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[11]深刻度はレベル5

なぜ原発の冷却に苦闘するのか

高橋真理子 ジャーナリスト、元朝日新聞科学コーディネーター

 原子力安全・保安院は18日、原子力事故の深刻度を評価するときの尺度である国際原子力事象評価尺度(INES)の暫定値を発表した。これまでの事故では、チェルノブイリが最も深刻で「7」、米国スリーマイルアイランド事故が「5」、日本のJCO事故が「4」。3以下は事故ではなく、「異常事象」と位置づけられている。今回の福島第1原発については1~3号機が「5」、4号機は「3」とされ、すでに安全に停止した福島第2原発の1、2、4号機は、「重大な異常事象」の「3」とされた。

 福島第2原発は、深刻な事態が続いている福島第1原発から南に11キロ余りの海辺にある。ここには四つの原子炉があり、11日はいずれも運転中だったが、地震発生と同時に自動停止した。しかし、夕方になって1号機から冷却材(つまり、水)が漏れている兆候が見つかった。午後8時には外部電源を確保できたものの、除熱能力が不十分で、翌12日朝、1、2、4号機の冷却が不十分になる可能性があると東電が判断、法律に定められた「緊急事態通報」を政府にした。圧力抑制がうまくいかないということで、圧力を減らすため放射性物質を含んだ蒸気を逃す「ベント」の準備を始め、政府は第2原発から半径3キロ圏に避難指示、3キロ以上10キロ圏内には屋内待避指示を出した。だが、まず12日昼過ぎに3号機が冷温停止し、14日夕方に1号機と2号機が冷温停止。4号機は一部のポンプ機能が低下するなどのトラブルがあったが、16日朝に冷温停止した。結局、放射性物質の外部放出は準備しただけで実行することなしに安全な停止ができた。地震当日の夜から外部電源を確保できたことが大きかったとみられる。

 評価尺度は、所外への影響、所内への影響、原子炉内の不備、の三つの観点から判定する。今回、第2原発は放射性物質による汚染こそ出さなかったものの、所外に避難指示を出すという点で大きな影響を及ぼしたので、「事故にはいたらなかったけれど重大な異常事象」と判定したと考えられる。18日の段階で第2原発は安全に止まっている。

福島第一原発の(手前から)1号機、2号機、3号機。白煙の奥の白い壊れた壁が4号機=15日午前7時33分、東京電力提供

 第1原発については、12日に「暫定4」と保安院が発表していた。18日の記者会見での説明によると、これは12日午後に水素爆発を起こした1号機だけを対象にしたもので、このときは核燃料の損傷が少しあると見て「所外への大きなリスクを伴わない事故」レベル4とした。その後、14日には3号機で水素爆発が起こって建物の上部が吹っ飛び、15日には2号機でも爆発が起きて圧力抑制室が壊れた。専門家からは燃料の損傷は3%以上に及ぶという評価が下され、原子炉内の圧力を減らすための蒸気放出だけでなく、爆発に伴う放射性物質漏れもあったとみられたことから、1~3号機のいずれもが「所外へのリスクを伴う事故」レベル5となった。

 4号機は定期点検中で原子炉に核燃料はなかったが、それを保管していたプールの水温が上がり、水蒸気が出ている。水が減って核燃料が水の上に顔を出すと、核燃料の温度が上がり危険な現象が起きるのではないかと心配されているが、東京電力は4号機のプールの水位は高いと判断しており、現段階では「事故」ではなく「重大な異常事象」のレベル3と判断したようだ。ここでは火事も起きたが、核燃料の漏出に関係しない出来事はこの尺度では考慮されないので、「事故」までには至っていないという判断になったのだろう。

 第1原発では、18日現在、外部電源をつなぐ必死の作業が続いている。第2原発がすでに冷温停止していることを考えると、電気が来ることがいかに重要かわかる。

 なぜ原子炉は運転を止めても熱を出し続けるのだろうか。これこそ核エネルギーを利用するとき必ずつきまとう課題なので、説明しておきたい。

 ウランに中性子をぶつけると、ウラン原子核は二つに割れ、中性子とエネルギーが飛び出す。これが核分裂だ。割れ方はいろいろで、40通り以上あるという。代表的なのは、キセノンとストロンチウムに割れるというものだが、割れたものは不安定ですぐに放射線を出して別の原子核に変わる。こういう現象を「核崩壊」と呼ぶ。核崩壊でできた原子核も同じく不安定な場合が多く、安定な原子核に行き着くまで次々と放射線を出す反応が進む。こうして出てくる放射線が全体を熱する。これを「崩壊熱」と呼んでいる。

 運転中はこの熱も発電に使うので問題はない。問題は止めたときだ。核分裂反応はすぐに止めることができるが、崩壊熱は止めることができない。自然に進んでいく現象だからだ。核分裂をさせていたとき出ていた熱を100とすると、とめたときの熱は8ぐらい、数時間たっても1ぐらいの発熱で、その後の発熱量はゆっくりとしか減っていかない。「余熱」と聞くと放っておけば自然に冷めると思ってしまうが、核燃料の場合は発熱がいつまでも続くのだ。しかも元々の100の熱というのが何十万キロワットという大きさだから、たとえ100分の1になってもかなりの発熱になる。そして、燃料自体の熱が上がると、核燃料を覆っていた合金が融けたり、思わぬ化学反応が起きたりする。それで放射性物質が気体となって外に出てくることもある。もっとも恐いのは、高温状態が長く続いた結果、せっかく止めていた核分裂反応が再開してしまうことだ。

 核分裂反応の再開だけは何としても食い止めなければならないと、現場は奮闘しているのである。