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「ニコ生シノドス」第1回「ホメオパシー騒動とニセ科学論争の行方」

荻上チキ×菊池誠×久保田裕

 気鋭の若手研究者集団、シノドスがニコニコ生放送に登場! 第1回目のテーマは、「ホメオパシー」。この数カ月間、「ホメオパシー」をめぐる批判的な報道が相次ぎました。きっかけの一つは、山口県で起こった「山口新生児ビタミンK欠乏性出血症死亡事故」。同事件をきっかけとして、各報道機関の取材により、様々な場面で「不適切な治療」とされるケースが報告されてきました。

 事件や報道を受け、日本学術会議がホメオパシーを批判する会長談話を発表、日本医師会や日本医学会など、各医療団体も声明に同意するコメントを立て続けに発表しました。その一方で、ホメオパシーを推進する諸団体は、報道や科学者たちの態度を強く批判する姿勢を貫いています。

 番組では、一連の「ホメオパシー騒動」を振り返りながら、ホメオパシーにとどまらず、そもそも代替医療とは何か、「ニセ科学(疑似科学)」と「科学」の違いは何か、「科学/ニセ科学」をめぐる問題にメディアが果たすべき役割とは何かを徹底的に議論! この騒動から私たちが得るべき「教訓」とは!?(9月26日放送、メールマガジン「αシノドス」vol.64、vol.65から転載)

 ※本文末尾に、「ニコ生シノドス」やWEEBRONZAのホメオパシー関連記事へのリンクを掲載しています。また、12月30日公開の菊池誠さんによる補足があります。

 

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 司会:荻上チキ(評論家、「シノドス」プランナー)/ゲスト:菊池誠(大阪大学サイバーメディアセンター教授)、久保田裕(朝日新聞科学医療グループ記者)ほか

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 ※ホメオパシー:「患者が抱える症状とよく似た症状を引き起こす物質」を水に混ぜ、分子が残らないほど希釈したうえで砂糖玉に混ぜたもの(=レメディ)を飲ませることで、患者の治癒力を引き出すとする代替医療のこと。

 ※代替医療:「通常医療」の代わりに用いられる医療の総称。 例えばホメオパシー、鍼、漢方、気功など。

 ※山口新生児ビタミンK欠乏性出血症死亡事故:山口県の助産師が、乳児にビタミンK2シロップを与えず、ホメオパシー療法を無断で行ったうえ、「ビタミンK2シロップを与えた」という嘘の記述をしていたために死亡させ、母親に訴えられた出来事。

 

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◇ホメオパシーとは何か◇

荻上 それでは議論を始めさせていただきたいと思います。まず、そもそもホメオパシーとは何か、今なぜホメオパシーが騒動となっているのかについて、確認していきたいと思います。

菊池 ホメオパシーというのは200年くらい前にドイツのザムエル・ハーネマンという人が始めた、いわゆる民間療法とか代替医療の一つです。ホメオパシーには、次のような特徴的な原理があります。

 一つは、「ある症状を治すには、その症状と同じような症状をひき起こすような物質が効く」という《類似の法則》です。たとえば、熱を下げるために、飲むと熱を出すような物質を使う、というものです。ただし、そのまま飲むと本当に熱が出ちゃう。そこで、もう一つの原理として、それをどんどん《希釈》する。希釈していって薄くしたものを、砂糖粒にしみこませたものをホメオパシーのレメディと言い、それが症状に効くと主張しています。

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荻上 類似の症状をひきおこす物質を薄くして飲ませることで、自然治癒力を引き出す、という説明ですね。約200年前にドイツの医師・ハーネマンが考案したということで、かなり歴史ある代替医療です。それだけ希釈して薄くすると、もともとの分子が残らないという指摘が当然されるわけですが、それに対しては、水がそうした希釈の記憶を保有しているので、何かしらの効果を発揮するんだという説明をしていますね。

菊池 それはモダンな説明ですね。ハーネマンの時代には、まだ分子の概念がありませんでした。ですから、どこまででも希釈できると思われていた。今みたいに、原子や分子が実在していることが明らかになると、原理的に希釈の限界があることが分かるわけです。そこで、モダンな説明では、「分子はないけど、水が記憶する」みたいな説明をする。

荻上 よく用いられるレメディの薄め方というのは「30C」、100分の1に薄める作業を30回繰り返すということですね。そうなると、呼び方が分からないんですけれど、兆や京をはるかに超えた値分の1とかになる。

菊池 だから30Cだと、「もとの分子は1分子も残っていない」と断言できるんです。ケミカル(化学的)には、ただの砂糖粒と変わらない。

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◇山口新生児ビタミンK欠乏性出血症死亡事故◇

荻上 そうしたホメオパシーをめぐり、次のような訴訟が起きています。「山口新生児ビタミンK欠乏性出血症死亡事故」という呼び名でウィキペディアには説明が載っていたりしますが、山口県の助産師が、生まれて間もない乳児に、ビタミンK2シロップを与えず、ホメオパシー療法を無断で行ったうえ、「ビタミンK2シロップを与えた」というウソの記述をしていたために死亡させ、母親に訴えられたという出来事ですね。

 ポイントは二つあって、一つはホメオパシーのレメディを与えていたということ。そしてその説明を当人にしていなかったということ。訴訟に当たっては、説明責任の部分が大きく問われていくとは思うんですけれども、その方法がほかでもないホメオパシーだったということが話題になっています。

 朝日新聞などが中心となり、ホメオパシーの報道がここ2、3カ月ほど大変盛り上がっていました。たとえば、8月25日には「ホメオパシーの効果否定。日本学術会議、医療現場に自粛要請」という記事が朝日新聞朝刊の一面トップを飾った。朝日新聞に限らずその他の新聞、メディア、雑誌なども含めで、とにかく報道が盛り上がっていました。

 もちろん、一連の報道に対しては、ホメオパシー関係団体のひとは、報道のしかたに疑問を投げかけるような否定的なコメントを出しています。そこで久保田さんにおうかがいしたいんですが、今回、一連の報道がここまで盛り上がった理由は、どこにあると思いますか。

久保田 朝日新聞で一番最初に出たホメオパシー関連の記事は、7月31日の「be」という別冊紙面に載った「問われる真偽、ホメオパシー療法」という特集の記事でした。これは、わたしが担当記者と一緒に編集してつくったものです。この記事が、今回の一連の報道の出発点になりました。この記事を作り始めた時には、実はまだ、山口での事件が明らかになっていなかった。記事を作っている最中に、山口の訴訟が起きたので、記事内容を途中で組み替えたんです。

 一番大きかったのは、「ホメオパシーの関連で死者がでた」ということでしょう。単に、「ホメオパシーには問題がある」というだけではなくて、事件・事故として扱われる段階になったという点です。加えて、日本の学者の一番頂点にいる日本学術会議が、ホメオパシーを否定する学長談話を出したということがありますね。

荻上 もともと朝日新聞としては、批判的検証をする記事を用意していたというかたちになるわけですか。

久保田 そうです。でも、最初はそんなに批判的というわけでもなく、トレンド記事の予定だった。でも、山口の事件が起きてしまって、逆に大きく取り上げなくてはならないとなったわけです。20年近く前からずっとホメオパシーの問題をウオッチしてきた人間としては、こんな日が来るとは思わなかったですね。

荻上 なるほど。そもそも朝日新聞社として一丸となってこれに取り組もうというわけではなくて、あくまで数人の個人プレー、といった形だった。

◇メディアの機能◇

久保田 最近の新聞には署名が書いてあるので、誰が書いた記事か分かる。ホメオパシー関連記事の署名を追っていただけば分かりますが、記事自体は一部の熱心な記者が頑張って書いているわけです。でも、彼らだけが突出して頑張っているのかというと、それだけではない。編集部全体のコンセンサスというか、「これは大きく報道するだけの価値がある」っていう暗黙の判断が編集部全体に行き渡ることで、紙面は出来ていくわけです。

 よく、「朝日新聞はどう思っておるのか」って問われたりするんですけれども、普通の人は、朝日新聞を《脊椎動物》だと思っている。つまり、脊椎があって、大脳があって、命令系統が上のほうにあって、その脳が「右手動きなさい。左手動きなさい」って、いちいち命令して各部分が動く、というイメージですね。

 でも実は、報道機関は《軟体動物》に近い。哺乳類よりもいわば、ヒトデに近いんですよ。ヒトデって5本の腕みたいなのがあって、その下に触手みたいなのがたくさんついているんですけれども、その触手がいわば記者であって、各々は気の向くままに勝手な方向に動いているわけですよ。でもなんとなく全体としては、うまいこと餌のほうに動いていく。全ての情報を統括する司令塔がどこかにあって、その命令で動いているというわけではないんですね。

荻上 多くのマスメディア企業には、統一したアイデンティティがあるわけではないですよね。個別の記者がいろいろな取材報道をし、その総体として、イデオロギー的に左寄り、右寄りであるとか、後付けで決まるものが多い。今回の各社の報道も、示し合わせたわけではないですからね。

久保田 結果的にシンクロしたっていう感じです。報道機関が示し合わせるなんて絶対にできないですよ。そうしたら特ダネなんてそもそも出ない。

荻上 「特オチを嫌う」ということくらいはあったとしても、示し合わせるっていうことはないわけですね。

久保田 「特オチを嫌う」ってことは、示し合わせてないっていうことの証拠なんですよ。「うわぁ、うちだけ行くの忘れた!」みたいなね(笑)。

菊池 朝日にだってちょっと前には、ホメオパシーに好意的な記事が載っていましたからね。

荻上 その点で朝日新聞の一貫性を批判したメディアがあると思うんですけれど、批判したメディアの中の人も、分かっているうえであえて「プロレス」をやっている部分があるでしょう。「いや、お前らだってそうだろ」っていうのは、全部に対して言える。ただし、そうした批判をすることによって、引き締めなおしといった機能があったということだと思います。

◇ホメオパシー騒動の考え方◇

久保田 これまで、疑似科学とか、超常現象といったものを追うことを、ずっと趣味としてきていたんです。その中の一つにホメオパシーがありました。だからホメオパシーだけが突出して問題というわけでもない。代替医療とか、民間療法といったものは、それだけを強く信じ込むことで、通常医療をスポイルしたり、近代医療を嫌悪したりして、その代わりに、効果のほどが証明されていない代替医療に頼り切ってしまう、ということが問題なんですね。

荻上 「通常医療」っていうのは、みんなが想像する、医者とか医術。代替医療は、ホメオパシーが一つとして挙がっていますけれど、他に例えばどういったものが挙げられるのでしょうか。

菊池 代替医療っていうのが、本当は何を指すのかはよく分からないですね。広い意味で言うと、漢方とか鍼灸みたいに、保険適応できるものも含まれていますから。

久保田 日本では昔から漢方とか鍼灸とかがありますが、西洋なんかに行くと、「針なんか刺して何が効くの?」っていうふうに、明らかに代替医療とされます。要するに、今の医学校で教えている以外のものの総称ですね。

菊池 民間療法って言えばいいとおもいますけどね。

久保田 代替医療って、そもそも代替してないだろっていう話がありますからね。

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 ホメオパシーの問題について考えるときには、いろいろな次元でのとらえ方が可能です。とりあえず大きく分けると、「基礎科学的問題点(理念的批判)」と「臨床的批判(実証的批判)」「社会的問題点」に分けられます。

 「基礎科学的問題点(理念的批判)」は、原理的な判断です。ホメオパシーで言えば、1個も分子が残っていないのに、効くわけない、水の記憶なんか全く証明されてないという批判ですね。二つめの「臨床的批判(実証的批判)」は、本当に効くかどうか実際に実験をしてみてチェックしてみてどうか、ということです。