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南北会談、板門店宣言を読み解く(下)

強まる朝鮮半島の平和回復の流れ。日本外交に求められる制裁路線からの転換

秋山昌廣 秋山アソシエイツ代表 安全保障・外交政策研究会代表

南北会談の狙いと実質的意義は

ベンチに座って話し込む韓国の文在寅大統領(左)と北朝鮮の金正恩委員長(右)=4月27日、板門店拡大ベンチに座って話し込む韓国の文在寅大統領(左)と北朝鮮の金正恩委員長(右)=4月27日、板門店

 前回「南北会談、板門店宣言を読み解く(上)」に引き続き、南北会談、板門店宣言から見えてくるものについて考えたい。今回は日本のかかわりに焦点をあてる。

 南北会談の最大の狙いは、韓国と北朝鮮が一致協力して、朝鮮半島の現在の非正常な状態、すなわち休戦状態を終わらせて平和体制を構築することである。具体的には、休戦協定を平和協定に転換する。このため、南北と米の3者または南北米中の4者会談の開催を積極的に推進することが言及されている。

 他方、南北会談の実質的な意義は、南と北が完全な非核化を通しての核のない朝鮮半島を実現するという共通の目標を確認し、来たるべき米朝首脳会談につながる「地ならし」の役割を果たしたことであろう。韓国の文在寅大統領と北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長が戸外のベンチに座って30分以上、2人きりで会談するなかで、「トランプ大統領」や「非核化」といった言葉がしきりに交わされていたと「観察」されていることからも、両首脳が米朝会談への対応について突っ込んだ話をした可能性が高い。

 いずれにせよ、今回の南北会談において、日本のことが話題になった形跡はない。したがって、南北会談、あるいは板門店宣言から、日本のかかわりについて読み解くことは難しい。ただし、板門店宣言では、「六者協議」のメンバーたるロシアについても言及がないうえ、あの中国にしても、先述した「または南北米中の4者会談の開催」という部分で言及されているのみである。

拉致問題は日朝交渉で解決する問題?

 もちろん、南北会談に際し、日本はいろいろな働きかけを行ってきた。まず、安倍晋三首相は事前に文在寅大統領に、南北会談で拉致問題を提起するよう要請した。そして、文大統領は会談でこの件について触れたと、安倍首相に伝えている。

 報道によれば、文大統領は金正恩委員長に、「安倍首相も対話の意思を持っている。過去の清算の基盤となる国交正常化を望んでいる」と伝えたという。金委員長は「いつでも対話する用意がある」と述べたという。

 文大統領の言いぶりは、安倍首相が事前にこの言い方を示したかどうか知らないが(多分そうでないだろう)、2002年に小泉純一郎首相が訪朝した際の「日朝平壌宣言」の文言を引用して、拉致問題を提起している。

 平壌宣言では、冒頭で次のように述べている。「両首脳(小泉首相と金正日・国防委員長)は、日朝間の不幸な過去を清算し、懸案事項を解決し、実りある政治、経済、文化的関係を樹立することが、双方の基本利益に合致するとともに、地域の平和と安定に大きく寄与する」

 実際、平壌宣言では、日朝国交正常化交渉の再開をうたい、その実現にあたり、懸案事項たる拉致問題の解決が確認されている。要するに、拉致問題は2002年の日朝平壌宣言に基づき、日朝両国で話し合うべきことである。もっと言えば、朝鮮半島非核化の問題とは別に、日朝国交正常化交渉の中ではじめて解決されるものであろう。文大統領の含意はそこにある。

牽制的な発言を繰り返した安倍首相

 朝鮮半島非核化の問題にからみ、安倍首相は今回の南北会談を前にして、牽制(けんせい)的な発言を繰り返してきた。

 平昌冬季オリンピックの機会を利用した一連の「南北対話」の動きに対して、「対話のための対話はあってはならない」「日米韓の一致協力したプレッシャーの維持が重要だ」「北朝鮮には何度もだまされてきた」などと批判。平昌オリンピック開会式に出席した際に文大統領と会談した時には、パラリンピック終了後に予定されていた米韓合同軍事演習は必ず実行するようにとクギを刺し、南北対話・融和の方向に水をかける発言としてひんしゅくを買った。

 さらに安倍首相は4月、急きょ、訪米してトランプ大統領と会談。北朝鮮に対して最大限の圧力をかけ続ける必要性を訴えた。このときすでに、米国はひそかに北朝鮮と協議を進めていたのに、である。

 南北会談の後も、日本政府はこれを歓迎しつつ、北朝鮮の非核化について疑念を持ち、対話への警戒と圧力の必要性を訴え続けている。5月に入り、米朝会談への期待が増大し、日中韓三国会議が東京で開催される状況になって、ようやく南北会談と板門店宣言を歓迎する発言が出始めた。だが、その一方で、プレッシャーの継続の必要性や、「完全な、不可逆的な、検証可能な核廃棄」(CIVD)が実行されなければならないことを、相変わらず主張し続けている。

制裁だけで北の非核化は不可能

 北朝鮮の核・ミサイル開発を断念させるには、制裁なりプレッシャーが必要なことは言うまでもない。昨年は、国連の決定した極めて厳しい経済制裁が、北朝鮮に大きなプレッシャーをかけたと考えられる。しかし、プレッシャーによって北の政策を変更させる道をとるならば、最終的には軍事力を使用せざるを得なくなる。米国のハードライナー、ネオコンサーバティヴが主張する立場である。

 今や北朝鮮は、核開発とICBMの開発をほぼ成功させた。これこそが北朝鮮の安全保障、特に「金王朝」の体制保障の基本にあると認識している以上、経済制裁やプレッシャーにより北を核廃棄に追い込むことは難しい。 ・・・続きを読む
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筆者

秋山昌廣

秋山昌廣(あきやま・まさひろ) 秋山アソシエイツ代表 安全保障・外交政策研究会代表

1940年生まれ。東京大学法学部卒。大蔵省主計局主計官、奈良県警察本部長、東京税関長、防衛庁防衛局長、防衛事務次官などを歴任。退官後、ハーバード大学客員研究員、海洋政策研究財団会長、東京財団理事長、学習院大学および立教大学特任教授を務める。著書に『日米の戦略対話が始まった』(亜紀書房、2002年)