ぶ随行員がいることについて、「核のボタンが銀座って怖いですね」と話をふられると、オバマ氏も広島に核のボタンを持ってきていたこともあるため、こう切り返す。

 「怖いですし、それからかなり特異なのは、トランプさんの不安定さというか、アメリカのメディアを見ていると、大まじめに『精神的障害がこの人はあるのではないか』という議論までされている人なんですよね。こういう人物が核のボタンを持っていることに対する怖さを感じます。こんな大統領って、おそらく歴代初めてのことですよね」 ・・・続きを読む
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筆者

中川淳一郎

中川淳一郎(なかがわ・じゅんいちろう) ネットニュース編集者

1973年生まれ。東京都生まれ。一橋大学商学部卒。97年、博報堂入社、CC局(コーポレートコミュニケーション局)配属、2001年退社。以後無職、フリーライター、フリー編集者を経て06年からネットニュース編集者。複数のサイトの編集にかかわる。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』(光文社新書)、『ネットのバカ』『バカざんまい』(ともに新潮新書)など。