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[80]毒と社会批判を併せ持つユーモア

金平茂紀 TBS報道局記者、キャスター、ディレクター

『ザ・スクエア 思いやりの聖域』『ザ・スクエア 思いやりの聖域』の公式サイトより

4月3日(火) 午前中、「報道特集」の定例会議。今週の特集はもうやることが決まってしまっていた。防衛省が、イラク派遣時の陸自日報が一転して「あった」と発表。驚きと言うか呆然とさせられる。防衛省の現場でも何かが狂いだしているのではないか。

 カンヌ国際映画祭のパルムドール受賞作『ザ・スクエア 思いやりの聖域』をみる。過日快作『菊とギロチン』の試写をみた際に同席したトランスフォーマーのKさんから奨められていた作品だったが、なかなかみられなかった。これは圧倒的にすごいや。カンヌ作品では個人的には『アンダーグラウンド』以来の興奮。よくこのような作品にパルムドールを与えたものだと思う。毒と社会批判を併せ持ったユーモア。西欧的価値と非西欧的価値。貧困と富の再配分。メディア不信とメディアの商業主義。既存メディアとSNS。アートと非アート。何だか本質的なテーマがあちこちに仕掛けられている社会風刺劇だ。なかでもタキシード、ドレス姿の正装の紳士淑女のパーティーに登場する猿真似パフォーマーの場面の凍り付くような展開にどんどん引き込まれていった。

 「オール沖縄会議」から、かりゆしグループが離脱へ。仲代達矢さんの率いる無名塾公演、ブレヒトの『肝っ玉おっ母と子供たち』をシアタートラムでみる。今の日本の情況に直結する内容だ。仲代さんの台詞が突き刺さってきたので、帰りしなにその台本部分を教えてもらえないかと劇団の方に頼んだ。

 夕刻から乃木坂。その後夜10時すぎから新宿で、東欧行きの件で打ち合わせ。京都の大相撲巡業で、土俵上で挨拶していた市長が倒れ、緊急処置のために土俵で救命活動をしていた女性らに対して「女性は土俵から降りてください」との行事アナウンスが流れたのだという。何ということか。

NHKが頑張っている

4月4日(水) 心身の鬱積がたまり、朝プールでがっつりと泳ぐ。こういうのは早めに洗い流さないと。東急文化村で打ち合わせのあと、猪熊弦一郎の「猫たち」展をみる。展示はよかった。ところがグッズを買うことができなかったので、グッズ売り場に戻ろうとすると係官から誰何されたうえ、チケットの半券を提示させられたうえ、売り場まで係員が付いてくるという失礼な対応を受けた。何だかなあ。公共の場の余裕というか優しさが失われているのではないか。係官はマニュアル通りに動くロボットになり果てているようにみえる。何だかなあ。

 NHKが「ニュース7」で独自ネタ。森友学園への国有地払い下げの過程で、財務省が森友学園側に地下のゴミの分量が多大だと口裏合わせを求めていた疑いがあることがわかったというもの。NHKが頑張っている。朝日のスクープ報道の「蟻の一穴」効果か。

4月5日(木) 朝、プール。いつもの半分泳ぐ。『ザ・スクエア』について、すばらしかったと配給先のトランスフォーマーの担当者に連絡したら、何と監督が近日来日するという。さっそくインタビューを申し込む。何だか絶妙なタイミングすぎた。夕方から早稲田大学のジャーナリズムコースの院生の新入生歓迎会に顔を出す。たくさんの中国からの留学生たちがいた。彼ら彼女らには洋々たる未来がある。

笑うべき悲劇が繰り返されて

4月6日(金) 朝、プール。いつもの半分。高畑勲監督死去のニュース。NHKのBSでたまたま放送していた『駅ピアノ』という番組が面白かった。オランダのアムステルダム駅の公共空間に置かれている1台のピアノ。通りかかる誰が何を弾いてもいい。さまざまな国籍、年齢、技量の人々がピアノを弾く。面白い。ピアノに固定カメラをつけて定点観測をしている。ヨーロッパの多様性とか歴史の重層性が伝わってくるのだ。

 日本記者クラブで長年事務局に勤務された長谷川和子さんが定年退職されることになり、今日が最後の出勤だという。1978年から40年間勤務されたというのだから、僕とほぼ同じ歳月の時間を「報道」という仕事に携わってこられたわけで、何やら強い連帯感のような感慨が沸く。それで言葉をおかけするために事務局に顔を出した。長谷川さんにはいつものように笑顔で応対していただいた。日本記者クラブにとって大変貴重な存在だった。まだまだこれからもよろしく、という感じ。

 銀座のギャラリー椿でニキ・ド・サンファールの版画展。来日20周年の記念イベントだという。会場で黒岩夫妻にお会いする。6月からは韓国で大々的なニキの展示があるという。

 その後、首相官邸前の森友改ざん抗議行動の取材に一人で行く。

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