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【科学朝日】アトピー性皮膚炎と患者の思い(collaborate with 朝日ニュースター、2月23日放送)

 

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 朝日グループのジャーナリズムTV「朝日ニュースター」は、通信衛星などを利用して24時間放送しているテレビチャンネルで、ケーブルテレビ局やスカパー!などを通じて有料視聴することができます。昨年4月から始まった「科学朝日」は、高橋真理子・朝日新聞編集委員がレギュラー出演する科学トーク番組です。WEBRONZAでは、番組内容をスペシャル記事としてテキスト化してお届けします。

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ゲスト:東洋大学理工学部准教授 安藤直子さん

高橋:こんばんは。科学の最先端にひたる『科学朝日』。案内役の高橋真理子です。本日は、患者さんが非常に多いアトピー性皮膚炎を取り上げます。小さな子供がかかる病気で、大人になれば治るものと考えられてきたアトピーですが、大人になっても治らない、あるいはむしろ悪化してしまうという患者さんが増えています。重い症状を抱えた患者さんの悩みは深刻です。当然、治療法は今のままでいいのかという疑問も浮かんできます。しかし、本日は、皮膚科の専門医をお呼びすることはあえてせず、患者の立場で患者の実態調査をなさった、東洋大学理工学部准教授の安藤直子さんをゲストにお迎えしました。患者がどんな状況にあるのかを知ることが、成人アトピー患者の増加という問題を解決する第一歩になると考えるからです。本日のテーマは、「アトピー性皮膚炎と患者の思い」です。安藤さん、よろしくお願いいたします。

安藤:こんばんは。よろしくお願いいたします。

高橋:後ほど詳しく伺いたいと思いますけれども、安藤さんご自身が幼少期からアトピー性皮膚炎に悩んでこられたわけですね。

安藤:そうなんです。ただ、子供のころはそれほどひどくはなくて、10代の後半から症状が出てきました。特に、20代前半と40代前半は本当に大変でした。現在は、いろいろな経過を経て、日常生活にはあまり困らない程度にまで回復してきました。

高橋:今拝見する限りはほとんど大丈夫なように見えますけれども(笑)

安藤:はい(笑)そうですね。40歳のころに、それまで使用していたステロイド外用剤を止めてしまったんです。どうも自分がステロイド外用剤に依存しているように見えたので、これ以上使っていくことにメリットが感じられなくなって断念したわけなんです。でも、そうしましたところ、一時は本当にひどくなってしまいました。それでもここまで回復してきたので、自分にとっては本当に良かったと思っています。

高橋:そうなんですね。

安藤:はい。

高橋:患者の実態調査に取り組もうと思われたきっかけというのは、ご自身がつらい思いをされたということなんでしょうか。

安藤:そうです。ほんとに、やめたときにあまりにもひどくなってきてしまって、私は他の患者さんがどうしていらっしゃるのか、そういうことは全く知らなかったので、他の患者さんの状況を知りたいと思いました。自分のようになった患者さんは一体どうやって対処しているのか、いろんなことを知りたいと思い、それが調査のきっかけになりました。

高橋:本来のご専門は何でいらしたんですか。

安藤:食品毒性学です。

高橋:食品の毒性学というと、薬の毒を調べるのとちょっと近いような感じがしますけど。

安藤:実際、専門分野としてはかなり違うんですけれども、毒性学というのは、食品中の毒物だけではなく、薬も対象にしていますので、かなりその辺では近いところもあります。ですから、この専門を勉強していたおかげで、自分の使っていましたステロイドとか、他の薬剤についても、その機能を理解するといった面で、自分の専門は役に立ったと思います。

高橋:そうでしょうね。患者さんの調査をするということについても、研究者として訓練されてきたことが役に立っていますよね。

安藤:研究というのは、ある事象について、その原因と結果の因果関係を解明するということが一つの大きなテーマになっています。そういった意味でも、そのような訓練を受けてきたことが、自分の症状を理解したりとか、あるいは患者さんたちの調査をした際にも役立ってきたのではないかと考えています。

高橋:そうでしょうね。こちらが2008年におまとめになったご本になります。患者1,000人の方のアンケート調査をもとにして、ご自身の体験、経験もお書きになった。この本に対する反響はいかがでしたか。

安藤:思いのほか大きかったので、ちょっと驚きました。私は、自分のような状況になる患者というのはごく一部で、そういう人たちがどうしているのかということを知りたいと思ったんですけれども、この本を出した後に、自分もそういう経験をしたというような、そういうことを訴えてこられる患者さんがたくさんいらっしゃいました。ですから、当初に比べると今は、自分のような経験をする、ステロイドを使いこなせずに、その副作用に悩んでしまうという患者さんは、自分が思っていたよりもずっと多いのではないかということを感じるようになっています。

高橋:それでは、CMを挟んで、アトピー性皮膚炎と患者の思いについてじっくり伺いたいと思います。いったんCMです。

<CM>

高橋:科学朝日。本日のゲストはこの方。東洋大学理工学部准教授の安藤直子さんです。

安藤:よろしくお願いします。

高橋:よろしくお願いします。本日のテーマは「アトピー性皮膚炎と患者の思い」です。まず、アトピー性皮膚炎はどのような病気かという、基礎から入りたいと思うんですけれども。

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安藤:日本皮膚科学会の定義によりますと、アトピー性皮膚炎とは、増悪、寛解を繰り返す掻痒(そうよう)、かゆみですね、かゆみがある湿疹を主病変とする疾患であり、患者の多くはアトピー素因を持つというふうに定義されています。

高橋:何か随分難しい言葉が並んでいますね。

安藤:そうですね。

高橋:増悪というのは、悪くなるということなんですね。

安藤:はい。アトピーはよくなったり、悪くなったりを繰り返すかゆみのある湿疹という意味になるかと思います。アトピー素因というのは何かといいますと、自分や家族がアレルギー疾患にかかったことがある、あるいは、IgEというタイプの抗体があるんですけれども、その抗体をたくさん持っているという、そういうふうな意味を持っています。ただ、アトピーと診断されても、IgEの値が低い人もいますし、あるいは自分も家族もアレルギーには全く無関係だったという患者さんもいます。

高橋:そうすると、アトピー素因を持たなくてもアトピー性皮膚炎になることはある。

安藤:そのようです。専門家の意見を総合すると、そう言っていいと思います。

高橋:そもそもアトピー性皮膚炎は非常に安易に診断されているような感じがするんです。 私の個人的体験を申し上げますと、二十数年前の話ではありますけれども、赤ちゃんがちょっと湿疹があると、「あっ、アトピーですね」と保健所で言われてしまうんです。あの当時でも、アトピーという言葉はもうお母さん方は皆さんご存じでしたし、それが非常に増えているということもみんなの常識になっていた。ところが、ではアトピーはどういう病気かというと、保健所でも、病院でも、きちんとは教えてもらえなかったと、そういう思いがあるんですけれども。

安藤:お医者さんは、患者さんの年齢とか、あるいは症状の出ている部位ですとか、乾燥の度合いとか、そういったことを総合的に判断して診断をなされるんだと思います。

高橋:でも、皮膚科に行く前に、行くまでもない形で、なんとなく「アトピーじゃないの?」と言われてしまう子供たちがたくさんいるような感じがします。

安藤:ここにも書いてあるんですが、繰り返し出てくるというところがポイントではあるんです。でも、繰り返し出てくるからすぐアトピーと言えるかというと、そうでもないようです。私も皮膚科の先生にこの点を聞いてみたんですけれども、繰り返し出てくるとアトピーとあまりにも安易に決められて、診断がすぐ出てしまうことに対して、その先生は少し嘆いていらっしゃいました。そもそもアトピーというのは、繰り返し出てくるんですけれども、成長とともにだんだんよくなってくる、そういう病気だったんです。現在もそうやって自然によくなってくるお子さんたちはたくさんいます。ただ、30年、40年前に比べますと、そういった自然治癒せずに、そのままアトピーを持ったまま大人になってしまって、しかも症状が悪化してしまう患者さんが増えています。そういった意味でも、アトピーをめぐる、アトピーの病態というものが非常に昔と変わってきてしまっているのではないかという感覚を私は持っています。

高橋:アトピーが何かという定義は必ずしもはっきりしないんだけれども、成人の患者さんが増えているということははっきりしている。

安藤:はい。そうです。成人の患者さんは非常に増えているように思われます。

高橋:これはデータが出ていますね。

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安藤:はい。これは東大の皮膚科外来を訪れたアトピー患者さんの年齢分布の推移をグラフにしたものなんですけれども、1967年、76年、それから1986年、1996年と、年数を。

高橋:ちょっと数字が見にくいですけれども。

安藤:すみません(笑)。これを見ますと、ほんとにこの辺の1967年、1976年ですと10歳になる前の患者さんが非常に多いんです。

高橋:この青いのが0から9歳ということですね。もう子供ばかりということですね。

安藤:それで大人はそんなに多くないと。ところが、1986年になってきますと、割合が、何かちょっと分布が違ってきている。

高橋:そうですね。

安藤:1996年、もう既にかなり前の話になるんですが。

高橋:10年以上前ですが。

安藤:10年以上前なんですけれども、こうやって見ますと、20歳以上の患者さんがこんなにたくさん増えてきているんです。

高橋:これは東大の皮膚科を訪れた患者さんということなんですね。

安藤:はい。

高橋:それなりにひどくなってから行く病院ですね。東大の皮膚科というと。

安藤:そうかもしれませんね。

高橋:すると、少なくとも最近になって、30歳以上になってひどい症状を持っている方が非常に増えているということが分かるかと思います。

安藤:結構いるということになるかと思います。

高橋:しかし、このわずか30年か40年ですか、この急激な変化というのは、非常に不思議ですね。

安藤:私もそう思います。患者を取りまく環境に大きな変化があったとしか言いようがないと思うんです。私などは、皮膚に直接塗るステロイド外用剤がその変化の要因の一つとして挙げられるのではないかと疑っているわけです。もちろん私たちの生活環境は、この3、40年の間に激変しました。ですから、必ずしもステロイドを悪者にするわけではないんですけれども、ただ、皮膚に直接塗るものですから、その影響も大きいはずなんです。ですから、ステロイド外用剤が治療薬であるという理由だけで、これが悪化の、こういった変化の要因から安易に外すことは間違いなのではないかと思っています。

高橋:要因の一つとしてステロイド外用剤のことを考えていくべきだということですね。

安藤:そのように思っております。

高橋:そうですね。いろいろ環境の変化、確かに違ってきていますけれども、むしろ清潔になってきたことがアレルギーを増やすというような、そういう説もありますね。

安藤:そういう話もあるかと思います。

高橋:だけども、それもそうかもしれないけれども、外用剤の問題もあるのではないかというのが。

安藤:アトピーというのは、すごくいろんな影響を受ける、そういう病気だと思いますので、やはり一つ一つの要因をきちんと捉えて考えていくべきなのではないか、その中で、ステロイド外用剤の影響も考えるべきではないかと、そういうふうに思っています。

高橋:そうですね。では、この辺で、安藤さんご自身の病歴といいましょうか、アトピーとの戦いを振り返ってみたいと思うんですけれども、小さいころはどの程度の症状だったんですか。

安藤:もともとあまりアトピーがあった記憶はないんです。それが小学校に入ったぐらいからだったと思うんですけれども、冬の間だけ、膝の関節の裏側のところに軽い湿疹が出てきて、でも病院に通うほどではなかったんです。ここにも書いてあるんですけれども。ですから、薬なんかも全然使っていませんでした。ところが、思春期ごろに私はにきびがかなりひどく出てしまって、皮膚科に通うようになりました。そのときに、顔を洗い過ぎたのか、目の下に軽い湿疹ができました。その顔の軽い症状にロコイドというステロイド剤を出されました。そのロコイドをつけ始めたときには、アトピーの症状というほど、まだそんなことはなかったんですけれども、薬を塗り始めてから、だんだんと皮膚の状態が悪化してきたような、私はそういう印象を持っています。高橋:ロコイドというのは、ステロイド外用剤の一種なわけですね。

安藤:そうです。中ランク、いわゆるマイルドクラスのステロイド外用剤になります。

高橋:そのステロイドをどう使うか。つまり副腎皮質ホルモン剤をどう使うかはアトピーをめぐってずっと議論の的になっていましたね。

安藤:その当時は私もまだ若かったものですから、議論の的になっているということも知りませんでしたし、そもそもその薬がステロイド剤だということも説明されていませんでした。使い方の説明とかも全くなくて、ただそのロコイドをつけると非常に症状がよくなるものですから、ほとんど保湿剤のように毎日使っていたと思います。ところが、使っていてそのときはよくなるんですけれども、すべすべになるんですけれども、だんだん症状が悪化してきたような、そういうふうな感覚を覚えたんです。なんとなく疑問を感じて、あるときこれをやめたらどうなるのかなと思ってやめてみたんです。そしたら、ものすごくぶわっと症状が出てきてしまいまして、ステロイドをやめたいんだけれどもやめられないという、そういう繰り返しになりました。こういう症状の悪化を、患者はリバウンドなんて言っています。

高橋:リバウンドというのは、やめたときに出てくるひどい症状のことをいうわけですね。

安藤:一般的な、あまり医学的な用語ではないのかもしれないんですけども、患者さんの間ではリバウンドという言い方をよく使います。

高橋:よく使うのは、やせるために努力していて、ちょっと油断すると元以上に太ってしまうのをリバウンドなんて言ったりしますね。

安藤:それとちょっと似たようなところがあるかと思うんですけれども、症状が、ステロイドを使えばよくなると。ところがステロイドをやめてしまうと、もともとの症状よりもひどく出てしまう。高橋:もっとひどくなってしまうということですね。

安藤:それをリバウンドというふうな言葉で表現しています。

高橋:実際にはどういう症状になられたんですか。

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安藤:それはもうほんとにひどくて、私は顔が主に症状が出てきた部分だったんですけれども、ほんとにばっと顔が腫れ上がって、汁が出てきて、かゆいし、目もふさがっちゃうような、それぐらいひどい状況になりました。元々のアトピーが悪化した、という感じではなく、数倍にもなって劇悪化したという感じがしました。こういうふうになってしまいますと、ステロイドを塗る以外はもう何をやってもだめなんです。保湿剤とかを塗ったりとか、他の違うメカニズムの薬を出されたりとかしたんですけれども、ステロイド以外のものを塗るとかえって悪化してしまう。そういうことを繰り返して、私の周囲からは「薬を止めるからいけないんだ」と、そういうふうに言われて、私は止めたかったんですけれども、なかなか周りが止めさせてくれずに、そういうのを2、3年繰り返したんです。

高橋:そうすると、それが、個人史を見ると、20代ですね。

安藤:20代前半ぐらいがそういう感じで、22歳のときだったと思うんですけれども、ある皮膚科の先生、新しく行った皮膚科の先生が、ちょっとこれはステロイドを止めてみたらどうかというふうにおっしゃられて、それでステロイドをそのときにようやく止めることができたんです。そしたら、2、3カ月はほんとにひどかったんですけれども、だんだんよくなってきて、それが夏に止めた記憶があるんですけど、冬にはもうかなり落ち着いた感じになってきました。それから季節ごとに悪くなったりとか、よくなったりとかは、そういう変動はあったんですけれども、リバウンドの頃のような悪化はありませんでした。その後、留学して環境が変わったせいもあったんだと思うんですけれども、かなり落ち着きました。

高橋:「留学とともにアトピーの安定」とありましたけど、留学先はアメリカでしたっけ。

安藤:そうです。アメリカのオレゴン州になります。とても私のアトピーと気候のバランスがよかったみたいで、気候的にも非常に温暖なところですので、その間は、アトピーは出たことも当然あるんですけれども、とても安定していました。

高橋:そして、就職とともに悪化。再びステロイドへ。

安藤:そうなんです。アメリカで就職をしたんですけれども、やはり気楽な学生時代とは違って、職場でもトスレスが多いですし、そういったストレスとかに私はあまりうまく対処できずに、だんだんアトピーが悪化してしまいまして、ひどくなってしまいました。やっぱり働いているものですから、ひどい状態のまま働くというのは非常に難しくて、結局はステロイドをまた使うようになったんですけれども、もう少しステロイドを使わないで頑張ればよかったかななんて、今では思っています。

高橋:それで帰国されたわけですね。日本に帰っていらして、プロトピック治験参加とあります。プロトピックというのは、また別のお薬なわけですね。

安藤:はい。プロトピックは免疫抑制剤です。免疫抑制剤というのは、免疫を抑制してしまいますので、どうしても発がん性の可能性がないとは言えないわけです。ただ、ステロイドとは違うので、赤くならないし、リバウンドも起こらないと、そういうふうな説明を受けていました。私は治験という、要するに、治療ではあるんですけれども、まだプロトピックが認可される前でしたので、研究対象みたいな、そういう形でこの治験に参加させていただきました。

高橋:その新しいプロトピックというお薬はどうだったんでしょうか。

安藤:とてもよく効きました。この薬で私は4、5年、なかなか安定していたんですけれども、ただ私の場合は、4、5年たったときに、吹き出物というか、にきびみたいなものがすごくたくさんできるようになってしまいました。免疫を抑制してしまうのでそういうことが起こり得るんですけれども、化膿(かのう)、感染症みたいなのが起こってしまう。どうしても使えなくなってしまって、主治医の先生と相談して、もう一度ステロイドに戻ることにしました。それでステロイドを2年ぐらい使っていたんですが、また再びだんだん皮膚の状態が悪くなってきてしまいました。「ああもうこれは、これ以上使っていると、ますますひどくなってしまうんじゃないか」と感じて、かなり悩みつつも、自分の中で総合的に考えて、「もうこれはステロイドはやめたほうがいい」と思って、やめることにしたんです。

高橋:そのときもう40歳ですね。これを見ると。

安藤:はい。40歳になっていました。このときは理化学研究所で働いていたんですけれども。

高橋:研究者としてお仕事されていたわけですね。

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安藤:その前の職場で、私は免疫に近い仕事をしていましたので、いろいろ自分はどうすべきかと考えたんですけれども、やっぱりこのまま続けていくことはできないと思って、いろんなことをてんびんに掛けて、やめる決断をしたんです。ただ、20代の若いころにやめたときとは違って、年齢も上がっていましたし、ステロイドもよく使っていたこともあったので、リバウンドはもうほんとにひどかったです。ここに写真が出ています。

高橋:これはお幾つのときですか。

安藤:これは41、2だと思うんですけれど、相当ひどい状況になってしまったんです。

高橋:顔だけですか。こういう湿疹が出るのは。

安藤:私は顔が一番ひどかったんですけれども、20代のときは体に広がることはほとんどなかったんです。でもこのときは結構広がってしまって、上半身がこの状態に近い感じになりました。相当ひどかったです。

高橋:それでもお仕事は続けていらしたんですか。

安藤:はい。職場の理解が非常にあったので、その点については、上司や同僚の人たちにとても感謝しています。

高橋:でもつらくて布団から出るのも嫌だなんていうときもあったんじゃないんですか。

安藤:つらかったんですけれども、職場が徒歩4、5分のところにありまして、もし通勤で電車とか、交通機関を使わなければいけないとしたら、たぶん私は続けられなかったんじゃないかと、そういうふうに思っています。

高橋:なるほど。でも、このつらい時期を乗り越えて、とにかくステロイドを使わないという強い決意の元にここを、要するに我慢したんですよね。

安藤:そうです。それ以外、思い浮かぶこともなかったので。そのころは、そういうステロイドをやめた人たちをサポートしてくれるようなお医者さんの存在とか、あまり知らずに薬を止めました。こういうことになるのは自分だけだと思っていましたので、ですから横のつながりも全くありませんでしたし、もうどう対応していいのか分からなくて、とにかく我慢すると。とにかく働けるときは働くと、そういうのをずっと、2年間ぐらいほんとにひどい時期が続いた間はそうでした。

高橋:今はアトピーの患者さんの患者会とか、いろいろ活動がありますね。そういうのを、当時の安藤さんはご存じなかった。

安藤:全然知りませんでした。知っていれば全く違ったと思うんですけれども、当時は自分だけだと思っていたんです。ステロイドは標準的な治療として皆さんに普通に出されていましたし、それに対する疑いというのもあんまりありませんでした。薬というのは、それが合わない患者さんというのは必ずいるものだと思っていましたし、ですから自分はほんとにそれこそ1万人に1人じゃないですけれども、すごく例外でうまくいかないんだと思っていましたので、そういう患者さんが他にいるとか、そういうことはあまり考えていなかったです。知っていればだいぶ違ったと思うんですけれども。

高橋:なるほど。では、このへんでステロイドについて、どういうものかもうちょっと詳しくご説明いただければと思います。

安藤:ステロイドというのはそもそも、ステロイド骨格というある種の化学構造式があるんですけれども、それを持っている化学物質の総称になります。アトピーに使われるステロイドというのは、私たちの体の中に副腎皮質という臓器があるんですけれども、そこからグルココルチコイドというホルモンが出されていて、そのホルモンに似た構造をとっている、人工的に合成した化学物質群なんです。これらの物質は、様々な症状に効くので医療現場で多用されています。皮膚の炎症に対しても、炎症をすぐに消してくれるような効果がありますので、皮膚科では外用剤としてよく使われています。ただ、合成副腎皮質ホルモン剤というのは、効果がすごくあるんですけれども、同時に副作用も多い、もろ刃の剣のような薬なんです。医療現場では、患者さんは、内服でなければ、外用ならばそんなに副作用を心配することはないよというふうに説明を受けることが多いかと思うんですけれども、私はそんなに単純ではないというふうに思っています。

高橋:皮膚に塗ってもそこから吸収されるわけですから、吸収された成分が体全体にも回るわけですよね。

安藤:そうですね。そういうふうな、全身のそういう作用も無視できないと思うんですけれども、それだけじゃなくて、皮膚に特有の、塗った皮膚、そこに副作用というのもあるのではないかと、私は感じています。それが、お医者さんが捉えるよりもかなり深刻になるケースが患者さんによってはあるのではないか、私はそういうふうに感じています。

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高橋:ここに出ているのは、アトピー性皮膚炎の治療によく用いられる主なステロイド外用剤とその強さということで、強さによってランクが分かれているんですね。

安藤:はい。ここは上の2つしか出ていないんですけれども、5つのランクに分かれています。先ほど私が使ったと申し上げたロコイドは、下から2番目のクラスになります。最高クラスになりますと、副腎皮質から皮膚に運ばれてくるもともとの天然の副腎皮質ホルモンの何万倍もの効果を持つというふうに言われています。それは、皮膚にとってはほんとに驚くような、びっくりするような、予想もできないインパクトになり得ると思います。そもそもステロイドというのは、アトピーを治す薬ではなくて、炎症を消す対症療法なんです。その対症療法をしている間に、炎症を消している間に、アトピーが自然によくなってくれるということを期待しているのがアトピーの標準的な、スタンダードな治療法なんです。しかし、その間に皮膚がステロイドに依存してしまって、ステロイドをやめるとばっとひどくなってしまう。そういうふうになってしまいますと、自然治癒が望めなくなってしまうわけです。ステロイドを止めようとしても止められないと。そうなってしまうと、症状自体も悪化してしまうケースが多いように思います。自分のケースは、まさにそのケースだったんじゃないかというふうに考えています。

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高橋:そういうことで、ステロイド外用剤の副作用被害を受けたという裁判、80年代に全国で起こりました。

安藤:1990年代には報道でも大きく取り上げられたそうです。私は海外にいたため、余り詳しくは知りませんでしたが、特に1992年の「ニュースステーション」の報道は大きな衝撃を与えました。患者さんもとても不安になったと思うんですけれども、医療側の皮膚科の先生たちも、ステロイドではなくて、また別の治療法があるのではないかと、そういうふうな方向を探り出した先生方もいらっしゃいました。ただ、大半の先生方は、そのままステロイドの安全性、あるいは効果を信じて、そのままステロイドを使われたと思います。そうなってしまいますと、患者さんは、ステロイドを使いたくないのに強要されたというふうに感じてしまって、お医者さんに行かなくなってしまう。その代わりに高額な化粧品ですとか、あるいは健康食品ですとか、そういうものを買わされてしまうような、そういう非常に悪質なアトピービジネスに利用されてしまう患者さんも多数、出てきたんです。

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高橋:一時期、アトピービジネスというのが大変問題になりましたね。

安藤:そうなんです。こういった混乱が数年続いたのではないかと思います。

高橋:それで、2000年に皮膚科学会がこのアピールを出した――アピールというか、ガイドラインですね。アトピー治療ガイドライン。

安藤:正式には、「アトピー性皮膚炎診療ガイドライン」というんですけれども、ステロイド外用剤をアトピー治療の第1選択とするという、明確なポリシーを打ち出しました。ガイドラインを公表することで、医療現場での混乱を収めることがメーンの目的、そういう意図があったのではないかというふうに思われます。

高橋:そのときに、ステロイド外用剤の副作用をきちんと皮膚科学会は調べたんでしょうか。

安藤:それに関しては、ステロイド外用剤の実態調査が行われたという、そういう記録は、私が知る限りはありません。これだけたくさんの患者さんがそれを訴えているわけですから、実態調査がもっと慎重になされるべきだったのではないかというふうに思います。同時に、このアトピー性皮膚炎診療ガイドラインがはじめて出された頃には、ステロイド外用剤をスタンダードにした治療法を選ばないお医者さんたちが出てきていました。いわゆる脱ステ医と呼ばれるお医者さんなんですけれども、そういう人たちの懸念も全く考慮されなかったんです。

高橋:脱ステ医、ステロイドを使わない治療を目指すお医者さんのことですね。

安藤:はい。こういったステロイドを使わない脱ステ医の人たちが閉め出されてしまって、ステロイド外用剤に対する危険性に耳を傾けないような、そういう風潮ができてしまいました。当然なんですけれども、患者さん自身のステロイドに対する訴えとかも顧みられなくなってしまったんです。

高橋:お医者さんが取り合ってくれないということですね。

安藤:そういうことです。

高橋:そんな中で皮膚科学会は、「ステロイドバッシングの時代は過ぎ去り、治療の混乱期は終焉(しゅうえん)を迎えつつあります」といった終息宣言を出したわけですね。

安藤:そうです。日本皮膚科学会は、このような趣旨の発言を繰り返しているんですけれども、その発言は実態とは合っていないのではないかと、そういうふうに私は思っております。

高橋:そのあたり、アンケート結果をご紹介いただきながら詳しく伺いたいと思います。いったんCMです。

<CM>

高橋:科学朝日。本日は、東洋大学理工学部准教授の安藤直子さんをお迎えして、「アトピー性皮膚炎と患者の思い」についてお伺いしています。さて、ここからは、アトピー性皮膚炎患者さん1,000人の調査結果についてご紹介いただきたいと思いますけれども、1,000人もの方を調査するのは大変でしたでしょう。

安藤:特にこの調査ではステロイドに対して不安を感じていらっしゃる患者さんたちを対象にしました。こういう人たちが標準治療の現場の視界から見えないところに行ってしまっていると思いましたし、その人たちこそ焦点を当てるべきだと思いましたので、このような調査を行いました。そのため、脱ステ医と呼ばれている先生方を中心に、患者会とか、いろいろなところのご協力を願って、患者さんたちにアンケートを配っていただきました。

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高橋:これが答えてくださった方たちの年齢分布ですね。

安藤:この調査では16歳以上の方を対象といたしました。男女の割合は、2対3ぐらいでした。男女どちらも、20代の後半が一番多くて、そのあとに30代の前半が続きます。

高橋:やっぱりかなり年齢がいっている方が多いということですね。

安藤:そうですね。はい。

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高橋:それで、次のグラフはなんでしょうか。

安藤:アトピーを発症した年齢です。年数でなくて年齢です。発症時期は、やはり幼児期が多いんですけれども、思春期以降もかなりいらっしゃるんです。それで40以降の方も少数ながら見られます。

高橋:ちょっと驚きですね。

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安藤:そうなんです。結構こういう感じなんです。私も少し驚きました。次が罹患(りかん)期間、これがアトピーにかかっていた期間を示しているんですけれども、このようにかなり長い期間の人が、生後から現在までという人も相当、このグループが一番多かったんですけれども。

高橋:その方は年齢によって、自分の年齢の分だけの長さということですね。生後から現在までというのは。

安藤:ずっとアトピーがあったということです。このように、アトピーは幼児期に発症するとは限らなくて、また長期化しますと、かなり長いこと症状があると。アトピーは子供の病気というふうに昔はそう言われていたんですけど、現在はもうそう言えないのではないかということが分かったと思います。

高橋:ほんとですね。次にお聞きになったのが、ステロイドの使用期間。

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安藤:ここには載っていないんですけれども、アンケート調査に協力したくださった患者さんの97%がステロイド外用剤を使った経験があります。ほとんどの患者さんは、つまり、ステロイドを使わずに拒否しているわけではないんです。

高橋:最初から拒否している方はほとんどいらっしゃらないわけですね。

安藤:ほとんどの方は使っていらっしゃる。

高橋:いったんは使っていらっしゃる。

安藤:使用歴についてなんですけれども、このようにかなり長期にわたっている人が多くて、これははっきり分かっている年数を書いていただいたんですけれども、はっきりと分かっている使用歴だけでも5年以上の方が7割を占めます。

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高橋:そうですね。その方たちが、現在の薬剤使用が、今はもうやめている方がほとんどということなんですね。

安藤:ステロイド、プロトピック、先ほど申し上げた免疫抑制剤ですね。それを両方とも使っている方も、あるいはステロイドのみ、プロトピックのみを使われている方もいらっしゃるんですが、大半の方はやっぱりそういうふうな薬を使わずによくなりたいというふうに考えられたと思います。8割方の患者さんが、現在は、どちらも使用していません。

高橋:逆に言えば、そういう集団を今回は調査したということですね。

安藤:はい。そうなんです。標準治療の現場では、こういった方達の実情は調べようがないと思ったからです。

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高橋:次はリバウンドの経験。ステロイドをやめたときにどんな症状が起きたかということですね。

安藤:それをお聞きしたんですけれども、そうしますと、やはりリバウンドを経験している患者さんは多くて、「自分のアトピー歴の中で最も悪くなるまで悪化した」というのが、回答者全体が980人だったんですけれども、その中で630人の方がそういうふうに答えています。

高橋:3分の2の方はそういうことなんですね。

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安藤:かなりひどくなるまで悪化してしまいます。ここでは、ステロイドの使用歴ごとに、1年未満とか、1年から5年、5年から10年、10年から20年、20年以上というふうにわけて、その人たちがリバウンドのときにどのような程度だったかということをグラフにしたものです。これを見ますと、1年未満の方は、やめたときに「今までの中で最も悪化した」という人が4割に至りません。それで、変化なしという人も2割近くいます。

高橋:そこそこいらっしゃるわけですね。

安藤:ところがステロイドの使用が5年を超えてきますと、「最もひどくなった」という人が65%を超えます。「変化なし」と答えられた方は5%弱、そんな感じです。使用歴が長いほどリバウンドが激しくなるようだということがここから分かるかと思います。

高橋:もうこれは明らかですね。長く使い続けると、やめるときにはものすごい大変な症状が出てくると。やめるなら早くということが、これからは分かるわけですね。

安藤:はい。

高橋:そういうことをお医者さまがご存じかというところが問題ですね。つまり、処方されるときに、症状がひどいときは塗りなさい、でもそれが治まったらなるべく早くやめなさいというふうに言っていただきたいですよね。

安藤:そうなんですけど、そのやめどきがお医者さん側も、患者さん側も、なかなか難しいんだと思うんです。ステロイド外用剤というのは。やっぱり使い続けてしまって、こういうふうなひどく悪化してしまうリバウンドを起こしてしまう、そういう患者さんも多いです。それに、皮膚科のお医者さんは患者さんにずっと付き添っているわけではありません。ですから、かなり患者さんが自分で判断しなきゃいけないんです。それがなかなか判断に苦しむと。私自身も、朝、鏡を見て、これは塗ったほうがいいのか、あるいはきょうは塗らないくらいの症状なのかということを判断するときにすごく迷った覚えがあります。それにお医者さんは、「よくなってきたらやめましょう」と言うんですけれども、実際には、やめるとばっと出てきてしまうのでやめられないんです。それが患者側のジレンマです。

高橋:よくなってやめるとばっとリバウンドが出てきてしまう。

安藤:それは早くやめ過ぎているんだというふうにお医者さんの側はおっしゃるんですけれども、実際に私もそうかもと思って、かなりきちんと塗って、もうここだったら大丈夫だろうと思って減らすと、やっぱりあるところで決壊した感じで出てしまうので、こういうリバウンドを起こすような感じになっている患者さんは、それが皆さん共通の悩みだと思います。

高橋:それは難しいですね。どうしたらいいんですか。

安藤:難しいです。

高橋:少なくとも、皮膚科学会が出したコメント、ステロイドバッシングは終わりましたということに対する違和感を安藤さんはお持ちだということなんですけど、その違和感の実態、もうちょっと突き詰めておっしゃっていただくと、ステロイドを第1選択にしているということ自体ではないんですか。

安藤:ステロイド自体が、私の感覚ですと、人によってとても使うのが難しい薬のような気がするんです。ステロイドに限らず内服ですと、例えば朝、昼、晩、3回飲みましょうみたいな、そうするととても患者さんからすれば従いやすいわけです。

高橋:それはそうですね。ご飯の後に飲めばよろしいです。

安藤:そのまま忘れなければきちんとそれができると。ところが、外用剤になりますと、とてもそれが実は難しいんです。

高橋:塗り薬ですから、いつ塗ったらいいのかということですね。

安藤:いつ塗ったらいいのか、あるいはどのくらい塗ったらいいのか、どの段階で止めたらいいのか。このごろフィンガーティップという単位があって、指のここからここまでみたいな、そういう目安を出してきてはくれているんですけれども、結局は、症状を判断して、塗るか塗らないかを決めなきゃいけないのは患者さんの側なんです。ですから、そういう意味だと、患者さんがコントロールしなければいけないんですけれども、お医者さんが治療現場でどうコントロールするかを説明する時間もあまりない。そのあたりはお医者さん側の悩みでもあると思うんですけれども、ステロイド外用剤というのは、意外に薬を出してくださる先生の側にとっても実は難しい薬なのではないか、と思います。患者さんにとっては、リバウンドを起こし始めてしまうと、うまく使いこなすのはほんとに難しいのではないかと、そういうふうな印象を受けます。

高橋:そのときに、患者さんとしては難しいながらも自分で塗って、自分でコントロールしていくしかないわけですね。

安藤:はい。

高橋:先ほどのアンケートに答えてくださった方は、8割の方がリバウンドをしたけれどもやめたと。とにかくステロイドはやめたという方たちなわけですね。

安藤:はい。

高橋:その方たちが医療側に求めるものというのは、またいろいろあったのではないかと思うんですけれども、そのあたりはどうだったんですか。

安藤:この方たちに限って言えばですが、医療現場で最も辛く感じることの一つは、実際にお医者さんに「ステロイドをやめたい」と訴えると怒られてしまうと。

高橋:怒られちゃうんですか。

安藤:怒られちゃったりとか、「もう来るな」と言われてしまったりとか、私が聞いた一番ひどい例では、カルテを目の前で破かれちゃったというのがあるんです。さすがに患者は弱い立場ですので、そういうふうにされてしまうと、もう医療の助けを求めるのがとても難しくなってきてしまうと思います。

高橋:いわゆるドクターハラスメントというやつですね。

安藤:アンケートには、かなり自由記述欄みたいなところをとったんですけれども、もうその欄をはみ出して、裏までずっとそういうことを書かれている患者さんは多かったです。やはり、皆さんがおっしゃっていたのは、ステロイドに対する不安とか、自分がこういう経験をしたんだけどということを、お医者さんがもうシャットアウトして聞いてくださらないと。そうなってしまいますと、患者さんはかなり苦しくなってしまうと思います。

高橋:そうですよね。でも、お医者さんの側、つまり、薬を出すほうとしては、どんな副作用があるかというのは常に気を付けていて、患者さんからの訴えはよく聞いて、そのデータを集めるなり何なりして、よりよい使用方法を見つけていこうというのが、医学会、皮膚科学会なり何なりの役割だと思うんです。

安藤:実際にそうなさっている標準治療の先生方もたくさんいらっしゃると思います。そういう治療の積み重ねが患者さんを救っている面もたくさんあると思うんです。さきほどステロイド外用剤を第1選択にするのをどういうふうに思っているかということをお聞きになられたかと思うんですけれども、それについてもう一回ここで整理したいと思います。標準治療の場でステロイド外用剤を使うというのはどういうことかというと、炎症をステロイドで治めている間にだんだん患者さんのほうがよくなってきて、アトピーが自然に治癒するという、そういうことをねらっているわけです。つまりそこには、ステロイドを使っても自然治癒を妨げないという前提があるわけです。そうであれば、ステロイドを使っている間に炎症が止められて、アトピーも成長する過程で治っていくと、そういうことが標準治療のねらいかと思います。それでうまくいくのなら、非常に合理的な方法と言えます。ところが、実際はそのときにステロイドに依存してしまう患者さんがいる。ステロイド外用剤によって自然治癒を妨げられてしまう患者さんがいる。つまり、“ステロイドがアトピーの自然治癒を妨げない”という前提が崩れてしまう患者さんがいるんだと思うんです。そこが大きな問題なのです。そのような患者さんが何パーセントいるのかというのは私にはよく分からないんですけれども、皆さんの話を聞いていて、1割くらいの患者さんがもしかしてそうなんじゃないかという感じを受けているんです。アトピー患者さんは数が多いですから、1割といっても相当な数がいることになるかと思います。その標準治療の現場からすると例外になるかもしれないですけど、1割であっても。

高橋:そうですね。9割の方は大丈夫だということですね。

安藤:まあ当面は大丈夫なんじゃないかと私は思うんですけれども。

高橋:でも、1割ぐらいの方はかえって悪くなってしまうということですね。

安藤:かえって悪くなってしまって、標準に合わないために無視されてしまっている、あるいは横に置き去られてしまっているというのが、このステロイドの問題点なのではないかと私は受け止めています。

高橋:1割はかなり大きい数字ですよね。

安藤:それは私のかなり主観的な感じなんですけど、いろんな先生にお伺いすると、5%から2割くらいの患者さんが、ステロイド治療がうまくいかないと、そのあたりの数字をおっしゃる先生が多いです。私の周りにもアトピー患者は結構多いですから、それで聞いてみると、うまくステロイドを使いこなせない患者は、どうもそれぐらいは普通にいるんじゃないかと、そういうふうな印象を受けています。

高橋:少なくても、お医者さんであれば、患者さんの訴えというのはきちんと受け止めてほしいと、職業人としてそれぐらいやってほしいと、私などは思いますけれども。

安藤:やはりアトピーの患者からすれば、患者の選択を認めてくれる医療というのが一番求めるものだと思います。患者さんは長いことアトピーを患っていて、病歴の長いデータを持っているんです。それをうまく先生に、医学的に正しく説明できるとは限らないんですけれども、やっぱりそこを無視してしまっては、本当は治療が成り立たないはずだと思うんです。ステロイドをいやがる患者さんには、その人なりの理由があるはずです。ですから、お医者さんの側も、患者さんの話をよく聞きつつ、ステロイドのメリット、デメリットをきちんと説明していただけると、アトピーの患者さんもそれで選択することが可能になるんじゃないかと思います。お医者さんが患者さんの言い分を取り合わなかったりとか、あるいはさっき申し上げたみたいに、叱りつけてしまったりすると、その患者さんは、結局は来なくなってしまいます。そうしますと、その患者さんは、他のお医者さんにくら替えしてしまうか、あるいは医療に対して引きこもりになってしまうということだと思うんです。そうすると、お医者さんは症例から学ぶ機会というのを失ってしまうと思うんです。それは医療の進歩につながらないことになってしまいます。ですから、ガイドラインに当てはまらない例外を治療から排除してしまうのではなくて、例外に耳を傾けることで、医療もガイドラインも進歩していくんじゃないかと、そういうふうに私は思います。今のガイドラインというのは、私たちのようにちょっと外れてしまった患者には不十分なところが多いのではないかと、そういうふうに私は思っております。

高橋:ほんとですね。1,000人の声をもとにした要望ですから、今おっしゃったようなことを、医療界はほんとに真摯(しんし)に受け止めてほしいですね。

安藤:はい。

高橋:最後に、患者さんたちへのメッセージを安藤さんからいただけますでしょうか。

安藤:そもそもアトピーというのは、成長の過程で自然治癒する病気でした。体にはもともと病気を治そうとする、そういう力が備わっています。この力がなくて私たち生命は進化の荒波を越えてくることはできませんでした。ですから、自分の体と向き合い、体と語り合う気持ちで、自分の体に何が最も必要なのかということを判断してみていただければと思います。そして、自分の体に最適な生活を、できる範囲でいいので考えてみていただけたらと思います。そうすれば、自ら自然治癒力を持っている体は、そういう私たちの努力に対してきっとこたえてくれると私は思います。

高橋:生活を見直すというのは、具体的には、食事であるとか、それから睡眠をよくとるであるとか、それからあと運動ですね。体を動かす。

安藤:人間というか、動物は、やっぱり動いて体が機能するようになっています。例えばステロイドの離脱のときとかに、なかなか動くのがつらかったりするのはよく分かるんですけれども、なるべく、可能であれば少しずつ体を動かしてあげると、それが自分の体を治す機動力になるかと思います。

高橋:自分の自然治癒力を信じるということも大事ですよね。

安藤:自分が症状がきつかったときは、いつもそういうふうに自分に言い聞かせていました。

高橋:そのときは、人を頼りにしないというか、そういう気持ちも必要ですよね。

安藤:私は少し頭でっかちなので、すぐに頭で、こうしたらいいんじゃないか、ああしたらいいんじゃないかと思うんですけれども、私の頭で考える浅知恵よりも、この体が持っているパワーといいますか、そういうものが自然に治ろうとする力を、頭のほうは単にサポートすればよいのではと思います。いちいち頭のほうが体に指揮する必要はなくて、体がどうしたいかということを頭のほうは邪魔せずサポートしてあげるような、そういうふうな姿勢が必要なんじゃないかなというふうに考えています。

高橋:なるほどね。自分自身の体に聞いてみる。あんまり考え過ぎないで。自分自身の体が欲するように自分の生活を見直していくと。

安藤:そういうことが必要なのかなと思います。

高橋:それはアトピーに限らずどんな病気に関しても大事なことのように思いますね。安藤さん、きょうはご自身の体験に基づく貴重なお話、どうもありがとうございました。

安藤:どうもありがとうございました。

高橋:科学朝日、本日はこの辺で失礼いたします。次回もどうぞお楽しみに。