メインメニューをとばして、このページの本文エリアへ

RSS

米大統領選から1年 市民パワーで民主党が復活?

初のトランスジェンダー議員も誕生した米地方選

芦澤久仁子 アメリカン大学講師(国際関係論)及びジャパンプログラムコーディネーター

大統領選から1年目の出来事

 「民主党がついに復活した!」

 米民主党の全国委員長トーマス・ペレズ氏が、観衆に向かって叫んだ。

 これは、トランプ大統領を誕生させた去年の大統領選からちょうど1年目の、11月8日前夜の出来事。その日、全米複数の州で、州知事や州議会の議員などを選ぶ地方選挙が行われ、民主党候補者達が目覚ましい活躍をしたのだ。

 知事選があったニュージャージー州とバージニア州では、民主党候補が、それぞれ13パーセントと9パーセントの差で、余裕の勝利。ニュージャージー州議会は上院・下院とも民主党が過半数を獲得。バージニア州では、州議会の下院選挙のみが行われたのだが、そこでも民主党が15議席も増やした。

 さらに、ワシントン州議会上院の補欠選挙では、民主党候補が共和党候補を倒し、これまで共和党過半数だった上院の勢力バランスを逆転。ニューヨーク市、シアトル市に加え、ノースカロライナ州のシャーロット市、モンタナ州のヘレナ市などの市長選や市議会選挙でも、民主党候補者が続々と勝利を収めた。

バージニア州での躍進は予想以上

トランプ米大統領=10月12日、ワシントン、ランハム裕子撮影拡大トランプ米大統領=10月12日、ワシントン、ランハム裕子撮影

 これについて、共和党側は「今回の地方選は、ニューヨークやニュージャージー州など、もともと民主党が強い地域中心だったから、大騒ぎする必要はない」と冷めた反応。去年の大統領選のおかげで、ホワイトハウスのみならず、連邦議会の上院・下院とも支配した共和党から見ると「しょせん、地方選。大勢には影響なし」というわけだ。

 しかし、民主党指導者達が「復活!」と興奮したのには、それなりの根拠がある。

 焦点は、バージニア州での予想以上の躍進だった。

 というのも、ワシントンDCに隣接するバージニア州は、南部の始まりと言われる州で、もともと共和党が強く、田舎では人種差別も根強く残る地域。確かに、10年ぐらい前から民主党寄りになってきたのだが(大統領選では、オバマ大統領登場の2008年以降、民主党候補者を選んでいる)、まだ、完全な民主党州と言い切るのは難しかった。

 その州知事選に立った民主党のラルフ・ノーサム氏は、正直言って見た目も演説の仕方も地味で、選挙中の失言もちらほら。対する共和党のエド・ギレスピー候補は、州内の中・南西部に多い保守・白人層をターゲットに、移民攻撃や白人至上主義を匂わすよう発言を繰り返し、いわゆる「トランプ主義」戦略を採用。そのせいもあって、選挙前の世論調査では、両者ほぼ互角の状態だった。

 そんな中、ノーサム氏がギレスピー氏を破ったのだが、その差9パーセント。これまでのバージニア知事選の歴史では記録的な差で、民主党陣営にとってまさに予想外の躍進となった。

 また、選挙当日はかなり強い雨が降り、投票率が低くなることが心配された。低い投票率は、民主党にとって不利だからだ。

 ところが、ふたを開ければ、投票率は前回(4年前)の知事選より5ポイント高、前々回の10ポイントを上回る47%で、地方選挙の投票率としては画期的な高さとなった(ちなみに、大統領選挙時のバージニア州の投票率は、通常70%を超えている)。選挙に対する民主党支持者達の盛り上がりの高さを示したもので、民主党にとっては、今後の選挙への励みとなる嬉しいニュースだった。

州議会下院は15議席増、過半数を獲得の勢い

 さらに注目されたのが、州議会の下院選挙の結果。選挙前は、100議席のうち66議席を共和党が押さえる、共和党絶対多数議会だったのが、今回の選挙で、民主党側が15の新たな議席を獲得して合計49議席に。さらに、本稿執筆の時点で、三つの選挙区の開票結果(共和党議席)が0.5%以下の小差のため、票の数え直しの可能性があり、その結果によっては、民主党が過半数をとることもありえる。

 このバージニア州議会での躍進は、民主党にとって大きな意味がある。オバマ政権下の過去8年間で、民主党は全国各地の州議会の議席を大量に失ったからだ。共和党に譲った議席の総数、なんと1000以上にのぼっているのだ。

 この州政府レベルでのロスは、民主党本部の怠慢、オバマ大統領の無関心、そして、ティーパーティームーブメントを中心とした共和党陣営による戦略的な地方選攻略という三つの要因によるのだが、実は、国政レベルでの選挙にも少なからずの影響をもたらす。

 理由は、連邦議会下院(単純小選挙区制)の各州の選挙区の区割りは、それぞれの州政府に任されていることにある。その区割りの見直しは、10年毎の国勢調査に伴って行われるのだが、2010年の選挙区改定の際に、ノース・カロライナなどの共和党政権の州で、共和党候補者が優位になるような不自然な区分けがされたとして、問題になっている。

 つまり、民主党としては、2020年の国勢調査に向けて、州政府レベルでの民主党勢力を少しでも回復して、そのような問題区割りを是正したいのである。

 また、州政府を制覇すれば、トランプ政権による移民やマイノリティー差別の政策や、オバマケアを実質無効にする動きに対して、州条例などを利用して抵抗することが可能となる。民主党政策を地方からの下支えすることが出来るというわけだ。

リベラル市民による草の根グループ「フリッパブル」の活躍

「フリッパブル」の共同設立者、キャサリーン・ヴァーガンさん(flippable.org から)拡大「フリッパブル」の共同設立者、キャサリーン・ヴァーガンさん(flippable.org から)
「フリッパブル」の共同設立者、クリス・ワルシュさん(flippable.org から)拡大「フリッパブル」の共同設立者、クリス・ワルシュさん(flippable.org から)

 バージニア州議会での民主党躍進に大きく貢献したのが、市民による草の根選挙支援活動である。

 その一つが、「フリッパブル」(Flippable)。ヒラリー・クリントンのオハイオ州の選挙陣営の若手スタッフだった6人が、去年の大統領選後に立ち上げたグループで、その目的は、全国各地の州議会レベルでの民主党の勢力を取り戻すこと。そのために、「現職が共和党の選挙区で戦う民主党候補者を集中的に支援する」という戦略をとる。

 つまり、選挙前の共和党議席をひっくり返そう(フリップ、Flip)というアイデアだ。

 そして、その際に、誰でも構わず応援するのではなく、しっかりしたデータ収集と分析をもとに、フリップする可能性が比較的高い選挙区を選ぶ戦略を採用。選んだ民主党候補者を、地元の市民グループや民主党選対本部と協力して、集中的に応援する。

 そして、それらの選挙支援情報を、「フリッパブル」のサイト(https://flippable.org)に逐次アップ。対象の選挙地域に住んでいるメンバーは、現場での個別訪問などの選挙ボランティアを、遠くに住んでいるメンバーは、サイトを通じての資金援助や、選挙区に住んでいる知り合いに訴えるなどの形で、応援することが出来る。

 今回のバージニア州議会選で、「フリッパブル」は5人の民主党候補者を選び、計15万ドル(約1700万円)の寄付を投入して応援活動を展開し、見事、5人全員当選を果たした。バージニア州以外では、冒頭で触れたワシントン州議会上院補選の民主党候補も応援し、「フリップ」させている。

マイノリティーの政治進出にも大貢献

 「フリッパブル」に加えて、「シスター・ディストリクト(Sister District)」、「コード・ブルー(Code Blue)」、「ラン・フォー・サムシング(Run for Something)」などの市民グループも活躍していた。

 「35歳以下の若いリベラル候補者をリクルートして選挙活動支援をする」(ラン・フォー・サムシング)、「共和党支配の州と民主・共和拮抗(きっこう)の州で戦う民主党候補者を、国政と地方選挙の両方で支持する」(シスター・ディストリクト)など、それぞれの特徴があり、いずれも去年の大統領選挙後に立ち上がった組織である。

 もちろん、古参の市民グループも活躍。リベラルな女性議員の拡大を目指す「エミリーズ・リスト(EMILY'S List)」は、単に女性候補者を選挙応援するだけでなく、政治進出に興味がある女性達をリクルートして資金援助するなどの活動をしており、今年に入ってからは、50人余りの女性候補者を支援。そのうち32人を当選させている。バージニア州議会選挙でも、女性議員数を選挙前の17人から28人と増やして、目覚ましい成果をあげた。

バージニア州議会で初のトランスジェンダー議員となったダニカ・ロエム氏(写真中央)=ロエム氏の選挙サイトより拡大バージニア州議会で初のトランスジェンダー議員となったダニカ・ロエム氏(写真中央)=ロエム氏の選挙サイトより

 ちなみに、女性候補者に加えて、その他のマイノリティー候補者たちも躍進した。

・・・続きを読む
(残り:約2498文字/本文:約5867文字)

全ジャンルパックなら本の記事が読み放題。
デモクラシーやJournalismの記事も読めるのは全ジャンルパックだけ!


関連記事

レコメンドシステムによる自動選択

筆者

芦澤久仁子

芦澤久仁子(あしざわ・くにこ) アメリカン大学講師(国際関係論)及びジャパンプログラムコーディネーター

ワシントンDC在住。東京生まれ。慶応大学経済学部卒業。テレビ東京勤務後(ニュース番組制作等担当)渡米。2005年にタフツ大学フレッチャー法律外交大学院博士課程(国際関係論)を終了し、英国オックスフォードブルックス大学(准教授)を経て2012年から現職。また、米国ウッドローウイルソン国際学術センター、東西センター、ライシャワー東アジア研究所に招聘研究員として滞在。主な研究分野は日本外交、日米関係、アジア地域機構、グローバルガバナンス。研究論文は、International Studies Review, Pacific Review, Journal of Peacebuilding and Development等の英文学術誌および編著本に多数発表。著書、Japan, the U.S. and Regional Institution-Building in the New Asia: When Identity Matter (Palgrave McMillan)が、2015年度大平正芳記念賞を受賞。

芦澤久仁子の新着記事

もっと見る