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「安倍ファースト」改憲に対案は必要か

腰を据えて「改憲ノー」を言い続けることが真の「対案」だ

水島朝穂 早稲田大学法学学術院教授

異常な低投票率で誕生した政権が改憲?

拡大安倍政権による改憲に反対の声をあげる集会の参加者たち=11月3日、東京・永田町の国会前
 10月の総選挙(民主主義国家では稀にみる低投票率)の結果は、世界中で大いに驚かれている。絶対得票率(小選挙区)25%の自民党が74.4%の議席を占める。投票率は史上2番目に低い53.68%(小選挙区)だった。有権者の半数しか投票に行かないという、まっとうな民主主義国家とはとてもいえない異常な低投票率の結果、引き続き政権を担当することとなった安倍首相は、憲法9条1項、2項を存続させて、「9条に自衛隊を書き込む」という。

 これまで野党との合意も語ってきたのに、総選挙の翌日、「政治なので当然、みなさん全てに理解いただけるわけではない」と語った。これでは立憲民主党との合意ははじめから必要ないというに等しい。「みっともない憲法」と憲法を蔑視する首相が主導する改憲、自らの任期中に改憲をという自己都合優先の「安倍ファースト」の改憲が始まった。今後の国会での改憲の議論は、安倍首相の自衛隊明記案を中心に「対案」が提示されながら進んでいくだろう。

安倍「加憲」の狙いと背景

そもそもこの安倍案は、『読売新聞』5月3日付の首相単独インタビューと、同日の日本会議系「第19回公開憲法フォーラム」における安倍首相ビデオメッセージで明確にされた。梶田陽介氏の「安倍首相の「9条に自衛隊明記」改憲案は日本会議幹部の発案だった!「加憲で護憲派を分断し9条を空文化せよ」」により、自衛隊明記案は、日本会議常任理事で政策委員の伊藤哲夫氏や日本会議系の日本政策研究センター研究部長の小坂実氏の発案である可能性が指摘されている。小坂氏は「自衛隊を明記した第三項を加えて二項を空文化させるべきである」という。安倍案が「現状維持」だから安心ではなく、安倍首相を支える極右といえる改憲勢力のこういう本音を見抜かなければならない。

 安倍首相は、自衛隊の明記により「自衛隊違憲論を一掃する」という。だが、9条2項の「戦力」と「自衛のための必要最小限度の実力」である「自衛力」は別次元の概念であるから、自衛隊が明記され、「自衛力」自体が合憲となっても、自衛隊の個別の装備や組織のありようなどが「戦力」に当たることはあり、自衛隊の違憲性は問われ続ける。米国軍事力評価機関Global Firepowerの2017年軍事力ランキングによれば、世界の軍事力は上位から、米国、ロシア、中国、インド、フランス、イギリス、日本、トルコ、ドイツ、エジプト、イタリア、韓国と続き、北朝鮮は23位である。

 1973年の長沼事件一審判決のように、実態からみて自衛隊は「戦力」に該当し違憲であるとする司法判断が出る可能性は残る。元自衛官の佐藤正久参議院議員は自衛隊明記案について「まずは現場の自衛官が名誉と誇りを持って任務遂行できる環境をつくることを優先すべきだ」(『明日への選択』8月号)というが、自衛隊の違憲性は指摘され続けるから、9条2項を削除しない限り中途半端な「名誉と誇り」になる。なお、1985年の「日航123便墜落事件」における自衛隊の「災害派遣」について重大な疑義が提起されている(青山透子『日航123便墜落の新事実―目撃証言から真相に迫る』(河出書房新社、2017年)と直言「日航123便墜落事件」から30年」参照)。自衛隊は「名誉と誇り」に恥じたことをしなかったか。真相解明抜きに政軍関係を無反省に明記してはならない。

希望・民進議員の9条加憲案

 安倍首相は「各党はただ単に反対という主張ではなく、自分たちはこう考えているという案を持ち寄っていただきたい」という。希望の党の長島昭久衆議院議員と、民進党の大野元裕参議院議員は、「国民の生命を守るために憲法第九条に自衛権を明記せよ」(『中央公論』2017年12月号)のなかで、集団的自衛権の行使も認められる自衛権の3要件を書き込む条文案を提示している。このような改正がなされれば、安倍案同様、「専守防衛」まで引き戻す憲法上の根拠が失われる。北朝鮮から攻撃を受けていなくても、日本が集団的自衛権を行使して北朝鮮を攻撃すれば、北朝鮮からみれば日本が先に攻撃したことになるから、報復攻撃は免れない。

 2002年の日朝平壌宣言には「互いの安全を脅かす行動をとらないことを確認した」とある。北朝鮮の公式文献である『我が党の先軍政治(増補版)』(朝鮮労働党出版社、2006年)は、小泉純一郎首相(当時)と金正日の会談で、「偉大な将軍は、・・・誰であっても我々を侵害しない限り我々は決して武力行使しないこと・・・について、明らかになさった」という(この文献は、水島朝穂『ライブ講義 徹底分析! 集団的自衛権』岩波書店、2015年269頁~271頁で紹介)。日本が先に攻撃しない限りは武力行使をしないという「遺訓」は金正恩も継承しているのに、北朝鮮を先に攻撃することを可能にしてしまう安倍首相やこの議員たちこそ日本国民の生命を危険にさらしている。そもそも、自衛隊合憲論者にとっては自衛権を憲法に明記しなくても国民の生命は守られているはずだが、現行憲法では国民の生命が守られていないかのように言う。「印象操作」である。現状の自衛隊の明記だけでは自衛隊の権限は変わらないと主張するのに、 ・・・続きを読む
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筆者

水島朝穂

水島朝穂(みずしま・あさほ) 早稲田大学法学学術院教授

1953年,東京都府中市生まれ。広島大学助教授などを経て, 96年より現職。憲法,法政策論。法学博士。ボン大学客員研究員。憲法理論研究会代表(2010~11年),全国憲法研究会代表(2013~15年)。単著『平和の憲法政策論』日本評論社,『現代軍事法制の研究』同,『ライブ講義 徹底分析!集団的自衛権』岩波書店,『18歳からはじめる憲法(第2版)』法律文化社ほか。ホームページ「平和憲法のメッセージ」(http://www.asaho.com/)を1997年から20年連続更新。