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国民の利益を損なう「黒」「白」論議(上)

「グレーゾーンでいい」は許されない。財務省は職業倫理に基づく規律を取り戻せ

山瀬一彦 元朝日新聞論説副主幹・ジャーナリスト

相次ぐ「黒」「白」がはっきりしない事態

辞任についての質問に答える福田淳一財務事務次官=2018年4月18日、財務省拡大辞任についての質問に答える福田淳一財務事務次官=2018年4月18日、財務省

 財務省の福田淳一事務次官が18日に辞任を表明した。週刊誌が福田氏によるセクシュアルハラスメント(セクハラ)発言を報道したことが契機となった騒動の末の表明である。

 福田氏はセクハラ発言自体を否定。一方、被害者である記者を抱えるテレビ朝日が19日未明に会見し、そうした発言があった旨を証言。両者の言い分は、今(20日未明時点)でも対立したままとなっている。

 この疑惑をはじめ、このところ政府が絡んで「黒」「白」がはっきりしないまま時間だけが経過する事態が相次いでいる。国民の間にはフラストレーションが募っているのか、「いつまでこの種の問題に拘泥するのか」「ほかにもっと重要な問題がある」といった意見も現れ始めている。

 しかし、そもそも政府が「白」とは言い切れない「グレーゾーン」にとどまっていることこそが、深刻な問題なのである。「黒」「白」の議論でもないグレーゾーンの問題を見極めることが急務ではないか。

音声データに「抱きしめていい?」

 福田事務次官に関する疑惑の発端は12日の週刊新潮が掲載した記事だった。福田次官が30代の女性記者にセクハラ発言を繰り返したという内容だ。同誌は13日、「福田氏の発言」とする音声データをネット上に公開した。1分28秒のデータには、「抱きしめていい?」「胸触っていい?」「手縛っていい?」といった発言が含まれていた。

 これに対して財務省は16日に「福田事務次官に関する報道に関わる調査について」と題した文書を発表、ホームページで公開した。さらに、あわせて発表した「福田事務次官からの聴取結果」の中で、「私(福田事務次官)は女性記者との間でこのようなやりとりをしたことはない」「そもそも私(同)は、女性記者との間で、週刊誌報道で詳細に記載されているようなやりとり(また、音声データ及び女性記者の発言として画面に表示されたテロップで構成されるやりとり)をしたことはなく、心当たりを問われても答えようがない」とした。

「白」ではなく「グレー」を選択

 この経緯だけ見ると、強制捜査の権限があるわけでもない私たち国民は、どちらが本当なのか、判断するすべがない。

 公表された音声データが福田氏本人のものであるかどうか、という点について、福田氏は辞任表明直後には「録音された声が自分のものかどうかはよくわからない」とした。録音データを突きつけられれば「黒」「白」は当人が一番わかるはずだ。事実無根の「白」なら、この声は自分のものではないと言えるはずではないか、と思っていると、19日には(音声は)一部だけであり、全体としてはセクハラに当たらない旨を報道陣に語った。「黒」は受け入れないが、さりとて事実無根の「白」ともしない。福田氏は「グレー」を選んだように思われる。

 問題は、その結果、福田氏と財務省に対する国民の信頼は回復するか、である。

記者の行動基準・規範策定で学んだこと

 筆者は今から十数年前、朝日新聞の記者たちの行動基準・規範を策定する仕事に携わった。朝日新聞で起きた不祥事を受けて、信頼を回復させていくために取り組んだ対策の一つだった。そのとき、欧米の実例をいくつか検討し、そうした基準や規範にも、いくつかの「階層」、「段階」があることを学んだ。

 最も基礎的な「階層」にあるのは、法律体系である。すべての法律が社会の変化に即応できているわけではないから、悪法も受け入れるという趣旨ではない。「なぐるな」とか「だますな」とかいった類の、刑法を含む社会常識的な「やってはいけないこと」と考えてもらいたい。

 難しくなるのは、そのうえの「階層」だった。新聞社の場合、「公平」ないしは「公正」が守るべき大切な価値となるが、それを担保しようと具体的な行動基準に落とし込む際、「公平であること」と「公平であるように見えること」では、内容が大きく異なってくるのだ。要するに、後者のほうが、より厳しくなる。

 当時、調べた事例をもとに説明しよう。

「公平であるように見えること」の厳しさ

 記者が取材対象と恋愛関係になったケースを想定してみる。 ・・・続きを読む
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筆者

山瀬一彦

山瀬一彦(やませ・かずひこ) 元朝日新聞論説副主幹・ジャーナリスト

1958年生まれ。1983年入社。経済部で通産省(現経済産業省)、大蔵省(現財務省)などを担当しワシントン特派員。デスクやエディターを長く勤め、be編集部編集長、オピニオン編集長、論説副主幹などを務めた。2016年4月からはジャーナリスト学校で文章制作技術の研究に従事、2018年1月末に退社。