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BSEが突きつける「科学と政治」

辻篤子

 事実上の全頭検査が続き、世界一厳しいといわれる、日本の牛肉の牛海綿状脳症(BSE)検査が見直されることになった。きっかけは、米国を始めとする各国が、これまで生後20カ月以下に限られてきた牛肉の日本への輸入条件の緩和を求めていることだ。国内外で検査基準に差があってはならないから、輸入条件を緩和するには、国内の検査の基準を緩和する必要がある。厚生労働省の薬事・食品衛生審議会が先月末、BSE対策の見直しを了承し、検査基準の緩和に向けての検討が始まった。

 これについて、藤村官房長官は、あくまでも「科学的知見」に基づくものだという。「BSE対策が始まって10年。最新の科学的知見に基づく再評価が必要だと、我々も考えていた」とし、対米配慮の色をできるだけ薄めるのに懸命だ。だが、なぜ今か、といえば、背景には、米側からの度重なる輸入条件緩和の要求に対し、野田首相が9月に行われた日米首脳会談で「早期に結論を出したい」と答えたことがあることは疑いようのない事実だ。

 むろん、これまでも、科学的に検査基準の見直しを求める声は国内にあった。しかし、政府が取り組む気配は一向になかった。今回、動かしたのは政治だ。「科学的知見」は、ここではむしろ、後付の理由に使われているといっていい。

 だが、BSE対策をめぐって、科学がいわば口実のように使われるのは、決してこれが初めてではない。2001年9月に国内で最初に感染牛が見つかって以来、BSE対策の歴史は、科学が尊重されてきた、というよりは、むしろ、科学が都合よく使われてきた歴史といった方がいい。

 BSE対策は、有毒物質による危険を防ぐのとは異なり、不確実性を伴うリスクをどう評価してどう対応するか、という点に難しさがある。国内でのBSE発生を受けて、2003年、リスクを評価する機関として内閣府に食品安全委員会が発足し、日本の食品安全行政は大きく変わることになった。

 この10年を振り返ってみよう。BSEは、プリオンと呼ばれるタンパク質の異常で起きる。感染した牛の肉骨粉を通して広がっていくため、国内での感染牛の発見を受けて、肉骨粉を飼料とすることは禁止された。一方、食肉に対しては、月齢を問わず、すべての月齢の牛を対象にしてプリオンの有無を調べる全頭検査が導入された。プリオンが牛の体内でたまりやすい、いわゆる特定危険部位(SRM)と呼ばれる部分はすべて除去されることになった。

 こうした対策のうち、食肉の安全を確保するうえで最も重要なのは

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