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[2]自己礼賛とののしり―ツイート大統領の真実

「数字」からトランプ政権1年の実像に迫る

沢村亙 朝日新聞アメリカ総局長

暴露本が物議を醸す

脱北者との面会を終え、バージニア州に向けホワイトハウスを出発するトランプ米大統領=2月2日、ワシントン、ランハム裕子撮影 拡大脱北者との面会を終え、バージニア州に向けホワイトハウスを出発するトランプ米大統領=2月2日、ワシントン、ランハム裕子撮影

 よく1年間、持ちこたえたものだ。

 トランプ大統領の就任1年を迎えての実感である。

 この時期に合わせてアメリカでも多くの新聞やテレビが「トランプとは何者か」を検証する特集を報道したが、何においても新年早々から物議を醸したのはマイケル・ウルフ氏の〝暴露本〟「炎と怒り」だ。

  ――閣僚や側近は陰で「バカ」「まぬけ」と嘲笑している。寝室のドアに鍵をつけようとして警護陣ともめた。1枚ものの説明資料すら読み通せない――。

 事前にもれた本の内容に激怒したトランプ氏が著者と出版元に出版差し止めを要求したのが、かえって宣伝効果にもなった。精神状態を懸念する声が広がると、すかさず「私は安定した天才だ」と大見えを切った。

 何よりドラマチックだったのが、本の中でトランプ氏の家族を酷評していたバノン前首席戦略官との「絶交」だ。バノン氏はトランプ氏の看板「アメリカ・ファースト」の思想的支柱としてホワイトハウスを去った後も影響を保っていたとされていただけに、今後の米国政治の行方に少なからぬ影響を与えたといって良い。

積み上げられた暴露本「Fire and Fury」=ワシントン市内で、ランハム裕子撮影
拡大積み上げられた暴露本「Fire and Fury」=ワシントン市内で、ランハム裕子撮影

 興味深いのは、ウルフ氏がいかにしてセキュリティーのきわめて厳重なホワイトハウスに何度も出入りし、高官たちへの取材を認められたか、である。

 もともとウルフ氏はニューヨークをベースに、メディアビジネスやエンターテインメント業界を取材対象としてきたジャーナリストで、ワシントンのメディアサークルでなじみがある存在ではなかった。

 米メディアによると、トランプ氏に対するネガティブな報道に業を煮やしていたホワイトハウスに、ウルフ氏は「メディアが伝えない真のトランプ氏を描きたい」といったような誘い文句で接触。出入りにゴーサインを与えたのはバノン氏ともいわれる。

 ホワイトハウスから公園をはさんだ高級ホテルに毎週チェックインし、そこからホワイトハウスに通ったり、時には取材相手を呼び出したりもしていた。一時はホワイトハウスの中の廊下のソファのひとつがウルフ氏の「定位置」になっていたとも言われている。いずれにせよホワイトハウス詰めの記者の間では「見慣れない人物」の出入りをいぶかる声が出ていたのは確かだ。

 いちど中に入ってしまえば、「トランプ氏の側近がOKしたのだろう」と誰何(すいか)されることもなかったという。そのへんの「ゆるさ」が素人集団と呼ばれるトランプ政権のありようを別の意味で象徴している。

 実際、軍人出身のジョン・ケリー氏が昨年7月に首席補佐官に就くまで、大統領執務室のドアは開け放たれ、誰がそこに出入りしてトランプ氏にどんな話をしているのか誰も把握していない「カオス」というべき状況だったという。

 一方でこの本には、人名やそのつづり、日付、肩書にいたるまで、基本的な部分に誤りが多い。きちんとニュースソースを明示していないことが多いため、自分で直接見聞きした話なのか、伝聞情報なのかがいまひとつ定かではない。

 政治取材が長い知り合いの米国人記者に尋ねると、「どこかで聞いた話がほとんどで、特段これという新事実はない」。さらに「うわさ話レベルのものが多く、ウラがとれなければとても自分には書けない」。それでも、今のホワイトハウスの「雰囲気」をよく伝えているともいう。

 つまり、ジャーナリスティックな情報収集、事実の厳正な点検を経たノンフィクションというより、与えられた情報、入ってきた情報をきちん検証しないでまとめた、有名人の「伝記」のようなもの、として読むのがよさそうである。

就任から1年で2600件つぶやく

 前置きが少し長くなったが、「炎と怒り」のような具体的なエピソードには欠くものの、この1年間にトランプ大統領が「足跡」として確実に残した「数字」から、どこまでその実像に迫れるか、試みてみたい。

 トランプ大統領は1月30日、就任初となる一般教書演説にのぞんだ。メディアを「フェイク」と攻撃し、「アメリカ・ファースト」を連呼するいつもの「トランプ節」を封印し、「団結」「超党派」という言葉を多用した融和トーンに国民は驚いた。

 そして一夜明けた2月1日。「(減税法案に)民主党はだれも賛成票を投じなかった」「(不法移民対策で)民主党は抵抗し、不平を言って、邪魔するだけ」と連投ツイート。やっぱりトランプ氏は変わらない――。結局、そんな大方の予想を裏付けたのだった。

 〝トランプ治世〟を最も特徴づけるひとつが、ツイッターによる発信だ。就任から1年間のツイートは実に約2600件(後に削除されたものも多い)。

http://www.trumptwitterarchive.com/

 ひとつのツイートに1分かけたとして、すでに40時間超をツイッター発信に費やした計算だ。
多くのメディア、政界ウォッチャーたちが、トランプ氏の思考回路を探ろうとツイートのパターンを分析している。例えば……。

 ツイートが多いのは午前中。約4割が午前6時~10時に集中している。

 最も頻繁に出てくるキーワードが「Fake News」と「Make America Great Again(米国を再び偉大に)」。また、大統領選で争ったヒラリー・クリントン氏を「crooked(不正直な)」などとののしる言葉もよく登場する。要するに自己礼賛と、メディアやライバルをこきおろすツイートが多かった。

 ちなみに最も多くリツイートされたのが、トランプ氏自身がCNNテレビに見立てた男性に暴行を加えるプロレス場外乱闘の合成動画のツイートだった。

https://twitter.com/realdonaldtrump/status/881503147168071680?lang=en

 名指しが最も多い外国名が「ロシア」。自らがからむロシア疑惑に反論する文脈で使われることが多い。北朝鮮、中国の名指しも多い。

 「America First」「MAGA(Make America Great Againの略)」といったシンプルなキャッチフレーズ。「Bad」「Stupid」といった子供でもわかるけなし言葉。大文字の多用……。

 中身の良し悪しは別として、「緻密に計算して発信した過去の大統領と違い、相手に向かって平易な言葉で直接、相手に話しかけているようなスタイルはコミュニケーションという観点から実に効果的。文章が短く、複雑なニュアンスが入り込みにくいツイッターは、自らの攻撃性を印象づけるのにも適している」とソーシャルメディア分析会社トークウォーカー社のCEOロバート・グレーズナーさんは話す。

https://www.talkwalker.com/blog/one-year-of-trump-on-twitter

http://www.businessinsider.com/president-trump-twitter-by-subject-2017-7

(トランプ氏のツイートを分析したサイト)

〝ふつう〟のツイートと、ののしるツイート

 ちなみにトランプ氏のツイートには2つのタイプがあると言われる。

 一つはメディアやライバルへの口汚いののしりや、気に入らない人物に対する悪口。つまり「いかにもトランプ流」のツイート。

 もう一つが大統領として参加した行事、外国首脳との会談、地方遊説などを時には写真も付けて自賛する「あたりさわりのない、ふつうの」ツイートである。前者は午前中、後者は午後が多い。

 専門家の分析によると前者はアンドロイドのスマホ(最近はセキュリティー対策からアンドロイド使用は控えているようだ)、後者はiPhoneから発信される場合が多いという。ツイートに写真やハッシュタグがついているのはたいてい後者で、こちらはソーシャルメディアにくわしいスタッフがトランプ氏のアカウントから代理で発信しているとの見方がもっぱらだ。

 実際、トランプ大統領は「ソーシャルメディア部長」という役職をホワイトハウスに設けている。その職に就くのが、若いころトランプ氏専属のゴルフキャディーだったダン・スカビーノ氏。トランプ氏が所有するゴルフクラブの支配人に起用され、さらにホワイトハウスの幹部に抜擢された異色のキャリアである。ホワイトハウスのソーシャルメディア発信を担うのが表向きの任務だが、トランプ氏が心を許して話せる人物を自らの「影武者」にしたてている可能性は信憑(しんぴょう)性がある。

 そのスカビーノ氏はトランプ氏がツイッターをする意義についてFOXテレビに「アメリカ大統領として心のうちを国民に語りかけるのは重要なこと」と語っている。トランプ氏自身も「伝統メディアのフィルターを通すことなく国民とつながれる有効な手段」としばしば述べている。

ツイッターで探るトランプ氏の世界観

 トランプ氏がツイッターを通じていかに外部から情報を得ているかを理解する上で興味深いエピソードが二つある。

 一つは昨年11月、イスラム教徒への憎悪をあおる英国の極右団体の動画をトランプ氏がリツイートしてひと騒ぎになった時、英国においてすら際物扱いされているその団体の動画をトランプ氏がいかに知りえたのかが話題になった。

 トランプ氏自身がフォローしているアカウントはわずか45(2月11日時点)。親族と側近、親しくしている保守系ジャーナリストがほとんどで、くだんの極右団体は含まれていない。トランプ氏がフォローしている米国の右翼の論客が問題の動画をリツイートしていたことから、この論客が「接点」だったとみられている。

 もう一つのエピソードは今年1月、情報機関が外国人のインターネット通信を令状なしで傍受することを認める法律の期限を延長する法案の採決が下院にかけられる日の朝、トランプ氏がこの法案を批判したツイートだ。ホワイトハウスも共和党も延長にゴーサインを出していただけに共和党議員は一時、慌てふためいた。

 その後の報道で、FOXテレビのモーニングショーでこの法案を批判するコメントが流れ、それにトランプ氏が条件反射的に反応してツイートしたらしいことがわかってきた。保守的な論調でトランプ支持の路線で定評のあるFOXテレビは最もお気に入りのテレビ局。話題になった「金正恩より私の(核のボタンの)方が大きい」ツイートもFOXの報道に触発されたと見られている。

 冒頭で紹介したウルフ氏の本などで、トランプ氏が書物をほとんど読まず、高官が準備する資料にすらほとんど目を通さないことが暴露されている。半面、自分と考えを共有する限られた人物のツイートには丹念に目を通し、同様に主張が似通ったテレビ番組にはあとさきを考えず情動的に反応する。

 「国民との接点」どころか、いかに狭い世界でトランプ氏の考えが形成されているか思えば、慄然とした感覚を禁じ得ない。

 とはいえ、中身の過激さも含めて「メッセージをいかに社会に浸透させるか」についていえば、トランプ氏ほどツイッターを有効活用している政治家にはなかなかお目にかかれない。よく言われるのは、「何がその日の最大の関心か。ニュースのサイクルを(ツイッターによって)自分でコントロールできる」ということ。さらに、自分のツイートをメディアが(たとえ批判的にでも)取り上げることで、ツイッターをしていなかったりトランプ氏をフォローしていなかったりする人々にまでメッセージが届く。「トランプ氏はツイッターを武器として用いている」といわれるゆえんである。

「大統領の重み」損なうリスク

 ではリスクはないのか。 ・・・続きを読む
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筆者

沢村亙

沢村亙(さわむら・わたる) 朝日新聞アメリカ総局長

1986年、朝日新聞社入社。ニューヨーク、ロンドン、パリで特派員勤務。国際報道部長、論説委員、中国・清華大学フェローなどを経て、2017年7月よりアメリカ総局長。

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