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韓国は外国人に門戸を開いた③「移住家族支援」

「移住女性やその子ども」は孤立しがち。韓国では様々な支援メニューがそろう

岩城あすか 情報誌「イマージュ」編集委員

 

韓国に呼び寄せられた結婚移住者の親たちが参加する中国ダンスの教室=韓国・安山市

自治体が大きな役割

 韓国在住の外国籍住民は2018年3月の統計で225万4085人、人口の4.2%を占めている。2006年時点で約74万7000人(総人口の1.5%)だったことを考えると、かなりのハイペースで増加している。

 2006年5月の第1回外国人政策会議で法務部が提出した「外国人政策の基本方向および推進体系」が承認されたことを受け、行政自治部(日本の総務省にあたる)は急ピッチで施策を進めた。同年8月に「居住外国人支援業務指針」を、10月に各自治体で条例設置がしやすくなるよう「居住外国人支援標準条例案」を策定。2007年3月には「居住外国人定着支援業務便覧」を各自治体へ通知した。

 これらにより、見るに見かねて支援していたNPO等の市民組織に加え、地方自治体が外国人支援の大きな役割を担うことになった。支援の対象は合法的に滞在している外国人に限られているが、非正規滞在者についても「市民団体等による間接支援を通して基本的人権は守られるよう努力する」と指針で述べられている。

国際結婚で移住した女性と子どもの支援

 各自治体が外国人支援のプログラム(韓国語や韓国に適応するための基本的な生活教育、多言語による相談対応、公営住宅の入居資格付与など)の整備を進めるなかで、国際結婚による移住女性とのその子どものための支援の必要性も指摘されてきた。

 韓国の国際結婚は日本と同様、妻が外国人であるケースが多い。特に農林漁業従事者の国際結婚の割合が高く、30~50%と言われている。これらの結婚は斡旋業者の仲介によるものも多く、かつては結婚にいたるまでにさまざまな人権侵害が行われていた(人身売買にも似た「頭金」制度や虚偽・誇張された表現を含む性・人種差別的広告、通訳・翻訳を介さない情報提供、契約書の不作成など)。

 言葉が十分でない中での韓国文化への不適応、夫や姑からの暴力、子どもへのいじめなど、移住女性たちは大きな精神的ストレスを抱え、社会課題化していた。

 政府は2007年12月に結婚仲介業を登録制にして行政による管理を強化するとともに、結婚移住者の「居住」「永住」の在留資格取得や簡易帰化の要件を緩和した。これにより夫からのDVなどで婚姻関係の維持が困難な場合には、政府公認のNPO(国内に197団体あるという)などが発行する確認書があれば、「居住」資格が付与されるようになった。

多文化家族支援法の成立

 2008年3月には「多文化家族支援法」が成立。韓国滞在が一時的な外国人労働者とは異なり、将来韓国籍をとって永住する可能性が非常に高い結婚移住女性とその子どもらが安定した家庭生活を送れるよう、韓国社会への統合を容易にする目的があった(「多文化家族」とは、韓国国民との結婚により韓国に移住した外国人や韓国に帰化した者、その夫婦から生まれた韓国籍を有する子どもがいる家庭をさす)。

 この法律によって義務付けられているおもな施策は以下のとおり。

〇保健福祉家族部(=日本の厚生労働省の「厚生」に関する部分に相当)による多文化家族の実態把握に向けた3年ごとの実態調査
〇社会的差別や偏見を予防するための、多文化家族の理解促進に向けた広報や多文化理解教育
〇多文化家族の構成員を対象とした生活情報の提供と社会適応教育や職業訓練教育支援
〇平等な家族関係構築のための家族相談や夫婦教育
〇家庭内で発生する暴力防止への努力や被害者に対する保護及び支援
〇産前産後の健康管理に対する支援
〇児童の保育及び教育への支援

 これらのサービスは多言語で行う努力義務も課されている。実施機関としては、217の自治体で「多文化家族支援センター」が設置されている(韓国の自治体総数は235。どんな田舎であってもバスで気軽に通える範囲内にあるという)。

 ただ、「多文化」な家庭であっても、両親とも外国人の場合は、原則的にはこの法律の支援対象とはならない。外国文化を尊重し、多文化共生をめざすというよりは、あくまでも韓国人としての基本素養を備えるための教育が目的であり、同化政策のねらいがあるといえる。このため、市民団体などからは多くの批判と請願が寄せられたという(この結果、韓国人を含まない外国人家庭も支援の対象になるプログラムが増えている)。

安山市多文化支援本部=韓国・安山市

最も外国人比率の高い安山市

 韓国で最も外国人比率の高い安山市の「多文化家族支援センター」を訪れた際に支援メニューの充実ぶりに感動したが、その一部(先輩移住女性が個別訪問する家庭教育など)は韓国人と結婚した移住女性とその家族に限定して実施されていた。

 安山市はソウルから車や電車で1時間くらい、国内最大の外国人集住都市である。

 人口は約70万人で、そのうち外国籍住民が約10%を占める。首都圏内の工業地域のため、韓国で最も移住労働者が多く働く街だが、未登録外国人を排除しない「居住外国人人権増進のための条例」を全国で初めて制定したことでも知られている。

 安山市の中でも2009年に政府から「多文化村特区」の指定を受けた「ウォンゴク本洞」という地区は最も外国人居住比率が高く(40%)、韓国で唯一ワンストップ型の市直営「多文化支援本部(外国人住民センター)」がある。主なサービスメニュ-は以下のとおり。

 「安山多文化村特区」はアジア諸国の風情が一度に味わえるとても魅力的な場所だ(実際、観光客や地域外からの外国人市民が週末には大勢訪れるという)。時々看板やニュースレターでステレオタイプな各国のイメージが強調されているのは気になったが、それでも多言語表示や24時間体制の医療や銀行業務、宅配便などの外国人に特化したサービスのおかげで地元経済が潤っている様子はとても興味深かった。

「安山多文化村特区」で多言語表記のある通信サービス店=韓国・安山市

外国にルーツをもつ子どもたちへの支援

 外国人支援の中でも最も専門的な支援を要するのが、社会の中で孤立しがちな「外国にルーツを持つ子どもたち」である。

 韓国では、多文化家庭の子どもをはじめ、両親が外国人の子ども、脱北者の子どもなどを「移住背景青少年」と称し、社会統合のためのさまざまな支援策を講じている。

 韓国の教育基本法は、教育の機会均等をうたう第4条第1項において「すべての国民は性別、宗教、信念、人種等を理由に教育において差別を受けない」と明示されているが、外国人に関する具体的な条項はなかった。このため、2006年に成立し2011年に改正された「青少年福祉支援法」第18条~30条において「移住背景青少年」を包括的に支援できる基盤整備と「移住背景青少年支援センター」の設立・運営に関する法的根拠が規定されている。

 ソウルにある「移住背景青少年支援財団」が運営する「ムジゲ(虹)青少年センター」では、国や市、民間の財源によりさまざまな事業をおこなっている。

① Rainbow School

 国家予算から拠出。来韓したばかりの青少年を対象に、基本的な韓国語、韓国文化の教育、学校での生活相談などを行う。ソウルのほか国内23箇所にある。9時~16時のプログラムで午前は韓国語、午後は色々な活動メニューが用意されている。

② 「虹をつかめ」「手に職をつかめ」「夢をつかめ」事業

「移住背景青少年支援財団」が運営する「ムジゲ(虹)青少年センター」のカフェ=ソウル

「ムジゲ(虹)青少年センター」のカフェに飾られた青少年たちのバリスタの免状=ソウル

 進路支援・職業訓練に近いプログラム。外国から来て韓国での目標が見つからない子どもたち(中国経由で脱北した子など心理的、経済的な死角に存在する子どもたち)をサポート。バリスタやメイクアップアーティスト、調理師免許、PC操作など、資格を取らせる講座を受講させる。費用がかかるので意欲の高い子が選抜されているという。

③ 脱北青少年を対象としたプログラム

 韓国に適応するための「ハナウォン」と呼ばれるプログラム。卒業する頃には「比較文化体験」「学習」「韓国を理解するためのトレーニング」を受ける。同窓会もある。

 韓国以外の国で暮らすコリアルーツの青少年を支援する「在外同胞教育振興院」によると、子どもたちの出身国には「民主主義の弱い」国もあるため、「たとえ運がなくても周囲を説得しながら権利を勝ち取る『市民性』のマインド」を養成する必要があるという。必要性の高い順に、北朝鮮、中国、CIS(旧ソ連解体後の独立国家共同体)諸国、続いて日本(!)が挙げられていた。

④ 生活相談・心理カウンセリング事業

 言語は中国語、英語、ベトナム語、ロシア語。必要に応じてボランティアが無料で自宅まで訪問する。

⑤ メンター制度

 大学生のお兄さん、お姉さんが9か月、同性の子どものメンターになる。期間が終わるとまた違うメンターがつく。メンターはボランティア(交通費は出る)。

⑥ サマーキャンプ

 韓国人の青少年75人、移住背景青少年75人を集めて2泊3日、「国立青少年トレーニングセンター」でキャンプをする。

⑦「青少年多文化メンター」育成プログラム

 「多文化共生」を、知識レベルではなく、価値観、態度として身につけるための人材育成事業。国内9箇所で実施。これまで4600名を養成した。外国ルーツの子どもに関わるときにしてはいけないことなどを教わる。5回以上活動や講座に参加する必要あるが、韓国人は自分がマイノリティになる経験がないのでワークショップでマイノリティ体験をさせている。外国人と内国人が「多文化」になるということは、「人は多様だから、一人ひとりの存在そのものが『多文化』である」と気づいていくことが大事とのこと。

⑨「移住青少年専門家」養成講座

 移住背景青少年支援財団独自の認定資格。2016年までは大学院の一学期くらいのコースだったが、支援現場にいる人は受講しづらいため、2017年から2泊3日、31時間の集中コースに変えて実施している。

 上記に加え、調査研究、政策提言、討論会なども開催するほか、民間企業からの寄付による事業も多数おこなわれている。主なプログラムは以下のとおり。

① 現代自動車による「心理相談」。診療内科へ受診が必要な青少年に治療費を援助。
② ポスコ(鉄鋼会社)による進路開発支援。「特技が職業に結び付くように」と音楽教室、PC教室など専門学校の費用を援助。費用負担だけでなく、卒業まで子どもが勉強を続けられるよう、社員がメンターとしてもフォロー。
③ Open Society Foundation(アメリカの財団)が大学院以上に進学した脱北者を対象に奨学金(20名弱)を支給。
④ コーロン(スポーツウエア&繊維産業)がチューターとして元移住背景青少年を雇用。
⑤ 「エギョン(せっけん会社)」が高校生(30名程度)に奨学金を支給。

遅れる日本社会、まずは「自分のこと」として

 以上、外国人に門戸を開いた韓国での取り組みを3回にわたって紹介してきた。

 市民組織の先進的な取り組みや提案に市民が呼応し、それらに政府が耳を傾け施策に反映、さらにそこから漏れ落ちる部分を市民組織が行政へ「民願(請願)」の手法を用いて働きかけ、次々と制度がブラッシュアップされていくプロセスが非常にダイナミックに進展していると感じる。

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