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トランプ大統領をめぐる不都合な真実

暴言は支持者へのメッセージ。政党が弱く、頼れるのは大統領だけ?再選の観測も

横江公美 東洋大学国際学部教授(グローバル・イノベーション学科)

レームダックと無縁のトランプ大統領

APEC首脳会談で各国の首脳と一緒に集合写真の撮影に臨むトランプ米大統領(左から2人目)=11月11日、ベトナム・ダナン拡大APEC首脳会談で各国の首脳と一緒に集合写真の撮影に臨むトランプ米大統領(左から2人目)=11月11日、ベトナム・ダナン

 ドナルド・トランプのアメリカ大統領選のまさかの勝利から1年が経った。大統領になって以降も「お騒がせ」を続けるが、いまだ徹底的な破滅には至っていない。

 支持率は幾度も最低を更新したと報道されるも、〝死に体〟を意味する「レームダック」というタームは、トランプ大統領が「フェイク・ニュース」とこきおろす大手メディアからも、野党の民主党からも聞こえてこない。大統領選におけるロシアとトランプ陣営のつながりがささやかれる「ロシア疑惑」はトランプ政権を揺さぶるが、弾劾(だんがい)の道はまだまだ遠いというのが共通認識だ。

 本人はますます意気軒高だ。11月はじめのアジア訪問は「大成功だ」と自画自賛。感謝祭休暇に入ると「タイムズの今年の顔も俺のようだったが、断った」とツイートした。タイムズ誌は「そんな予定はまったくない」と打ち消したが、本人が気にする様子は皆目ない。本当?と思うような反論も堂々と続けている。間違いもうそも絶対に認めない。そして自分のことは褒め続ける。

ささやかれる再選の可能性

 まったくとんでもない大統領と思いきや、その何事にも動じない姿が好き嫌いを超えた妙な安心感を醸成しているという見方が、アメリカの役人たちから聞こえているのも事実である。ワシントンでは、このままいくと再選の可能性すらあると囁(ささや)かれている。現に、トランプ大統領とは正反対の考えを持つことで知られる映画監督のリチャード・ムーアは、トランプ再選の可能性を懸念し始めている。

 今までの価値観からすると、トランプ大統領が生き残っているのを不思議に感じるのがふつうである。とはいえ、トランプ大統領が破滅しないどころか、存在感をじわりと増している背景を子細に観察すると、日本からは見えないアメリカの政治、そして社会の現実が見えてくる。

 当選から1年を機に、トランプ大統領をめぐる「不都合な真実」を考えてみたい。

行き先を見失っている共和党

 トランプ大統領が提出したオバマ・ケアの撤廃・再構築の法案が、上院で否決されたことは記憶に新しい。オバマ・ケアの撤廃は、「小さな政府」を掲げる共和党にとっては最重要課題であったはずだ。しかも、共和党は下院も上院もおさえている。なぜ、通らなかったのか。

 トランプ大統領に「力」がないから?そうではない。問題は、共和党自身が過去の栄光にしがみつき、ミレニアル世代が力を持ちつつある今の世の中で、行き先を見失っていることにある。

 オバマ大統領が誕生した2009年以降、アメリカでは急激に多様化が進んだ。1980年に80%を占めていた白人の比率は、最近では60%を割り込むかどうかと推定されている。実際、幼稚園ではすでに、マイノリティ-の合計の比率のほうが白人の比率よりも大きくなっている。米国議会予算局の統計によると、2012年の段階でたった1%の「大金持ち」が40%以上の資産を占有しているという。

 アメリカにおける多様化の進展が生活困窮者を増やしたのは明らかだ。共和党は国民皆保険に反対してきたが、共和党の支持者にもオバマ・ケアを必要とする人が広がっていたのである。そのため、伝統的な保守思想を持つ共和党議員はトランプ大統領のオバマ・ケア案は甘すぎると反対し、オバマ・ケアを必要とする人が多い選挙区から出る穏健派の共和党議員は、トランプ案は厳しすぎると反対した。この構図からすると、オバマ・ケアについてはトランプ大統領が共和党の中で最も中立な立場、ということになる。

 こうした構図は、ほとんどの議論にあてはまる。現在、審議中の減税案もしかりだ。伝統的保守派はトランプ案以上の減税を望み、穏健派はトランプ案は厳しすぎると反対している。

議会はあてにならず……

 共和党支持者の80%前後が今も、トランプ大統領を支持し続ける背景には、共和党が考えをまとめられずに迷走しているという事情がある。党は頼りにならないので、大統領を頼るしかない、というわけである。

 ちなみにトランプ大統領と共和党幹部は、オバマ・ケアのように党内で合意が難しい法案は先に審議し、来年の中間選挙に近づくほどに合意が可能な法案をとりあげるようになる。今はまだ、それぞれの支持者グループをバックに審議は緊迫するが、来春以降になると、共和党議会とトランプ大統領が協力する姿が見えるようになる可能性がある。

 ギャロップ調査によると、議会への支持率は11月には13%まで落ち込んだ。これはトランプ大統領への支持率と比べて格段に低い。

オバマ後のリーダー育たぬ民主党

 先にミレニアル世代が力を持ちつつあると述べた。現に、1980年から2000年に生まれたミレニアル世代は今や、年上の世代を抜いてアメリカの最大勢力である。とすれば、この世代から支持を受ける民主党は、断然、有利なはずである。さらに、マイノリティーは民主党支持になる傾向が強いので、多様化が進むほど民主党が有利になる。実際、2000年以降の大統領選挙を見ると、一般得票数では民主党が4勝1敗である。共和党はジョージ・W・ブッシュ大統領の再選のときに「白星」をあげただけだ。

 だが、その民主党もまた、迷走している。最大の理由はリーダーの不在だ。

 オバマ大統領の誕生を「予測」し、トランプ大統領の参謀だったスティーブ・バノンも熟読した『世代論』によると、オバマ大統領の誕生からミレニアル世代の影響力が強い社会になるという。今のところ、その社会の特徴である、多様化するグローバル社会への貢献、つながり、そしてSNSの利用を最も知悉(ちしつ)し、利用していたのが、他ならぬオバマ大統領であった。

 オバマ大統領はオバマ・ケアによって社会の最貧下層を助けた。オバマ後の大統領には、その次に現れる貧民層を助けることが期待された。それこそが、働いても生活が苦しい白人労働者層であった。先般の大統領選において、民主党の候補者でこの層に目配りをした政策を掲げたのは、無所属のバーニー・サンダース上院議員だけあった。ヒラリー・クリントンはオバマ大統領の後継者を名乗ったものの、掲げた政策はオバマ大統領の延長線上ではなく、オバマ大統領の地点にとどまったままだった。

 それゆえ、この層はトランプ支持に動いたのである。高齢にもかかわらず、今なおサンダースの名前が民主党の大統領候補にあがっているのは、この党にオバマ大統領の路線を継ぐ次世代のリーダーが育っていない証左である。

強すぎたクリントン家の弊害

トランプ大統領就任式に出席したビル・クリントン元大統領(左)とヒラリー・クリントン元国務長官夫妻=2017年1月20日拡大トランプ大統領就任式に出席したビル・クリントン元大統領(左)とヒラリー・クリントン元国務長官夫妻=2017年1月20日

 民主党になぜ、オバマ大統領の後継たるリーダーが育たなかったのか。 ・・・続きを読む
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筆者

横江公美

横江公美(よこえ・くみ) 東洋大学国際学部教授(グローバル・イノベーション学科)

1965年生まれ。明治大学経営学部卒。94年に松下政経塾に入り(15期生)、アメリカ大統領候補の本部で現場研究をするかたわら、プリンストン大学、ジョージ・ワシントン大学の客員研究員として世界の選挙についても研究した。ヘリテージ財団上級研究員、VOTEジャパン社長などをへて、2017年4月から現職。著書に『日本にオバマは生まれるか』(PHP新書)、『アメリカのシンクタンク』(ミネルヴァ書房)、『崩壊するアメリカ トランプ大統領で世界は発狂する』(ビジネス社)など。