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南北会談、板門店宣言を読み解く(上)

南北融和、和解、統一を打ち出す文在寅大統領に金正恩委員長がのったワケは

秋山昌廣 秋山アソシエイツ代表 安全保障・外交政策研究会代表

 韓国の文在寅大統領と北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長が4月27日、板門店で首脳会談を行い、「板門店宣言」に署名、発表した。北朝鮮の最高指導者が初めて軍事境界線を超えて開かれた今回の会談は、緊張関係が続いてきた朝鮮半島が新たな段階に入りつつあることを、強く印象づけた。

 本稿では、この歴史的な南北首脳会談を振り返り、注目すべき点を幾つか挙げながら、それが持つ意義について論じてみたい。

南北融和を強くアピールした両首脳

板門店で「板門店宣言」について発表し、握手を交わす北朝鮮の金正恩委員長(左)と韓国の文在寅大統領=4月27日拡大板門店で「板門店宣言」について発表し、握手を交わす北朝鮮の金正恩委員長(左)と韓国の文在寅大統領=4月27日

 まず挙げなくてはならないのは、なんといっても両首脳が文字どおり“手を携えて”、南北融和を世界に強くアピールしたことである。

 27日の動きをあらためて追ってみよう。

 両首脳が軍事境界線をまたぐ板門店で握手。手をつないで二人一緒に境界線を越える。韓国側の施設の「平和の家」に向かい、歓迎式典を経て、首脳会談を行う。会談後、板門店宣言にそろって署名して発表、共同記者会見をした後、二人は抱き合って対談の成功を祝う。室内での会談の後、外に出て両首脳は戸外のベンチに座り、二人だけで30、40分話し合う――。

 まさしく見るものの脳裏に残るシーンの連続であった。しかも、これら一連の動きは、テレビの生中継で世界に発信されたのである。

 北朝鮮問題は、もともと北の核・ミサイル開発にからむものであった。昨年、その開発が米国の安全保障を脅かす段階まで進むにいたり、米朝の軍事衝突が懸念されるほどに緊張が高まったのだが、その段階で、文在寅大統領と金正恩委員長が南北融和、南北和解を前面に出してきた。

 私は今回の南北対話が行われる以前から、北朝鮮問題の解決には南北和解・統一の問題が大きく絡んでくると予想し、数次にわたり言及してきたが、これほどまでにこれを前面に出し、テレビの生中継で世界にアピールするところまで踏み込むとは、予想できなかった。

南北和解、平和と統一に関する記述が大半

 実際、板門店宣言を読むと、その大半が、南北和解や朝鮮半島の平和と将来の統一に関しての記述である。それは、宣言の正式の名前が「朝鮮半島の平和と繁栄、統一のための板門店宣言」となっていることに、如実に表れている。

 宣言文によれば、両首脳は「平和と繁栄、統一を願う全民族のいちずな願いを込め」、「朝鮮半島にもはや戦争はなく、新たな平和の時代が開かれたことを」厳粛に宣言。さらに、「冷戦の産物である長い分断と対決を一日も早く終わらせ、民族的な和解と平和繁栄の新たな時代を果敢に切り開き、南北関係をより積極的に改善し発展させ」るとして、具体的なことをいくつか明示している。

 第一に、「南と北は、わが民族の運命はわれわれ自ら決定するという民族自主の原則を確認し、既に採択された南北宣言や全ての合意などを徹底的に履行する」とし、「共同繁栄と自主統一の未来を早めていく」ことを宣言している。

 第二に、「高官級会談をはじめとする各分野の対話と交渉を早期に開催し」、「当局間協議を緊密にし、民間交流と協力を円満に進めるため、双方の当局者が常駐する南北共同連絡事務所を開城地域に設置」し、「各界各層の多方面の協力と交流、往来や接触を活性化する」ことをうたい、南北交流を活発化させようとしている。

 第三に、「6月15日をはじめ、南と北にともに意義がある日を契機に、民族共同行事を積極的に推進し」、「2018年アジア大会をはじめとする国際競技に(南北)共同で出場し」て、民族和解を進めるとした。

 さらに、「今年8月15日を契機に離散家族・親戚の再会を行う」こと、および「民族経済の均衡的な発展と、共同繁栄を成し遂げるため、(2007年の南北首脳時の)10月4日宣言で合意した事業を積極的に推進していき、一次的に東海線と京義線の鉄道と道路などを連結し」ていくことをうたっている。

文在寅大統領の巧みな戦略

 板門店宣言は、軍事的緊張の緩和、朝鮮半島の休戦状態から平和体制への移行と進み、朝鮮半島の非核化の確認となるが、一番最初に南北融和・和解を掲げたのは、文在寅大統領の巧みな戦略だったと思う。

 まずは、南北和解を当事者である南北が進めることに反対する国はない。それどころか、もろ手を挙げて賛成することを意識したのだ。統一に関しては、そのやり方やコンセプトに関して、南北間のみならず関係国、国際社会にいろいろ意見があって、簡単にまとまる話ではない。しかし、南北和解はすべてに歓迎される。

 北朝鮮が文在寅大統領のこの提案にのってきたのは、非核化のプロセスが簡単ではないことが予想されるなか、南北間の和解で合意できれば、それは後戻りすることはなく、非核化のプロセスにも有利な効果をもたらすとの判断からであろう。

非核化のハードルを上げさせない狙い

 つまり、米国が考えている非核化プロセスのハードルは高いという現実がある。それを超えられるか超えられないかが最大の課題となれば、北朝鮮は明らかに厳しい局面に立たされる。

 しかし、あらかじめ南北の和解、朝鮮半島の戦時体制の終了などのコマを進めておけば、非核化プロセスのハードルを上げることが難しくなる。ハードルを下げなければ、朝鮮半島の平和の進展を止めることになるからである。そのうえ、仮に非核化プロセスで米朝が対立することになっても、南北融和、和解、平和プロセスは維持できるだろうし、それによって北朝鮮の孤立は緩和する。

 注目すべきは、民族自主の原則の下、南と北は「既に採択された南北宣言や全ての合意などを徹底的に履行する」、さらには「(07年の南北首脳による)10月4日宣言で合意した事業を積極的に推進していき、一次的に東海線と京義線の鉄道と道路などを連結」するなど、韓国による北への経済協力の実行が確認されていることである。

 今後、非核化について十分な結果が出ずに、経済制裁が維持されたとしても、少なくとも韓国の経済協力は確保できる可能性があるわけだ。

事前のメールどおりの軍事的緊張緩和

 板門店宣言は、次いで半島の軍事的緊張緩和について、具体的な措置をうたっている。

 まず、「南と北は、地上と海上、空中をはじめとするあらゆる空間で、軍事的緊張と衝突の根源となる相手に対する一切の敵対行為を全面的に中止する」とした。また、「5月1日から軍事境界線一帯で拡声機(宣伝)放送やビラ散布をはじめとするあらゆる敵対行為を中止し、その手段を撤廃し」、今後、非武装地帯を実質的な平和地帯としていくことをうたった。

 さらに、「西海の北方限界線一帯を平和水域とし、偶発的な軍事衝突を防止し、安全な漁業活動を保証する」ための措置を取ること。そして、「軍事的問題を遅滞なく協議、解決するため、国防相会談をはじめとする軍事当局者会談を頻繁に開催し、5月中にまず将官級軍事会談を開く」とした。

 実は私は南北会談の前日、在日韓国人の友人から、次のようなメールをいただいた。 ・・・続きを読む
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筆者

秋山昌廣

秋山昌廣(あきやま・まさひろ) 秋山アソシエイツ代表 安全保障・外交政策研究会代表

1940年生まれ。東京大学法学部卒。大蔵省主計局主計官、奈良県警察本部長、東京税関長、防衛庁防衛局長、防衛事務次官などを歴任。退官後、ハーバード大学客員研究員、海洋政策研究財団会長、東京財団理事長、学習院大学および立教大学特任教授を務める。著書に『日米の戦略対話が始まった』(亜紀書房、2002年)