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世界に広がる土地買収、対象は先進国にも

各国で規制強化の動き、日本も早期の対策が必要だ

六辻彰二 国際政治学者

 グローバル化が進んだ世界では、土地までもが売買されている。2000年1月から2018年3月までに取引された土地の面積は、世界全体で約5053万ヘクタールにのぼり、ポルトガルの面積の約5.5倍にあたる。その対象は開発途上国だけでなく、先進国にも及ぶ。

 とりわけ先進国では中国企業による土地買収に警戒感が高まっており、外国の個人・企業による土地買収に規制を設ける国も多い。これに対して、日本では土地買収が基本的に自由であるため、早期の対策が求められる。

目立つ中国企業による土地買収

中国資本の会社がメガソーラーを計画していた土地=大分県由布市
 2017年、オーストラリアでは外国の個人・企業による土地買収を規制する改正土地取引法が発効した。同法の成立は、中国による土地買収とこれに対する警戒感を大きな背景とする。

 例えば、2016年にニューサウスウェールズ州で販売された宅地の約25パーセントは外国人が取得しており、そのほとんどが中国人とみられている。中国資本の流入はオーストラリアの不動産取引を活発化させる一方、住宅価格の高騰の一因となった。

 農地に関しても、状況はほぼ同様である。2016年の統計では、オーストラリアにおける全農地(3億7100万ヘクタール)の約14.1パーセントが外国資本によって保有されていた。近年ではとりわけ中国資本の流入が目立つ。中国資本が保有する農地は、オーストラリア全体で2016年の約150万ヘクタールから2017年には1440万ヘクタールに急増している。

 習近平体制のもと、中国政府は海外での投資のうち、特に食糧安全保障にかかわる農業分野でのそれを推奨している。それにともない、オーストラリア以外にも米国、カナダ、ニュージーランド、ヨーロッパ諸国でも同様に、中国企業による農地買収が増加している。その結果、後述するように、オーストラリアだけでなく各地で外資による農地保有を制限する動きがみられる。

土地買収の実態、「輸入」国には先進国も

 ただし、関心と警戒感を集めやすいものの、中国は唯一の「土地輸入国」ではない。

 ランド・マトリクス・データベースの統計によると、2000年から2016年までに海外で土地を購入あるいは長期リースの契約を結んだ件数は、米国が約726万ヘクタールで最も多く、これにマレーシア(316万ヘクタール)、シンガポール(263万ヘクタール)、アラブ首長国連邦(190万ヘクタール)、中国(162万ヘクタール)と続く。

 これらに加えて、イギリスも土地買収を活発に行う国の一つで、先述のオーストラリアでは2750万ヘクタールを保有している。これは同国で外資が保有する土地の半分以上を占める。つまり、土地を「輸入」する国には、中国などの新興国やアラブの産油国だけでなく、先進国も含まれるのである。

 その目的は、基本的に中国と同じである。やはりランド・マトリクス・データベースによると、土地買収の約6割は食糧やバイオエタノール用作物などの生産などの農業を、約3割は林業を目的としている。土地を「輸出」する国には貧しいアフリカ諸国が多く、やはり2000年から2016年までの間にコンゴ民主共和国では635万ヘクタール、南スーダンでは209万ヘクタールの土地が買収された。

 こうしてみたとき、土地買収はグローバルな現象であることがわかる。その競争が激化するにつれ、先進国では自国の土地の売却を制限する措置が強化されてきたのである。

広がる規制強化

 もともと中国をはじめ、タイやフィリピンなど、アジア諸国ではもともと外国の個人・企業による土地所有への警戒感が強く、原則的に禁止の国が多い。これらの国では、外資は建築物を所有できても、土地はリースになることがほとんどである。

 これに対して、先進国では

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