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6・12米朝首脳会談はここを見よ

北朝鮮は生存戦略を変えたか?非核化に「押し込む」方法は?そしてどうする日本

中林美恵子 早稲田大学教授

すべては中間選挙のために

北朝鮮から解放されて帰国した3人を出迎えたトランプ大統領(右から2人目)=2018年5月10日、米ワシントン郊外のアンドルーズ空軍基地拡大北朝鮮から解放されて帰国した3人を出迎えたトランプ大統領(右から2人目)=2018年5月10日、米ワシントン郊外のアンドルーズ空軍基地

 エルサレムをイスラエルの首都と宣言し、在イスラエル大使館を移転する。「イラン核合意」から離脱する。そして、史上初の米朝首脳会談――。

 最近のトランプ外交を見るときに大切なのは、政治的な時系列のなかで、トランプ大統領が今、どこに位置づけられているのかという視点です。

 今年11月には米議会の「中間選挙」があります。トランプ大統領としては、「アメリカファースト」の政策を進めるため、自らが率いる共和党が上下両院で過半数を確保することが至上課題ですし、2020年の大統領選をにらんでも、共和党の敗北は絶対に避けたいシナリオです。

 今はまさに、選挙まで半年を切り、事実上の“選挙モード”がはじまっている段階。トランプ大統領にすれば、有言実行で有権者の支持を得られるのなら、そしてチャンスのタイミングがそこにあるのなら「何でもする」という心境のはずです。

思うに任せない内政

中林美恵子さん拡大中林美恵子さん

 とはいえ、「何でもする」といっても限界があります。とりわけ内政がらみの政策は、なかなか自分の思うに任せません。議会で予算が認められなければいけないからです。

 実際、上院で少数派の民主党が「フィリバスター」と言う議事妨害の手法を駆使して抵抗するため、メキシコとの間の「壁」にしても、1兆円のインフラ投資にしても、議会で阻止されています。

 ある意味ワシントンアウトサイダーだったトランプ大統領はそうした実態には大統領になってから初めて気がついたのでしょう。相当、イライラしたと思います。

大統領の裁量大きい外交・安保

 そこでトランプ大統領が目をつけたのが、外交、安全保障、さらに通商法201条や301条などに基づく措置でした。これらは大統領の権限が大きい、別の言い方をすれば、大統領が自由がきく余地が大きい分野です。中間選挙を控え、今やトランプ大統領にとって最も重要なツールと言っていい。北朝鮮問題は、そんなコンテクストの中で、絶好のタイミングで浮上しました。

 ギャラップ社は今年初め、「世界でアメリカにとってもっとも脅威となる国はどこか」という世論調査をしました。それによると、ロシアや中国と並んで、北朝鮮を挙げる人が51%と急増。国民の北朝鮮への危機意識の高まりが顕著でした。

 その後、3月になって米朝首脳会談が現実味を帯びるなか、トランプ大統領が北朝鮮の脅威を取り除くことで、国民の支持を得ようと考えるのは、自然な流れです。それが、今回のトップダウンの米朝首脳会談につながったのでしょう。

 その後、「トランプ大統領にノーベル平和賞」という声が出たり、4月27日の南北首脳会談が世界の注目を集めるのを目の当たりにしたりするにつけ、トランプ大統領が「自分が会談をすれば、文在寅・韓国大統領どころではない。世界中が大喝采する」と言うイメージを膨らませているであろうことは、想像に難くありません。

トランプ外交は「常道」無視

 とはいえ、ここまで露骨に自分の支持者向けに特化した外交は過去にないと思います。プロのポリシーメーカーである官僚や、外交の専門家や学者たちが積み上げ、各方面への根回しを経て実行にいたる。それが米国の外交政策の「常道」でした。

 ところが、トランプ政権になって、すっかり常道は無視されています。積み上げも根回しもなく、大統領のトップダウンで、しかも一触即発のアンタッチャブルな課題に手を突っ込む。政治色を前面にだした外交。善しあしの議論は別として、それがトランプ流の外交と言えるでしょう。

 これまでも、ワシントンアウトサイダーの大統領はいましたが、大統領選の間は過激な発言をしても、政権をとればポリティカルコレクトネス(政治的な正しさ)に配慮するのがふつうでした。トランプ大統領はそうしない。よい言い方をすると有言実行。悪い言い方をすると、長期ビジョンや複雑な事情を無視して実行に移してしまう、破天荒なところがあります。

庶民に受けるトランプ流

 ただ、トランプ氏のそういうところに期待する向きは少なくありません。今までは、口ではやると言っても、実際にはやらないやつらばかりだったけど、トランプは裏と表を使い分けるプロではないし、大胆なパーソナリティーゆえ、思い切ったことをズバッとやる――というわけです。

 それって庶民受けするんですね。プロによるワシントンの腐った政治、官僚主導でアメリカを誤った方向に導く政治を、トランプは変えてくれると。

 私自身は、いわゆる“ワシントン政治”のインサイダーの仲間の一人なので、衆愚政治、ポピュリズムに流されていく政治には危険性や怖さを感じます。プロには専門的な知識や経験の深さがある。特に外交政策や安全保障は、国民すべてが理解するよう説明するのが非常に難しく、鍛錬をつんだプロに頼らざるを得ない面が大きいとも思います。

 しかし、ワシントンのプロの政治家、官僚による政治が、トランプ大統領を支持したような有権者たちを、ないがしろにしてきたことも否定できません。トランプ流の外交は、そういう人たちには前向きに受け止められるかもしれません。

北は生存戦略を変えていない?

 話を戻します。では、今回のトランプ流米朝首脳会談のポイントはどこにあるのでしょうか。

 第一に、北朝鮮が従来の核兵器を基にした「生存戦略」を変えたのかどうか、です。北の言う「非核化」が実現するとすれば、北朝鮮が生存戦略を変えることが不可欠だからです。

 気になるのは、ポンペオ米国務長官、そしてトランプ大統領が前向きで楽観的なことです。マスメディアやワシントンの外交プロが知らないファクトがあるのかもしれない。ただ、そのファクトがなんだか分からない。CIA長官をつとめたポンペオ氏をして楽観的にさせる根拠は何なのでしょうか。

 しかし、それが明らかになっていない以上、北が生存戦略を変えたと信じるわけにはいきません。金正恩・朝鮮労働党委員長が対話路線に転じたことを、生存戦略を変えたという根拠にしている向きもありますが、短絡的な見方です。

 私は北が生存戦略を変えたというのは、まやかしだと思っています。もっと言えば、北朝鮮がたとえ「非核化」を口にしても、核を廃棄するはずはない。廃棄したように見せかけて隠し持つことに、全力をつくすと考えます。外交のプロの見方は圧倒的にそうでしょう。

朝鮮労働党本部でポンペオ米国務長官(左)と握手する金正恩党委員長=2018年5月9日拡大朝鮮労働党本部でポンペオ米国務長官(左)と握手する金正恩党委員長=2018年5月9日

米朝交渉は「妥協の産物」

 本音を言えば、アメリカは北朝鮮と戦争をしたくありません。イランやエルサレムの問題を抱え、中東にエネルギーと注意力を割かなければいけない現状で、北朝鮮に軍事行動をする余裕はない。それはマティス米国防長官も分かっているので、対北の軍事オプションはアメリカの優先順位としては低い。

 そう考えると、今回の米朝首脳会談は、北朝鮮に騙(だま)されたフリをする、「妥協の産物」と言えるではないでしょうか。

 もちろん「妥協の産物」であっても、政治的には意味があります。 ・・・続きを読む
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筆者

中林美恵子

中林美恵子(なかばやし・みえこ) 早稲田大学教授

早稲田大学教授。米マンスフィールド財団名誉フェロー。大阪大学博士(国際公共政策)、米ワシントン州立大学修士(政治学)。元衆議院議員。経済産業研究所研究員や財務省財政制度等審議会委員など歴任。米国在住14 年のうち 10 年間は米連邦議会上院予算委員会の連邦公務員(共和党)として国家予算編成を担う。跡見学園女子大学准教授、米ジョンズ・ホプキンス大学客員スカラー、中国人民大学招聘教授等を経て現職。『トランプ大統領はどんな人?』『トランプ大統領とアメリカ議会』『『グローバル人材になれる女性(ひと)のシンプルな習慣』『オバマのアメリカ・どうする日本』(共編著)等多数。