「出る杭」は徹底的に打つ、長崎県公社の過剰な管理
2018年04月20日
諫早湾干拓で漁民とともに反旗を翻す農民たち――「開門絶対反対」から一転、「開門要求」へ
諌早湾干拓の耕地利用率は、県諫早湾干拓営農支援センターによれば168%で、長崎県平均の約1.9倍(2016年度)だ。また、農業産出額(推計)は、2008年度が20億円だったが、2016年度は38億円になり、農水省農地資源課は、「順調に伸びています」と評価する。
だが、営農開始から10年たっているのに、まだ事業計画(2004年)の目標額45億円には届かない。また、公社によれば黒字の経営体は2015年度で40経営体のうち約27経営体(68%)にとどまり、13経営体は赤字だ。黒字でも他の地域での農業生産や事業で諫早湾干拓の赤字を補い、全体としては黒字という経営体もあり、純粋に諫早湾干拓だけの収支での黒字経営体数は不明だ。
さらに、これまでに入植した50経営体のうち、すでに11の経営体が撤退した。現在は37経営体だ(筆者注・公社を提訴した松尾公春さんともう1経営体は含まない)。果たしてこれで農水省が言うように、諌早湾干拓の農業経営は「順調」なのか。
また、資金面でも困難に直面している。諌早湾干拓は、長崎県が全額出資する公社が農水省から購入し、公社は政府系金融機関などから47億円を借り入れ、2008年から何と70年もかけて返済する計画だ。
これまで約8億円を返済、残りを毎年2億4700万円ずつ返済する。うち農地のリース料収入は9800万円ほどを見込み、残金は県からの借り入れでまかなう。だが、リース料の滞納額は今年3月現在で5経営体、3013万円にのぼる。だから、公社としては厳しく取り立てざるをえないようだ。
賃貸契約は5年ごとに更新することになっている。2012年の最初の更新の際、公社は多くの種類の書類を出させた。松尾さんは「次の利用権の再設定の際は、双方の意見をふまえて書類を出す」という趣旨を口頭でやりとりして合意したという。
2017年5月12日、2回目の更新について説明会があった。提出書類があいかわらず多い。営農実績書、営農計画書、農業経営改善計画書の写し、所得税青色申告決算書の写し、減価償却資産台帳の写し、賃借対照表、借入金の残高証明書……。
2012年の更新の際、再設定の審査の総括文書の中で、諌早湾干拓地農業者審査委員会の宮良豊司委員長はこう述べている(2013年3月31日付)。
「営農者にあっては、何の支障もなく経営継続ができるものと考えていたものが、継続の申し出にあたり、審査という名目で膨大な資料の提出が求められ、それぞれの経営状況を赤裸々にしなければならなかったことに対する不満も少なくないものと推測されます。また、営農者の中には、本来貸し手と借り手の間になければならない互いの信頼という関係が、今回の審査という作業により、崩壊という段階ではないものの、快く思っておられない方も少なからずおられるものと推測しております」。事実は推測の通りだ。
他方、宮良委員長は審査は営農状況が明確になるよい機会だったとし、情報流出がないようにし、営農支援に活用されることが最も重要で、「そのことで営農者と農業振興公社の信頼関係を再構築して行かれることを願う」とも述べている。
しかし、「ポケットにいくら入っているかも調べようとする」(松尾さん)ような過剰な管理で信頼関係がうまれるだろうか。
その上、今回新たに、長崎県や公社などが営農状況やリース料の納入状況から必要と認める経営体は技術・経営に関する指導を受けること、リース料の滞納があった場合に公社は利用権設定契約を解除できることなど8項目についての同意書の提出も求められた。
さらにもう1枚、県や公社などが、「一切の取引状況の提供を受けること及び意見を聴取することに同意します」という書類まで提出しろという。このように農民を信用せず、逆に細かく管理して締め付けているのだ。
松尾さんは、「『開門』がなくなったので、県や公社の態度が変わったな」と感じた。説明会の直前の2017年4月17日、農民らが国を相手に「開門」差し止めを求めた裁判で、長崎地裁は差し止めを認めた。それまで、「開門せよ」という福岡高裁の確定判決と、「開門差し止め」の長崎地裁の仮処分決定にはさまれ、「どちらの立場にも立てない」などと述べていた農水省は、ここでついに本音をあらわにし、控訴せず、今後は「開門」しない方針を明らかにした。
これまで、県や公社は「農民を守るため」として「開門」反対を唱えてきた。松尾さんは「弾よけのタテがいらなくなった」と話す。
同意書提出を松尾さんは拒否した。すると、
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