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トランプ大統領が1年持ったワケ

宗教とポピュリズムと排外主義が結びついた政治がもつ「強さ」と「危うさ」

松本佐保 名古屋市立大学人文社会学部教授

大統領のアジア歴訪を絶賛したバノン氏

米・ベトナム首脳会談の後、共同会見で発言するトランプ米大統領=11月12日、ベトナム・ハノイ拡大米・ベトナム首脳会談の後、共同会見で発言するトランプ米大統領=11月12日、ベトナム・ハノイ

 先月、トランプ大統領が日本を含む東アジアの主要国を歴訪、ベトナム・ダナンではアジア太平洋経済協力会議(APEC)の首脳会議にも参加して帰国した。大統領選挙から1年の節目でもあった。さらに、トランプ大統領がアメリカに帰国してから数日後、こんどは彼の側近であったバノン氏が来日。一部のメディアのみの報道であったが、大統領のアジア歴訪を絶賛した。バノン氏はまさにトランプ大統領を誕生させた、右派的なポピュリズムの立役者的な存在である。

 昨年来、イギリスのEU離脱、アメリカでのトランプ大統領誕生、ドイツやオーストリアでの右派政党の躍進、そして最近のスペイン・カタルーニャ州の国民投票による「独立」の動きなど、いわゆるポピュリズム政治が世界中で台頭している。日本では先の衆議院選挙が自民党の圧勝という結果で終わったが、ここにもポピュリズム的要因があったと論じる者もいる。

 世界各地でみられるポピュリズムの問題については、多くの政治学者が論争しているが、私は急速な経済のグローバル化による労働賃金の低下が、中間層の没落や格差問題を生み、移民や難民への不寛容などの排外主義につながっていると考える。アメリカも例外ではない。経済のグローバル化によって白人の中層、下層の人びとの失業率が増加。そうした職のない人たちが、海外に移転した製造業を再びアメリカ国内に戻し、雇用を確保すると宣言したトランプ支持へと向かった。その結果、大方の予想を覆し、トランプ氏が大統領に選出されたのである。

宗教票がトランプ氏を支持したわけ

 彼らの多くはプロテスタントの福音派を信仰する。実際、先の大統領選では白人福音派の81%、さらに白人カトリックの52%もがトランプに投票した。アメリカでは、白人キリスト教保守のロビーが共和党の「票田」となり、選挙や政治に影響を及ぼしている。いわゆる「宗教票」である。

 こう私が述べると、「トランプは離婚歴が数回あり、暴言を吐くなど道徳的とは言い難く、敬虔(けいけん)なクリスチャンとは程遠いのに、なぜ宗教保守が支持するの?」という質問をよく受ける。疑問はもっともである。ただ、彼らはなにもトランプ氏が信心深いから票を入れたのではない。

 たしかに、トランプ氏は長老派であった実母から受け継いだ聖書を右手に持ち、スピーチや大統領就任式に臨んでいる。だが、しょせんパフォーマンスの域を出ない。宗教保守がトランプ氏を支持したのは、第一に小さい政府(オバマケアなど福祉反対)や銃規制反対などの保守の政策を掲げていること、第二にペンス氏、クシュナー氏、バノン氏といった信心深い側近たちが、宗教票のかき集めに奔走したからだ。

レーガン選挙を参考にしたトランプ選挙

 副大統領のペンス氏はカトリックから福音派に改宗した敬虔な信者である。毎週の教会通いはもちろん、妻以外の女性とは決して1対1で食事をしない徹底ぶりで、宗教保守との強いつながりを持っている。娘婿のクシュナー氏は正統派ユダヤ教徒。ユダヤ・ロビーとのつながりだけでなく、キリスト教シオニストというユダヤ国家イスラエルを熱狂的に支持するキリスト教右派との人脈を持つ。バノン氏は今は更迭された身だが、大統領選挙の際にはカトリック右派として、カトリックの保守ロビーや彼らと類似した考えを持つ白人プロテスタントの福音派などとの連帯を強化した。

 カリスマ伝道師やテレビ伝道師を雇うなどしたトランプ氏の選挙スタイルは、離婚歴のあるレーガンが牧師経験のあるカーターに勝利した1980年大統領選挙を参考にしている。当時は、カリスマ牧師ジェリー・ファルエル率いる「モラル・マジョリティー」を共和党の票田として大いに活用したが、カリスマ伝道師の息子ジェリー・ファルエル・ジュニア氏がトランプ氏の大統領選、そして現政権において重要な宗教アドバイザーをつとめるているのは、奇しき因縁といえよう。

バノン氏が主導した宗教的政策

トランプ米大統領のキャッチフレーズ「MAKE AMERICA GREAT AGAIN(米国を再び偉大にする)」の帽子を手に取るスティーブン・バノン元米大統領首席戦略官=11月16日午前、東京都内拡大トランプ米大統領のキャッチフレーズ「MAKE AMERICA GREAT AGAIN(米国を再び偉大にする)」の帽子を手に取るスティーブン・バノン元米大統領首席戦略官=11月16日午前、東京都内

 宗教ロビーへの配慮は選挙後も変わらない。 ・・・続きを読む
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筆者

松本佐保

松本佐保(まつもと・さほ) 名古屋市立大学人文社会学部教授

慶応義塾大学大学院修士課程修了。英国ウォーリック大学大学院博士課程修了(PhD)。現在、名古屋市立大学人文社会学部教授。専門は国際政治史(英米、イタリア、バチカン政治・外交・文化史)。著書に『熱狂する「神の国」アメリカ』(文春新書)、『バチカン近現代史』(中公新書)など。