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外交戦仕掛ける金正恩氏の次の一手は?

南北対話がもたらした「オリンピック休戦」は3月まで。今年も続く米朝のチキンレース

高橋 浩祐 国際ジャーナリスト

硬軟両様の外交攻勢かける北朝鮮

北朝鮮の金日国(キム・イル・グク)体育相兼民族五輪委員長(左)と韓国の都鍾煥(ト・ジョン・ファン)文化体育観光相立ち会いのもと、五輪初の南北合同チームを正式発表する国際オリンピック委員会のバッハ会長(中央)=2018年1月20日、スイス・ローザンヌ拡大北朝鮮の金日国(キム・イル・グク)体育相兼民族五輪委員長(左)と韓国の都鍾煥(ト・ジョン・ファン)文化体育観光相立ち会いのもと、五輪初の南北合同チームを正式発表する国際オリンピック委員会のバッハ会長(中央)=2018年1月20日、スイス・ローザンヌ

 平昌(ピョンチャン)冬季五輪が近づくにつれ、米朝のチキンレースの緊張が解けてきた。これまで意地の突っ張り合いをしてきたアメリカのトランプ大統領と北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長も、激しいレトリックの罵(ののし)り合いを小休止している。南北朝鮮対話はひとまず米朝の「オリンピック休戦」をもたらしている。

 南北対話の主導権を握っているのは北朝鮮だ。韓国にじりじりと外交攻勢をかけている。まずは、平昌(ピョンチャン)冬季五輪への参加を決断して朝鮮半島の緊張緩和を演出。さらに、いわゆる「美女応援団」や芸術団「三池淵(サムジヨン)管弦楽団」の韓国派遣も決め、文字通りチャーム・オフェンシブ(お色気攻勢)を仕掛ける。日本では、一部のワイドショー番組が過去の「美女応援団」の映像を繰り返し流すなど、北のプロパガンダにすっかりのせられている。

 柔らかな対応ばかりではない。緊張をあえて高めて交渉の主導権を握る、北朝鮮得意の「瀬戸際外交」は、南北協議中も変わっていない。韓国の文在寅大統領が1月10日の年頭の記者会見で北朝鮮の非核化に言及すると、北朝鮮の国営メディアは14日、「まだ、すべてが始まりにすぎず、大会に参加するわれわれの代表団を乗せた列車やバスはまだピョンヤンにいることを忘れるな」と主張し、大会に参加しない可能性をちらつかせた。

日米韓の連携分断の意図も

 北朝鮮は昨年、国連制裁決議に反して弾道ミサイルを20発発射した。水爆実験とみられる過去最大の6回目の核実験も強行した。南北対話の実現、平昌冬季五輪への出場には、そうした国際社会での“悪役イメージ”を払拭(ふっしょく)しようという狙いがある。国際的な孤立を深め、窮地に陥ってきた北朝鮮としては、韓国を足掛かりにして制裁緩和に何とか風穴を開けたいのであろう。他方、国際社会に圧力強化を働きかける日本やアメリカへの非難は続けており、日米韓三カ国の連携を分断する意図が見て取れる。

 韓国は南北協議に応じ、結果として北の数々の軍事挑発を事実上許す格好となった。これに対し、アメリカや日本など20カ国の外相らは16日、カナダ・バンクーバーに集まり、対北朝鮮制裁を強化していく方針で一致した。北朝鮮外務省の傘下にあるアメリカ研究所は18日夜、すかさず報道官談話を発表し、「南北関係の変化によって朝鮮半島で緊張緩和の兆しが見えているが、アメリカがこうした空気に冷や水を浴びせ、制裁と圧迫をさらに強化しようとしている」と反発してみせた。国際社会を相手にした日米と北朝鮮のアピール合戦は、激しさを増している。

前のめりの文政権の足元を見据え

 文在寅政権はこれまで、冬季五輪を朝鮮半島の緊張緩和につなげようとしてきた。それには、北朝鮮選手団の参加を得て冬季五輪を平和裏に迎え、終えることが至上課題。北朝鮮には、かつてソウル五輪を妨害するため、その前年の1987年に大韓航空機を爆破するテロ事件を起こした「過去」がある。文政権としては、そのような妨害行為を起こさせないためにも、北を何としてでも取り込みたかったはずだ。

 実際、1月19日付の韓国の朝鮮日報の記事(電子版)によると、韓国政府は平昌冬季五輪に際し、金正恩委員長の肝いりで建設された「馬息嶺スキー場での南北共同練習」と「金剛山合同文化イベント」開催案を、昨年5月の文政権発足直後の時点ですでに北朝鮮に伝えていたという。現在、韓国国内では、これらの開催案をめぐって、「北朝鮮に配慮しすぎだ」との批判が高まっている。

 こうした前のめりの文政権の足元を見据え、金正恩委員長は南北対話で一気に攻勢をかけてきた。とすれば、同委員長の次なる一手は何か。それを見定めるために、昨年来からの動きをおさらいしてみたい。

北の「核武力完成」宣言の真意は

 北朝鮮は2017年11月29日未明、新型の大陸間弾道ミサイル(ICBM)である「火星15」を発射した。高い角度で打ち上げるロフテッド軌道で放たれ、韓国軍によると、ミサイルは高度4475キロに達し、過去最長時間の53分をかけて960キロ飛行した後、日本海に落下している。北朝鮮の国営・朝鮮中央テレビ(KCNA)は同日正午、ミサイル発射成功を受け、「米国本土全域を攻撃できる」と主張。「核武力完成」を宣言した。

 ただし、この宣言にはいささか疑問だ。筆者が東京特派員を務めるイギリスの軍事週刊誌「ジェーンズ・ディフェンス・ウィークリー」は、北朝鮮はいまだ米本土を核攻撃できるICBMの能力を示していないと分析している。火星15は、大気圏に再突入する際、弾頭が複数に分解していた可能性が高い。要するに、北朝鮮はいまだICBMの実戦配備には欠かせない大気圏再突入技術が確立しておらず、実戦配備の段階に至っていない。アメリカのマティス国防長官も12月15日、火星15について、米国にとって現時点ではまだ切迫した脅威ではないとの見方を示した。

 米本土防衛を担う北方軍・北米航空宇宙防衛司令部(NORAD)のゴートニー司令官がここ数年、何度も「北朝鮮が核兵器を小型化し、ICBMに搭載して米本土を狙える能力を持っている」と述べ、北朝鮮ウォッチャーの間で物議をかもしている〝事実〟はあるものの、マティスというアメリカの国防トップが米本土を攻撃できる北朝鮮のICBMの能力を疑問視するなか、北が「核武力完成」を宣言したのはあまりにも早急ではないか。

 とすれば、金正恩委員長はなぜ、去年の11月末というタイミングで「核武力完成」を宣言したのか。その真意こそが問われなければいけない。 ・・・続きを読む
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筆者

高橋 浩祐

高橋 浩祐(たかはし・こうすけ) 国際ジャーナリスト

英国の軍事専門誌「ジェーンズ・ディフェンス・ウィークリー」東京特派員。1993年3月慶応大学経済学部卒、2003年12月米国コロンビア大学大学院でジャーナリズム、国際関係公共政策の修士号取得。ハフィントンポスト日本版編集長や日経CNBCコメンテーターを歴任。朝日新聞社、ブルームバーグ・ニューズ、 ウォール・ストリート・ジャーナル日本版、ロイター通信で記者や編集者を務める。

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