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ホメオパシー論争、改めて整理しよう

久保田裕

久保田裕

 WEBRONZAの「GlobalPress」というコーナーで紹介された『牛にもホメオパシー』という記事がネット上の火種となっている。

 今月中旬、たまたまこの記事がアップされているのを見つけて、正直、たまげた。いままで朝日新聞のホメオパシー記事を読んできてくれた読者の方々も、ウェブといえども、なぜ朝日新聞がこんな記事を載せたのか、と驚いた方も多かったことと思う。

 WEBRONZAの「RONZA」は「論座」を意味する。その言葉通り、いろいろな議題に対して、賛成、反対の両論があってもいいのかもしれない。編集部としては、「欧州でのホメオパシーの話が興味深かったから載せた」ということだったが、この記事をこのような形でポンと載せるのは乱暴で、問題になりかねないと、その時から危惧していた。

 この際、ホメオパシー療法に関して一連の報道をしてきた朝日新聞科学医療グループとして、「牛にもホメパシー」の記事をふまえ、ホメオパシー論争をめぐる論点を改めて整理しておきたい。というのも、ホメオパシーに関する論争のなかで出てくる、「よくある間違い」が、とてもわかりやすく現れているからだ。

 まず、朝日新聞科学医療グループとしては、「ホメオパシー療法はあぶない」とは言っていない。ホメオパシーで薬代わりに使っている「レメディー」なるものは、単なる砂糖玉に過ぎない。単なる砂糖玉がそんなに「あぶない」わけがない。したがって、記事中の、この夏「ホメオパシー療法はあぶない」と大きな話題になった、という認識は当を得ていない。

 では、なにがまずいのかというと、ホメオパシーやそのレメディーといった民間療法に頼り切ってしまうことに問題がある、と考えている。それらを頼り切り、信じ切ることで、真っ先に受けるべき通常の現代医療を拒否してしまう、という事態が生まれかねないことが最大の問題点なのだ。

 この点については、ホメオパシー報道の口火となった「問われる真偽、ホメオパシー療法」という昨年7月末に朝日新聞beに載せた記事の中で、「最大の問題は、現代医学を否定し、患者を病院から遠ざける点にある」として指摘済みのことだ。

 乳児に通常投与されるビタミンK2を与えず、ホメオパシーのレメディーを投与し、ビタミンK欠乏性出血症による硬膜下血腫を発症して乳児が死亡した、と山口地裁に起こされていた民事訴訟が、今月和解となった。「内容を口外しない」という条件付きということなので、どのような条件で和解となったか詳細はわからない。

 だが、この裁判の和解に関連して、日本ホメオパシー医学協会がホームページ上で「ホメオパシーでは死んでいない」という意見表明を行っている。レメディーは「原物質を高度に希釈しんとう(物質がない程度)したもの」なので、「実際のところホメオパシー療法で死ぬことはありません」というのだ。

 確かにレメディーで直接死ぬことは、まずないだろう。だが、効果が十分に証明されているビタミンK2を拒否すれば、死に至ることはある。

 日本ホメオパシー医学協会は、ホームページ上で初めて「ホメオパシーのレメディーは、ビタミンK2のシロップの代用にはなりません」と認めた。当初から、こう強く宣言をしていたら、そもそも今回のような訴訟は、起きなかったのではないだろうか。

 話を「牛にもホメオパシー」の記事に戻そう。

 ホメオパシーの効果はプラセボ効果ではない、ということを示す二重盲検試験がADHDの子どもを対象にして行われている、ということが紹介されている。この二重盲検の論文に関しては、たとえば、ブログ「Not so open-minded that our brains drop out」(http://d.hatena.ne.jp/Mochimasa/20101226/p1)で、冷静な分析が行われている。本当にホメオパシーが有効なことが証明されたのか、ぜひ参考にして欲しい。

 ひとつ、ここで大事なことは、200年も前から議論になっているホメオパシーに関して、「月経前症候群」が治ったといった個人的な体験とか、効果を肯定した論文が一本あるとかいっても、もうほとんど意味はないということだ。

 ホメオパシーが効いたという体験談は山ほどあるし、反対に「効かなかった」という話も山ほどある。ホメオパシーを有効だという論文もあれば、無効という論文もたくさんある。

 このように話がこんがらがってきたら、より良質な論文だけを選び出し、その良質な論文群全体でどのような傾向や結果が導き出されるか、ということをみるしかない。一本、一本の論文ではなく、論文群全体の傾向をみるこの方法は「メタ分析」と呼ばれ、医学などでは議論がこんがらがった場合によく使われている方法だ。

 それで、ホメオパシー論文群にメタ分析を掛けたらどうなるか、ということがすでに行われており、その結果は「有効性があるとはいえない」という形となっている。「メタ分析で有効性がでなければそれはダメ」というのが、通常の科学における判断基準といえる。

 当該の記事では、「自己責任で服用する人は急激に減らない気がする」とむすんでいるが、この「自己責任で服用する人」という表現が気になる。これは、自己責任で服用するのだから、後で何が起ころうとそれはその人の責任という意味なのだろうか?

 日本ホメオパシー医学協会もそのホームページの冒頭で、「ホメオパシーを受けるものは、自由意志でホメオパシーを選択している。その方の自由意志で、現代医学など他の療法の選択を希望する場合、 JPHMA及び会員はこれをなんら制限することはない」と謳っている。

 私には、ホメオパシーの利用は自己責任なので、協会側には責任は生じない、と宣言しているかのように読めて仕方がない。

 だが、自己責任を問えるというのは、その判断すべき事項に対して正確で十分な知識を、判断する個人の側がちゃんと持っている、ことが前提条件としてあるべきだろう。

 例えば山口で起きた訴訟で、乳児を亡くしてしまった母親は、ビタミンK2が乳児にとっていかに大切なものであり、レメディーはビタミンK2のシロップの代用にはならないものだ、ということを、ちゃんと理解した上で、あえてビタミンK2を拒んだとでもいうのだろうか? もしちゃんと理解していたら、拒むということ自体がありないと思うのだが。

 また、ホメオパシーに関して勉強しようと思って本屋に行っても、日本にはホメオパシー賛美の肯定派の本しかない。こういった、いわゆる偏った情報しか手に入らない日本の現状で、「自己責任論」でホメオパシーの導入を安易に行うことには大変に問題がある、と考えている。

  ホメオパシーに関しては、シノドスの主催で、以前ニコニコ生放送で討論を行っている。その書き起こし原稿も、WEBRONZAにも掲載される予定なので、そちらもぜひ参考にして欲しい。

 なお、この討論のなかで、朝日の記事がかならずしも首尾一貫しないのはなぜか、ということの説明として、「新聞社というのは、脊椎動物というより、軟体動物に近い」という説明をしてみた。新聞社は、全体を統制する頭脳のある脊椎動物というより、手足が勝手に動き回っている軟体動物のようなものなので、右手と左手が勝手にバラバラに動いてしまい、外から見ると、一体どっちを向いているのかわからないといったケースが起こりうる。

 「牛にもホメオパシー」の記事がWEBRONZAの「GlobalPress」にアップされた、という今回の事態をみても、この「軟体動物説」はやはり正しかったのだろう、と改めてため息をつきながら、この小文を書かせて頂いた。

 今回の騒動でご迷惑をかけた方々には、軟体動物の端っことして、お詫びを申し上げたいと思う。


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筆者

久保田裕

久保田裕(くぼた・ひろし) 

【退任】1983年、朝日新聞入社。「メディカル朝日」次長、「朝日パソコン」次長、「ドアーズ」編集長、「朝日ジュニア百科年鑑」編集長などを経て、09年から2014年5月まで科学医療部・DO科学編集長。物理や宇宙などハードサイエンスを主に取材。趣味で、人はなぜ正統科学よりも疑似科学のほうに引かれていくのかを調査研究。その方面の著書も多数。

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