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【科学朝日】福島原発事故と原子力エネルギー(collaborate with 朝日ニュースター、4月14日放送)

朝日ニュースター

 朝日グループのジャーナリズムTV「朝日ニュースター」は、通信衛星などを利用して24時間放送しているテレビチャンネルで、ケーブルテレビ局やスカパー!などを通じて有料視聴することができます。4月から始まった新番組「科学朝日」は、高橋真理子・朝日新聞編集委員がレギュラー出演する科学トーク番組です。WEBRONZAでは、初回の番組内容を無料のスペシャル記事としてテキスト化してお届けします。

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4月14日放送「福島原発事故と原子力エネルギー】

ゲスト:住田健二・大阪大学名誉教授

高橋:こんばんは。本日からスタートします科学トーク番組「科学朝日」、司会を務めます朝日新聞編集委員の高橋真理子です。

 「科学朝日」と聞いて懐かしいと思われた方、どのくらいいらっしゃいますでしょうか。朝日新聞社が1941年、昭和16年に創刊しました科学月刊雑誌が科学朝日です。創刊から55年たって、1996年に「サイアス」と名前を変えて部数増を目指しましたが、残念ながら2000年に休刊となりました。そして2011年、新たにテレビ番組として「科学朝日」が復活いたしました。

 この番組では、物理、IT、環境、医学といったことをテーマに、第一線の研究者の方をお招きし、お話を伺います。また、朝日新聞がネット上で展開する言説空間「WEBRONZA」と連動していくことも大きな特徴です。「WEBRONZA」では番組を文書化したものをごらんになれますので、どうぞご覧ください。

 インターネットの爆発的な普及とともに、メディア環境は激変しました。そうした新しい時代にあわせ、「科学朝日」が生まれ変わりました。科学に興味をお持ちの方はもちろん、科学を遠いものと感じていらっしゃる方にも楽しんでいただける番組を目指します。どうぞよろしくお願いいたします。

 さて、第1回のテーマは今、日本にとって、そして世界にとっても最大の関心事になっている「福島原発事故と原子力エネルギー」についてです。ゲストは、原子力安全委員会の委員を1993年から2000年まで務められた大阪大学名誉教授の住田健二さんです。住田さん、どうぞよろしくお願いいたします。

住田:こんばんは。よろしくお願いします。

高橋:まずは、記念すべき科学朝日の第1回に、ようこそお出でくださいました。

住田:私、子供のころに「科学朝日」というのは愛読をしておりまして、非常に懐かしい名前だなと。

高橋:まさに懐かしく感じていらっしゃるお一人で。

住田:はい。子供時代に、もう少し小さい小学生くらいですと、「子供の科学」という本がありまして、中学生くらいになると少し生意気になってきて「科学朝日」を読めるようになる。何となく偉くなったような気がしました。もっと大人になると「自然」という雑誌があったんです。ちょうど「科学朝日」くらいが中学生ですから、「科学朝日」っていうと、もう今日なんかもちょっと思ったんですけど、昔のあの表紙を思い出すんですね。ですからその第1回に呼んでいただけるというのは、私にとっては非常に光栄だと思います。

高橋:ありがとうございます。それでは今回のテーマ、「福島原発事故と原子力エネルギー」のお話に進みたいと思います。大震災から1カ月余りたちました。今、この原発事故を先生はどのように受け止められておられますか。

住田:第1回の話題としてめでたいことを話しさせていただけるのだと非常にうれしいのですけれどね、ある意味では私は関係者ですから、今のようなお話についてお話しするとしたら、まだ残念ながら十分に見通しがついてないと。

 ただ、関係者が一丸となって努力をしております。懸命な努力をしておりますけれども、まだやはりこうやってこうやってこういうふうになっていますというようなふうに、段取りよく何か見通しを、明るい展望でお話しできるというところまではまだちょっと行ってないと思うんです。

高橋:そうですか。今日はそのあたりを詳しく伺っていきたいと思います。CM、いったん入ります。

(CM)

高橋:「科学朝日」本日のゲストは長年、原子力研究に取り組んでこられた大阪大学名誉教授の住田健二さんです。改めましてよろしくお願いいたします。

住田:こちらこそ、よろしくお願いします。

高橋:さて、まずは今回の事故のこれまでの経過を振り返ってみたいと思います。3月11日に地震が起きました。それですぐに停電になったわけですね。このときは、非常用電源が働いたはずなんですが、約1時間後に大津波が来て、それによって非常用電源も流されてしまったと。これで原子炉の中の冷却ができなくなって、「緊急事態発生」という連絡が政府に行ったわけですね。ここにあります1、2号機の緊急炉心冷却システムで注水不能、注水ができないということが確認されて、「原子力災害対策特別措置法」に基づいて緊急事態発生ということを東京電力から国に報告したということなんですが、この「原子力災害対策特別措置法」という法律は、先生が原子力安全委員会委員を務められていたときにできた比較的新しい法律なんですね。

住田:そうですね。はい。これは、そのときの経験をもとにして、やはり原子力関係の特別な対策が必要な災害が起こったときには、特別な措置を取ろうということで、一般にもちろん天然災害なんかに対しても、そういう国としての法律があるんですけれども、原子力だけの固有の問題について取り上げて処置ができるように、別扱いにしたというのが。

高橋:そのときの経験というのは、茨城県で起きたJCO事故ですね。

住田:まあ、それだけじゃないんですけれどもね。

高橋:それだけじゃないんですか。

住田:ではないんですけど、そのきっかけになったというのは、そういうことですね。

高橋:JCO臨界事故のときの一番の反省点というのは、この連絡がうまくいかなかったということだったということなんでしょうか。

住田:それもありますしね、やはりどういうんですかね、政府が前に出ていろんなことをやらなきゃいけないときに、その流れがですね、例えば災害の種類によっては県知事が中心になってやることも地方自治体が中心になることもありますけども、やはり原子力災害の場合は国が前へ出ていろいろやらなきゃいけないというような。その流れを見やすくしたというのが一番大きな特徴だと思うんですけれどもね。

高橋:この特別措置法によって、そういう流れが見やすくなったということなんですね。

住田:はい。

高橋:とりあえず今回の事故を時系列で追っていきたいと思います。3月11日のうちにまず第一原発から半径2キロ圏内の住民の方への避難の呼びかけがされました。同じ深夜に2キロじゃなくて3キロ圏内に拡大されまして、さらに3キロから10 キロ圏内の方は屋内退避するような要請が出ました。屋内退避というのは家の中にいてくださいということですね。

 翌日になりますと、早朝ですね、もう10キロ圏内すべて避難してください、屋内退避ではなくて10キロから外に出てくださいという指示に変わりました。そうしていましたら、12日の午後3時半ごろでしたけれども、1号機の建屋で水素爆発が起きて屋根が吹き飛んだということですね。その後に、今度は避難区域が20キロ圏に拡大されます。その後も事態は好転しなくて、次々と大きな事故が起きていったわけですね。今度は14日に3号機が水素爆発して建物上部が、1号機のときよりもっとひどく壊れました。15日、また早朝に爆発音がしまして、4号機では使用済み核燃料のプールが原因と推定される火災も起きました。2号機では圧力抑制室と呼ばれる部分が壊れたんじゃないかと言われています。それで、今まで20キロ圏内が避難区域だったんですけれども、新たに20~30キロ圏内の方は屋内にいてくださいという指示がされました。それで17日になって自衛隊のヘリコプターが上空から水を撒くということがあり、その後、いろいろ水を入れるという作業が警視庁や東京消防庁などで行われたと。

 初期の流れはこういうことだったんですけれども、この流れを先生はどうご覧になっておりましたでしょうか。

住田:非常に残念なことが次々に起こっているという感じですね。こういう事故というのはスムーズであるはずがないんですけれども、一連の流れの中で次はこんなことが起こるだろう、この次はこうじゃないかというような、何となく予測ができるじゃないですか。ところが次々、予測できないようなことが、あるいは予測していなかったようなことが起こってきて、Aのことがあって、それがうまくいってればBにはならないはずだと思っているのがBがうまくいっていなくてCが起こるというような、そういう不可抗力ではないんですけれども、次々予想外のことが起こったという、そういう意味では私も多少、いろんな事故のことを勉強する機会はあったんですけれども、これぐらい続けて想定外という言葉を使うと大変叱られますので、予想しなかったことが次々と起こったという、そういう印象は持っていますね。

高橋:専門家の先生でも、もう予想外のことが次々起きたということですね。

住田:はい。

高橋:普通の方々にとっては原子力発電所というものがどういうものかというのは、あまりよく知らない、言わば得体の知らないものと受け止められておりますので、その分、ますます恐怖感というのは増すことがありますよね。

住田:はい。

高橋:やっぱり知るということが対処の第一歩だと思いますので、ちょっと原子力発電所の仕組みを今日は先生に解説していただければと思います。

住田:ここに絵がありますので、それを使ってお話をさせていただきたいんですけれども、原子炉というのはよく言うことなんですけれども、核燃料と呼ばれている核分裂をする材料、それに中性子を持ち込んでやって、それに核分裂を起こさせて、それが連鎖反応を起こして、そのときに出るエネルギーを使うわけです。原子炉というのは、そういう核燃料というのが入っていると。それから、核分裂をするのを制御するために制御棒というのがありまして、これは中性子を吸収する材料、ボロンが使われていることが多いのですけれども、そういうものを出し入れしてやって、出力を調整したり、あるいは連鎖反応をやめさせてしまうということです。

 それから、それを動かす、こういう駆動装置と書いてありますけれども、これはちょっと覚えておいていただきたいと思うのですが、今度事故を起こしたのがなぜ沸騰水型炉かというのは後で申し上げますけれども、その場合には制御棒を下のほうから入れているのです。もう一つのタイプのやつは加圧水型炉というのがあるのですが、これは上のほうから入れるのですけれども、この場合は下から入っているというのが1つの特徴だと思います。沸騰水型炉という名前が出ましたから申し上げるべきなのですけれども、その前に申し上げておきたいのは、燃料が入っていたらそれで連鎖反応が続くかというと、そうはいかないので、核分裂のときに出た中性子をぶつけて速度を遅くしてやって、分裂しやすいような状態になるようにして、次の核燃料にぶつけてやる。そういうのは減速材というのですけれども、その役割をするのは一応ありふれた材料ですが、水をよく使うと。

高橋:これは、普通の水でよろしいんですね。

住田:ええ。この場合は、普通の水です。原子力をやっている人間は、軽水という言葉を使いますけれども、重水というのがあるんですが、それは元素記号で言うとDという重さが2倍の特殊な水素でできた水ですけれども、この場合はそうじゃありません。今度事故を起こしたのもそうですし、日本で使われているのはほとんど軽水の普通の水です。もちろん、原子炉の中で使うのですからフィルターを通して非常に純粋ないい状態にしていますけれども、普通の水を使っています。その水が、この燃料の中に入っていて、ここで発生した核分裂によって熱発生をしますから、それを外へ持ち出すという役割をしているわけですね。

高橋:熱を外に持ち出すんですね。

住田:はい。その熱を持ち出すときに、ここにありますもう一つのタイプのやつは、2台ある構造なんですけれども、水の温度が上がったままで、これは 100度で沸騰するというのは我々が知っている式ですけれども、100度で沸騰するというのは普通の状態なんです。沸騰させないように、うんと気圧を上げておいて200度とか300度まで、そうすると沸騰しませんから、それを外へ引っ張り出して熱を取り出すというやり方が1つあるんですね。

 ところがそうではなくて、この沸騰水炉のところは、この原子炉の中で沸騰させてしまうんです。水蒸気にかえまして、その水蒸気を外へ引っ張り出して、タービンを回すという、それで沸騰水炉という名前、英語でBoiling Water Reactorですから、BWRというふうに書いてあります。

 それがどうなっているかと言いますと、さっき言いましたようにここに燃料があって制御棒があって、この部分を普通炉心部というのですが、それをこの中で沸騰させるのですけれども、その部分が一番大事なところですから、炉心部のところを中心にして、これは圧力容器という言葉が書いてありますけれども、これはやっぱりかなり気圧が高くなっているのですが、そういう圧力のかかっている入れ物、圧力容器ですね。その中で水を回して沸騰させるものですから、再循環ポンプというポンプがあって、これがうまく回ってくれないとなかなかうまく冷却しません。今、事故を起こしていますからこの再循環ポンプは止まってしまっているので、いろいろ問題があるわけですけれども。

 うまくいって水蒸気ができた、蒸気が飛んでいって、高温高圧の蒸気が飛んでいってタービンを回して発電機を回して電気に変わると。それから、水蒸気のほうは復水器というので、これは普通、海の水を使うのですけれども、外から水で冷やしてやって蒸気を水の状態にして給水ポンプでまた送り込んでやると、そういうことをやっているわけですね。

高橋:そのグリーンの部分が海水を使っているわけですね。その復水器に入ってくる、それで水蒸気がそこの海の水の温度に触れると冷めて水に戻って、また原子炉圧力容器の中に戻っていくと。

住田:今度の場合、特徴的なことは、いろいろ話題になったからお気づきだと思うんですけれども、普通はきれいな水を特別な系統で守ってやるわけなんですけれども、ポンプが故障したのでうまく水、この給水ポンプのこの系統が動かないと。仕方がないから、もうこの海水のポンプをこっちにつないで、直接海水を注ぎ込むというようなことをやらざるを得ないという。それをやりますと、原子炉は後で使いものにならなく可能性がある。ためらうのですけれども、今度はやむを得ないということで、海水で中を冷やしたという。

高橋:海水をどこから入れたのかというのが最初よくわからなかったのですけれども、これはこの普通の。

住田:この給水ポンプのところへ、何かうまくやってつないだんだろうと私は思いますけれども。詳しくはちょっと存じませんが。

高橋:とにかく冷やさなきゃいけないということで、このポンプが回らない以上、どこかから水を入れなければいけないと、そういうふうになったわけですね。

住田:それで、そういうことでタービンを回してですね、電気をつくり出すと。これが沸騰水炉の特徴なんですね。

高橋:原子力発電所の仕組みはこういうことになっているという。ただ、タービンを回すところは、もう火力発電所と変わらないわけですね。

住田:同じだというふうに考えていただけたら。

高橋:火力発電所では、こっち側は石油を燃やしていると。

住田:はい。

高橋:原子力発電所は核分裂反応の連鎖反応を使って熱を出していると、そこの違いだけであるということなんですね。

住田:はい。

高橋:今度は先生、燃料集合体が出てきました。これは。

住田:そうですね。すいません、これちょっと言うのを忘れたのですけれど、それじゃあ核燃料はどんな格好になっているかと言うと、これは後でまたお話しするチャンスがあると思うのですけれども、普通はウランの酸化物をペレットというようなここに小さな絵がありますけれども、1センチ、1センチぐらいの。

高橋:随分小さいですね。

住田:小さいものですね。で、それをこういうジルコニウムという特殊な金属の被覆管という名前で呼んでいるのですが、その中に入れて、そうするとこれ全体は4.5メーターという随分長いものですけれども、こういう筒をこういうふうに縦に並べて、これ全体を普通、燃料集合体という名前で呼んでいるのです。こういうブロックにして、これを上から格子のところに入れてやって並べていくというようなことをやるんですね。それから、さっき言った制御棒というのは、この間のすき間のところに十字になって下からこうやって張り付けるというような構造を持ちます。

 大切なことは、原子炉の安全性といいますか、大事に使うためには、このジルコニウムの被覆管が破れたりしますと大変なんですね。ですから、この被覆管が破れたりしないように気をつけなきゃいけない。ということは、つまり温度が上がりますと、あまり温度が高くなるとこれが壊れたりする。それを防ぐために水で冷やしているのですけれども、この被覆管がもし損傷するようなことがあると大変なことなんですが、それが起こってしまっている、現在はですね。そこで一つの大きな、事故としては、これが曲がったりするということはときどきあるんですけどね。

高橋:そうなんですか。それは熱で上がり過ぎるとか。

住田:いろいろなことで。それくらいだと制御棒が上手にうまく入らないとか、そういうことくらいで済むのですけれど、今度の場合は被覆管が地震の震動でというよりは、むしろ温度が上がり過ぎて、これが一部溶けたりしているんじゃないかと。それから、ジルコニウムというのは特殊な合金で非常に固いんですけれども、千何百度ぐらいまでは持つのですが、それが溶けてしまいますと、そのときに水素が発生するということがあって、それが集まってきて上へ抜けて、どこかへ固まって爆発したという、さっき水素爆発とおっしゃっていましたね。あれなんかは、そこから出てきた。水も放射線が当たりますと少し分解して水素を出すということもあるので、どっちのやつかというのは一概には言えないのですけれども、この場合にはジルコニウムが燃えて水素を出したんだというふうに我々は考えている。それが大部分だろうということですね。

高橋:通常の発電の状態だと、この被覆管がきちんとしていれば核分裂で出てくる放射性物質というようなものは、この中に全部閉じ込められているんですね。

住田:閉じ込められているわけですね。

高橋:ただ、中性子はここから外に出てくるわけですよね。

住田:ええ。中性子はもう遠くまで飛びますからね。もちろん速度を落としてやった中性子は、この燃料の中にとどまるのですけれども、それ以外にもぼんぼん出ていますから。

高橋:出てくるものは中性子と、あと何か出てくるんですか。

住田:ガンマー線が。

高橋:ガンマー線が出てくる。

住田:ガンマー線も透過力が非常に大きいですから、中性子とガンマー線の両方が原子炉の外へぼんぼん、ぼんぼん出てきているという。ただし、実はこの中で一番嫌なものは、このジルコニウムの中に封じ込めてあるペレットと言っているこれですね。これは、ちょっと見ますともう何の変哲もない黒い筒状の固まりなんですけれども、ウランの酸化物なんですが、実際は原子炉の中に入れて使いますと、そこへ俗に言う死の灰というのが溜まってくるわけですね。核分裂をどんどんしますから、それがペレットの中がどんどんそれに変わっていくという表現を使ったほうがいいと思うのですが、溜まってきます。ですから、何とかしてとにかくこの被覆管を破られないようにするのが1つ考えられる。でも、それはときによっては何か普通の運転をしていても、これが少し傷んだり何かすると漏れてくることがあるわけですよね。今度は、さっきの図面に戻るんですけれども、そういうものを全体にした集合体を入れたような大きな、僕らはよく冗談でお釜と言ってますけれども、10センチ強の厚みのある鉄でつくった、いわゆる圧力容器というものがある。これは、沸騰水型炉の場合も加圧水型炉も、いずれにしても普通の大気圧よりも高い圧力で、その中に押し込んであるわけですね。ですから、その圧力容器というのが次の障壁といいますか、これは10センチ以上もありますから放射線を止める効力もありますけれども、本来の役割は封じ込めの役割をしている。

高橋:死の灰は、この中に封じ込める。

住田:だから、死の灰というのは、ここで1つ、この中で封じ込めてやって、この圧力容器で封じ込めてやってと。その外にまだ格納容器があって、それが気密性を保っているんですね。よく五重の壁という言葉を使うので、私はあの言葉は嫌いでして、よくPRなんかに使っている言葉で五重の壁って、五重じゃないでしょう、僕は三重だと思っているんですけれども。

高橋:そうなんですよね。何が五つなのかって、よくわからないんですよ、私どもも。

住田:ペレットのところは、もうガス状の核分裂生成物といいますか、死の灰は、割合気楽に出てくるんですよ。だから、あまり壁になっていないんですよね。それからもう一つ、一番外の格納容器の、そのまた外に気密性が保たれているのだけれど、それもそんなに頑丈な建物でもないんですね。

高橋:いわゆる建屋ですね。

住田:建屋ね。建屋は雨天対策よりはマシだけど、だから本当のところ、何が何でもというふうに頑張っているのは、やはり被覆管、それから圧力容器。

高橋:2番目。

住田:それから格納容器。

高橋:3番目。3重の壁。

住田:はい。だと私は、いつもそういう説明はさせていただいているんですけれどもね。

高橋:なるほどね。このような原子力発電所が、日本は今幾つあるかということなんですが、54基と聞いていますが。

住田:それでね、まあこのそれぞれの点のところにまた、例えばこの事故を起こした福島第一発電所というのは要するに8機あるわけですね。

高橋:今、6機ですね。7、8が計画中。

住田:計画ですね、ごめんなさい。それから、第二のほうは4機ですけれども。それから、単独に一つだけポツンというのもあるんですけれど。これちょっと見ていただいたらわかりますように、この前、地震のときにいろいろ問題になった柏崎刈羽の発電所に7機あるわけですね。それから、福島がこれで今、動いているのは10機ですが、あと二つ計画ですけれども、ものすごく集中してつくられているんですよ。これ海辺なんですけども、これね、日本だけとは言いませんけれども、海外でもこんなに集中しているのはないんですね。

高橋:ああ、そうなんですか。

住田:3とか4が多くて、今度事故を起こしたことについての我々の反省としては、ついいい条件の土地が見つかって、地元の方も快く受け入れてくださったという、それに甘えてですね、次々つくっていくわけですね。それで、ついつい調子に乗ってつくり過ぎたらこういうことになったと。うまく動いているときは、むしろそばに同じものがあるほうが、いろいろ便利なことも多いんですけども、今のようなことになってみますとね、それでよかったのかなという反省が今、我々の中ではある。よその国にない日本だけの特徴的なことの一つは、辺に集中してつくられているということですね。

高橋:そうですね。

住田:今度の津波なんかもそうですね。

高橋:でも冷やすために海水を使うので、海辺じゃなきゃいけないのではないんですか。

住田:海外では、むしろ大きな河川のね。

高橋:川でいいんですね。

住田:はい。だから、例えば揚子江とかね、黄河とかね、ドナウ川であったりね。そういう大きな河川のそばに、発電所がある。だから、海外で旅行された方は、よく原子力発電所が大きな川べりに並んでいるのを見て、おやっと思われることが多いと思うんですけれどもね。

高橋:ただ、集中立地はしてないわけなんですね。海外ではね。

住田:せいぜい2機とか3機ぐらいで、こんなにたくさん並んでいるのは少ないですね。

高橋:わかりました。それで、今回の事故の話に戻りましょう。現在の事故、福島第一原発はどうなっているかということですね。先ほどもちょっとご説明したように1号機は水素爆発が起きて、それぞれ今お話の説明のあった原子炉と格納容器については。

住田:まず、原子炉の炉心の部分ですけどね。そこに入っている燃料が、正直言いましてかなり傷んでるんじゃないかというふうに。これは、中を覗いてみるわけにいきませんから、そこから放射性物質が漏れているとか、あるいは温度の状態から推定するわけですけれども、残念ながら1号機から3号機まで、これが運転中だったんですね。4号機というのは停止していて、そこで使用済みの燃料が別途のところにしまい込んであって、ここなんですけれども。

高橋:プールに入っていたというお話ですね。

住田:はい。これが問題を起こしているのですけれども、運転中だったやつは不明というふうに書いてありますが、不明というのはちょっと控えめな言い方で、まずかなり、1号機と3号機について言えば、間違いなくかなりの損傷が起こっている。

高橋:原子炉の燃料棒については損傷の疑いと書いてあります。不明はプールの燃料棒ですね。

住田:はい、ごめんなさい。

高橋:損傷の疑いがあるのは、もう1、2、3、すべて損傷の疑いがあると。

住田:はい。

高橋:損傷というのは、先ほどのジルコニウムの合金がもう壊れてしまっているということですね。

住田:壊れてしまっているということなんですね。それから、4号炉のほうは、これは運転していなかったから大丈夫だと思っていましたら、そういう使用済み燃料をプールに入れて置いてあるところに、大体3回分くらいの炉心の燃料が入っていたのですけれど、それがやっぱり使用済みでも、何回も言いますように核分裂が終わったからといってすぐ発熱が終わるわけじゃないので。

高橋:ずっと発熱は続くんですね。核燃料っていうのはね。

住田:それを水がなくなったものですから、それがもう火災を起こして、やっぱり燃料が損傷したらしいということなんですよ。ですから、1、2、3、4と全部問題があるという状況に現在なっている。5、6のほうは、たぶん大丈夫だろうというふうに、きちんと冷やすほうも何とかなっている、現在では何とかなっているようですけれどもね。

高橋:電源も復活しましたからね。それで、5、6は冷却システムがうまく動いているということですね。しかし、1~4号機については、これからどうなっていくのか、その見通しがなかなか立たない。

住田:やっぱり冷却が必ずしも十分うまくいっていない可能性があるので、それから海水を使っていますからね。海水を炉心に入れて、こういう冷却をやったというのは、例があまりない、おそらく全然ないと私は思いますけれども。ですから、普通の真水に戻して、真水にして。

高橋:戻しましたよね。

住田:はい。いい状態の水で運転しなければいけない。それから、非常電源もきちんとして、普通の冷却系統に戻したいわけですね。それがまだ完全に戻っていないと。だから今、一生懸命になって冷やそうとして現場はもう大変だと思うのですけれども。そういうふうに考えていただければ。まだ安心して、手放しでもう放っておいて大丈夫ですよという具合には、なかなかいかないと。

高橋:安心できる状況ではないんですね。

住田:はい。

高橋:収束のための方針としては一応原則があるんですよね。

住田:はい。それをちょっとここに申し上げますと、「とめる」というのは何をとめるかと言うと、核分裂の連鎖反応を止める。

高橋:はい、連鎖反応を止める。

住田:これは一応、全部の炉について成功しているようです。

高橋:制御棒が入って核分裂の連鎖反応は止まりました。

住田:ただ、気をつけないといけないのは、例えば使用済み燃料のところなんかは原子炉ではないですから、ボロンとかで連鎖反応を止めるような工夫はしてあるんですけれども、地震で揺すったりしていますからね、何か変なことが起こっているかもしれないので注意しないといけないですね。でも、原則的に言えば、「とめる」というほうは、まず全部成功したと。

 さて、冷やすほうですが、さっき言いましたようにポンプが止まったり、それからポンプが止まったために制御棒が水に浸かってない状態で崩れたりしていて。

高橋:燃料棒ですね。核燃料棒が水から外に出てしまって熱くなり過ぎて溶けて崩れてしまったと。

住田:はい。水の流れも何かおかしくなったりとかして。ですから、冷やすというのが十分いい状態で冷やせているかどうかというのは、かなり疑問がありまして、ただこれはとにもかくにも熱が続いている間は冷やさなければいけないので、だから永久にということではないのですけれども、少なくてもここ数カ月間くらいは一生懸命冷やさなければいけないと。それに今、懸命になっているところだというふうに考えていただいたらいいと思います。

 それから、「閉じ込める」というほうですけれども、さっき言いましたように、一番理想的なのは燃料棒のところでまず1回止めるわけでしょう。これは、もうかなり破られてしまっていますから、第一段階はだめですね。それから、その次の今度は圧力容器ですけれども、これも残念ながら完全に封じ込めができていなくて、いろいろなところから地震のときにクラックが入っているのか、あるいは可動部分とか信号のケーブルなんかを引っ張ったりしていますから、そういうところが少し漏れているんじゃないかというふうに考えなければいけないので、だから閉じ込めについて言えば、要するにクエスチョンマークを付けざるを得ない。これもやっぱり今の状態で言うと、かなり長期間にわたって努力をしないと、ただ置いておいたらそれでもう止まっていますよ、これはもう封じ切ってあるから大丈夫ですというような、そんな状態ではないんですね。ですから、かなり努力を今後とも続けていかなければいけないという、それが全部、もう手放しで大丈夫だという状態になるには相当期間かかるんじゃないかという。

高橋:そういう状態なんですね。

住田:はい。

高橋:それでは、いったんここでCMです。

(CM)

高橋:「科学朝日」、本日は「福島原発事故と原子力エネルギー」というテーマで大阪大学名誉教授、住田健二さんをお迎えしてお送りしています。

 先生、原発事故、非常に深刻な状態にあるというご説明を今までしていただいたわけですけれども、今回、4月11日、月曜日に政府が新たな避難の指示を発表しました。今までは避難指示と屋内退避、2つの指示があったんですけれども、今度初めて出てきた言葉が計画的避難区域というもので、ここに出ていますが、この飯舘村とか葛尾村、こちらの一部も入っていたと思いますけれども、計画的に避難しなさいということですね。今まで屋内退避が指示されていた20キロから30キロ圏内のこの部分は、緊急時避難準備区域ということで、緊急時のときはさっと避難できるように準備して、多少中に入っていいですよと。こういうふうに指示が変わったわけですけれども、これはどうしてこのように指示が変わったんでしょうか。

住田:これは、事故の直後はどういうふうに放射性物質が拡散していくかというのはわからないわけですね。それから、一応大事を取って同心円状、要するにこういう丸を書いて、発電所から10キロ以内は全部、20キロ、30キロというふうにやったと。ところが実際、やってみますと風が大体そのときによって、例えば偏西風とか、いつもこっち向けに風が吹いているというようなことがあって、ここではやはりこちらの北西の方向に風が吹くことが多くて、そちらの方向に流れていると。逆に、そうでないところについて言えば、そんなに大事さがなくても少しくらいは緩めてもいいんじゃないかと。ですから、実態に即したような退避の指示を変えようではないかと。実態に即した対応だというふうにお考えいただいたら一番わかりやすいと思います。

高橋:実際に、その放射性物質がどのくらい、どの地域に行っているかというデータが出ているんですね。これは、スピーディーという日本が持っているシステムなんですね。これは3月23日に発表されたものですけれども。

住田:それから、あとのデータも積算して、入れてこうなるだろうというのが今、ここに出ていますね。

高橋:これは、試算となっていますから実測値ではないわけなんですね。

住田:ただ、試算と書いてありますけれども、このスピーディーというのは、例えで言うのならば、こういうコップの中にポンと何かを落としたら、ばっとインクを入れたら散っていきますよね。その状態を計算機でシミュレーションしているわけですけれども、そのポトンと入れたやつがどういう状態で入ったかとか、あるいはどういうふうに広がっていくかというのは、ある程度モデルをつくっておいて計算するのですけれども、そのモデルが適当だったかどうかというのは、実測値から逆算していって修正できるわけです。ですから、よく言われるのですけれども、説明していた人がもとの一番最初の、これはソースと言って泉源ですけれども。

高橋:放出された大もとの量ですね。何が放出されたのか、どのくらい放射能が。

住田:よくわからないからね。という言い方をされたので、そんなことはないので、それは最初はそうかもしれませんけれどもね。いろいろなところで測っているわけですから、計算してみて違っていたらいろいろ変えていったらいいんですよ。だから、これは知らんとは言うけれども、全くのそういう修正がきいてないのではなくて、現実に合わせるような計算、やり方をして、ここはどういうものが漏れていたかと。あるいは、どういうふうに風が吹いているか、そういうのを実際のものに合わせて、むしろ計算していると。だから、試算と言うけれど、全くの勝手に風向きがこっちだからこうなっているでしょというような、そんなもんじゃないんですね。

高橋:実測値を踏まえたものになっていると。

住田:踏まえたものだというふうに考えていただければと思います。

高橋:さらに、これが4月11日になりますと、1年間の積算量を推測したものが出てきました。ちょっと20キロ圏内も出してほしかったなと思うのですが、政府は20キロ圏内から外だけのデータを出したのですけれども。

住田:責任範囲が、この20キロ圏よりも外に対して、特にそういうことを政府がやらなければいけないというふうに感じたのでしょうね。

高橋:考え方としては20キロ圏内は、もう避難指示が出ているから、もう誰もいないと。そういう前提なんですね。

住田:もうそこは退いてくださいとお願いしたのですから、むしろこちらのほうに新しく、そちらのほうにはどうもたくさん行っているから気をつけてください、あるいは退いてくださいとお願いしたので、それをただ今までどれだけ行ったというよりも、むしろこのままそこにいたとしたら、幾らくらい浴びるだろうという形に直したものを示したということですね。そういう意味では、これは推定の試算値だと言うけれども、かなり現実にそういうものが起こり得る値だというふうに考えたほうがよろしいかと思うのですけれどもね。

高橋:年間で一番高いところを見ると200ミリシーベルトの地域だと出ていますね。年間200ミリシーベルトと言うと、先生どうなんでしょう。

住田:例えがちょっと言いにくいのですけれども・・。

高橋:200というのは、かなり大きい数字だということは間違いないですね。

住田:はい。

高橋:そうすると、そこの方たちは避難したほうがいいということになりますか。

住田:でも、その人によっても考え方は違うと思うのですけれども、それによって得られる便益といいますか、例えばそこに自宅があるのにわざわざ200だから逃げ出すかどうかというのは、迷うところじゃないんでしょうか。そういうものから比べて、これだけ浴びたイコール200ミリだからすぐ動かなければいけないというふうに思われるかどうかというのは、かなりその人の生活様式とか何かだと僕は思うのですけれどもね。

高橋:その辺は、かなり幅があるものと考えたほうがいいということですね。

住田:幅があると思うんですね。例えば、200をちょっと超して210になったらいけないとか、あるいは190になったらものすごくいいんだとか、そうじゃないだろうと。しかも、これは予測ですから、それこそ1年間いたとしたらという値ですから、私はその程度を示していると思うのですけれどもね。

高橋:大まかな傾向として認識すればいいと。

住田:ええ。

高橋:ただ、実際に避難指示が出た方たちにとっては、一体いつまでこの避難生活が続くのかというのが一番の関心事だと思うのですが、そこはどういうふうに考えたらよろしいのでしょうか。

住田:それが一番悩ましいところだと思うのですけれどもね。さっき言いましたように、原子炉の場合は止めるというのは大体成功しているから、でも止めただけであって、それは本体は依然として同じところにいるわけですから。

高橋:冷やすことができてないんですね。上手にはできてない。

住田:冷やすほうは放射線の漏れには関係ないとして、問題は閉じ込めるということですね。それは完全にできているわけではないので、ある程度漏れてくると。そうすると、それが皆さんがおうちへお帰りになるのを許容する程度になるまで、閉じ込めがうまくいかないといけないですね。今の状況ですと、まだ、じゃあもう明日にも帰ったらいいよというような状態ではないと思うので。

 だから、もう少しやっぱり、端的に言いますと今はとにかく冷やすということで、今、放射線がストンと落ちたら、これが自然に減っていくのを何とか、これで安全なところまで持っていくことが先。それから冷やすということをやりながら、閉じ込めを何とか守っていくというか。だけど、100パーセントは閉じ込めというのは不可能ですからね。ある程度、漏れざるを得ないので、それとの競合関係ですね。非常にあいまいな言い方になりますけれど。

 だから、例えばある場所を示されて、自分のところが予測が100ミリだから、じゃあ100ミリになったらもう、すぐに帰っていいのかと言われたら、やっぱりそのときになってみないとわからない。そういうところがありますね。

高橋:そうすると、大変難しい舵取りを政府はしなければならないと思うのですけれども、先生方がやむにやまれぬお気持ちで、建言書(最後の注参照)というのを発表されました。これをつくられた先生方のお気持ちというのは。

住田:今の話とはちょっと関係がないかもしれませんけれども、正直なところを言いまして、事故が起こって以来、いろいろ関係者は努力をしていらっしゃるのですけれども、どうも筋書きがよく読めない。だから、誰が中心になって、どういう方向にそれを引っ張ろうとしているかというのが、結果論としては流れている部分はありますけれども、その方向性がよく見えない。

 あるいは、どういう方向に誰かが引っ張っているのか、それとももう成り行き任せなのか、悪いことを言うと出たとこ勝負でやっているんじゃないかと言いたくなるようなところも見えないわけでもないので、それを政府の責任できちんとやるということを組織的に全部でそこへ力を集めてやろうじゃありませんかと。皆が、よかれと思ってやっているのですが、バラバラになるのではだめなので、それをきちんとまとめてやりましょうよと。そういうことであれば手伝いましょうと、僕らもという、そっちのほうもぜひ、ただまとめなければいけないと言ったのではなくて、手伝いましょうという、それのある種の決意表明でもあるわけですね。そういうふうに受け取っていただけるとありがたいと思います。

高橋:手伝いますよという方は、たぶんたくさんいらっしゃるんですよね。それをまとめることがなかなかできていないという感じですか。

住田:今、はっきり言って我々が手伝えるならやりますよというのは、いっぱいボランティアにもあるんです。だけど、いや、あなたの機関はこういうことができるから、あなたはこういうことをやってください、これはこっちでやってくださいと、そういうことの采配を振る人が、そういう機関がどこがやるんですかというのが、もう一つよく見えてこない。例えば、大学なんていうのはいろんな測定器を持っていますから、測りましょうというのなら、もう横で連絡を取り合って、そういうのを組織化しようというのは、何人ぐらい日本全体で1,000人や2,000人は動員できるだろうなんていうのは僕らは試算しているのです。やりますよというのがあるんです。ところが、誰がどこに行けばいいのかというのはアレンジできていないのですね。

高橋:それの司令塔となるべきところは、先生、あえて言えばどこであるべきですか。

住田:私は自分がいたところだからそう思うのかもしれませんけれども、やっぱり原子力安全委員会というのは政府の最高の諮問機関ですけれども、行政委員会じゃないから自分は命令権を持っていませんけれども、こうしたら一番いいんじゃないですかということを考える役割というのは、やっぱり原子力安全委員会で、総理はその勧告を受けて総理が命令を出されて、例えば文科省はこういうふうにしてください、保安院はこうしてください、それは行政の長である総理が命令を出されるという。だけど、誰がその知恵を授けるという言い方は大変失礼ですけれども、こうしたらいいですよということを申し上げる、その役割というのはやっぱり安全委員会ですね。

高橋:安全委員会ですね。

住田:第三者機関というか、これは東京電力でもないし保安院でもないと私はそう思うんですよね。

高橋:そうですよね。やっぱり原子力安全委員会に、もっともっと頑張ってほしいということが今日の結論として。

住田:前に出てくださいというね。

高橋:そうですね。わかりました。

 「科学朝日」、本日は、このあたりで失礼いたします。次回もぜひご覧ください。

〈注〉福島原発事故についての緊急建言

はじめに、原子力の平和利用を先頭だって進めて来た者として、今回の事故を極めて遺憾に思うと同時に国民に深く陳謝いたします。

私達は、事故の発生当初から速やかな事故の終息を願いつつ、事故の推移を固唾を呑んで見守ってきた。しかし、事態は次々と悪化し、今日に至るも事故を終息させる見通しが得られていない状況である。既に、各原子炉や使用済燃料プールの燃料の多くは、破損あるいは溶融し、燃料内の膨大な放射性物質は、圧力容器や格納容器内に拡散・分布し、その一部は環境に放出され、現在も放出され続けている。

特に懸念されることは、溶融炉心が時間とともに、圧力容器を溶かし、格納容器に移り、さらに格納容器の放射能の閉じ込め機能を破壊することや、圧力容器内で生成された大量の水素ガスの火災・爆発による格納容器の破壊などによる広範で深刻な放射能汚染の可能性を排除できないことである。

こうした深刻な事態を回避するためには、一刻も早く電源と冷却システムを回復させ、原子炉や使用済燃料プールを継続して冷却する機能を回復させることが唯一の方法である。現場は、このために必死の努力を継続しているものと承知しているが、極めて高い放射線量による過酷な環境が障害になって、復旧作業が遅れ、現場作業者の被ばく線量の増加をもたらしている。

こうした中で、度重なる水素爆発、使用済燃料プールの水位低下、相次ぐ火災、作業者の被ばく事故、極めて高い放射能レベルのもつ冷却水の大量の漏洩、放射能分析データの誤りなど、次々と様々な障害が起り、本格的な冷却システムの回復の見通しが立たない状況にある。

一方、環境に広く放出された放射能は、現時点で一般住民の健康に影響が及ぶレベルではないとは云え、既に国民生活や社会活動に大きな不安と影響を与えている。さらに、事故の終息については全く見通しがないとはいえ、住民避難に対する対策は極めて重要な課題であり、復帰も含めた放射線・放射能対策の検討も急ぐ必要がある。

福島原発事故は極めて深刻な状況にある。更なる大量の放射能放出があれば避難地域にとどまらず、さらに広範な地域での生活が困難になることも予測され、一東京電力だけの事故でなく、既に国家的な事件というべき事態に直面している。

当面なすべきことは、原子炉及び使用済核燃料プール内の燃料の冷却状況を安定させ、内部に蓄積されている大量の放射能を閉じ込めることであり、また、サイト内に漏出した放射能塵や高レベルの放射能水が環境に放散することを極力抑えることである。これを達成することは極めて困難な仕事であるが、これを達成できなければ事故の終息は覚束ない。

さらに、原子炉内の核燃料、放射能の後始末は、極めて困難で、かつ極めて長期の取組みとなることから、当面の危機を乗り越えた後は、継続的な放射能の漏洩を防ぐための密閉管理が必要となる。ただし、この場合でも、原子炉内からは放射線分解によって水素ガスが出続けるので、万が一にも水素爆発を起こさない手立てが必要である。 

事態をこれ以上悪化させずに、当面の難局を乗り切り、長期的に危機を増大させないためには、原子力安全委員会、原子力安全・保安院、関係省庁に加えて、日本原子力研究開発機構、放射線医学総合研究所、産業界、大学等を結集し、我が国がもつ専門的英知と経験を組織的、機動的に活用しつつ、総合的かつ戦略的な取組みが必須である。

私達は、国を挙げた福島原発事故に対処する強力な体制を緊急に構築することを強く政府に求めるものである。

平成23年3月30日

青木 芳朗   元原子力安全委員

石野 栞     東京大学名誉教授

木村 逸郎   京都大学名誉教授

齋藤 伸三   元原子力委員長代理、元日本原子力学会会長

佐藤 一男  元原子力安全委員長

柴田 徳思   学術会議連携会員、基礎医学委員会 総合工学委員会合同放射線の利用に伴う課題検討分科会委員長

住田 健二   元原子力安全委員会委員長代理、元日本原子力学会会長

関本 博    東京工業大学名誉教授

田中 俊一   前原子力委員会委員長代理、元日本原子力学会会長

長瀧 重信   元放射線影響研究所理事長

永宮 正治   学術会議会員、日本物理学会会長

成合 英樹   元日本原子力学会会長、前原子力安全基盤機構理事長

広瀬 崇子   前原子力委員、学術会議会員

松浦祥次郎   元原子力安全委員長

松原 純子   元原子力安全委員会委員長代理

諸葛 宗男   東京大学公共政策大学院特任教授