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【科学朝日】次世代太陽光発電の可能性(collaborate with 朝日ニュースター、1月26日放送)

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 朝日グループのジャーナリズムTV「朝日ニュースター」は、通信衛星などを利用して24時間放送しているテレビチャンネルで、ケーブルテレビ局やスカパー!などを通じて有料視聴することができます。昨年4月から始まった「科学朝日」は、高橋真理子・朝日新聞編集委員がレギュラー出演する科学トーク番組です。

WEBRONZAでは、番組内容をスペシャル記事としてテキスト化してお届けします。

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ゲスト 豊田工業大学大学院教授 山口真史さん

高橋:こんばんは。科学の最先端にひたる『科学朝日』。案内役の高橋真理子です。本日取り上げるテーマは、「次世代太陽光発電の可能性」です。3月11日の東日本大震災で起きた福島原発事故で、「脱原発」を求める声が高まり、クリーンエネルギーに注目が集まっています。その一方で、クリーンエネルギーは、コストが高い、発電量が少ないといった現実があり、すぐに脱原発は進まないのが現状です。しかし、世界のエネルギー事情はクリーンエネルギーに舵を切っています。その中で日本はどうしたらいいのか。本日は、クリーンエネルギーの中の「将来の本命」と目されている太陽光発電について、研究の現状と今後の見通しを伺ってまいります。ゲストは豊田工業大学大学院教授の山口真史(やまぐち・まさふみ)さんです。山口さん、よろしくお願いいたします。

山口:こんばんは。よろしくお願いいたします。

高橋:山口さんは、NTTの光エレクトロニクス研究所を経て、現在、豊田工業大学大学院工学研究科教授ということでいらっしゃいますけれども、NTT時代から太陽光発電の研究をされていたんですか?

山口:ええ。NTT時代、30年ほど前から、NTTですから通信衛星用の太陽電池ということでやっていました。

高橋:通信でも確かに衛星で太陽電池が必要ですね。

山口:はい。宇宙で使うので、性能プラス宇宙の放射線に強いという太陽電池が求められたわけですね。私どもラッキーに放射線に強い太陽電池を見つけて、当時シャープさんを通じて、今、実用になってます。さらに性能を上げようということで、新しいタイプの太陽電池の芽を育てて、大学に1994年に移って、今に至っています。

高橋:ああ、そうなんですか。じゃあ、それまでは放射線に強い太陽電池ってあまりなかったんですか?

山口:ええ。いわゆる結晶シリコンを使っていたんですけども、それですと、10年動作させると性能の3割、4割は劣化してしまうんです。そうすると3割、4割プラスに搭載しないといけないということで。

高橋:ああ、重たくなってしまうわけですね。

山口:ええ、重たくなって。軽量で性能が良ければ、半分の重量ですむから、非常に経済的にもなるということです。

高橋:それをNTT時代に開発されて。

山口:そうですね、はい。

高橋:大学に移られてからもずっと太陽光を当てる研究をされているわけですか?

山口:そうです。性能を上げようということで、太陽電池層を複数積層して効率を上げようということですね。後で出るかもしれないですけど、普通は太陽電池は、眼に見える光、可視光の一部しか使ってないんですけども、紫外線、可視光、赤外線、全部を使おうという発想でやってます。太陽光全部を使おうということですね。あとはレンズとか反射鏡で太陽光を集光して。

高橋:集光、光を集めるということですね?

山口:ええ、太陽電池に集めて性能を上げようということ。で、値段も安くしようという研究・開発を今やっています。

高橋:ああ、そうですか。光を集めるのはレンズとか反射鏡、わりと昔からある技術ですね。

山口:そうですね。はい。

高橋:それに最先端の太陽電池を組み合わせる、ということをやっていらっしゃるわけですね?

山口:はい。

高橋:ああ、そうですか。じゃあ一旦CMを挟んでですね、詳しくお話を伺っていきたいと思います。ここで一旦CMです。

(CM)

高橋:『科学朝日』、本日のゲストはこの方、豊田工業大学大学院教授の山口真史さんです。改めましてよろしくお願いいたします。

山口:よろしくお願いいたします。

高橋:本日のテーマは「次世代太陽光発電の可能性」ということです。原発事故以降、一躍、一際注目を浴びるようになった太陽光発電ですけれども、これ、日本では相当昔から研究されていましたよね?

山口:はい。1973年に起こった石油ショック以降、翌年から、欧米も含めて日本でも、日本では特に「サンシャイン計画」ができて、もう30年以上技術開発をやってきました。

高橋:あのときから「サンシャイン」ですから、太陽光を使おうとしてたわけですよね?

山口:そうです。特に1994年度から、住宅用の太陽光発電システムの補助制度がスタートして。当初は国から半分の補助ができたんですね。で、急速に日本の市場、生産量も世界一になったということです。

高橋:はい。生産量のグラフがありますか?あ、これですね。太陽電池の生産量の。

山口:補助制度が94年からスタートしたわけですけど、97、98年頃から日本が、この赤の線ですけど、世界一になってきたわけですね。

高橋:生産量が世界1位ですね?

山口:世界一です。はい。

高橋:でも、その辺でちょっと抜かれちゃいましたね。

山口:ええ。残念ながら2005年度でその補助制度が終わりになってしまうと、ちょうど生産量が飽和気味になって。また補助制度が再開されると、ご覧のように上がっているという状況に至っています。

高橋:ここで一気に伸びてきたのは中国ですね。

山口:そうですね。やはり人件費が安いとか、あとは国の融資が受けられるんですね。国営会社の扱いをされているんです。ですからギガワット級の生産も非常にしやすいという状況で。そのかわり300社も入ってますんで、乱立してる状況ですけど。

高橋:ああ、そうなんですか。

山口:とにかく安い太陽電池で、今、引っ張ってますね。

高橋:欧州は堅実に、という感じですか。

山口:そうですね。

高橋:アメリカはちょっと出遅れているということですかね。

山口:ええ、ですかね。オバマさんが大統領になって、期待はしているんですけども。こういった分野で伸びてほしいとは思っています。

高橋:でも日本としては、せっかく世界一の地位にいたのに、政策の変更で世界一の座から滑り落ちてしまったということですよね。

山口:はい。

高橋:その補助制度というのは、一人ひとりの消費者が自分の家に太陽光発電システムを付けるというときに、金額の半分をもらえるということですね。

山口:そうですね、はい。

高橋:これは、付ける側からすれば非常に大きな話ですよね。

山口:そうですね。でもそのうち、最初は半分の補助だったんですけど、3分の1になって、10分の1の補助でもやっぱり入れる方は入れられたんですね。今は、ですから国の補助は10分の1とか5分の1とか少ないんですけども、やっぱり入れるというご家庭が増えていると思います。

高橋:それは福島原発事故以来、そういう気持ちになられる方は多いと思いますけれども、でもまだまだ高いですよね。

山口:そうですね。

高橋:なかなか、入れよう、入れたいと思っても、費用を聞くとちょっと二の足を踏んでしまう感じがあります。

山口:それでですね、効果を。これが主要国の、太陽光発電システムの導入量の推移を示しているんです。

高橋:さっきのは電池の生産量ですね?

山口:さっきのは電池の生産量です。

高橋:これは、そうやって家庭に1台入れているとか、そういうのの量を全部足した数ですね?

山口:はい。システム導入量も、さっき、住宅の補助制度で日本が世界一の導入量になったんですね。で、2005年で打ち止めになるとドイツに抜かれて、スペインとかチェコあたりと2番手争いを、今、しているところなんです。それは「フィードインタリフ」と称しまして、固定電力の買い取り制度が、ドイツとかスペイン、イタリア、チェコなどで進められ、市場拡大という効果をあげているんですね。

高橋:「フィードインタリフ」という言葉、よく出てきて、ちょっとわかりにくい言葉なんですけれども、「タリフ」というのは料金表という意味でしたよね?

山口:そうです。

高橋:「フィードイン」は、入れるというような、送り込むというような意味ですから、「フィードインタリフ」というのは、最初から料金表が入っているというような意味で、「固定価格買い取り制度」と訳すことも多いと思うのです。

山口:そうです。

高橋:要するに、太陽光発電で電気をつくるとまだコストが高い。それが高い値段で売れないとつくる人も増えないということで、最初から、「太陽光発電でつくった電力はいくらで買い取りますよ」ということを決めておく、そういう制度ですよね?

山口:そうですね。

高橋:それをドイツやスペインが入れた、政策的に決めたために、グーッと太陽光発電システムの導入が増えたと。

山口:そうですね。

高橋:日本はそれをしてなかったわけですよね。

山口:余剰電力で、2010年度からスタートはしてるんですけど、余った電力に対して入れる制度なんですね。補助が出る、補助というか、買い取ってくれるという意味ですから。

高橋:はい。買い取ってくれる。

山口:当初はだいたい3キロワットぐらい、住宅の屋根に3キロワットぐらい設置してたんですけど、今4キロワット、最近は7キロワットで。だいたい4キロワットあれば自分のご家庭の電力をまかなえると思うんですね。

高橋:ああ、そうなんですか。

山口:あと、7キロですと3キロワットは売ることができる。自分の、何と言うか、お母さん方はそれで(笑)。

高橋:お小遣いになるわけですね?(笑)

山口:お小遣いができる。そういったメリットがあるので、今増えているのはそうですね。7月からは全量買い取り制度がスタートする。ただし、メガソーラーというか、結構大きなシステムに対して支援が来ると。

高橋:ああ、そうなんですか。家庭のほうには影響がないということですか?

山口:ええ。家庭は、やはり余った電力に対して補助が来る。たぶん、さっき言った4キロから7キロ、10キロに増やして、半分は使って、半分は売る、そういう方向に動くんじゃないかと思うんです。ですから、大規模なシステムの補助がスタートするので、たぶん導入も進むと思います、7月以降は。

高橋:7月以降ですね。

山口:そうですね。期待はしてますけど。

高橋:そうなんですね。各国の動きを見るとなかなか興味深いんですけれども。スペインはグーッと上がっていったのに、もう頭打ちの状況ですね。これはどうしてなんですか。

山口:補助制度がスタートして急に伸びたんです。単年度での導入量は世界一だったんですけども、結局、自分の国でメーカーさんがあまり育たなかったんですね。そうするとスペインに入ってくる太陽電池は中国とか日本だったんです。そうするとやっぱり政府としては、それはまずいというので、ちょっとしばらく待て、と。そういうことで今ちょっと、飽和してるというか停滞気味なんです。スペインにもイソホトン(ISOFOTON)という会社もありますので、そういった企業が育てば伸びてくると思います。

高橋:なるほどね。チェコはまた急激に伸びてますね。

山口:これは国策だと思います。小さな国ですから。資源を持たないという。そうしたら、原発も置けないとしたら、やはり太陽光というか自然エネルギーに頼るという国も出てきていると思うんですね。

高橋:中国は、生産量は世界一になったけれども、導入量ではまだまだということですね。

山口:そうですね。本来は、13億も人口がいますから、マーケットとしては非常に大きいんですけれども、そういう面でどんどんどんどん増やして、自分とこで生産したものを半分ぐらいは少なくとも、自分のところで消費してほしいと思うんですよね。ですから今後の市場としては期待される国だと思います。

高橋:なるほどね。この後、日本が今ちょっと頭打ち的なのが、またグーッと上がっていくということが期待されるわけですね。

山口:7月以降期待していますね。一般の家庭も、さっき4キロワットから7キロ、10キロと増えていく方向にありますから、そういう面ではさっきのお母さん方は非常に興味を持って、自分のお小遣いが増えるという感じで。そういう視点を持てば非常に増えると思います。

高橋:なるほど、なるほど。じゃあちょっとここら辺で、基礎編といいましょうか、太陽光発電ってなんであれで発電ができるのか、っていうところを解説していただければと思うんですけれども。

山口:この図は、結晶シリコンの太陽電池、発電する仕組みを示しています。太陽の光のある程度のエネルギーを持ったものが、太陽電池に入りますと光を吸収して、電子というか、マイナスの電荷を持った粒子とプラスの電荷を持ったホールができるんですね。それが、プラスとマイナスの勾配を使って、電子がこう流れるんですね。結局、電流は逆方向に流れることになって、太陽光が当たる限りは永遠に電気が出力されるということなんです。

高橋:結晶シリコンがもともと持っている性質なんですね、光が当たったらそういう現象が起こるというのは。

山口:そうですね。ほかの材料でもそういうことは可能で。

高橋:ほかの材料でも。それは何でも可能なんですか?

山口:ええ。半導体でもそうですし、最近、有機とかプラスチックでもそういう、導電性のある有機系の材料ですとやっぱりそういう機能は出せますね。

高橋:そういう機能を持っている材料というのはたくさんあるわけですか?

山口:ええ、ありますね。

高橋:その中で性能がいい材料をさがしていくという作業が必要なわけですね。

山口:そうです。

高橋:最初に製品になったのがこのシリコンなんですよね?

山口:ええ。それはですね、岩石とか地殻に含まれている量としてはシリコンが、酸素の次に多いんです。岩石の中の4分の1はこのシリコンなんです。非常に豊富な材料ですよね、そういう面で。あとは半導体の産業がシリコンで成り立ってきたわけなので、そういった技術を使えるということが大きな背景、2つの背景があるということですね。

高橋:じゃあ太陽電池としての性能がいいということよりも、別の要因でなんかシリコンが使われるようになってきたということですかね(笑)。

山口:まあそういう面では、そこそこの材料と言ったほうがいいのですかね。性能面では、悪くもないし、格段に良くもない。

高橋:ああ、そうなんですか。

山口:ええ。まあまあの性能が出せるということなんですね。

高橋:今や太陽光電池にもいろいろな種類があるということですが、それはどんなものがあるのでしょうか。

山口:先ほど申しましたシリコン、これは、さっき言いましたように、そこそこの性能を出せます。後で出てくる集光型の結局半分なんですけど。

高橋:まず、変換効率とはどういうものでしょうか。

山口:さっきの太陽光エネルギーを電気エネルギーに換える変換効率という意味ですね。

高橋:割合ですね?

山口:ええ、割合です。

高橋:当たった太陽光のエネルギーのうち何%が電気に換わったかということですね。

山口:そうです。

高橋:シリコンでも単結晶と多結晶とあるんですね。

山口:ええ。単結晶というのは、非常に品質のいい材料で、多結晶というのは、わりと荒っぽい、安くできる技術なんですね。瞬時につくるような技術ですね。単結晶は時間がちょっとかかるので、やっぱりそういう面で、原料のというか、半導体材料のお金が少しかかるというので、少し高くなる。ただし性能がいいという。

高橋:ちょっといいわけですね。

山口:はい。あと宇宙で使うために放射線耐性がいい、地上の電力用には信頼性とかコストが重要になってきます。

高橋:そうですね。

山口:次に、このアモルファスシリコンとかこういうのがあるんですけども、性能は結晶シリコンより劣るんですけども、将来に安くなる可能性があるということで期待されています。

高橋:ああ、なるほど。

山口:あと私どもが特に今力を入れているのは集光型で、これはどんな太陽電池よりも、結晶シリコン系の太陽電池の倍だし、薄膜系の太陽電池の3倍ぐらいの性能を出せる、と。

高橋:43.5%というと非常に高い値ですよね。

山口:大きいですね。このシリコンですと、理論効率というか、さっきの太陽光エネルギーを電気エネルギーに換える効率が、理論的には30%が限度なんですよ。そうするとあとわずかしか改善の余地がありませんね。ところがこの集光型は60%ぐらいまで可能です。

高橋:理論的にはいける。

山口:理論的にはいける、まだまだ性能を上げられると。あとは、ここに書いてありませんけど、集光、安いプラスチックのレンズで集光したりしますので、安くなる可能性があるということで期待されているわけですね。そういった結晶シリコン、薄膜型、それから集光型と、実用に近いものはその3つがあると思うんです。

高橋:集光型で集めた先に置いておく太陽電池というのは、半導体多接合、化合物半導体多接合というタイプのものなんですね?

山口:はい。

高橋:それはどういうものなんですか。

山口:あの図がありますか? III-V族多接合太陽電池の図ですが。

高橋:3層の。ああ、これですか。

山口:これですね。上の図は太陽光スペクトルを表しています。紫外線と可視光。眼に見える光ですね。あと赤外線とありますけども。普通の太陽電池はこの緑の部分(可視光)ぐらいしか使ってないんです。眼に見える光の、可視光の一部しか使ってないんですけども、この太陽電池(多接合太陽電池)は、上の太陽電池と中間の太陽電池と下部の太陽電池、縦に、3層構造に積層してますよね。

高橋:3種類の別の太陽電池が重なっているわけですね。

山口:そうですね。こちらの太陽電池、上の太陽電池は、この青く塗った部分のスペクトルを利用して。紫外線とか可視の高いエネルギーのところをですね、利用します。

高橋:紫外線はそこで吸収されちゃうということですね?

山口:そうですね。

高橋:それ以外の光は吸収されずに透過しちゃうわけ。

山口:透過していきます。

高橋:反射されないんですか、こういうのって。

山口:ここでは、ここに反射防止膜ってありますね。付けています。ですから、普通何も入れないと3割、4割は反射するんですけども。

高橋:やっぱり反射されちゃうんですね。

山口:ええ。これ(反射防止膜)を入れることによって反射のロスが5%以下に抑えられています。

高橋:5%以下。ああ、そうなんですか。

山口:で、中間層の太陽電池で緑の、可視光を使って。

高橋:可視光の部分を使う。

山口:で、一番の下部の太陽電池はこの赤外線、眼に見えない赤外線を使って太陽光スペクトル全部を使おうという発想でやっています。

高橋:これは無駄なく使うということで、良さそうな感じがしますね。

山口:ええ、そうですね。次がありますか、太陽電池の高性能化の可能性の図が。これが、太陽電池の高性能化の可能性を示したもので、集光、接合数。さっきは3層構造でして。で、3接合と呼んでますけども。3接合にすると、1つの太陽電池の材料よりも効率が上がっていく。

高橋:40%を超えたわけですね、これで。

山口:そうですね。なおかつ集光してやると、理論的には50%を超えて、5接合くらいにすると60%も可能だということが見えてますね。

高橋:5層にすると60%にも行くと。

山口:そうそう。限りなく近く。

高橋:この実現値と理論値、まだちょっと差がありますね、20%ぐらい。

山口:ええ、そうですね。

高橋:それは何が問題で。

山口:いや、ですから、つくるのが結構難しいとか、いろいろあるんですよね。集光にすると温度が上がったりしますね。温度が上がっても性能が低下しないような工夫が必要になるわけです。出力が低下しない。いろいろやることがあるんですけど。徐々にこれ、穴を、差を埋めていく。

高橋:そうですね。これ、3層のままで性能を上げるという方向と、もう1層増やすという、両方のアプローチができそうですね。

山口:ええ。われわれは両方、今、やっているとこなんです。これは高性能化の見通しですけれども。ちょっとこれ英語で失礼なんですけども。縦軸は太陽電池のモジュール価格。

高橋:値段ですね。縦軸、値段。横軸は?

山口:横軸が累積の生産量を示しています。

高橋:生産量ですか。

山口:これが結晶シリコンの、太陽電池の、モジュールです。今このレベルになってですね。非常に安くなっています。

高橋:生産量が増えれば増えるほど値段は安くなるということですね。

山口:そうです。これが、まだ生産はあまりしてないので、これは集光のプロトタイプなんです。

高橋:そうなんですか。

山口:同じ生産量であれば、値段が3分の1とか5分の1ですむと。

高橋:ほんとですね。ずいぶん安いですね。

山口:そうです。どんどん増やしていけば、同じ生産量になれば非常に安いものになるということで、普通の火力発電とか、それと同等ぐらいの価格のものができる可能性があるわけですね。可能性はあるわけです。

高橋:そうですか。この価格というのは、1ワットあたりの価格ですね?

山口:そうです。

高橋:1ワットの電力をつくるのにかかる費用が、集光型であれば火力発電と同じぐらいにまで行けそうだと。ほお、そうなんですか。

山口:あとは結晶シリコンでは生産量をどんどん増やしていくとか、安い技術を開発するということで、さっきの火力発電並みにしようということでやっているわけですね、技術開発を。

高橋:シリコンのほうでも火力発電並みにしようとしているわけですか?

山口:ええ、もちろん。ですから、この生産量を上げれば、1桁上がれば3分の1の値段になりますから。ですから将来1桁増やせば3分の1になって。

高橋:コストはね。

山口:火力発電の倍ぐらいの値段にはなると。

高橋:ああ、まだ倍なんですね。じゃあ100倍にしなきゃいけないんですね。

山口:そうそう。それのさらに3分の1ぐらいにしなきゃいけないので、半分ですか。そういった低コストの技術開発も必要になるわけですね。

高橋:でも、たくさんつくるだけでコストが下がるのであれば、ですよ、技術的な開発という面では簡単なような気がするんですけど(笑)。

山口:それはさっき言った、結晶シリコン、薄膜、集光、それから最近流行りの有機とか、みんな競争しているわけです。今はほとんど結晶シリコンでやってますけども、競争になるわけですね。結晶シリコンはやっぱり豊富な原料なので、個人的には結晶シリコンが将来的にもメインを走ってほしいと思っているわけです。ただ、ウェハーというか厚い材料を使いますので、どうしても高くなってしまうということで、それを薄くするとか、そういうことで安くしようとか、あるいはこういったように生産量を増やすとか、いろんな技術開発をしている。あるいは最近は、普通は銀って高い金属を使うんですよ。それを安い銅に替えようとか。いろんなアイデアが出てきています。

高橋:そうなんですか。先生は主に集光型の研究をされているんですよね?

山口:ええ。あと結晶シリコンの研究開発も研究室ではやってます。

高橋:両方やってる。そうなんですか。集光型の写真がありますか? 光を集める。これは何ですか?

山口:これは太陽電池。さっき言った3層構造の太陽電池。

高橋:ずいぶん小さいんですね。

山口:そうですね。だいたい7ミリとか5ミリ角のものです。7ミリ×7ミリ、あるいは5ミリ×5ミリで。

高橋:これでどれぐらい出力があるんですか?

山口:さっきのあれで言うと、7ミリ角の太陽電池を500倍に集光すると10ワット。

高橋:ほーお。こんな小さなので10ワットの。

山口:1平米ぐらいのモジュールをつくると、400ワットの出力が出せる。

高橋:1平米。

山口:1平米というと畳半分ぐらいですかね。400ワットぐらい出る。

高橋:これをいくつか使う、並べるということですか?

山口:そうですね。そういうことです。

高橋:その集光のところはどんなふうにするんですか。

山口:これはだから光学レンズなんですね。プラスチックのレンズ。

高橋:その上の部分がプラスチックレンズですか。

山口:ええ。こういうドーム型にしてますけど、うまく焦点を合わせるようにする。あとは光の強度が、分布がムラだと、虫眼鏡で例えば紙に当てると焦げますよね?

高橋:はい。

山口:そうならないように、均一に光が当たるようにしてるんです。そういう工夫をしてるんですね。

高橋:へーえ。

山口:ですから虫眼鏡で、高橋さんもやったことありますでしょ?

高橋:やりました。

山口:子どもの頃。

高橋:ええ。学校の理科の時間、やりましたよ。レンズで光が真ん中にものすごく強く集まっちゃうから燃え出す、と。

山口:燃え出す。そうならないように、均一に当たるようにするんです。

高橋:ある面積のところに、ある程度広がって集まるように。

山口:そう。そうすると温度が上がらなくて、焦げること、溶けることもないし。そういう工夫をしてるんです。

高橋:なるほど。じゃあレンズで集めるといっても、ただ集めたんじゃ駄目なわけですね。

山口:そうです、そういう工夫をしています。

高橋:なるほどね。で、この丸い穴のところに光が集まってくるわけですね。

山口:そうですね。実際はこの下にあるわけです。

高橋:で、さっきの太陽電池。

山口:太陽電池が、5ミリ角ぐらいのものがあって、下の熱がうまく逃げるように熱伝導のいいシートを下に敷いて、熱放散している。

高橋:ああ、そういう工夫も必要なんですね。

山口:だから水で冷やさなくてもすむわけですね、こういった工夫をすれば。

高橋:それ以外だと、今までは水で冷やしてたりしたんですか?

山口:そうですね、今までやってたんですけど。こういったレンズの工夫とか、さっき言った、放熱できるシートを入れることによって、水なんかで冷やさなくても出来るようなシステムになっているんです。

高橋:なるほど、なるほど。

山口:これ、やっぱり日本の誇れる、何と言うか、成果だと思うんですけどね。

高橋:これの全体像の写真ありますか。

山口:あ、これがそうですね。

高橋:こういう感じ。

山口:これは愛知県で実証試験をしてるんです。これは、6機あるのは400倍集光のモジュールですね。6つあります。それぞれで、1つが200ワットですかね。これは500倍集光に2機ありますけども。これが150ワットの、ちょっと小さめのシステムですけど。これ(400倍集光のモジュール)がだいたい0.7平米ぐらいの面積になってます。200ワットで、効率としては、さっき言った、太陽光エネルギーを電気エネルギーに換えることとしては32%ぐらい。

高橋:32%ですか、これで。

山口:ええ、外で出てます。

高橋:これは動くんですか、なんかこう機械が。

山口:追尾することになっています。

高橋:太陽の光に合わせて。今、普通、太陽光パネルってそのままですよね? 動かないですよね?

山口:そうですね、ええ。ただ将来的には、追尾すると普通の結晶シリコンでも薄膜でも太陽光をうまく集められるので、いわゆる出力をたくさん出せるんです。

高橋:そうですよね。でも追尾させるにはまたエネルギーを使っちゃいますよね?

山口:これはですね、いわゆるセンサーで追っかけてるんじゃなくて、カレンダーというか、太陽光がこういうふうに出て沈むはずだという法則の下に単に動かしているだけなので、電力はほとんど使わないんです。

高橋:ああ、そうなんですか。

山口:発生する電力の0.1%とか、それ以下なんです。自動車のモーターみたくバーッと始終動いているわけじゃないので、非常に低コストというか、使用電力量としては少ない技術になっているんです。

高橋:そうなんですか。そうしたら追尾したほうが、なんかいいような感じですね。

大同特殊鋼提供

山口:ええ。結晶シリコンでもそういった時代になるかもしれませんね。これがレンズですね。

高橋:きれいですね。

山口:こういった安いプラスチックレンズで、こういう加工をして、太陽光をうまく焦点を合わせて太陽電池に集めるという工夫をして。あと、さっき申しましたように、いかに太陽電池に均一に当たるかという工夫をしてるわけです。

高橋:この面の、曲面の設計とかがなかなか難しいんでしょうね。

山口:ええ、そうですね。いろんな大学の先生方と協力して、設計が得意な先生に設計してもらったりしてるんです。

高橋:なるほどね。

大同特殊鋼提供

山口:これが、大同特殊鋼という、愛知県の企業が設置しているものです。

高橋:これはどこに設置しているんですか?

山口:これは愛知県のですね。

高橋:その企業の敷地に、ですか?

山口:えーっと、中部国際空港の隣の駅で、常滑の隣の駅ですかね。新エネルギー実証研究センターというのがありまして。そこで30キロワットというシステムの実証試験をしています。

高橋:ああ、そうなんですか。

山口:ええ。ですから、下で花とか植物が育っていますよね。

高橋:ええ。

山口:ですから光が無駄にならないという、農業用にもできるというイメージがあるんですよね。

高橋:へーえ。

山口:だから今遊んでいる休耕田なんかに使うと、非常にメリットがあるんじゃないかと。

高橋:でも、この上の部分は太陽光を遮っちゃうわけですよね?

山口:ええ。ただこれも、シースルーもできるんです。半透明にもできるんですね。

高橋:ああ、そうなんですか。

山口:そうです。シースルーだとだいたい7割ぐらいの光は、抜けてくるのもあるんです。さっき40%ということは、使ってない光が漏れてきてるんですね。

高橋:60%は使ってないということですか。

山口:ええ。それが抜けてくるので、それを使うという。

高橋:ああ、そんなこともできるんですか。

山口:ええ、それもできるんです。将来、そういった用途もあるかなと期待はしてますけど。

高橋:まあいろいろ将来には期待持てそうなんですけども。ただ、現状で言うと、原発の出力と比べると、太陽光発電の出力というのはまだまだ少なくて。ですよね?

山口:そうですね。これがあります。先ほど申しました、太陽光発電のロードマップ2030というのがあったんですけど、それはだいたい2030年に1億キロワット。原発100基分?

高橋:100基分ですね。

山口:あとで出てくる利用効率の違いがあるので、原発の約20基相当ですけど。そういった目標があるんですね。

高橋:それを太陽光でやる、2030年に。

山口:そうですね。これは、年率30%の伸びで設置してやれば、導入してやれば達成できる目標なんです。30%で伸ばすと、2022年に1億キロワットを達成できるということなんですね。ところが、太陽光は雨の日とか夜、発電しませんね。利用効率が12%ぐらいと言われてるんです。原発はだいたい、今はだいたい20%に落ちてますけど、福島原発以来、普通は70%。

高橋:そうですね。稼働率ですね。

山口:ええ。6倍ぐらいの容量が必要になるんですね、太陽光は。そういうハンディを持っているんです。もし今、福島事故以降、40年という古い寿命の原子炉を廃炉する案が、この白丸ですね。

高橋:どんどん廃炉していくと。

山口:どんどん古くなってくるから廃炉する原発容量は増えていく、と。まあ、あるとこで飽和するんですけど。それを補完するには、つまり2020年頃に、さっき言った30%の伸びで太陽光発電を入れてやれば。

高橋:伸びたとすれば。

山口:だいたいはできる、と。赤丸は、40年の古い寿命の原発を廃炉する案と、それから新しい、新規のものをやめる案がどんどん増えていくわけですけど、それも2025年ぐらいにはだいたいできるという試算にはなるんです。そのためには、雨の日とか夜、発電しませんから、いろんな従来のエネルギーと、それからいわゆる再生可能エネルギー、新エネルギーと、あるいは蓄電池とハイブリッド連携しながらやるとか、いろんな技術開発が必要になりますね。

高橋:これ、1、10、100、1,000ってなってますけど、対数目盛ですよね?

山口:そうですね。

高橋:対数で。こっちは年ですけど。対数目盛でまっすぐ行くと、わりと簡単に行きそうですが、実は私、こんな簡単には伸びないんじゃないかなっていうふうにも思うんですよね(笑)。

山口:ああ、そうですね(笑)。

高橋:この間、私、浮島発電所、メガソーラーを見てきたんですよ。写真映りますか?羽田空港のすぐ隣にこの浮島メガソーラー発電所がありまして。こんな感じで太陽光パネルが並んでるんですね。いつも飛行機が行き交っていてですね、見に来る方は皆さん、飛行機に喜ばれるというお話でしたけど。

 次の写真はもうちょっと高い所から撮った写真。高い所から撮ると、たいして広くないように見えるかもしれないんですけど、こっちの隅っこに人がちょっと写ってますけども、かなり広いんですよね。で、聞いてみたら、これだけで東京ドーム2.3個分の広さがあると。にもかかわらず、と申しましょうか、設備容量的には7000キロワットで。毎日どれだけ発電したかというのが数字で出てくるんですけども。私が行った日の前日、晴れだったんです。晴れてた日で、24000キロワットアワーですね。キロワット時。

原発は普通、設備容量は100万キロワットと言われていて、24時間もし稼働すれば、100万だから2400万キロワット時、1日で発電できちゃうんですね。2400万キロワット時と2400キロワット時。いやあ、やっぱりまだちょっと太陽光、か弱いなという印象で帰ってきたんですよ(笑)。やはり太陽光発電の問題でよく言われるのは、面積が非常にたくさんいるじゃないかと。原発1基分、100万キロワット分を太陽光で置き換えようとしたら、山手線の内側全部太陽光パネルを敷き詰めないと無理だ、みたいな話が出てきて。それも現実的じゃないなって思ってしまうんですけど、そのあたりはどうなんでしょうか。

山口:いや、おっしゃる通りで。今の原発が、新規も入れてまあ60基あるとして、1基だいたい100万キロワットですね。掛けると6000万キロワット必要になります。もし結晶シリコンの太陽電池を入れたとしたら、変換効率、先ほどの太陽光エネルギーを電気エネルギーに換える効率が15%としたら、だいたい2400平方キロメートルの面積が必要になります。

高橋:2400平方キロってどれぐらいですか。イメージできない(笑)。

山口:福島県の6分の1の面積です。今回、福島原発ありましたよね。

高橋:はい。福島県全体の6分の1に敷き詰めるという。

山口:と、原発全部、日本の原発を。

高橋:それで全部いけるんですか。

山口:全部をまかなえる、代替できる。雨の日、夜、発電できませんけど、さっき容量、設置量を増やせばまかなえるという感じになりますね。あと、さっきの集光、効率を40%にすると、さらに3分の1の面積ですむと。ここで考えなきゃいけないのは、例の福島原発で放射能汚染している地域がかなりありますよね。

高橋:そうですね。

山口:それがだいたい2000平方キロメートルと言われてるんですよ。除染しなきゃいけない。さっきの2400平方キロメートルとほとんど同じですよね。

高橋:うーん。

山口:ですから、個人的に思うのは、そういう除染すべき地域にこの太陽光を入れてやれば、日本の原発全部を代替できるという試算にはなるんですよ。その辺が今後、原発を含めて新エネルギーをどうするかという判断材料になるかもしれないですね。

高橋:ああ、そうですねえ。

山口:そういうポテンシャルはあると思うんですね。

高橋:今後の太陽光発電技術の開発については、さっき先生もおっしゃっていた、ロードマップというのが出来ているんですね。

山口:そうですね。あります。

高橋:それをちょっと見てみましょう。

山口:これは2004年に最初の第1版を発行しまして、2009年に第2版を発行したわけですけれども。

高橋:そうなんですか。これが最新版なわけですね?

山口:そうですね。だいたい電力コスト、発電コストで言うとキロワットアワーが今だいたい35円とか40円して、一般のご家庭が電力会社に払うものとしては23円とか22円/キロワットアワーだと思うんですけれども、まあ5割ぐらい高いと。

高橋:はい。

山口:で、2017年までに14円にしたいと。ただ実用的には2020年、技術開発の目標としては2017年までにキロワットアワー当たり14円にしたいと。これはだいたい普通の工場で買う価格に相当するんです。

高橋:そうなんですか。

山口:最終的には2025年まで、実用的には2030年までに。2025年までに技術開発をやって、7円/キロワットアワーにしたいと。これはだいたい火力発電とかなんかの発電コストに相当するんですけど。

高橋:それがさっきおっしゃっていた目標になるわけですね。火力発電より安くする。

山口:そうですね。そのためにはいろんな技術開発をやらなきゃいけないということですけども、いずれにしても2004年版よりは2020年から2017年、3年前倒しにしてますし。

高橋:ああ、そういうことですか。

山口:2030年に対して2025年という、5年前倒しにして技術開発の加速を図ろう、産業をどんどん育成しようということでやっているわけです。

高橋:その黄色とか黄緑の矢印は研究プロジェクトですか?

山口:はい、そうですね。私自身が、このNEDOの未来技術のプロジェクトリーダーもやって、今、2010年度からスタートした「次世代高性能太陽光発電技術開発」のプロジェクトリーダーをやってます。結晶シリコンから、薄膜から、集光から、化合物から、有機も全部含めてやっています。これがちょうど2017年を想定してやってますけども、さらに2サイクルぐらいプロジェクトをやって、2025年ぐらいまでやれば、なんとか技術開発面では、中国、欧米も含めて追従できないような、いい技術を開発したいとは思ってますけど。

高橋:2004年に始まったときの目標、2010年のときにはいくらって、たぶんあったと思うんですけども。

山口:そうですね。

高橋:それはもう達成したんですか?

山口:残念ながら、23円/キロワットアワー、一般の家庭電力料金並みだったはずなんですけど、ちょっと高めになって。

高橋:ああ、30円なんですね。23円が目標だったのが。

山口:それはですね、今、20年使えるという寿命想定になっています。30年使えるとすれば、これが23円保証できるんです。

高橋:ああ、そういうことなんですか。

山口:だから見方によっては、「30年もちますよ」と言えば、この目標は達成できることになるんです。

高橋:ははー。でも30年もつかどうかは、30年経ってみないとわかんないんじゃないですか?(笑)

山口:そりゃそうですね。たぶんもつと思うんですけどね。ですから、性能を上げる、安くする、長持ちさせるという、3拍子が必要なんですね。

高橋:なるほどね。わかりました。じゃあ、もうちょっとお話を伺いますが、一旦ここでコマーシャルを挟ませていただきます。一旦コマーシャルです。

(CM)

高橋:『科学朝日』、本日は豊田工業大学大学院教授の山口真史さんをお迎えしています。ここまで、太陽光発電研究の歴史とこれから、についてお話を伺ってきましたけれども、世界との共同研究もいろいろ進めておられるんですね。

山口:はい。

高橋:2011年の6月にNEDOがEUと共同で変換効率45%以上の集光型太陽電池を目指して技術開発に着手するという発表がありました。これは先生がリーダーとなられるんですね?

山口:はい、そうです。NEDOとEUの共同開発ですけども、予算とか何かいろいろな都合で、集光型太陽光発電だけに絞って共同研究開発をやろうということでやっています。さっき高橋さんがおっしゃったように、目標としては、太陽電池の目標効率としては45%で、システムの効率としては35%。あと、スペインでたぶん実証試験をすることになると思います。日照条件が非常にいいので、50キロワットの集光システムを設置して、どんな課題があるかという実証試験をするという予定になっています。ヨーロッパは7機関、日本から9機関が参画しているので、それぞれ強味のあるところ、いろんな得意なものを出し合って、こういう研究を加速化しようとしてやっていますね。

高橋:ヨーロッパの得意な部分というのはどういうところなんですか?

山口:やっぱりシステムに非常に強い。日射条件がいいですから。昔から集光のシステムを設置して実証試験をしている。日本は材料とか太陽電池とかモジュールづくりが非常に得意なんです。

高橋:そうですねえ。そこは、でも日本もシステムに強くならないとダメですよね。

山口:ええ。ですから、強くなりたいためにヨーロッパからそういう技術を。

高橋:共同研究して。

山口:そうして日本のレベルを上げようということです。2030年頃には、結晶3分の1、薄膜3分の1、集光3分の1と、個人的には3つの柱が、その3分の1ずつシェアというか、マーケットを持とうという希望を持って、そういったビジョンでやってますけど。あとはですね、今、日本とヨーロッパですけど、今後たぶん日本とアメリカ、日本とカナダ。実は2月にアメリカとカナダへ行って、そういう技術開発、共同研究開発の可能性を議論するんですけど、それがたぶんスタートするかもしれないと。

高橋:そうですか。

山口:あと、東南アジア諸国もありますし、韓国等ですね、特に、韓国あたりは、一生懸命、一緒にやりたいと言ってますし。

高橋:ただ、なんか韓国は半導体産業が大躍進していて、怖いような感じもしますよね。

山口:まあそうですね。基礎研究段階ではやってもいいかもしれないということで。あとはアラブ諸国。サウジアラビアとかクウェートあたりが、2030年ぐらい、さっきのロードマップではありませんけど、2030年ラインが石油の生産のピークを迎えるという。そういう危機感を、政府の上の人たちは持っていて、こういった新エネルギーに対してなんか一緒にやりたいとか、指導してくれないか、という話もあることはあるんです。これがそうですね。

高橋:ここに出てきましたね。

山口:石油が、2030年ピークで、2100年にはもう5%ぐらいですね。サウジアラビアとか、今は金持ちですよね。クウェートなんかも。もしなくなったら昔の時代に戻るわけなので、石油のお金で新エネルギーの技術開発をして、産業を育てたいということが今、中東諸国の一つの方向になっていると思うんですけど。

高橋:これはドイツの気候変動諮問会議がまとめた将来ビジョンということですね。

山口:そうですね。

高橋:太陽は、この黄色いところが太陽ですね?

山口:ええ。今はドイツでも電力の2%、3%しか入ってませんけど。

高橋:まだ微々たるものなんですよね、太陽光発電って。

山口:はい。ドイツ政府が見るものとしては、2050年に2割、2100年7割が太陽光ですよね。石油が5%ぐらいで。石炭はほとんど寄与してなくて、天然ガスが1割ちょっと、1割強。あとバイオマスと風力が1割弱という試算にはなっています。

高橋:2100年になると7割太陽光というのは、先生もそのように思われます?

山口:いや、そう、たぶん新エネルギーというか、われわれ再生可能エネルギーと呼んでますけども、先ほど申しました、地熱、太陽光、風力、バイオマス、こういったものがそれに相当しますけれども、その中ではやっぱり太陽光が一番可能性を持っていると思うんです、資源量としてはですね。世界で消費するエネルギーの1万倍のエネルギーが降り注いでいるわけです。

高橋:太陽からですね。

山口:そうです。ですから経済性を加味しても10倍以上の可能性があるわけで。その点、風力とか何かしますと、その消費するエネルギーの半分とか。

高橋:あ、そうなんですか。どんなに集めても半分までしかない、風力は。

山口:そうですね。ええ。風が吹かないときもありますしね。

高橋:そりゃそうですねえ。

山口:そういった資源の豊富さからいって、やっぱり太陽光が一番だという感じがします。

高橋:そうですね。

山口:そのためにはいろんな技術開発とか、仕組みを変えなきゃいけないとか、いろいろやることはいっぱいあると思うんですけども。一つは、さっきも申しましたように、雨の日とか夜発電しませんから、従来のエネルギーと、あるいは新エネルギーとハイブリッド連携するとか、あるいは蓄電池と抱き合わせるとか、それで安定化していくとかですね。

高橋:そうですね。組み合わせがどうしても必要になってきますね。

山口:そうですね、必要になります。

高橋:太陽光だけ、というわけにはいかないわけですよね。

山口:そうですね。ですから電池とかパワーコンディショナー、ああいうやつもどんどんどんどん大型化しなきゃいけない。いわゆる電気自動車に使うよりもっと大きな設備容量が必要になってきますね。ですから新たな、先端的な開発がそういった分野でも求められると思います。

高橋:あとは社会制度という面も大きいじゃないですか、普及するかどうかの部分。そこのところでは先生はどういうようなご希望を持っていらっしゃいます?

山口:最近、日本でも4カ所で、スマートグリッド・スマートコミュニティというプロジェクトがスタートしてますけども、やはりもう少し従来の通信で使うような、あるときは貯めておいて、日射、気候条件を予測して、足りなくなったら送電するとか、そういうインテリジェントな送配電が要求されてくると思います。そういったソフトウェアというか技術開発も必要になってきますね。ですからやるべき課題はいっぱいあるわけで。先ほど申しましたように、2030年ぐらいまでに、10年、20年かけてそういった原発代替、少なくともその何割かでもいいから代替できればいいと思っています。

高橋:そこで必要になってくる技術開発の大きな部分をシステム開発が占めているというところで、日本が弱いところがキモというのはちょっと心配にもなるんですけど、どうでしょうか、そこのところは。

山口:それはですね、今までの国のあれとして「ものづくり」で、やっぱりどうしてもソフト的なものにはなかなか人もいないんですね。ですから、そういった面で若い人材育成も必要になるわけなので、これからの大きな課題だと思います。

高橋:ねえ。そこをがんばっていかないと。

山口:それとあと、さっき言った、日本とヨーロッパ、日本とアメリカ、システムに強い国と連携して日本のレベルアップをして。

高橋:そうですね。どんどん技術を吸収したほうがいいですね。

山口:そういう課題を一緒になって解決していくというのが一つの方向性だと思いますけど。

高橋:そうですね。先生は福島に太陽電池産業とソーラー発電所の拠点を形成しようと提唱されていますね。

山口:はい。

高橋:「福島ソーラービレッジ」と言うんですか?

山口:はい。福島の小名浜でも日照条件が非常に良くて。

高橋:あ、いいんですか、あそこは。

山口:ええ。全国の80カ所、観測地点があるんですけど、その第12位なんですね。結構いいんです。東北の中で1番です。そういう意味では福島県は非常に太陽光に向いてる県だと言えますね。ここではギガワット、ですからさっき言った100万キロワット級の太陽光発電所を設置する。そういうことで首都圏への電力供給を確保したい。あとは太陽電池も、原料から、太陽電池から、パネルから、システムの工場を誘致して雇用を確保する。そういうことで震災復興事業としてやったらいいのではないかということをNEDO等の委員会では提案してはいますけど。で、福島を原子力から日本のソーラービレッジにしてはどうかという、「福島ソーラービレッジ」のあれですけどね。

高橋:風力発電の基地にしようという構想もありますよね?

山口:そうですね。いろんなものがあると思います。

高橋:いろんなクリーンエネルギーを集積して。

山口:そうですね。いろんなものが入ってくればいいと思うんですね。そういう面で、福島県が、原発がもし全部、6基ですか。

高橋:第1が6基ですね。

山口:第2原発が4基。全部廃炉されてもそういった首都圏への電力供給は確保できると。それから原発に代わる雇用として太陽光とか風力とか、そういった産業が入ってくれば雇用も確保できるし、震災復興もかなり進むと思いますけどね。

高橋:そうですね。太陽光パネルの工場も入れるというところが、雇用の確保には大事ですよね。

山口:そういうことです。

高橋:それが実現すると、ほんとに福島の復興にとってもいいことだと思うので、ぜひこれからもがんばっていただきたいと思います。

山口:よろしくお願いします。

高橋:はい、今日はいろいろ太陽光発電についてお話を伺いました。ありがとうございました。

 『科学朝日』、この辺で失礼いたします。次回もぜひご覧ください。

(音声終了)