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朝鮮有事のポリ・ミリゲームで起こった最悪事態

南北軍事衝突から日本の都市に核爆弾が……。予想外に少なかった日本の対応策

谷田邦一 朝日新聞専門記者(防衛問題担当)

北朝鮮による中距離弾道ミサイル「火星12」の発射訓練。朝鮮中央通信が報じた=朝鮮通信拡大北朝鮮の中距離弾道ミサイルが日本の領海に着弾したら……=朝鮮通信
 平昌冬季五輪・パラリンピックが朝鮮半島に一時的なデタント(緊張緩和)をもたらしている。例年なら米韓の合同軍事演習が始まり、北朝鮮との間で一触即発の緊迫感が漂う季節になるのだが、今年は五輪が終わる3月半ばまで南北の融和ムードに包まれそうだ。

 しかし「平和の祭典」が終わったあとの展望は、まったく見通せない。「鼻血作戦」を批判したビクター・チャー氏の駐韓米大使起用が見送られ、「過去最大の制裁」が追加発表されるなど、トランプ政権は今なお北朝鮮への限定攻撃に前向きであることがうかがえる。五輪後に、再び米朝の対決ムードが強まることは避けられそうにない。

“日米中韓”4グループによる8時間の議論

 そんな揺れる情勢を背景に、今年1月下旬、NPO法人「外交政策センター」(代表・川上高司拓殖大教授)が主宰するシミュレーション会議が東京都内で開かれた。会場は、とある大学キャンパス。外交・安全保障に詳しい学術研究者や官界・自衛隊OB、メディア関係者ら約50人が集まり、想定される朝鮮半島有事のシナリオをもとに、関係各国の政策対応や日本の危機管理のあり方について検討したり意見交換したりした。

 筆者もプレイヤーの1人として参加した。経験豊かなみなさんに交じり、不幸にして軍事衝突が起きた場合、各国がどのような政策判断をもとにエスカートする事態に対処するのか間近で観察させてもらった。

 用いた手法は、「ポリ・ミリゲーム」(political-military games)と呼ばれる政策研究のためのロールプレイ・ゲーム。米国のシンクタンクなどがよく使う手法で、参加者が世界各国の閣僚や軍人などを演じることによって、外交・安全保障の課題の解決方法や危機管理のあり方などを探り出す手法として用いられる。

 約50人の参加者は、日本、米国、中国、韓国の4つのグループに分かれ、オペレーションルームが次々と付与するシナリオにどう対応すべきか、約8時間にわたって議論しながら意思決定を重ねた。会場には、各グループのための小会議室と全体が集まる大会議室が用意された。参加者たちは、たとえば日本チームなら、首相や官房長官、防衛相、東京都知事、統合幕僚長などに、また米国チームだと大統領、首席補佐官、国防・国務長官など実際の役職が振り分けられた。ちなみに筆者は日本チームで、報道機関と野党の役割を引き受けることにした。

4月4日午前、南北衝突の火ぶたが……

 シナリオ作りと進行役は、朝鮮半島情勢に詳しい川上教授を中心とする数人が担った。シミュレーション開始時の北朝鮮をめぐる状況設定はこうだ。

――北朝鮮は核・ミサイル実験を相次いで行う中で、米国はすでに朝鮮半島周辺に空母艦隊や航空部隊を展開している。韓国では南北対話を模索する文在寅政権が困惑を深める一方、米国で北朝鮮に対する軍事行動を支持する世論が上昇しつつある……。

 現実の世界に近い状況を設定し、時間の経過に従って3つのフェーズが展開する仕掛けで進められた。各フェーズの概要はおおむね次の通り。

【フェーズ1】
 平昌五輪が終わってまもない今年4月4日午前、南北衝突の火ぶたが切られる。

北朝鮮軍前線砲兵部隊の砲兵隊集中砲撃演習。金正恩朝鮮労働党委員長が視察した=朝鮮通信拡大韓国の延坪島やソウルなどを攻撃目標にした北朝鮮砲兵隊による砲撃演習=2016年12月1日、朝鮮通信
 32万人の将兵が参加し、米韓合同軍事演習が実施されているさなかに、北朝鮮が朝鮮半島西側の黄海に浮かぶ韓国の離島にいきなり砲撃を仕掛ける。韓国軍の海兵隊や島民に30人を超す犠牲者が発生。同時に韓国や日本の社会インフラ、経済システムをねらった大規模なサイバー攻撃が起きる。日韓両国の主要空港の発着管制は軒並みダウン。大規模停電に伴って病院で複数の死者が出る事態になる。これに対し、韓国軍は翌5日、戦闘機や短距離ミサイルを用いて北朝鮮の陣地を攻撃し破壊する。

【フェーズ2】(軍事衝突から2日が経過)
 4月6日午前、米韓両国は合同演習を一時中止して、38度線の板門店で南北の高官会議を開く。しかし北朝鮮側は、離島への攻撃は「米韓の挑発に対する報復である」と威嚇し、合同演習の中止と米軍の撤退を要求。これに韓国側が反発して会談は決裂へ。その後、同日午後になって、北朝鮮はソウルの商業地区に長距離砲を使った砲撃を開始する。民間人に約100人の死者が出て、その中には在韓米国大使の家族や日米の観光客たちも含まれている。

 日本への攻撃の被害はさらに拡大し、九州にある原発が原因不明のまま緊急停止。さらに北朝鮮は青森県沖の領海内に中距離弾道ミサイル・ノドン3発を着弾させ、「米国の敵視政策に同調すれば東京を火の海にする」との声明を出して威嚇を続ける。

【フェーズ3】(軍事衝突から3日が経過)
 4月7日早朝、米大統領は日本の首相に北朝鮮攻撃を開始する旨を伝える。米空母艦隊が間髪入れず、北朝鮮のミサイル部隊と長距離砲部隊に対し巡航ミサイルや戦闘機による攻撃を実施。核開発施設に対しても米空軍部隊が攻撃を行う。これに対し北朝鮮は横須賀など6つの在日米軍基地に、あわせて40発の弾道ミサイルを発射する。うち34発は迎撃に成功したが、残り6発は内陸に着弾。そのうちの1発は広島原爆とほぼ同じ16キロトンの破壊力をもつ核爆弾を搭載しており、ある大都市に落ちて多数の被害者が発生する。

プレイヤーから飛び出した迫真のセリフ

 本当に起きてもおかしくない現実味のあるシナリオだった。その展開は、わずか3日の間に事態が急速に悪化する流れで、プレイヤーたちはあわただしく判断を重ねた。さて、日米韓中の4チームはどのように対応したのか。実際のシミュレーションでは、フェーズごとに各チームがそれぞれ会議室で話し合って政策決定をしたあと、再び全員が集まって全体会合を開き、進行状況の説明を受けたり議論したりした。

 各チームの対応はおおむね次のような内容になった。 ・・・続きを読む
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筆者

谷田邦一

谷田邦一(たにだ・くにいち) 朝日新聞専門記者(防衛問題担当)

1959年生まれ。1990年、朝日新聞社入社。社会部、那覇支局、論説委員、編集委員、長崎総局長などを経て2013年4月から社会部専門記者(防衛問題担当)。主要国の防衛政策から最新兵器、軍用技術まで軍事全般に関心がある。防衛大学校と防衛研究所で習得した専門知識が、現実の紛争地でどのくらい役立つのか検証取材するのが夢。

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