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新型コロナで「緊急事態宣言全国一律延長」のとんでもないコスト

倒産・失業、GDP激減、自殺・健康悪化、教育機会喪失、地方崩壊…。甚大なコストが

米山隆一 衆議院議員・弁護士・医学博士

 5月4日、安倍総理が全国一律の緊急事態宣言の延長を決めましたが、それと同時に、安倍晋三総理は記者会見の中で、「5月14日を目途に、専門家の皆さんにその時点での状況を改めて評価いただきたいと考えています。その際、地域ごとの感染者数の動向、医療提供体制のひっ迫状況などを詳細に分析いただいて、可能であると判断すれば、期間満了を待つことなく、緊急事態を解除する考えであります」とし、早期解除の可能性を残しました。

 私は、今般の緊急事態宣言とそれに伴う様々な制限は、そもそも新型コロナウィルス感染症の流行拡大収束に対して必要とも有効とも言い難いという立場ですが、その詳細は前稿「専門家会議のコロナ報告書が示す驚きのデータと「5月7日以降」の合理的対策」に譲り、本稿では、「緊急事態宣言の全国一律延長のコスト」を論じたいと思います。

緊急事態宣言の期間延長について、会見で質問に答える安倍晋三首相(右)=2020年5月4日午後6時27分、首相官邸

次々倒産、失業も急増

 まず第一のコストは、倒産・失業です。緊急事態宣言の延長でこれからどの程度の倒産・失業が生じるかは未知数ですが、3月末の民間保険会社の調査では、27.4%の企業が「4月末を超えたら乗り切れない」と回答しています(参考)。

 北海道大学の西浦博教授ばりに機械的に推計をするなら、中小企業は日本の企業数の99.7%、従業員数の69%を占めていますので(参考)、仮に実際に中小企業の30%が倒産して失業し、その失業者全員が仕事を見つけられないとすると、失業率は18.9%、新たに1100万人もの失業者が生じることになります。

 もちろん、これは極めて極端な推計で、ニッセイ基礎研究所は10月~12月期の失業率が3.9%に達すると予想しています(参考)。しかしこの場合でも96万人、100万人近い新規失業者が生じることになります。

 上記の二つの推計は大きく違って見えるかもしれませんが、「失業率=完全失業者÷労働力人口」ですので、失業した後、収入が激減しても何らかの形で仕事についていれば失業率には換算されません。両者は、「労働力人口のおよそ16%、1100万人もが失業・解雇等何らかの影響を受け、そのうちおよそ10分の1の96万人が新たな職が見つからず完全失業の状態となる」という形で合致すると思われます。

年率20%のマイナス成長?

 次のコストはGDPの減少・不況です。

 緊急事態宣言の影響でどの程度GDPが減少するかについては、最も悲観的な大手外資系金融機関のもので年率25%のマイナス成長(参考)、比較的楽観的な国内金融機関の5%のマイナス成長(参考)まで非常に幅がありますが、民間エコノミスト16人の平均では、年率20%のマイナス成長が予想されています(参考)。

 それぞれの予想は、非常に乖離して見えますが、4半期で概ね-4~6%という点では一致しており、違いはその後何時、どの程度経済が回復するにあります。少なくとも「4半期で5%程度、(いつ回復するかはさておき)年率で20%程度のマイナス成長となる」は、多くのエコノミストのほぼ一致した見方であると同時に、我々の感覚にも合致するところだと思います。

 なお失業率yと経済成長率xには「オークンの法則」と言う逆相関の関係が認められています。日本ではおおむね「y=-0.11x」程度との報告がなされており(参考)、これに従えば、x=-20%とすると失業率は現在の2.5%から2.2%上昇して4.7となることになります。非常にざっとではありますが、この結果は前述の失業率3.9%という予想とおおむね合致します。

 もちろん、政府としても手をこまねいているわけではなく、このGDPの低下を防ぐべく、4月30日に成立した補正予算による経済対策が行われるのですが、マクロ経済学の基本式「Y(国民所得)=C(消費)+I(投資)+G(政府支出)」に従って、C+Iの低下(民間企業の作る付加価値の低下)を補うG(政府支出)に該当するいわゆる「真水」は16.7兆円、日本のGDP 557.7兆円の3%にすぎません(参考)。

 そのうえ、この中には「GoToキャンペーン」等、直近の経済状況の改善には寄与しない予算が相当程度含まれており、緊急事態宣言の影響が長引いた場合の、年率20%ものマイナス成長に対しては焼け石に水と思われます(なお、上記経済予想は、この補正予算を織り込んでのものと考えられます)。

 つまり様々なデータから、5月末までの「全国緊急事態宣言一律延長」は、少なくとも四半期で5%、その影響が長引けば年率20%程度のGDPの喪失の引き金を引きかねないものなのです。リーマンショック時のGDPの低下は2年で5.6%程度(参考)ですので、これは、「全国緊急事態宣言一律延長」が予定されている5月末で終了し、その後、景気が急激に回復したとしても、少なくともその間だけでリーマンショック2年分のGDPの減少とそれに伴う不況をもたらし、仮に「全国緊急事態宣言一律延長」が5月末以降も延長されてその影響が続けば、リーマンショックの4~5倍規模の大不況となる事を意味します。

MIA Studio/shutterstock.com

国債による完全保証は「諸刃の剣」

 私は、通常であれば無制限な財政赤字の拡大に反対する立場ですが(論座「山本太郎代表も掲げる『反緊縮』の正体とリスク」)、上記のような大不況となる事態を防ぐためには、少なくとも一時的に、四半期でGDPの5%程度、半年で10%程度(60兆円)の財政支出をすることは不可避であると思います(アメリカはGDPの10%の財政支出を行っています(参考)。

 これに対して、比較的幅の広い層から、GDPの1割と言わず、2割、3割の財政支出をして、国が緊急事態宣言による個人や会社の様々な損失を全額補償して「全国緊急事態宣言全国一律延長」によるGDPの減少を完全に打ち消す「国債による完全補償」(そしてそれによって長期間かけて新型コロナウィルスを完全に日本から根絶する)を求める声が上がっています。もちろん、それができるならばそれに越したことはありませんが、特に国を中心にこれを困難とする見解も根強く出されていますので、実際に「国債による完全補償」は可能かどうか考えてみましょう。

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