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超光速【ニコ生】討議(下)いよいよタイムマシンの話

野尻美保子、菊池誠、野尻抱介、尾関章

 アインシュタインの特殊相対論といえば、現代人の世界像の骨格をなす「憲法」のような理論だ。それに背くような観測データが今秋、欧州から届いた。謎めいた素粒子ニュートリノが、特殊相対論ではそれ以上速いものはありえないという真空中の光よりも速く飛んだ、というのだ。そもそもニュートリノって何なんだ? この実験をどう受けとめればよいのか? タイムマシン談議とどうかかわってくるのか? 物理学者とSF作家らがニコニコ生放送で語り合った議論のエッセンスを3回に分け、話し言葉の臨場感を残したまま再構成してお届けする。(「ニコニコ生放送」は2011年9月30日、本文中の画像は当日の画面から=ニコニコ生放送提供)

《座談会出席者》
野尻美保子さん(高エネルギー加速器研究機構教授=素粒子理論)
菊池誠さん(大阪大学教授=統計物理学)
野尻抱介さん(SF作家)
司会・尾関章(朝日新聞編集委員)

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尾関章 さて、お待たせしました。タイムマシンの話に行きましょう。別にそれをなるべく喋らないようにするために引き延ばしていたつもりは全然ありません。この最後の、タイムマシンはあるかっていうことなんですが、これは菊池さんからですね。

菊池誠 いやいや。えっ? 僕ですか。

尾関章 はい。

菊池誠 何の話をすればいい? 本当に光より速い粒子があれば、要は情報を過去へ伝える方法があるっていうことではあるわけですよね。ニュートリノだけ速いっていうのをどう思うかって(笑)。

尾関章 (白板を示して)ちょっと、ぜひこれは菊池さんに何か書いてほしいんだけど。

菊池誠 いや、僕じゃない方がいいかな。僕あんまりそういうの…

尾関章 えっ? 得意じゃない? うそ。

菊池誠 得意じゃないよ。

野尻美保子 得意じゃない(笑)。

菊池誠 全然得意じゃない。

尾関章 要するに、なにかあるじゃないですか。時間軸が縦にあって、これが空間だとしてっていう。

野尻美保子 真っ直ぐ伸ばしてくださいませ。

尾関章 えっ? 真っ直ぐ。じゃあもう自分で書いてください。

野尻美保子 はい。

尾関章 これで、ぜひ。

野尻美保子 やります。こっち側が時間で。

菊池誠 時間で。

野尻美保子 こっち側にこう距離を。

菊池誠 空間の位置を書きました。

野尻美保子 ここから光を出すと、バーッと走って行くわけです。ふつうの粒子は……。

菊池誠 光より必ず遅いから。

野尻美保子 光より遅いから同じ時間でも距離が短いの。ニュートリノだけちょっとだけ速いので、こっちに。

菊池誠 短い時間でたくさん進みますよと。

野尻美保子 こういう感じでいいのかなっていう、こういう状況ですよね。

尾関章 はい。

野尻美保子 それで、こっちに向かって進んでるっていうことは……。だから、エネルギーの二乗が、分からないときは式を書いてみる。

尾関章 ちょっと式はあんまり。この図では説明できないですか。何かできるような気がするんだけど。

野尻美保子 だから、これは見る人によるのね、この絵って。だから簡単に言っちゃうと、ニュートリノを打ち出すじゃないですか。で、ニュートリノがこっち来ますよね。それでそのときに、同時に光も打つ、光の上に乗っかっている人からこれを見ると、この人は時間を逆向きに行ってるんですよ。

野尻抱介 要は、光速で飛んでる宇宙船があって、横から見ると超光速のニュートリノは時間を逆行して見えるっていうことでいいの?

野尻美保子 ニュートリノさんにしてみると時間が逆行してるの。

野尻抱介 悪いことはできるんですか。馬券を買うとか、未来の情報を得て今に反映するとか。

尾関章 ちょっとすみません。僕、今の説明のことで言うと、『タイムマシンをつくろう!』(ポール・デイヴィス著)っていう本が、こんなふうに言ってて、ああ、そうか、となんとなくわかった気がしたんです。 

まず、あなたが超光速粒子をお友だちに投げる。その友だちは向こうから、光速を超えてはいないんですけど、すごい速さでこっちの方に近づいてきてると。その人に向かってまず超光速粒子を投げると、今度は向こうの人がその超光速粒子と同じものを自分の方に投げ返してくると。そうすると、その投げ返してきたものが、自分が投げるよりも前に着いてしまうということですよね。

なにかそういうふうな形で過去に対して情報が送れるということなのかなと思うんですが、それはいいんですか。もしあったらの話。

野尻抱介 仮定、IFの話ですね。

尾関章 どうなの? 菊池さん。

菊池誠 あったらそうなるんじゃない?

尾関章 あったらそうなる。

菊池誠 今の説明は、いいんじゃないかな。

野尻抱介 あの困りっぷりがおもしろい。皆さん、この美保子さんの困りようを見てるから。これが、なにか真実なわけで。

尾関章 そうだとして、でもあったらいけないということですよね。なぜならば、今ここでも(画面の)コメントの中に、「因果律」っていう言葉がばっと出てきて、そうだなっていうことなんですけど。因果律って、意外と今若い人には通じないですね。

因果律っていうのは、原因があって結果があると。原因が先にあって結果があると、こういうことですよね。

野尻抱介 そうそう。

尾関章 でも、今のボール投げの話で言うと、自分がボールを投げるよりも前にそのボールが自分のところへ来てしまうというのは、明らかに因果律を逸脱してる。そういうことが起こったら非常に困るっていうか、あり得ないというか、そういうふうに一般的には思ってるわけですね。

野尻美保子 私は、それより真空が不安定なのが嫌なんですけどとか言う。

尾関章 それはなに、真空エネルギーが?

野尻美保子 うん。だって質量が。

菊池誠 どこを気にするかっていう話題が全然違うわけ。

尾関章 それは今の式のようなところ?

だけど、時間の順序が逆になってしまうことっていうのは本当に困ると。一般的に特殊相対性理論っていうのは、光はかけっこをしている人でも、止まってる人でも、飛行機に乗ってる人でも、全部その人から見て同じ速度。秒速30万kmであると、こういうことですよね。

菊池誠 そうそう。

尾関章 そうで、しかも光が最高の情報伝達の速度だと。

野尻抱介 はい、そうです。

尾関章 そうなると、(そこに超光速の粒子があれば)今言ったような理屈で過去に情報を送れてしまって、タイムマシンができちゃう、だから困る、だからそれはおかしいんじゃないのということなんですが、そのときによく先祖殺しのパラドックス、あんまり「殺し」なんていう言葉を僕は付けたくないけど、そういうのをよく言われますよね。これは菊池さんの世界じゃないですか、やっぱり。

菊池誠 僕の世界? タイムパラドックスの話。

尾関章 先祖殺しの逆説、あるいは僕はあるところに、先祖に対するお邪魔虫の逆説というふうに書いたんだけど、要するにお父さんとお母さんを巡り合わせなくしちゃえば自分は生まれてこないんですよね。

菊池誠 親殺しのバリエーションですよね。

尾関章 そうなったら自分はいないから、その過去に行くなんてできないよって、それはそういうことですよね、これは。

菊池誠 別に本人が行かなくても、情報が送れるだけで、ある起きることを防ぐ、邪魔するっていうことはできてしまう。

尾関章 で、どうですか、抱介さん、そのへんのところ。これはまさにSFテーマだけど。

野尻抱介 そうですね。未来から過去へ移すっていうのも無限にできるので、過去に持っていったものをまた未来から戻してっていうと、無限に同じものをコピーできて、要は億万長者になれるといいますか、あらゆる欠乏から開放されると。大変素晴らしいことにもなり得るんですけど。

尾関章 その場合は、未来の人は自分の過去を変えたっていうことをあんまり周りに言わないで、しらを切って、何となく予定調和的にっていうこと?

野尻抱介 そうですね。でも、もはやそういう個人的なレベルの話じゃなくて、宇宙全体が本当に変わっちゃうようなとてつもない話。

拡大野尻美保子さん

野尻美保子 たとえばインフレーションが必要なくなるとかですね。だって横方向に向かって情報が伝わってるんだったらインフレーションはいらないっていう理論をつくったって。

尾関章 そうか。インフレーションって今、美保子さんは言ってるけど、これは経済のインフレーションじゃありません。宇宙論のインフレーション理論。そのインフレーション理論っていうのは、瞬間的にバーッと同じ状態をつくり出すようなそういうしくみなんだけど、なにもそんなのがなくても……。

野尻美保子 そうそう。インフレーションってどういうのかっていうと、宇宙がある時期すごい勢いで膨張して、お互いにすごい狭いところが広いところに広がってしまって、私たちから見える宇宙っていうのは、今はもう昔はみんなほとんど同じような場所にあったやつばっかりになっていく。今、遠くの星とか銀河から来る情報、宇宙の状態がすごく均一に見えるのは、みんないっぺんは同じ場所にあったからなんです。それがインフレーションの理論なわけです。それはみんなある程度同じ狭い場所にいて、そのコーザリティーの……。

菊池誠 コーザリティーっていうのは因果律のこと。

尾関章 因果律ですね。

野尻美保子 因果律でつながってる場所にいるんだけど、たとえばそういうことをしなくったって因果律でつながってないところに情報を送れるんだったら、そういうのじゃない宇宙論とかを考えたっていいかもしれないとか、なにか適当なことを言ってみる。

尾関章 なるほどね。

野尻美保子 けど、そもそもそんな場の理論ないんです。

尾関章 また難しいことを。

菊池誠 場の理論っていうのは素粒子の理論のことですね。

尾関章 そういうことです。

菊池誠 だから理論の人は、基本的にはそういうものがあると困るから、そういうのは考えない。

野尻美保子 いやなにか、いや、理論いっぱいあるんですけど、それはエネルギーと運動量との関係をどんな理論かよくわからないけど取りあえずいじってみて……。

尾関章 だから、本当の話、これは単にインフレーションというよりも、20世紀のいろんな物理学をずっとやってきて、来週ノーベル賞ですけど、ノーベル賞もいっぱい出てきていろんな理論が確立してきたけど、かなりの部分に影響を与えてしまうっていうか、もういわば憲法みたいなもんでしょう、これは。

野尻美保子 因果律って憲法。

尾関章 因果律、憲法ですよね。だからそういう意味じゃ本当に、もし本当なら大変だっていうことになっちゃいますよね。

(視聴者からの質問を読んで)ニュートリノは光より速かった場合、どんな使い道がありますかっていう……。

野尻抱介 すごい話ですね。

尾関章 だって、これは、タイムマシンはもういいですよと。タイムマシンの話は結構です、それ以外に何か使い道はありますかって言うんだけど。タイムマシンとは言わないだろうけど、超光速となったら、なにか情報系の話ですよね。

拡大菊池誠さん

菊池誠 通信ですよね。

尾関章 なにか通信で。でもこんなさっきみたいな……。

野尻美保子 因果律が無茶苦茶になってるときに。

尾関章 因果律がめちゃくちゃなことになっちゃう。

菊池誠 とりあえず通信ですね。

尾関章 とりあえず通信だけど、どういう、あの。

野尻抱介 通信どころじゃなくなるから。

尾関章 どういうことが。

野尻美保子 因果律が無茶苦茶になってるのに通信の話をしてもしょうがないじゃない。

菊池誠 でも通信以外ないと思うな。

野尻抱介 でもそれは、でもかなり特殊な条件ですよね。

野尻美保子 あとは計算とかですか。

菊池誠 計算とか。

野尻抱介 光速で飛ぶ宇宙船とかがないと。

尾関章 (コメントを見ながら)宝くじが成り立たなくなるって書いて来たじゃないですか。

野尻抱介 もういっぺんちょっと確認したいんですけど、光よりちょっと速いだけじゃ過去へは情報を送れないんですよね。この今の地球上で。

尾関章 いや、だからこれが本当なら送れちゃうんでしょう。

野尻美保子 いや、過去に送れるっていうか、その因果律で繋がってないところに情報を送って、それでそこの人が打ち返したら、知らないはずのことを知ってる人が……。

野尻抱介 特殊の条件はいらないんですか。

野尻美保子 とりあえずわかりやすいのは、ニュートリノを打ち出したのと同時に亜光速の宇宙船でニュートリノを追っかけ続けたら、なにか情報が過去に行ってる人たちがいて、またなにかおもしろいことがあるかもしれないけど、それは菊池さんと野尻さんで考えて、なにか新しいSFを。

尾関章 だからもちろん亜光速のっていうことだけど、それを仮に亜光速の――亜光速っていうのは光速に近いという意味だけど――宇宙船じゃなくてそれを粒子でやれば、そこに情報をなにか付加すればできちゃうかもしれないっていう。

菊池誠 じゃあ原理的には因果律で、因果律関係がないところを通信で結べればいいんじゃないの?

野尻美保子 もっと離れて。

尾関章 そうかもしれませんね。だから今まで、宇宙っていうのは結局光で見える範囲っていうか、そこに限られるから、(超光速粒子があれば)宇宙っていうのももっと遠くが見えるっていうことかな。どうかな。

菊池誠 むしろ遠くから来るんだよね。来るやつが見える。

尾関章 もっと遠くから来るものが見えるかもしれないと。

野尻美保子 まるで違うものが見えるかというと……。

野尻抱介 じゃあ、なにか望遠鏡として使えるかどうかとか。

尾関章 ちょっと最後に、もう一つ私からの質問だけど、さっきのパラドックス、「親殺し」。あんまり言いたくないから親の結婚を邪魔する逆説。これを、量子力学の多世界解釈みたいなもので、並行世界があったら……。

菊池誠 いや、それはたとえば、ドイチュ(デイヴィッド・ドイチュ=英国の物理学者)とかもそういうことを言ってるし、要するに、多世界解釈でタイムトラベルはできるってドイッチュなんかは言ってますよね。SFでは、過去へ戻ったら別のタイムラインでっていうのは、もうそれも古いよね、SF的には(笑)。

尾関章 古いかもしれない。でも今タイムラインって言ったけど、まさにマイケル・クライトンが10年ぐらい前に書いた『タイムライン』っていう小説がそうでしたよね。

菊池誠 そうですね。量子計算か量子テレポーテーションかなにかを使うと、なぜかタイムトラベルがどうしてかよくわからないけどできるっていう話。

尾関章 だからそれは並行世界へ横っ跳びすると。

野尻抱介 並行世界へ行っちゃうとSFとしてはなにもおもしろくないわけです。

尾関章 そうか。

野尻抱介 要は干渉しないので、パラドックスもなにも起きないので。

尾関章 そういうことですよね。だからその意味でも……。

菊池誠 ドイチュが言ってるのはむしろ、パラドックスが起きないようにタイムトラベルができるっていう。ドイッチュは物理学者だから。

尾関章 デイヴィッド・ドイチュっていうのは量子コンピューターなどを提案していて、そういう量子力学の一つの多世界解釈というのを主張している人ですよね。

菊池誠 世界はたくさんあって、それを使うとタイムトラベルができるというのは確かにドイッチュは言ってたと思うんだけど。

尾関章 それはでも、並行してあればパラドックスはうまく超えられるけども、問題はそういう横の並行世界に動くっていうこと自体の理論なんてないですよね、まだ。

菊池誠 僕の理解では、ドイチュは結構過激派だから、そういうことを言ってるんだと思うんですけど。

尾関章 いろいろできると。

菊池誠 理屈は。それ以外の人はそう言ってるかどうかはよく知りません。

尾関章 ドイッチュはできると。

菊池誠 ドイチュはなにか言ってますよね。たぶん、たくさんの世界があってもその間では行き来できないっていうのが普通の考え方だと思うんですけど……。

尾関章 今、(画面を流れる)コメントで、並行世界が「平衡に達した」の、バランスの「平衡」になってたけど、「並」ぶ……。

菊池誠 パラレルワールド。昔SFによくあったやつ。

野尻抱介 でも、大体皆さんが気にするのは因果律の方です。

菊池誠 そうでしょうね。

野尻抱介 でもさっき聞いてると、美保子さんの方は、いわゆる虚数になるやつが気に食わんと。質量が虚数になると。

野尻美保子 真空が不安定だ。

野尻抱介 そのへんも、なにか日本語で言えますか。それってどれぐらい嫌なことなんですか。

野尻美保子 うーん。だから床が――自分がこう床の上にいるじゃないですか――その床が実はいつ崩れるかわからないんだよとか、もう崩れてるんだよとか言われるぐらい。

野尻抱介 それはよくあることですね。

菊池誠 谷底にいたと思ったら、そこは山の頂上だったという。

野尻美保子 いや、まあ頂上だとか、なにかまたそのうち転がり落ちるのかなみたいな、そういう嫌な感じじゃないですか。

菊池誠 それをちょっと嫌な感じと思うかどうかだ。

野尻抱介 登れない山に突然登れちゃったって思えばいいことかもしれない。

野尻美保子 そうそう。

尾関章 お聞きの方からの質問でなかなかスケールの大きい質問があります。もし光より速いニュートリノが認められたら、相対性理論に代わる新たな理論が構築されるのでしょうか。だとすれば私たちはパラダイムシフトを目の当たりにすることができるのでしょうかという、締めくくりにふさわしい格調の高い質問ですが。

光より速いニュートリノを認めること自体に懐疑的な美保子さんに聞くのも何ですが、仮にそうだとしたらどういう理論が……。これは、この間、村山斉さんはなにか非常にスマートな答えを言ってらしたんですけど、どうですか。

野尻美保子 私、そんなにスマートじゃないから。でも、たとえば、最初にニュートリノが出てる現象が見つかったときに、エネルギーが保存してないんじゃないかって思った人、理論をつくった人がいるんですよね。ニールス・ボーアとかは、エネルギーを保存しない理論をつくったわけです。パウリだったと思ったけど、見えない中性の粒子があればいいんじゃないっていう。

尾関章 で、ニュートリノを表現したと。

野尻美保子 そう。そっちの方が――つまり、変なすごい考えたこともないような理論っていうよりは、わりとシンプルで簡単な説明があるんじゃないですかね。

尾関章 なるほどね。

野尻美保子 それはもしかするとGPSの時間計算も飛躍的に発展させているんじゃないかなというような気が。

尾関章 そういうおもしろい発想ね。

野尻美保子 言っている意味は、やっぱりGPS頑張れみたいな。

尾関章 GPS頑張れみたいな(笑)。菊池さん……。

野尻抱介 さっきの、あっ、いいですか。

尾関章 抱介さん、どうぞ。

野尻抱介 さっきの5次元を通っていくっていう話ですけど、エネルギーの強さによって速度が変わり得るんですかね。

野尻美保子 なにかそういう理論が。

野尻抱介 だとすると、そのCERNの方でエネルギーを変えながら打つっていうふうな検証実験っていうのはできそうですよね。

尾関章 おお、なかなか。

野尻抱介 そういうのは計画されてないんですかね。

野尻美保子 エネルギーは今のところ。

尾関章 そこはいろんな条件があるんじゃないのかな。

その話はともかく、このスケールの大きな新しい議論ができるかどうかって、どうなんですかね。菊池さんに聞いてるんですけど(笑)。

菊池誠 いや、だってかなりぐらぐらなのに。だけど昔から相対性理論の枠内だけでも一応、超光速の粒子を、さっきの話じゃないけど頑張れば考えられなくはないっていうのはファインバーグ(ジェラルド・ファインバーグ、米国の物理学者)のタキオンっていう話があって。それと違う話をするのかどうかです。でもそれだと、ニュートリノがタキオンかっていうとそれはないと思うので。きっとなにかとんでもない理論をつくらなきゃいけないんですよね、きっと。知らないけど。

尾関章 ただ、さっき村山さんがスマートなって言ったのは、物理の理論っていうのはいつでもよくいわれる話だけど、拡張していったと。ニュートンの物理学があって、それを否定しないでそれよりも広い量子力学とか。相対論もそうかもしれないです。そういうことで言うと、もう一回り大きい一般的な理論っていうのにつながるのかっていう。今回の話は、なにかちょっとそういうのでもないですよね。

菊池誠 だってニュートリノだけっていうのは、やっぱりすごいスケールが小さいっていう気がするんだけど。

尾関章 そこがなにかね。ちょっとスケールが小さいっていうかね。

野尻美保子 でも、なにかよくある、相対論が否定されたっていうのも間違っていて。なにをやるにしても、相対論とか量子力学とか、こういうきちっとした検証がされている枠組みがあるから、それを含んだ何かしかできないんですよ。

尾関章 だから美保子さんがさっき言われた、すごく僕がぴんとくるのは、なにかやっぱり計測にかかわるところで理論の微調整が必要かもしれないっていうことでしょうね。

菊池誠 計測のほうなの?

尾関章 違う? つまり、GPSにかかわる議論というべきかわからないけど。

野尻美保子 なにか、おもしろいことがあるかなという。

尾関章 今まで考えなかった見落としてたものを修正しなきゃいけないかもしれないと。

菊池誠 だから、ふつうに考えると、たとえば特殊相対論っていうのは、今ふつうに測定してる量の範囲内では正しいから。

尾関章 そういうことですね。

菊池誠 もうちょっと外側で、少し複雑になってるっていうのは原理的にあってもいいということなんだと思うんですけど。

尾関章 なるほどね。

野尻美保子 だから私が言っていたのは、まさに尾関さんが今おっしゃったことで、要するにGPSにしてみたら挑戦なわけでしょう。典型的に何十ナノ秒の時間制御だったものをいったいどこまで下げれるかっていうことですよね。だから、それがGPSのほうで、なにかおもしろいことはないのかな。

 ナノセックオーダーで違う場所の時間が決められるようになったときに、GPS周りでいったい何ができるようになるのかなっていうのは、おもしろいんじゃないかなと思うんだけど、かなりそれはちょっと……。

菊池誠 それはどっちが? それはニュートリノの速度が速いんじゃなくて、今の実験を性能よくやろうと思ったときの話っていうことですか。

野尻美保子 いや、そうじゃなくて、ほかでスピンオフがあるかなって。

尾関章 だから、実験のデータで、ニュートリノの速さが高かったんじゃないですよということにはなるかもしれないけど、しかしそこから得られるものは、そういうところにあるかもしれないっていうことですよね。

野尻美保子 そう。

尾関章 それはある意味で、すごくおもしろいし、そういう意味でも、今回こういうのが出てきたと発表したというのも意味があるのかなっていう感じはしますよね。

そろそろもう時間も延長戦を20分超えておりますので、最後に一言ずつ今日の感想、これからの宇宙、素粒子に対するイメージとしてどういうものが得られてくるんだろう、描かれてくるんだろうというあたりを、抱介さんから行きましょうか。

拡大野尻抱介さん

野尻抱介 そうですね、まあ、あれですよね、さっき言ってたように、5次元を通ってくるみたいなことが本当に確かめられたとしたら、すごくおもしろいですよね。これまで、なんとなく実感が湧かなかったものが実感できるかもしれないっていうのと、やはり因果律を壊してみたいっていうのもありますから、これまでできないと思ってたものが一気にできるようになるかもしれないです。

それからいろいろと、科学だけじゃなくて文化面への波及というのもあるかもしれない。菊池先生あたりがまたテルミンで、ニュートリノ物質っていうか、ニュートリノの名曲かなにか、新しい新発想の曲をつくるかもしれないとかですね。

要は、すごく物理でも素粒子って一番根源的な部分なので、そこが変わると無数のものが無数に波及していくと思うんですよね。それを眺めているだけでも大変おもしろいといいますか、誰も思いつかないことを思いつきたいなとSF作家としては思います。

尾関章 なるほどね。わかりました。菊池さん、どうですか。

菊池誠 いや、ニュートリノそのものはあんまりよくわからないんですけど。わからないっていう意味は、素粒子……。

野尻美保子 照れ隠しで言ってる。

菊池誠 素粒子は大事だと思うんですけど、今の話はちょっとかなり特殊な話なので、どのぐらい根本的なところが変わるのかは、いまいちよく理解できないんです。直感的には相対論が変わるっていうのはないと思うので、なにかもうちょっと、うまいことこれを回収する素粒子論が出てくるのかどうか。よくわからないんですけど、そういうのができてどういうことになるんですかね。正直全く想像が働かないんだな。

SFの話だったら、SFなら理屈は取りあえず置いといて、ニュートリノだけは光速を超えますっていうSFはきっと書く人はすぐいるだろうと思う。ベンフォードの『タイムスケープ』は何が超えるって言ったっけ。そういうSFはあると思うんですよね。

野尻抱介 なにか、データマイニングっていうか……。

菊池誠 いや、つまりSFの場合は逆に拘束条件を、あまりなんでもありにしちゃうとつまんないから、たとえばとにかく理屈はさておき、ニュートリノだけは超えますみたいな拘束条件をかけて世界をつくるっていうのはありだと思うので。なにかありそうな気がしますけど、すでに。なにか特殊な粒子だけが、こういうのはあったような気がするんだけど。ちょっと思い出せないんですが。

尾関章 そういう意味じゃSF向きな。

菊池誠 SFとしてはたぶんそういう、なんていうかさっきの密室殺人じゃないけど、つまり拘束条件としてわりと厳しい条件をかけておいて、ニュートリノだけが超えますっていう。

尾関章 それもあるエネルギーにおいて。

菊池誠 そう。それが世界をどう変えるかっていうのはSFとしてはおもしろいと思います。たぶん、それだったら理屈考えなくていいから、一応SFとしては結構いけてるかなっていう気はするんですけど。僕は、そのリアルな宇宙像がどう変わるかはまったく想像がつかない。SFとしてはちょっといけそうな感じはする。

尾関章 なるほどね。

菊池誠 でも、あるような気もしないでもない。

尾関章 そういうのがすでに、ね。

野尻抱介 でも、もしこれが本当に当たってるんだったら、先端文明はこれをばりばりに利用してるのは間違いないから、どこか宇宙にそういう人がいれば、なにか観測に行くとか。

尾関章 ちょっと美保子さんの感想を。

野尻美保子 だから今回は、なんでこんなに盛り上がっているんだろうというのが非常な驚きで、まず、むっとしてブログ書いたりしたんです。また、そのブログのアクセスが何か2万5,000とかで、えーっとかいうようなすごい量でびっくりしたんですけど。

それは、なんでみんながこんなに関心をもってくれてるかっていうと、やっぱりSF作家の過去の脈々とした…

菊池誠 タイムトラベルのね。

野尻美保子 タイムトラベルとか、タイムマシンとか、因果律とか。SF作家って最初にそういうのをやりだした人って誰なんだろう。

菊池誠 タイムマシンを発明したのはH・Gウェルズでしょう。

野尻抱介 ウェルズですよ。

野尻美保子 そうだけど、因果律とかああいうので遊ぶ……。

野尻抱介 ウェルズはパラドックスには触れなかった。

菊池誠 触れなかった。

野尻美保子 パラドックスは誰が最初にやったんだろう。

野尻抱介 『タイム・パトロール』とか?

野尻美保子 『タイム・パトロール』って誰?

野尻抱介 ポール、うん?

菊池誠 ポール・アンダースン。

野尻美保子 すみません。だから、なんていうのかな、大変ありがたいことだと。SF作家の、なんだろう、CERNにSF作家の銅像をいっぱいつくって、みんなでありがたい、ありがたいと言わないといけないぐらい素晴らしい……。なんていうんだろう、SF作家の過去の業績をお祀りするような何か記念碑を。

野尻抱介 今まで散々笑ってごめんなさいみたいな。

野尻美保子 そう。こんなにたくさんの人が興味をもってくれる。

素晴らしいから、ぜひ。CERNって物理学者の名前が付いた通りがいっぱいあるから。

だから、ウェルズ通りとかをつくって。はい。なにか、でもそういうことで締めたら美しいのではないかと。

拡大尾関章

尾関章 どうもありがとうございます。

それで、今日の私の感想は、もうほとんど美保子さんが言われてしまったけれども、やっぱり今回のものに対しては若干懐疑的にならざるを得ないし、実験的にいろいろなシステムをもう一度点検してみるなかで、これもまた美保子さんが言われたけど、GPSかなにかで新しい知見が出てくるかもしれないということが一つ期待できる。もう一つは、タイムマシンって本当にあるんだろうかっていうことが、たぶん居酒屋話になっているんだと思うんです。そういう意味では大変に面白いし、ある意味でサイエンスにとってもいいことじゃないかと思います。

本当に良かったんですけど、皆さんどうですかね。今日の話、おもしろかったですかとかいうのを、ぜひ皆さんに聞いてくださいって言うので。

皆さんもしコメントあったら、わからなかったよとか、わからなかったけどおもしろかったとか……いろいろ来ましたね。とりあえずおもしろいって言っていただければいいし、わからない分は、われわれもわからない部分もいっぱいあって話をしてたから。

続けて『朝まで生』状態にしろとかいうのもありましたけど、本当はやりたいけども、きょうはここぐらいまでということで。また機会があればこういう話をしたいなと思います。どうもありがとうございました。

(おわり)

 


筆者

野尻美保子、菊池誠、野尻抱介、尾関章

野尻美保子、菊池誠、野尻抱介、尾関章 

野尻美保子さん(高エネルギー加速器研究機構教授=素粒子理論)
菊池誠さん(大阪大学教授=統計物理学)
野尻抱介さん(SF作家)
司会・尾関章(朝日新聞編集委員)