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サンフランシスコの慰安婦記念碑が設立された理由

設立に尽力した元市議会議員に話を聞く

徳留絹枝 ブログ「ユダヤ人と日本:理解と友情の架け橋のために」管理者

サンフランシスコ市内に建てられた慰安婦像拡大サンフランシスコ市内に建てられた慰安婦記念碑

「慰安婦:力の柱」

 高層ビルが立ち並ぶアメリカ・サンフランシスコの金融街からチャイナタウンに向けて緩やかな坂を歩いていくと、19世紀半ばに建てられたという美しい聖堂が右側に見えて来る。通りを挟んだビルの屋上にあるセント・メリーズ公園で9月22日、「慰安婦:力の柱」と名づけられた記念碑の除幕式が行われた。「性奴隷」とされた朝鮮・中国・フィリピン出身の少女が背中合わせに手を繋ぎ合った群像の下で、1991年に初めて慰安婦として名乗り出た金学順さんの像が、彼女たちを見上げている。碑文には、設立の目的が英語・韓国語・中国語・日本語・タガログ語で説明されている。

 「私たちにとってもっとも恐ろしいことは、第二次世界大戦中の私たちの痛ましい歴史が忘れられてしまうことです。」 元「慰安婦」
 この記念碑は、一九三一年から一九四五年まで日本軍によって性奴隷にされ、「慰安婦」と呼ばれたアジア太平洋地域十三ヵ国にわたった何十万人の女性と少女の苦しみを表しています。その女性たちの大多数は、戦時中囚われの身のまま命を落としました。この暗い歴史は、生存者が勇敢に沈黙を破った一九九〇年代まで、何十年も隠されていました。生存者たちの証言が世界を動かした結果、戦争手段としての性暴力が人道に対する罪であり、加害国の政府が責任を負わなければならないと国際社会が宣言することとなりました。
 この記念碑は、これらの女性たちの記憶のために捧げられており、世界中での性暴力や性的人身売買を根絶するために建てられたものです。

 長年筆者が取り組んだ旧日本軍捕虜米兵の問題で支援してもらったマイク・ホンダ元下院議員も挨拶すると聞き、筆者も除幕式に参加することにした。当日は澄み渡った青空の下に数百人の人々が集まり、喜びと熱気があふれる会となった。

 ホンダ氏は、安倍首相が国際社会のリーダーになりたいのであれば、慰安婦問題を誠実に解決すべきであると訴えた。その他に元慰安婦の李容洙さん、記念碑建設を推し進めた「Comfort Women Justice Coalition (「慰安婦」正義連盟) 所属の諸団体の代表、支援したサンフランシスコ市・郡、そしてカリフォルニア州の関係者、記念碑を製作した彫刻家なども、次々に挨拶した。

「慰安婦:力の柱」拡大「慰安婦:力の柱」=筆者提供(以下同様)
李容洙さんとマイク・ホンダ元下院議員拡大李容洙さんとマイク・ホンダ元下院議員

建設を決定した市議会決議案

 この記念碑の建設は2015年9月、それを許可する決議案をサンフランシスコ市・郡監督委員会(以下市議会)が全会一致で採択して決定された。決議案には、日本軍によって性奴隷とされた少女・女性たちの歴史ばかりでなく、日系人収容の歴史や現代における人身売買の問題も言及され、市の関連部署と地域団体が協力して記念碑を建設すること、市議会がそれを支持することが盛り込まれていた。

 決議案を提出したのは中国系アメリカ人のエリック・マー議員で、2015年9月17日、自分が議長を務める委員会で、一般市民に賛成・反対双方の意見を述べる機会を与えた。その様子は市議会のビデオアーカイブで今でも見ることができ、記念碑建設の理解に貴重な情報を提供している。

 冒頭でマー議長は、記念碑建設が、歴史的不正義への沈黙を破り日系人収容に対して謝罪や補償を求めたリドレス運動と同様に、正義と平和を取り戻し、融和と癒しをもたらすことを望むと発言した。次に元慰安婦の李容洙さんが、支援者に感謝し「私たちは犯罪を憎みますが、人間は憎みません」と語り始めた。そして彼女が強調したのは、将来の世代に歴史の教訓を伝えることの大切さだった。

 その後は、「慰安婦」正義連盟の中国系・韓国系・日系・フィリピン系アメリカ人メンバー、人権活動家、宗教関係者、日系人社会のリーダー、退役軍人などが賛成意見を、新1世と見られる多くの日本人と何人かの日系人が反対意見を述べた。

 賛成派の多くは、記念碑の必要性を説くと共に、慰安婦問題に関する日本政府の不誠実な対応を批判した。またファインスタイン上院議員の地元選挙区事務所長を20年以上務めたラス・ロー氏は、東京にある「女たちの戦争と平和資料館」を何度か訪問したことに触れ、日本側活動家との連帯を語った。彼は現在、慰安婦の歴史を若者に伝えるためにサンフランシスコ教育委員会と共に活動する団体 Education for Social Justice Foundation の役員を務めている。現代における女性の搾取とも関連づけ、慰安婦の歴史がサンフランシスコの全ての高校で教えられることが目標だという。日系人収容の違法性を法廷で争ったフレッド・コレマツ氏の娘からの賛成のメッセージも、読みあげられた。

 反対派のグループは、大きく二つに分かれていた。 ・・・続きを読む
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筆者

徳留絹枝

徳留絹枝(とくどめ・きぬえ) ブログ「ユダヤ人と日本:理解と友情の架け橋のために」管理者

シカゴ大学で国際関係論修士号取得。著書に『旧アメリカ兵捕虜との和解:もうひとつの日米戦史』、『忘れない勇気』、『命のパスポート』(エブラハム・クーパー師と共著)など。現在、ウエブサイト「ユダヤ人と日本」も運営。