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田中均氏が読み解く「北朝鮮外交」

朝鮮半島は重大な岐路にきた。この問題は国際秩序構築の試金石となる

田中均 (株)日本総合研究所 国際戦略研究所 理事長/元外務審議官

拡大板門店で韓国の文在寅大統領(左)と北朝鮮の金正恩委員長(右)は軍事境界線の標識がある「徒歩の橋」まで散歩をし、ベンチに座って2人で話し込んだ=2018年4月27日、韓国共同写真記者団撮影

 朝鮮半島は重大な岐路にある。北朝鮮が対話路線に大きく舵を切り、南北首脳会談についで米朝首脳会談も行われ非核化が実現する事となるのか。そして朝鮮半島が平和体制構築に向けて大きく動き出すかどうか。

 ただそれだけではない。この問題の帰趨は朝鮮半島を超え、国際秩序全体に大きな影響を与えることとなる。即ち、冷戦体制や米国一極体制を経て、中国などに追い上げられつつも未だ唯一の超大国である米国が、トランプ体制の下でどのような国際秩序を作って行こうとするのかを示すこととなるのだろう。

トランプ政権、「力」か「取引」か

 トランプ政権は昨年末に発表された米国国家安全保障戦略の中で、中国やロシアを修正主義勢力として、イランや北朝鮮は地域の安定を脅かす専制国家として、米国の安全を脅かす存在と位置づけて力で対抗していくことを明らかにした。

 大統領選挙後、米国とロシアの関係は大幅に改善されるかと思われたが、米国内でのロシアゲート問題の展開などもあり、関係は冷却化している。中国についても一時、G2などといった大国間協力関係に焦点が当たったが、今日、米中貿易戦争にも繋がりかねない米国の厳しい対中アプローチに象徴されるとおり、戦略的な競合関係に至っている。

 北朝鮮については経済・軍事両面で最大限の圧力をかけ続け、イランに対して欧州の同盟国の強い説得にかかわらず、核合意からの離脱を決定し、再び制裁を復活させる旨明らかにした。

 そうしてみるとトランプ大統領の力を背景としたアプローチはある意味一貫している。

拡大トランプ米大統領(右)と握手する安倍晋三首相=2018年4月18日、米フロリダ州パームビーチ

 従来の大統領も米国の力を背景として指導力を発揮しようとしたことは間違いがなく、力の使い方についてブッシュ大統領は単独でも行動するという意図を示したし、オバマ大統領はパートナーと一緒に行動するという原則を崩さなかった。

 果たしてトランプ大統領はどういう選択をするのだろうか。現在までの行動を見るとトランプ大統領は多国間主義を嫌い、同盟国との関係も従来の共和党大統領とは異なり、あまり重視しているようには見えない。トランプ大統領の最大の特徴は、「アメリカ・ファースト」を前面に掲げ、不動産事業を営んできた自己の経験に基づくと思われる「取引重視」の発想だ。

 果たしてトランプ大統領は力に基づく戦略を徹底的に追及していくのか、それとも、ある段階で「取引」に向かうのか。朝鮮半島問題ではまさにこのようなトランプ政権のアプローチが試されており、結果の世界へのインパクトは大きい。

米朝首脳会談は非核化への「入り口」

 トランプ政権の「最大限の圧力」方針が北朝鮮を対話に導いたことは間違いがなかろう。しかし制裁を真に実効的なものとするために中国が果たした役割は大きい。

 中国は北朝鮮の核武装化が中国自身の安全を脅かし、韓国や日本の核武装化の議論も誘発しかねないことを怖れた。そして石油輸出削減を含む経済制裁だけでなく、仮に北朝鮮が崩壊しても難民対策や核物資保全対策を含め中国には対処する準備があるといった事を匂わせ、北朝鮮が核開発を続ける限り中国が北朝鮮を支援することはない意志を明確に示した。

 このような状況の中で、このままでは体制保全が難しくなると考えたのか、北朝鮮は「非核化」の方針を示し、南北首脳会談、米朝首脳会談の開催に動いたという事なのだろう。

 けれども「非核化」を巡り米朝の思惑は大きく違う。今日、「非核化」のあり方を巡って米朝間の協議は続いている。真剣に非核化を追求する意図があるのかどうかは別として、北朝鮮の考えは非核化に向けて段階的なプロセスをとるという事だろう。

 北朝鮮は体制維持のため核開発をしてきたので、非核化の各段階で体制維持を可能にする見返りを必要とする、もし米側の意図が究極的には体制崩壊であるならば核開発に戻れる余地を残すという事かもしれない。これは米側、特にボルトン国家安全保障担当補佐官が主張する「リビア方式」(核廃棄申告、検証、廃棄を待って制裁解除)とは大きく異なるもので、米側が受け入れるとは思われない。

拡大並んで歩くポンペオ米国務長官(左)と金正恩朝鮮労働党委員長=労働新聞ホームページから

 ただ、北朝鮮も米朝首脳会談の成功を望んでいる。ポンペオ国務長官が再度訪朝し、拘束されていた3人の米国人の釈放も行われた(これは日朝首脳会談に向けて元日経新聞記者の釈放を実現したのと似ている)。また、非核化を巡る二つのアプローチの間には種々のバリエーションがあり得、妥協が不可能という訳ではない。北朝鮮の求める「見返り」についても、米国が朝鮮半島に核を持ち込まない、或いは核攻撃をしないといった所謂消極的安全保障や休戦協定の平和条約化、米朝・日朝の国交正常化、経済協力など多くのメニューはありうる。

 トランプ大統領の立場は国内的にはロシアゲートについての特別検察官の捜査が身辺に迫り、今後窮地に立つ可能性も出てきている。11月に中間選挙を控え、米朝首脳会談の成功はトランプへの支持を強める意味で大きなプラスになると考えられても不思議ではない。

 もし6月初めまでに開催される米朝首脳会談で大きな成果が見通せるという事になれば、おそらく板門店が会談場所に選ばれて国際社会に大きくアピールする演出が行われたのだろうが、トランプ大統領のツイートによれば場所は板門店ではないようだ。

 北朝鮮核開発はまだ初期段階にあったリビアとは異なり、相当進んでいるので核廃棄のための申告・検証のプロセスには時間がかかる。他の大量破壊兵器やミサイルも対象に含めるとなると相当複雑な折衝が必要となるのだろう。また見返りを含めて米国一国が決められることでもない。だとすれば米朝首脳会談は非核化に向けての入り口という事となり、その場合にはシンガポールなどの地が選ばれるのだろう。

中・朝・韓は「段階的」な非核化

 中朝の動きも活発である。

 金正恩朝鮮労働党委員長は40日間に二度目となる訪中を行い大連において習近平国家主席との会談を行った。北朝鮮は米朝首脳会談に向けて「非核化」が段階的になることについて中国の支持を必要とするのだろう。また、米朝首脳会談が決裂すれば米国が軍事的オプションを検討する蓋然性は高く、本来軍事力の行使に反対している中国の後ろ盾を確実にしたいという事か。

 中国も再び変わってきた。中国は米国との関係は北朝鮮問題を軸に協力関係が強化されうると考えていたのだろう。しかし、ここへきて米国は通商拡大法232条の国家安全保障条項を援用した鉄・アルミへの高率関税賦課に踏み切り、また知的財産権保護が不十分として通商法301条の下で広範囲な報復措置を示し、厳しい米中経済関係が想定されている。

 新しく成立した台湾旅行法の下で米国行政府高官が台湾を訪問する可能性も取りざたされている。ここへきて中国は北朝鮮との連携を深めることが米国に対する梃子となると考えだしているのかもしれない。

拡大日中韓首脳会談を前に記念撮影に臨んだ(左から)中国の李克強首相、安倍晋三首相、韓国の文在寅大統領=2018年5月9日、東京・元赤坂の迎賓館

 韓国では南北首脳会談の結果、文在寅大統領の支持率は83%まで高まった。板門店宣言では南北交流、南北経済協力などは非核化問題と直接のリンクはない。しかし非核化の進展なく南北協力を進められると文大統領が考えている訳ではない。韓国にとって米朝首脳会談が成功し、段階的非核化であっても非核化が動き出すことが重要と考えるのだろう。

 だとすれば非核化を段階的に進めるという点で中・朝・韓は似通った立場にあるのかもしれない。

日本はどうするべきか

 日本はどうするべきなのだろう。

 日本の運命を大きく変え得る朝鮮半島情勢が急展開しようとしている時、朝鮮半島問題をあまりに短期的・短絡的に見てはならない。日本の利益は核・ミサイル・拉致の包括的解決であるが、これを実現するうえでも大局観に基づく大きな戦略がいる。 ・・・続きを読む
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筆者

田中均

田中均(たなか・ひとし) (株)日本総合研究所 国際戦略研究所 理事長/元外務審議官

1969年京都大学法学部卒業後、外務省入省。北米局審議官(96-98)、在サンフランシスコ日本国総領事館総領事(98-2000)、経済局長(00-01)、アジア大洋州局長(01-02)を経て、2002年より政務担当外務審議官を務め、2005年8月退官。同年9月より(公財)日本国際交流センターシニア・フェロー。2010年10月に(株)日本総合研究所 国際戦略研究所理事長に就任。著書に『日本外交の挑戦』(角川新書、2015年)、『プロフェショナルの交渉力』(講談社、2009年)、『外交の力』(日本経済新聞出版社、2009年)など。

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