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じわじわ広がる欧州のネットテレビ

鎌田富久 鎌田富久(株式会社ACCESS創業者)

 日本では、7月にテレビの地上アナログ放送が終了し(岩手、宮城、福島は震災の影響で2012年3月末まで延長)、デジタルテレビがほぼ全国の家庭に行き渡った。今後のテレビの進化は、ネットワーク機能の融合である。実は、最近の日本のテレビには、ネット接続機能がほぼ標準で搭載されていて、インターネット経由でビデオコンテンツを見ることができる。アクトビラ(acTVila)や Youtube などがテレビ向けのコンテンツサービスだ。NHKも、過去に放送した番組を「NHKオンデマンド」でいつでも視聴できるサービスを提供している。

【写真1】IBC 2011 には、昨年を上回る5万人以上の来場者があった。

 同様の動きが欧州でも始まっている。9月にオランダで開催された欧州最大の放送機器関連の国際展示会IBCに参加する機会があった(写真1)ので、そこでの見聞を踏まえ、欧州のネットテレビ事情を紹介したい。

『HbbTV』とは

 IBCで大きな話題になっていたのが、HbbTVだ。”Hybrid Broadcast Broadband TV” の略語で、HbbTVコンソーシアムが策定した、デジタル放送とブロードバンド通信を融合させたサービスのための規格である。2010年にESTI(欧州電気通信標準化機構)の規格として承認されている。テレビにネット機能を組み合わせて、もっと楽しくしたいという思いから、コンテンツ記述言語(HTML)を始め幅広く仕様を規定している。HbbTV仕様をベースにしたサービスとしては、見逃し視聴やビデオ・オンデマンド、視聴者と双方向で対話する投票などのアプリ、ゲームやソーシャルアプリといったものが考えられる。

【写真2】HbbTV 対応テレビの例 。放送とネットからの情報を組み合わせて表示している。

 今年の IBC では、各社の展示ブースで多数のHbbTV対応製品が出展されており(写真2)、市場の立ち上がりを感じた。HbbTVサービスは、まずドイツで開始され、続いてフランス、今後欧州各国で広がっていくと思われる。

 欧州では、こうした新たなサービスがはじまる際には、仕様の統一、標準化が重要である。各国がバラバラの規格でサービスをはじめてしまうと、製品を各国毎に開発しなければならず、開発コストがかかり、結果として割高な製品になってしまう。また、各国向けに特化した製品では、市場規模が見込めず、多くのメーカが様子見ということになる。欧州各国は、こうした事情に鑑み、足並みをそろえることの重要性を理解しており、これまでも携帯電話の通信方式GSMや、デジタル放送方式DVBなど、数々の規格統一を成し遂げている。

 今回のHbbTVも、仕様策定までに時間がかかっているが、いよいよ普及フェーズに入ってきた。これまでの新技術、新サービスと同じように、じわじわ広がっていくだろう。

 HbbTVは、既存のケーブルテレビ事業者や衛星放送事業者が、インターネットを取り込んで、付加価値の高いサービスを実現するハイブリットモデルである。そこが、GoogleTVやAppleTVなどとの大きな違いだ。これらインターネット経由でのテレビ向けビデオ配信は、既存の放送事業者と真っ向から競合する。

今後の展開

 ハイビジョンや3D、大画面といった表示装置としてのテレビの高度化は一段落した。IBCでは、大画面を家庭の中で他の機器と連携させる応用が目立った。放送事業者向けには、テレビに加えて、最近注目されているタブレットやスマートフォンにもコンテンツを配信するマルチスクリーン対応が多数紹介されていた。

【写真3】大画面で写真を表示して家庭で楽しむ、新しいテレビの使い方。   

 写真3は、デジカメやスマートフォンで撮影した写真やビデオを、家庭の大画面テレビに表示する応用である。最近のデジカメは高精細な写真を撮影できるので、テレビの大画面に表示すると迫力がある。最近では、DLNA(Digital Living Network Alliance)機能によって、無線LANで直接写真データを機器の間で転送できる(WEBRONZA4月30日 の記事「ホームネットワークを加速するDLNA」参照)。また、テレビから直接インターネットに接続して、写真共有サイトやストレージサービスの写真をテレビに表示することもできる。

 ユーザーの利用するネット端末が多様になってきている以上、放送事業者もうかうかしていられない。テレビ、PC、タブレット、スマートフォンなどの各種機器でサービスを受けられるようにするマルチスクリーン対応を急いでいる。今後、ユーザーは、いつでもどこでもコンテンツを楽しめるようになるだろう。さらに、マルチデバイス環境でのユーザーの利便性の向上、例えば、テレビで途中まで見たビデオの続きをタブレットで見るといったことも可能になるに違いない。

 一方、放送事業者としては、タブレットも対象として加え、ビデオコンテンツだけでなく、音楽や書籍などの配信もサービスに加えて事業を拡大していくのも一つの方向である。

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