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震災で再認識、鉄道在来線の貨物輸送

米山正寛

米山正寛 森林文化協会事務局長補佐

 東日本大震災後の鉄道路線の復旧状況をみて、政治学者の原岳史さんが「在来線は、災害時の貨物輸送インフラとしても非常に重要です」(朝日新聞4月19日朝刊オピニオン面)と指摘している。福島県や宮城県を走る東北線を利用できなくなった中で、JR貨物が日本海側の路線に迂回する形で横浜市から盛岡市と福島県郡山市へ臨時の石油輸送列車を走らせたことは、さまざまなメディアで報道された。

拡大磐越西線を走り、郡山を目指すDD51重連の臨時石油輸送列車=4月15日

 臨時列車が動き始めたのは、震災発生から1週間後の3月18日。横浜市を出発した列車は高崎線や上越線などを通って新潟県に入り、そこから日本海沿いに羽越線、奥羽線等を経由して青森県まで北上した後、青い森鉄道(青森~目時)とIGRいわて銀河鉄道(目時~盛岡)を通って盛岡市まで南下するという迂回ルートで、ほぼ1カ月間運行された。また郡山市への運行は、新潟県まで行った列車が磐越西線(新津~郡山)を走る形で、3週間ほど続いた。

 この臨時列車は基本的にタンク車20両の編成だった。1両でタンクローリー2~3台分に相当するらしく、1回の輸送で約50台分を運べることになる。これによって被災地内で活躍できるタンクローリーが増え、ガソリンなどの燃料供給の円滑化に貢献できた。大量一括輸送という貨物列車のメリットを十分に示したと言えそうだ。

 ただ日本地図を見ると、奥羽山脈を越えて日本海側から東北線の拠点駅に至る東西の路線は他にもあることに気付く。米坂線(米沢~坂町)や仙山線(仙台~羽前千歳)、陸羽西線(余目~新庄)、陸羽東線(新庄~小牛田)、北上線(北上~横手)、田沢湖線(盛岡~大曲)、花輪線(好摩~大館)といったところだ。しかし、JR貨物に聞くと、震災発生から1カ月余りを経て東北線が全線復旧するまで、貨物輸送に利用した臨時の運行ルートは石油輸送列車が走った2ルートだけだった。貨物輸送インフラとして在来線に期待をかけるなら、他のルートもフルに使って物資をもっと東北へ送り込めたのではないかとも感じる。

拡大東北の主な鉄道路線

 そこで臨時ルートが二つに限定された理由を尋ねると、東北地方では南北に走る幹線ルートでしか営業運転をしておらず、東西の路線にはふだん全く貨物列車が走っていないとの説明だった。そもそも営業運転の許可がある東西路線は、比較的最近まで貨物列車を運行させていた北上線と磐越西線だけだという。地方のローカル路線に貨物列車が走っていたのは昔のことで、あちこちの駅にあった貨物取り扱い用の施設も、すでに多くが撤去されている。遠回りになっても慣れた通常の営業ルートを走ろうと、青森回り盛岡行きルートの活用がすんなり決まったという。

 郡山市への乗り入れは事情が違った。東北線が不通で北側からも南側からも行けないため、磐越西線を使うことは必然だった。どんな準備をしたのかを「JR貨物ニュース」(4月15日号)から引用してみると、「磐越西線では以前セメント輸送を行っていました。当時乗務していた運転士が、郡山に1人だけ残っていたのは幸いでした。彼を中心に据えて列車を動かすことになりましたが、いくらベテランでも乗務していない間に設備が変わっている場合があるので、線路指導(案内)等はJR東日本の会津若松運輸区、新津運輸区の方に頼みました」。また磐越西線には非電化区間があり、必要なDD51形式のディーゼル機関車を近くで確保できず、わざわざ関西や九州などの機関区から呼び寄せることもした。余談だが、この機関車2両が先頭にたった重連運転は今ではたいへん珍しく、その姿を見ようと沿線に集まった鉄道ファンもけっこういたようだ。

 今回の震災で、東北線と並行する東北自動車道などの主要道路は損傷も少なく比較的早くに復旧した。そのため貨物列車で南から宇都宮市まで、北から盛岡市まで運んだ後、その先をトラックで運ぶという輸送形態も多用された。結果的に、磐越西線以外の東西路線を活用するアイデアは検討の対象にならなかった。

 もっとも、あえて東西の路線への貨物列車復活を想定してみると、ほかにも制約があることに気付く。

奥羽線の福島~新庄間や田沢湖線は、山形新幹線、秋田新幹線の路線になっており、ミニ新幹線を走らせるため、線路幅は新幹線用の標準軌(1435ミリ)に改造されている。狭軌(1067ミリ)の在来線仕様である貨物列車のルートとしては、当然ながら選択肢から外れてしまう。原さんもこれについて、上と同じ記事の中で「『ミニ新幹線』は、災害時にかえって足かせになっているんじゃないですか。線路幅を変えていなければ、青森まで遠回りせず、秋田から盛岡へ物資を直接輸送できたかもしれない」と述べている。

 また線路の規格は幹線とローカル線で異なるため、重い機関車や貨車はローカル線を走れないケースも出てくる。小さな機関車で短い編成を引くという工夫はできそうだが、輸送効率は下がる。そもそも非電化区間の輸送で使えるDE10形式のような小さなディーゼル機関車は、全国のJRグループからも、どんどん姿を消している。

 JR貨物のホームページを開くと、「環境を考えれば鉄道貨物輸送」と題して、二酸化炭素排出量がトラックの約7分の1という数値が紹介されている。1列車で最大650トン(10トントラック65台分)の輸送が可能で、トラックの走行による燃料消費を削減し、省エネルギーに貢献するといった意義も書かれている。これからの時代、トラックから鉄道への「モーダルシフト」は社会的な要請でもある。

拡大震災から復旧した東北線を行くコンテナ列車=4月30日

 だが、JR貨物による運行はすでに幹線ルートのコンテナ列車にほぼ特化されており、震災などの緊急時に迂回路を構成する地方ローカル線は、日常の貨物輸送から切り捨てられているのが現状だ。また幹線を構成する線区でさえも、新幹線の新規開業に伴ってJR所有の路線網から排除され、青い森鉄道やIGRいわて銀河鉄道、九州の肥薩おれんじ鉄道(八代~川内)など第三セクターに所有が替わった例が続いている。こうした鉄道が地域の努力で維持されてこなかったならば、今回の震災時に物資輸送がもっと混乱していただろうことは想像に難くない。

 もちろん津波による影響を受けた太平洋沿岸の路線を例にとるまでもなく、鉄道はいったん破壊されると復旧に多大の努力が必要で、輸送路としての課題がないとは言えない。それでも今回の臨時石油輸送は、大量輸送機関としての鉄道貨物の有益性を私たちに再認識させてくれた。この機会を無駄にせず、国内を縦横に結ぶ鉄道網の活用を、物流の観点から、もう一度見直すことはできないだろうか。震災の取材に出かけた東北で、ローカル線の列車に揺られながら、こんなことを考えてみた。

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筆者

米山正寛

米山正寛(よねやま・まさひろ) 森林文化協会事務局長補佐

公益財団法人・森林文化協会事務局長補佐(学術、出版)兼「グリーン・パワー」編集長。朝日新聞の科学記者を経て現職。とくに自然史科学と農林水産技術に関心を寄せ、取材活動を重ねてきた。森林文化協会は、「山と木と人の共生」を基本理念として1978年に設立された朝日新聞創刊100周年記念の財団。
森林文化協会公式サイト

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