米朝合意は期待はずれだった。それでも可能性は十分にある。日本は能動的外交を
2018年06月15日
シンガポールでの歴史上初めての米朝首脳会談は終わった。北朝鮮の核廃棄に向けて明確で具体的な合意をもたらすと期待していたとすれば、首脳会談の合意は明らかに期待はずれだ。具体性もなければ北朝鮮の明確な決意を示す証もなく、今後のロードマップもない。特にトランプ大統領一流のきわめて曖昧で大げさな事前の発言と対比すれば、大きな失望を禁じえない。
ただ、期待値との関係で十分でなかったとしても、今後のプロセスが大きな結果を生み出す可能性は十分にある。もう少し緻密に見てみる必要がある。
合意文の構成やロジックからは米国が大きく譲歩した跡が見える。従来の「とにかく完全で検証でき後戻りできない核廃棄(CVID)がまずありきで、その前提を置いた上で制裁解除や見返りがありうる」という考え方には沿っていない。この合意では恒久的な平和体制を構築することが目的であり、このために米朝の信頼醸成が非核化を促進する、という立て方となっている。
実はこのような立て方は2002年に小泉訪朝で締結されたピョンヤン宣言の基本的な考え方であった。ピョンヤン宣言では「懸案を解決して実りある日朝関係を作ることが双方の利益に資し、地域の安定に資することになる」という基本認識を前文において日朝正常化交渉はじめ諸問題に誠意を持って取り組むことが合意されている。このような考え方が実を結ばなければならない。
北朝鮮のロジックはどうか。金正恩委員長は核と経済の並進路線を唱え、昨年末に核武力の完成を宣言した。ただ厳しい軍事・経済の圧力の下でこのままでは経済の開発はままならない。
だとすれば核は所詮使えないわけで、むしろ核を保有しているところから始めて、核を削減していく見返りに米国からの安全を買い、諸国からの経済支援を得るという戦略なのではないか。
北朝鮮にとって、この戦略に必須であるのは一挙に核廃棄に至るのではなく、段階的に見返りを得つつ廃棄していくことである。これは米国にも言えることであるが、相手が信頼できなくなれば何時でも元へ戻るということなのだろう。
米国にとってはどうか。おそらく従来の大統領や伝統的な米国の外交安全保障当局であればこのようなアプローチにはのらなかったのだろう。
そもそも力を持った米国が相手を立て北朝鮮のような「ならず者国家」のリーダーと対等の立場で会うことすらおよそ考えられないことである。ましてや北朝鮮のロジックに乗って信頼醸成からはじめてみようというのはトランプ大統領であればこそ可能だったのかもしれない。
トランプ大統領自身国内の厳しい立場にかんがみて合意を急いだという面もあったのだろう。
このようなアプローチが功を奏するかどうかは来週にも始まるといわれているポンペオ国務長官と北朝鮮高官のフォローアップ交渉如何であろう。
北朝鮮が長い期間にわたって開発されてきた核兵器の設備を有している以上その廃棄には物理的に長い時間がかかる。5年なのか、あるいは10年といったことか。その間できるだけ早期に核廃棄に必要な行動、まず核施設の申告と査察を実現させなければならない。
今回の合意によれば信頼醸成のために米国も動くということである。おそらくトランプ大統領が記者会見で述べたとおり、少なくとも交渉期間中の米韓合同軍事演習の実施および更なる制裁の適用はしないということだろう。おそらく米国は米朝正常化を急ぐのではないか。
西側の多くの国々も外交関係を有しており、難しい懸案事項を有している日本に比べれば北朝鮮とは比較的簡単に正常化に至れるのではないか。それまでに連絡事務所の設置ということもありうるのだろう。
これは日本が描いていたシナリオではないだろう。圧力路線をひた走り、米国と100%方針は変わらないとしてきたが、日本にはどう映っているのだろう。
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