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ケンブリッジ・アナリティカ社問題、その根深い闇

フェイスブックの大量個人情報を政治広告に利用、SNS利用した選挙戦が米では常態化

前嶋和弘 上智大学教授

 2016年アメリカ大統領選挙でトランプ氏の当選の“立役者”として注目されていた選挙コンサルティング会社・ケンブリッジ・アナリティカ社が5月はじめ、破産を決めた。同社についてはデータを不正入手した疑惑が今年3月に暴露され、大きな非難を浴びてきた。さらにデータを悪用されたフェイスブックも管理の甘さについて、連邦議会から厳しい追及の渦中にある。このケンブリッジ・アナリティカ社問題とは何だったのか――。再度振り返るとともに、同社が“退場”しても同じような選挙手法はアメリカの選挙から決して消えない根深い背景をさぐる。

(1)ケンブリッジ・アナリティカ社とは

 まず、ケンブリッジ・アナリティカ社とはどういう会社なのか振り返ってみたい。同社はイギリスのSCLグループというコンサルティング会社の子会社として、2013年に設立された。選挙コンサルティングに特化した会社であり、特にソーシャルメディアなどの行動履歴データを基にした心理分析を得意とし、潜在的な有権者に対応した細かな分析(マイクロターゲティング)ができるとPRしてきた。

 ケンブリッジ・アナリティカ社が注目されたのには、2つのきっかけがある。

 まず一つ目は、2016年に世界的な注目を集めた2つの投票結果だ。2つの投票結果とは 6月のイギリスのEU離脱国民投票と11月のアメリカ大統領選挙だ。同社は前者では離脱派、後者ではトランプ氏の陣営に立ち、それぞれの陣営の懐刀として尽力し、いずれも「まさか」の勝利の原動力となったとされる。

 ケンブリッジ・アナリティカ社が注目された第二の点は、同社の運営にかかわる人物に数々のくせ者がそろっていた点である。その筆頭と言える存在が、2016年夏からトランプ選挙陣営のトップにつき、当選後は剛腕の首席戦略官として世界中に名を知られることとなったスティーブン・バノン氏だ。バノン氏はケンブリッジ・アナリティカ社の共同出資者として、創設そのものにかかわっている。さらに、共和党のパトロンとして保守派の金庫番という別名もあるヘッジファンド会社のロバート・マーサー氏も、同社に多額の出資をしていた。いわば、保守派のために創設された選挙コンサルティング会社である。

(2)個人情報漏洩と「国民の意思」が歪められた可能性

 ただ、その注目度に比べ、ケンブリッジ・アナリティカ社の活動は極めて謎めいていた。同社については「心理テストを効果的に行った」「膨大なデータを分析した」といった断片情報が数多く報じられてきたが、実際に何をどのように行ったのかの詳細は同社のPR資料を読んでも判然としなかった。

 特に、2016年選挙でトランプ陣営はライバルのクリントン陣営に比べ資金力で明らかに大きく劣っていたため、同社の主張するような膨大なデータをどのように入手したのかについては、疑問の声も少なくなかった。

 その謎めいていた同社の分析手法の全貌がみえるまでには、選挙戦から1年半ほどたった今年3月の内部告発まで待たねばならなかった。この告発とは、ケンブリッジ社創設の際にデータ解析のシステム開発で中心的な役割を担ったというクリストファー・ワイリー氏のものであり、同社の手法について、内部資料とともに雑誌や新聞、テレビで詳しく証言した。ワイリー氏は2014年7月に同社を辞めており、「良心の呵責に耐えられなかった」「バノン氏のプロパガンダの道具であったのが許せなかった」と告発の理由を述べているが、なぜ今年に入ってから暴露したのかの理由は判然としない。

 いずれにしろ、証言によると、根本となるデータは不正に収集したもので、倫理的には大きな問題があるのは明らかだった。この不正とは、学術目的で集められたデータを流用したという疑いである。具体的には、イギリス・ケンブリッジ大学の心理学者でロシア系アメリカ人の心理学者アレクザンドル・コーガン氏との結託である。

 コーガン氏はフェイスブックが学術目的で提携したうえで、約27万人のフェイスブックユーザーに「性格診断アプリ」と称して、診断テストをさせるとともに様々な情報を引き出した。各種データはそもそも学術利用に限っていたはずだったが、あろうことかコーガン氏はその情報をケンブリッジ・アナリティカ社に、100万ドル(約1億円)で売ったといわれる。流出したデータは27万人ものユーザー分であり、それぞれの友人などをデータも含めると5000万人の個人情報が流出したとされる。コーガン氏は情報提供や対価の受け取りなどは認めているが「フェイスブックにはそもそも伝えている」と違法性については否定している。

 このデータをケンブリッジ・アナリティカ社はどう使ったのか。その手法とは大まかには次の通りだ。コーガン氏の作成したアプリからユーザーの性格を ・・・続きを読む
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筆者

前嶋和弘

前嶋和弘(まえしま・かずひろ) 上智大学教授

専門はアメリカ現代政治。上智大学外国語学部英語学科卒業後,ジョージタウン大学大学院政治修士課程修了(MA),メリーランド大学大学院政治学博士課程修了(Ph.D.)。主要著作は『アメリカ政治とメディア:政治のインフラから政治の主役になるマスメディア』(単著,北樹出版,2011年)、『オバマ後のアメリカ政治:2012年大統領選挙と分断された政治の行方』(共編著,東信堂,2014年)、『ネット選挙が変える政治と社会:日米韓における新たな「公共圏」の姿』(共編著,慶応義塾大学出版会,2013年)