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マリーヌ・ルペンは極右の星になれるか

父親の追放や党名変更で刷新を図り、フランス大統領選敗北の失地回復を狙うが……

山口 昌子 在仏ジャーナリスト

得票率100%で党首に3選

 フランスの極右政党「国民戦線(FN)」は、このほど開いた党大会でマリーヌ・ルペン党首の3選を決めるとともに、“人種差別者”のレッテルが張り付いた党創設者のジャン=マリ・ルペンからの名誉会長職剝奪(はくだつ)や党名の変更を提案した。党のイメージを刷新し、昨春の大統領選で完敗したルペンの失地回復を図ろうというものだが、狙いどおりにいくかどうか。

 3月10、11日に仏北部リールで開催された党大会には、党員約1500人が出席。党首選にただ一人立候補したルペンが、100%の得票率で3選を果たした。1972年に党を創設した父親のジャン=マリ・ルペンは、これまでつとめてきた名誉会長職を廃止する提案が79・7%で可決されたため、党での地位を完全に失った。

 党名変更については、「国民戦線」から「国民連合(RN)」への改名が提案された。出席者による投票の結果、賛否が二分されたため、6週間後を締め切りにする全党員のメールなどによる投票を行い、最終的に決めることになっている。

バノン登場で盛り上がったが……

フランスの右翼・国民戦線(FN)の党大会で記者会見するマリーヌ・ルペン党首(左)。右は、党大会に招かれた米国のスティーブン・バノン前大統領首席戦略官=3月10日フランスの右翼・国民戦線(FN)の党大会で記者会見するマリーヌ・ルペン党首(左)。右は、党大会に招かれた米国のスティーブン・バノン前大統領首席戦略官=3月10日

 党大会の初日には、スティーブ・バノン前米大統領前首席戦略官兼上級顧問も応援に駆け付けた。バノンは「歴史は我々の側にあり、我々を勝利に導く。2022年(仏次期大統領選の年)は我々が勝利する!」と、最近のイタリアやハンガリーでの極右勢力の進出を踏まえて演説。最後に「この建物が壊れるほどのスタンディング・オーベンションを!」と訴えて、会場を大いに盛り上げた。

 だが問題は、創始者の“追放”や党名刷新によって、ルペンが大統領選で失った失地回復を果たせるか、である。そもそも「名誉職廃止」に対する「賛成」の得票率が100%ではなく、20・2%の反対者がいたこと自体、ルペンの新路線に疑問符が付けられたことの証左にほかならない。

 さらに深刻なのは、ルペンにはたして理論的、思想的支柱はあるのか、疑問視する向きが強まっていることである。

大統領選で背負った負の遺産

 ルペンは昨春の大統領選(直接選挙、2回投票制)で、父親時代のFNにつきまとう「外人排斥」、「人種差別」というイメージを払拭(ふっしょく)するため、「反欧州」、「反ユーロ」をスローガンに掲げた。ちなみに、父親のジャン=マリは人種などを含むあらゆる差別を禁止する刑法によって、少なくとも18回の有罪判決を受け、罰金を科せられている。

 「反欧州」「反ユーロ」は、欧州連合(EU)の共通農業政策(CAP)によって不利益をこうむっていると考える農民層や、難民の流入で治安悪化が増大すると考えている中層階級の支持の獲得が狙いだった。確かにそれはある程度の成功をおさめ、ルペンは決選投票に進出することができた。だが、投票直前に実施された、候補者2人による恒例のTV討論で、ルペンはエマニュエル・マクロンに完敗してしまった。敗因は何っだのか?

 ルペンは肝心の「ユーロ問題」で、ユーロ(通貨)の導入年月日と欧州通貨制度(ECU)実施の年月日を混同するといった初歩的なミスを犯し、支持者たちをも唖然(あぜん)とさせた。さらに、彼女の特徴でもあるしわがれ声や大げさな身ぶりで若いマクロンの動揺を誘う“作戦”も、「大統領(国家元首)としての威厳や品格に欠けた」(仏記者)というマイナスの印象を視聴者に与えた。

 大統領選は直接選挙だけに、こうした印象が与える影響は大きい。ルペンは回復が容易でない「負の遺産」を背負ったのである。

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