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人道支援の現場で薄れゆく日本の存在感 

背景に政府の過剰な安全管理。現場にとどまるためのNGO独自の取り組みとは

穂積武寛 NGO安全管理イニシアティブ(JaNISS)世話人代表

高まる緊急人道支援のニーズ

 世界各地で緊急・人道支援に対するニーズが高まっている。

 地震、台風・サイクロン、水害、干ばつなど、大規模な自然災害が毎年、世界のどこかで発生し、2億人以上が被災している。また、紛争などが原因で故郷を追われ、国内外で避難生活を強いられている難民・国内避難民は2016年末時点で6500万人を超え、なお増え続けており、戦後最悪ともいえる未曽有の事態となっている。大量の難民の受け入れは周辺国に大きな経済的・社会的負担を強いている。さらに、その一部は欧米などの先進国にも流入し、各国が対応に苦慮している。

 国際社会はこうした状況に対応し、膨大かつ広範な支援ニーズに応えようと懸命の努力を続けている。そこで活躍しているのは、国連のような国際機関や、日本のJICA(国際協力機構)やアメリカのUSAID(米国際開発局)のような政府系の援助機関だけではない。支援のニーズが巨大かつ多種多様になり、こうした「公的な」援助機関だけでは対処しきれないからだ。個別の状況に応じた効果的できめ細かい支援を実施できるNGOや企業といった「民間の」セクターの役割が、いよいよ不可欠となっているのである。

日本の好イメージ形成に貢献したNGO

ミャンマーからの避難民(ロヒンギャ)の親子に話を聞くAARのスタッフ=2017年11月、バングラデシュ南部のクトゥパロン難民キャンプ
拡大ミャンマーからの避難民(ロヒンギャ)の親子に話を聞くAARのスタッフ=2017年11月、バングラデシュ南部のクトゥパロン難民キャンプ

 現在、日本には、法人格を持つNGO(NPO)が5万団体以上ある。そのうち緊急・人道支援を含む国際協力を活動の中心としているNGOは大小合わせて400団体。取り組む事業内容や活動する地域は実に様々で、何十年にもわたって活動を継続している団体も少なくない。そこで働いているのは、国際協力NGOの活動に意義を見いだした人たちで、多くは専任の有給スタッフとして、日々、使命感をもって支援活動に従事している。国連やJICA職員同様、国際支援のプロといっていい。

 そうしたNGOは、国内の市民社会からのサポートを得つつ、それぞれのビジョン・ミッションに基づき、支援を必要とする地域に赴いている。そこで、現地コミュニティーとの間に信頼関係を構築し、独自のノウハウを駆使して、地道な努力を続けてきている。日本人らしいきめの細かい活動の積み重ねが、現地において着実にプラスの効果を生み出しているのはもちろんだが、同時に「信頼できる日本」、「現地の文化を尊重しニーズに丁寧に対応してくれる日本」という、日本および日本人に対する好意的なイメージの形成にも大きく貢献している。

 2011年の東日本大震災のあと、日本は一時的に世界最大の援助受け取り国となった。その際、支援の手を差し伸べてくれた国々には開発途上国も多く含まれていた。そうした国々からは、「日本はどんな厳しいときでも、自分たちを助けてくれた。今度は我々が日本を支援する番だ」という声が多く聞かれた。それは、ODAを通じた長年にわたる公的支援の成果であるとともに、日本の政府機関やNGOが現地の人々との丁寧なコミュニケーションを積み重ね、相手の文化を尊重しながら地道に活動を続けてきた結果でもある。

リスクを恐れて政府が活動を制限

 近年、世界的に緊急・人道支援をめぐる状況が厳しさを増し、各地で人道支援関係者が巻き込まれたり、テロ・誘拐などの直接のターゲットになったりする事件が発生するようになってきた。残念ながら日本人が巻き込まれたケースもあり、アフガニスタンやバングラデシュなどでは貴い人命が失われる事態も起きている。

 こうした事象が発生するたびに、日本政府は邦人の安全確保にいっそう神経をとがらせるようになる。その結果、安全対策強化という名のもとに、日本のNGO関係者の活動にまで制限をかけるようになった。具体的には、政府のNGOに対する助成金の運用において、事業実施地域の設定や日本人スタッフの現地駐在や出張に制限をかけるというかたちであらわれてきている。

 もちろん安全対策強化の必要性については、NGO側も強く認識している。団体ごとに取り組みを進めているが、具体的な内容や適用範囲などをめぐり、政府とのあいだで見解に差が出ることも少なくない。とりわけ難しいのは、「リスクが高い国・地域に邦人は入らない」という政府の安全対策の基本方針と、そうした国・地域で活動するNGOとの調整である。

 そもそも支援を必要とする国・地域には、一定のリスクのあるところが少なくない。だが、我々はそういう場所で活動をしてきた支援の「プロ」である。しかし、政府の現在の対応は、素人もプロもひとくくりに邦人ととらえ、同じ基準で安全確保を求めるというものである。その結果、NGOが長年にわたり問題なく実施してきた事業についても、事業内容や実施体制の変更や見直しを余儀なくされることがめずらしくなくなってきている。最悪、活動の一時中断もしくは中止、当該国からの撤退といったケースまで出るようになってきた。 ・・・続きを読む
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筆者

穂積武寛

穂積武寛(ほづみ・たけひろ) NGO安全管理イニシアティブ(JaNISS)世話人代表

AAR Japan[難民を助ける会]プログラム・マネージャー。1967年生まれ。大学で英語を専攻後、当時の国際協力事業団(現国際協力機構、JICA)に入り、開発途上国向け技術協力事業に携わる。JICA退職後、大学院進学を経て2009年にAARに入り、海外での緊急人道支援に従事。現在は総務・人事、啓発事業を担当。NGO安全管理イニシアティブ(JaNISS)世話人代表も務める。東京都出身。