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【科学朝日】走る光が見えた! ホログラフィーの秘めたる力(collaborate with 朝日ニュースター、3月8日放送)

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 朝日グループのジャーナリズムTV「朝日ニュースター」は、通信衛星などを利用して24時間放送しているテレビチャンネルで、ケーブルテレビ局やスカパー!などを通じて有料視聴することができます。昨年4月から始まった「科学朝日」は、高橋真理子・朝日新聞編集委員がレギュラー出演する科学トーク番組です。WEBRONZAでは、番組内容をスペシャル記事としてテキスト化してお届けします。

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ゲスト:京都工芸繊維大学准教授 粟辻安浩さん

高橋:こんばんは。科学の最先端に浸る科学朝日。案内役の高橋真理子です。本日は走る光の姿をスローモーションでとらえることができたという、驚きのテクノロジーをご紹介します。光はこの世で一番速いものです。光よりも速いものはこの世に存在しません。少なくとも真空中で光より速く走るものはこれまで見つかっていません。その光の走る姿を動画でとらえることができた。皆さんも理科の授業で光の屈折やレンズの働きについて習ってこられたと思います。光の道筋を描いた図が記憶に残っているでしょうが、それは教科書の中での話、いわば観念の世界です。それが光が実際に動いているところをこの目で観察できるようになった。それを可能にしたのがホログラフィという技術でした。本日はホログラフィの新しい可能性を切り開いてきた京都工芸繊維大学の准教授でいらっしゃいます粟辻安浩さんをお迎えいたしました。粟辻さん、よろしくお願いいたします。

粟辻:こんばんは。よろしくお願いします。

高橋:ホログラフィというのは説明するのがなかなか難しい技術だと思うんですけれども、立体像を再生できるというのが一番の特長ですよね。

粟辻:そうですね。昔、映画でスターウォーズというのがありましたけども、そこで、レイア姫というのの立体像が映し出されるシーンがあったと思いますけれども。

高橋:ああ、そうです、ひゅーっと出てきましたね。

粟辻:そうですね。まさにあの立体像を映し出す技術がホログラフィでございまして、立体像、最近ですと、3Dの映画ははやっていますけども、あれは特殊なめがねをかけまして頭の中で立体像を再構成するというものです。

高橋:そうですね。めがねをかけないと立体に見えないですね。

粟辻:ホログラフィは光の干渉と回折という特徴を利用しまして、物体のすべての情報を記録しまして、それを立体的に再現するという全く別の技術でございます。ホログラムの場合は、頭の中だけでなしに空間的に実物の像を再構成するという特長があります。ホログラム、ホロというのはすべてという意味で、グラムという記録するものという意味です。

高橋:記録したものというのは写真で言えばフィルムに当たるわけですよね。

粟辻:そうです、はい。

高橋:ホログラフィという技術を使って記録したものをホログラムと呼ぶわけですね。

粟辻:はい。そうです。

高橋:ホログラムは光の当たり方で色や模様がキラキラ変わって変化するもので、クレジットカードとかお札にも使われてるんですね。

粟辻:そうですね、はい。

高橋:ちょっとここにお札を持ってきましたけれども、この5千円札、1万円札、高額紙幣じゃないと付いてないんですが、ここのところにキラキラ光るもの、これがホログラムですね。このホログラムと作り方の根本原理は同じなんだけれども、様々なハイテクを使って、これまで誰も見たこともないような立体像をいろいろ作り出されているのが粟辻さんでいらっしゃるわけです。早速ですけれども、私が感動した光の動画を見せていただきたいんですが。

粟辻:はい。これは平板ガラス中を光パルスが伝播していく様子をとらえた動画なんですけども、この辺に平板ガラスがありまして、ここ、緑の線が入っていってますけど、これが伝播する光パルスです。明るい線がちょっと見えてますけども、この技術を可能にしたのは非常に短い超短パルス光というものなんです。以前まで使われていましたずっと光りっぱなしのレーザー、これ連続波レーザーって言いますけども、それでまず撮って、光の道を分かりやすくまず示しました。その上にパルス光の動画を重ね合わせて示すことで、どこを光が通っていってるかっていうのを分かるようにした。それで光の道が見えているというようなものでございます。

高橋:パルスレーザーで撮ったものを重ね合わせると、こう光が動いてる様子がよく分かるっていうことですね。

粟辻:そうですね。光の道筋は連続波レーザーだけで見えるんですけども、光のこの伝播ですね、これは超短パルスレーザーを使うことによって初めて実現できました。

高橋:平面ガラスを通ると屈折するという、教科書で習ったものが見事に表されてるわけですね。

粟辻:ちょうどここの境目で、まず入りまして、くにゅっと曲がりまして、また出ていくときにくにゅっと曲がると。

高橋:そうですね。

粟辻:高校の教科書では書いてあるんですけれども、じゃあ、実際に見たことありますかっていうと誰も見たことないんです。これを見ることによって、それがすぐ分かると、直感的に分かるというものです。

高橋:ええ。一体、ほかにどんな動画があるのかって期待が高まるところですけれども、一たんここでCMを入れたいと思います。

<CM>

高橋:科学朝日、本日のゲストはこの方、京都工芸繊維大学准教授の粟辻安浩さんです。改めまして、よろしくお願いいたします。

粟辻:よろしくお願いします。

高橋:本日のテーマは「走る光が見えた! ホログラフィの秘めたる力」です。走る光の映像をもっと見たいと思うんですけれども、その前に、やはりホログラフィとは何か、その基本原理を理解しておきたいと思います。

粟辻:そうですね、はい。

高橋:今日はこれぞホログラフィっていう装置もお持ちいただいたんですね。

粟辻:はい。これがホログラフィの基本とも言うべき装置でして、今は光をつけていませんので何も見えないんですけれども、光をつけますと、こうやって像が映し出されます。

高橋:はい。犬の親子の立体的な像がくっきり見えますね。

粟辻:そうですね。この見るところ、位置を変えますと、こういう感じでずっと奥を回りこむようにして見える。まさにこれで、ホログラムで物体の三次元像が記録されているというものです。

高橋:そうですね。この前に置いてある板が、先ほどご説明いただいたホログラムということですね。

粟辻:そうですね、はい。この板を通してやってくる光、この光には物体の情報がすべて記録されています。この板を通ってきた光が人間の目に到達しますと、あたかもこの奥に犬がいるというふうに見えるというものです。

高橋:ほんとに不思議ですよね。後ろ回り込んでみると何もいなくて、こう正面から見ると、もうまさにそこに犬の親子がいるかのように見えるんですよね。

粟辻:そうですね。

高橋:この原理をちょっと図でも説明していただけますか。

粟辻:はい。人間の目がものを見られるっていうときに、実際にものを直接に見なくても物体からの波面を見るだけで、人間っていうのはあたかもここにものがあると分かってしまうと。

高橋:そもそも、ものを見てるときというのは、そこから出てきている光が人間の網膜に入るから見えているっていうことなんですよね。

粟辻:そうですね。

高橋:だから、同じ波が目に入れば最初に見えていたのと同じ像が見える、まさに見えるっていうことになると、そういうことですね。

粟辻:そうですね。この波面の中に、物体のすべての情報は記録されてます。そのすべての情報を記録するようなこの板がありましたら、そこから同じ波面がこう発生してくる。それを人間が見て網膜に像を結びますと、ここにはりんごはないんですけど、この板の後ろにあたかもりんごがあるというように見えます。その物体のすべての情報っていうのは光の振幅と位相の両方を持っているものと。これが記録されているものがホログラムです。

高橋:光っていうのは波ですから、振幅というのは要するに波の高さですよね。

粟辻:そうですね、はい。

高橋:位相って結構難しい言葉なんですが、波の上がり下がりのリズムっていうふうにとらえればよろしいですね。

粟辻:そうですね、はい。振幅は、簡単に言いますと、光の明るさ情報です。位相っていうのは、光がどっちの方向からやってくるかというような情報です。

高橋:はい。なるほど、なるほど。波の干渉っていうのが、このホログラムでは基本的な役割を果たしているわけですね。

粟辻:そうですね。この干渉というのを使ってこそホログラムが記録できます。波の干渉っていうのは2つ、ここ、AとBの波がありますけども、足し合わされるときに、これらの波のどのようなタイミングで重ね合わされるかによりまして、強め合う場合があったり、弱め合う場合があったりします。こういうのが干渉です。キーとなるのは、この2つの波を重ね合わせるというようなところです。

高橋:はい。波を重ね合わせることを干渉って言うんですよね。

粟辻:はい。

高橋:これ、理屈は当然ですね、同じ山が重なっていれば強い波ができるし、反対方向に重なってしまうと弱め合っちゃう。全然難しくないですね。

粟辻:はい。

高橋:これが干渉であると。

粟辻:はい。2つの波、一番簡単な平行でこのように来るような光ですね。そうしますと、ちょうどここ見ていただきますと、この縞の濃淡がありますけども、この濃淡がホログラムに記録されてまして、そこに物体の明るさと位相の情報が記録されているというものです。

高橋:2つの光を干渉させることですべての情報を記録させることができるようになる。

粟辻:そうですね。

高橋:そういうふうに考えていいですね。

粟辻:はい。

高橋:実際にこういう像を作るときはどういうふうにやるんですか。

粟辻:まず、2つの波が干渉するとお話しましたけども、ここに記録したい被写体があります。その次に、ここに写真フィルムを置いときます。ホログラムの場合、特殊な光で、レーザーですね、レーザーポインターでよく用いられていますけども、レーザーで、この被写体を照明します。そうして、そこから散乱、反射してくる光はこれです。普通の写真ですと、これだけなんですけども、ホログラフィの特徴としまして、レーザー光を2つに分けて1つはこちらに当てる。1つは別に参照光という名前が付いていまして、それをこうフィルムに当てる。こちら側は物体の情報含んでない光ですね。

高橋:物体に当てない光を。

粟辻:はい、そうですね。この光とこの光を干渉させますと、こちらのような干渉縞というのが記録されます。これがホログラムです。

高橋:なるほど。

粟辻:これ、目では見えないんですけども、非常に細かい、大体1ミリ当たりに1,000本から5000本という細かい縞が記録されてます。ホログラムの情報がこの縞の中に埋め込まれてるというものです。

高橋:実際に、このホログラムを作るときの様子が出ますかね。あ、こういうふうにやるんですね。

粟辻:そうですね。2つのステップで作りますけども、最初のステップは記録です。これ、まずここにレーザー光を発する光源。それから、ここに被写体がありまして、ここに記録材料ってありますけど、写真フィルムを置きます。レーザー光を2つに分けます。

高橋:その丸いので分けられるんですね、ビームスプリッターって書いてありますが。

粟辻:そうですね。ハーフミラーみたいなもんですね。

高橋:ああ。はい。

粟辻:2つに分けまして、1つはこの物体を照明して、物体からの反射光、散乱光がここの写真フィルムに届くと。もう1つは参照光というのを、ここですね、ここで分けたものがこう来まして、こう来ます。この2つの波を干渉させて、ここに先ほどの細かい縞を記録するというものです。

高橋:なるほど、なるほど。そうやってホログラムというこのガラスの板を作ると。

粟辻:そうですね、はい。

高橋:次に、これに後ろから光を当てるわけですね。

粟辻:そうですね。今度は、ここにはもう物体はなくて、しかも、物体を照明してましたこちら側の光にはもうここもストップさせます。参照光だけをこう持ってきてあげまして、ここに先ほど記録したホログラムを置き直してあげます。こちら側から人が見ますと、あたかもここにもともと物体があったかのような像が再構成される、再現されるというものです。

高橋:分かりました。先ほどのこの犬の親子のホログラムを作るところを、その実験室の様子を、先生の実験室におじゃまして映像を撮ってきましたので、それを見てみたいと思います。ここに出てますね。これがモデルになった犬の親子ですね。

粟辻:そうですね、これは被写体に使った犬ですね。

高橋:はい。

粟辻:いろいろとレンズとか、光を広げるような光学の部品がありまして、赤く光ってますのが、レーザー光ですね。それで、犬の手前にちょっと四角い黒いものが見えると思うんですが、あれがホログラムを押さえるところですね。

高橋:ああ、まさに実験室っていう風景ですね、これを作るところはね。

粟辻:そうですね、はい。

高橋:これは赤いレーザー光を使っているので犬も赤く見えてますけれども、カラーのホログラフィという技術もあるんですね。

粟辻:はい、ありますね。カラーのホログラフィは、人間の目というのは大きく分けまして赤と緑と青の光の三原色に感ずるんですけども、それと全く同じで、赤のレーザーと緑のレーザーと青のレーザーで被写体を照明して、それぞれで記録して、それを同時に再生しますと、フルカラーのホログラムができます。

高橋:研究室にはフルカラーのホログラフィも実物がありましたね。

粟辻:はい、そうです。あのフルカラーホログラフィは、京都工芸繊維大学の名誉教授で久保田敏弘先生っていう方が、もう世界的にトップの研究者の方で、あの方の作品はものすごいリアルなものですね。

高橋:出ますかね、映像は。

粟辻:あ、これですね。

高橋:この日本人形のね。

粟辻:そうですね。これは非常にホログラム分野でも有名な作品でして、フルカラーで、しかも、普通の照明光で再現できてるんですね。

高橋:ああ。レーザー光を使わずに。

粟辻:はい。太陽光で見るのが非常にきれいに見えるんですけども。

高橋:なるほどねえ。

粟辻:ああいうフルカラーホログラムですと、やっぱり白とか光沢ですね、先ほど錦糸が写ってましたが、光沢を出すのは非常に難しいのですが、それを見事に再現できているという技術ですね。

高橋:久保田先生は、先生の研究室の教授をされていた先生でいらっしゃるわけですね。

粟辻:はい、そうです。

高橋:京都工芸繊維大学ですから、科学技術と芸術を合わせたような研究をされるということだったんですよね。

粟辻:はい、そうです。弊学のスローガンとして科学と芸術の出会いということでやっていまして、まさにそれに合った研究ですね。

高橋:久保田先生はそういう美しい作品を作られた中で、粟辻さんはむしろぐっと科学の方へ重心を移されたと。

粟辻:そうですね。ホログラム、これ立体像を映し出すっていうことは、私個人としても非常に興味があって、いつかまたやろうとは思ってんですけども、今はどちらかと言うと、取り込みの方で、取り込みとは記録ですね、記録する方でいろいろなことに発展させていこうと思いまして、そのときに、やっぱり今まで見えなかったものを見えるようにしようっていうところに非常に興味を持っています。今は速すぎて見えないとか、あとは光の振動方向で偏光というのがあるんですけれども、それは人間の目では見えないっていうのがありまして、そういうのを見えるようにしようと。しかも普通のカメラでなく、ホログラフィを使いますと三次元でものが見えるというところに魅力を感じて今やっています。

高橋:それでは、ここから光の映像をですね、次々に見せていただきたいと思います。

粟辻:はい。

高橋:今度も平板ガラスですね。

辻:そうですね。今度は光の全反射というものをスローモーションで観察したという結果です。まずここに概略を示させていただきますけれども、ここに平板ガラスがありまして、その周りは空気です。光パルスがこの下から来まして、ここで屈折して、この平板ガラスの中に入っていきます。ここの部分で、光の全反射という現象を起こして、こちら側に反射されてきて、またここで光の全反射を起こします。それを繰り返して、どんどんこの光の平板ガラス上を伝播していく様子になっていきます。では、動画をご覧いただきます。ここに平板ガラスがございます。ピカーッと光ってます。これが・・・。

高橋:全反射して。

粟辻:そうですね、ここで全反射しました。今、入りました。全反射して、伝わっていって全反射してるというシーンです。ガラス板の端面でこちら側をここに反射されていく光パルスも観察することができます。この辺が面白いなと思ってまして。

高橋:ほう、あれはあそこで全反射してるんですね。

粟辻:そうです。この入口のところの端面ですね、ここで全反射していってますね。それで、この平板ガラスの実験なんですけども、光ファイバーの中で光が伝播していくのは、この現象で伝わっていってます。こういう全反射をして伝わっていくようなシーンも見れたのも、この世界で初めての結果です。

高橋:この走ってる姿が見えるってのはやっぱりすごいですよねえ。

粟辻:面白いですね。

高橋:ええ。その軌跡だけが見えるんだったら、何か、あ、そんなもんかって、つい思ってしまいますけれども。

粟辻:次ですけれども、今度はプリズムの中に光が入っていきまして、これも屈折して入っていって、また屈折して出ていくというようなシーンのスローモーションです。ここにプリズムがありまして、ここに入っていく面があるんですけれども、うっすらですけど、この面でも反射していく光が観察できたっていうのも、これもこっちの方が面白いなあと、予期しないものが見えるのは面白いなあっていうところがありまして。

高橋:なるほど。

粟辻:ここに白く示してますのがプリズムです。

高橋:はい、光が来ました。

粟辻:赤い線がすーっと動いていきますけども、これが大体、そうですね、10兆分の1秒だけぴかっと光るレーザーですね。今・・・、入っていって・・・。

高橋:ああ、何だろう、もやもやってしたのが見えますね。

粟辻:そうですね。

高橋:ええ。

粟辻:ここ入っていって、ついていきますけども、シューッとこう上がっていきますね。

高橋:はい、はい。見えますね。

粟辻:あれ、ここの面で反射していく光ですね。あと、この中の伝播をよく見ていただきますと、うっすらと曲がって出ていくという、このプリズムの中の光が伝播していく様子も

高橋:はい、よく見れば…

粟辻:見えるという。こういう結果も得られてます。次が、今までの動画は光が伝播していくのをちょうど真横から見ていた動画なんですけども、そうしますと、線がシューッと伝播していく、ある意味、光の二次元の像の動画だったんですけども、ホログラフィの特長っていうのは三次元でものが見えるはずだということで、光の三次元の様子がシューッと伝播していくのを動画として記録したのも、これ世界ではじめての結果でございまして。まず光をこう…。

高橋:光という漢字をあそこに張り付けたんですね

粟辻:はい。まずレーザービームを広げまして、広げたレーザービームに『光』っていう漢字の部分だけを、光をストップさせるようなとこを通しまして、その後、凸レンズを通して、凸レンズで絞られて、今度、虫めがねの作用でこの字が逆になるってのはよく日常で感じられると思うんですけど。

高橋:それに理科の授業で習いましたね。

粟辻:そうですね。そういうのも観察できるというようなものです。では、動画をご覧いただきます。シューッと右側からやってくるのが、これが光パルスですね。

高橋:あ、ちょっと、ああ、小さくなって、また大きくなる。

粟辻:かろうじて…。

高橋:ああ、光っていう漢字がはっきりは見えないですが、あ、よく見たら見えるかな。

粟辻:そうですね。残念ながら、今モニターにご覧いただいてはいるんですけども、実験室でホログラムをレーザーで再生しますと、まさに空間で光の立体像がシューッと伝播していくのを見れるというようなものですね。これは今ご覧いただいてるのを、そうですね、数秒から10秒ぐらいかけてご覧いただいてますけども、600ピコセカンド、600ピコ秒ということで、数百億分の1秒から1000億分の1秒の世界をスローモーションで観察できてるという結果ですね。

高橋:あ、何回も見てると、光っていう漢字が見えてきます。

粟辻:見えてきますか。

高橋:はい。人間の目ってよくできてますねえ。

粟辻:そうですね。

高橋:これはまた複雑な何か。

粟辻:そうですね、ちょっと専門的になるんですけども、集積型のアレイイルミネーターという、これは光通信とか光メモリの読み出しに使えないかなというようなことで、先ほどの久保田敏弘先生が研究されてたものなんですけども、そこに、このフェムト秒光パルスっていう約10兆分の1ぐらいピカっと光るレーザーを入れたときに、光パルスがたくさん出てくるというような光学の部品です。ここにありますのは、アレイイルミネーターというもので、光がこう入ってきて、このピンクに示してますのが、連続波で記録したホログラムからの再生像で光の道筋を分かりやすくするためにです。その中に、更にこの明るくピカッピカっと光るものがありますけども、それがフェムト秒の光パルスです。動画をご覧いただきますけども、この線みたいなのが連続波のレーザーで記録したもので、今、入った…。

高橋:パルスが入ってきましたね。

粟辻:輝く点ですね、これがフェムト秒の光パルスがパーッとたくさん…。

高橋:広がってきますね。

粟辻:そうですね。順番にこう出ていくっていうのが分かります。これ、面白いのは、よく見ていただきますと、光パルスが進行方向に斜めになりながらこう進んでいくっていう、真正面向きじゃなしに、斜めになりながらこう進んでいくっていうのを、これは見れたというようなところですね。

高橋:ええ、ええ。パルスは斜めになってますよね。

粟辻:そうですね。それから、部品で使うのは、この辺の光を使うんですけども、よく見ていただきますと、この辺こう入りまして、光が入って、これ逆に光が伝わっていって元に戻る光とか。

高橋:ほんとだ。

粟辻:この辺に光がまた逆に出ていくっていう、これも予期せぬものが見れたなぁというところで、こういう予想しなかったものが見れる方が面白いなぁというところがありますね。

高橋:こういう走る光をとらえる技術はLight-in-flightと呼ぶんだそうですね。

粟辻:はい。

高橋:これはいつごろから可能になっているんですか。

粟辻:そうですね、いろいろ調べていきますと、1969年に旧ソ連の研究者がこれの原理的なものを提案してます。

高橋:あ、随分昔に考えられているんですね。

粟辻:そうですね。その後約10年ぐらい経ちまして、1980年代にスウェーデンの研究者がいろいろやってますけども、当時、今みたいに超短パルスレーザーがなくて、普通のレーザーの、要は干渉性を抑えるようなことをして工夫してやったというようなことはありますね。その後、忘れられたのか知りませんけども、久保田先生と私が、面白そうだなと思ってやり始めたんです。そのころ超短パルスレーザーっていうのが割りと簡単に使えるようになりまして、更に調べていきますと、まだまだいろいろやられてないことがあるなというようなことがありまして、そこに今、チャレンジしているような状態ですね。

高橋:先生の研究室で、これ実際に私もこの目で見ましたので、ちょっとそのときの動画がありますでしょうか。

粟辻:これは凸レンズの中を光が通っていってるような様子ですね。ちょうど真ん中の部分は凸レンズを通っていってまして、その上下の部分はレンズを通っていかない部分ですね。そのまままっすぐ抜けていく光です。

高橋:弧を描いてますけども、それは光は一点から広がってくときはこう円状になって広がっていくということですね。

粟辻:そうですね、はい。広がっていくような光をレンズに入れました。面白いのは、ちょうどレンズを通っていったところの光が通っていってないところの光に比べて遅れるっていうようなのが、当たり前なんですけど、それがほんとに見れるというようなところが非常に面白いですね。

高橋:光が少しレンズの間を進む、レンズはガラスだから、そこを走ってる間は空気中よりも遅くなってしまう。

粟辻:そう。大体空気中よりもスピードは3分の2遅れますね。

高橋:ああ。そこから出た後も、もう遅れは取り戻せないまま、ずっとその形でいってしまう。

粟辻:そうですね。はい。

高橋:それが目に見えるっていうのが、ほんとに面白いですよねえ。このLight-in-flightという技術と並んで、もう1つのご研究の柱がデジタルホログラフィなんですね。

粟辻:そうですね、はい。

高橋:これはCMの後にゆっくり伺いたいと思います。ここで一たんCMです。

<CM>

高橋:科学朝日。本日は京都工芸繊維大学准教授の粟辻安浩さんをお迎えしてホログラフィの最新技術について伺っています。さて、ここからはデジタルホログラフィについてお伺いします。デジタルホログラフィというのは、いわゆるカメラがデジカメ化するのと同じことですね。

粟辻:そうですね、はい。図を使って説明させていただきますと、今までのホログラムというのは、ここに写真フィルムを置いてまして、チャポチャポチャポと昔の写真技術で現像しまして、元の場所に置いて、そこにレーザー光をもう1回当てて、人間の目で見るっていうことで像を再生してたんですけれども、その写真フィルムの代わりにCCDとか、最近のデジカメで使われてるような撮像素子を置きます。ここで干渉縞を撮影します。再生は、このデジタル化されたデータをコンピューターの中に取り込みまして、コンピューターで物体の三次元象を再構成するという技術です。これの特長は、この被写体の好きなところの奥行きの像を、焦点合った像をコンピューターで再現できるというものです。この技術は1967年にアイデアは出されたんですけども・・・。

高橋:これもまた古いんですね。

粟辻:そうですね。

高橋:デジタル化のアイデアがそんな前からあったんですか。

粟辻:はい、そうです。そのときは、イメージセンサーというのも普及してない時代で、点の光検出器をずーっとスキャンしていってたというやり方ですね。それが最近1990年代になりまして、こういうイメージセンサーとか非常に普及しだしまして、それに伴い研究も盛んになってきました。ただ、このイメージセンサーっていうのが先ほどの写真フィルムに比べまして、解像力は非常に粗いということで、本当は欲しい像はこういう像なんですけども、粗いがゆえに、こういういらない像が乗ってしまうという問題ですね・・・。

高橋:真ん中に四角い、何か白いものが見えますけど、これ何なんですか。

粟辻:ホログラムに当てた光のうち、すべてが回折するっていうわけではなくて、回折しない光も存在します。回折しない光が見えるというようなものですね。

高橋:ああ、なるほど。はい。

粟辻:せっかく再生されても、こういう像が乗ってしまいますと、よろしくないということで、これを取り去る方法としまして、位相シフトデジタルホログラフィっていうのが1997年に、当時、理化学研究所の山口先生によって発明されました。これはホログラムを、正確に言うと3枚以上を被写体が止まってるうちに撮影します。そのときに同じものを撮るのでなしに、参照光の位相をずらしながら3枚以上撮ります。

高橋:具体的には時間をちょっと違えて撮るっていうことですね。

粟辻:そうですね。だから、この場合は真ん中に四角い像がないような像が撮れるんですけども。

高橋:ああ、そういうふうにすれば撮れるわけですね。

粟辻:はい。ただし、この3枚以上撮る間に、被写体が静止していないといけないというところで、動くものに適用できなかった。そういう問題がありました。そこで、動くものに適用できて、しかも、きれいな、いらない像が乗らないというようなデジタルホログラフィの方式を私が考えまして、それ、説明させていただきます。先ほどの位相シフトデジタルホログラフィで必要であったホログラム、今4枚表してますけども、基本的には、3枚、もしくは工夫をすると2枚以上であれば十分ということがあります。これを、格子状に画像を分けまして、各画素ごとに位相の異なるような、こういうような1枚のホログラムを形成しまして、これを撮影しますと、1枚のホログラムから不要な像が乗らないようなデジタルホログラフィが実現できるというものです。ここから先はコンピューターの処理ですけども・・・。

高橋:コンピューターがやってくれますね。ええ。

粟辻:これ、同じ色は同じ位相のずれを表してるんですけども、同じ色の部分、こうコンピューターの中で分けてしまいまして、この間、空いてるところを補間して埋めてあげます。ここまで来ますと、先ほどの位相シフトデジタルホログラフィっていうのが適用できますので、きれいな像が再現できるというものでございます。

高橋:参照光の位相を変えるということでしたよね。

粟辻:はい、そうです。

高橋:最初の方法だと、それは同じ参照光を当ててるときにタイミングを変えて撮ることで位相が違う像を撮るということですよね。

粟辻:はい、そうです。

高橋:これ、いっぺんに撮るときは位相の変化ってどうやってやるんですか。

粟辻:あ、位相の変化はいろんなやり方があるんですけども、今、実際にやっているのは、光の振動方向っていう偏光というのを使いまして、各画素ごとに異なる偏光方向を撮って、その光の振動方向をちょっと工夫してあげることで、その参照光の位相を各画素ごとにずらしてあげるっていうようなことができます。

高橋:そうすると、その撮像素子の方に工夫をすることで位相の違いを実現すると。

粟辻:はい、そうです。これは、こう130ミリ離れた被写体を2つ置きまして、これ従来の方法で、まず500ミリと630ミリにカメラから離したところに焦点を合わせたものですね。

高橋:左側だと余計な四角が写ってるわけですね。

粟辻:はい。これが、私の考えた方法ですと、余計な四角はなくなって、こちらですと、ちょうどコインの柄に焦点が合ってまして、後ろがぼけてると。こちら側はこういうふうにぼけてまして、こちらに焦点が合っていると。こういう絵が1枚のホログラム、ある瞬間のホログラムから再構成できると。

高橋:あ、1枚のホログラムの中に立体の情報が入ってると。

粟辻:そうですね。

高橋:見るときに、奥に焦点を当ててもいいし、手前に焦点を当ててもいいし、好きな距離が見られる。

粟辻:はい。

高橋:へえー。

粟辻:動くものを撮れるというのが強みですので、できるだけ速いものを撮りたいなというようなことで研究してまして、まずは2本のゴムひもをこの奥行きを変えて2つ用意しまして、それを同時にぴょんと弾くというものです。通常のビデオカメラで撮影しますと、これは早過ぎて追っかけられないんですけども、しかも、通常のビデオカメラですと、こちらに焦点を合わせますと、こちらはぼけてしまうという問題がありますね。

高橋:ああ、そうですね。はい。

粟辻:だから、同時に焦点合わせるような絵は撮れないというものです。これがホログラムですと、これ左側が私どもの方法で、こちらは従来の方法です。見ていただきますと、カメラから63センチ離れたところに焦点を合わせてますので、こちら側に焦点が合っている。黒くなっているのが焦点が合っていると。ただ、こちらはぼけてしまっているというのが分かりますね。一方、従来の方法ですと、先ほどの不要な像が乗りますので、ぼけてしまって、どちらに焦点が合ってるか分からないというような、こういう差が出ますね。更に、これは1枚、ある瞬間に撮影したホログラムから、コンピューターで焦点を合わせる場所をずーっと変えて、手前から奥にこう変えていってるというものができます。次の動画は振動してるゴムのある瞬間ですね。そうしますと、焦点を手前から後ろにこう変えていきますと、まずこちら側で焦点合ってると、少しはぼけてると。ずーっと焦点変えていきますと、今度はこちらがぼけて、こちらに焦点が合ってるというような、こういう絵が撮れますね。従来の方法ですと、やっぱりいらない像が乗りますので、こういうのは見られないと。

高橋:この方法なら、まさに高速で動いてるものを、その三次元の情報をとらえることができる。

粟辻:そうですね。

高橋:それがこれで証明されたわけですね。

粟辻:そうですね。その一例をご覧いただきますけども、今度は両方同じ瞬間に撮った像なんですけども、こちら手前に焦点が合ってるような動画像ですね。こちら奥に焦点が合ってるような動画像です。同じ現象を違うところに焦点を合わせて再現する動画が撮れているわけです。

高橋:世界で初めての像ですよね、これ。

粟辻:はい、そうです。

高橋:こういうことができると、いろいろ応用面での期待っていうのも高まってくるんじゃないんですか。

粟辻:はい、そうです。これは1つの応用ですけども、まずこちらに隠れてますけども、ガスが出てまして、ここの細いとこはノズルです。ここからガスがシューッと出ていくという、下は漫画で示してますけども、通常のカメラで撮影しますと、こんな感じですね。ガスですので透明で見えないと。

高橋:はい。先にある紙切れが動くんで分かる。

粟辻:動くことでやっとガスが出ているというのは分かりますけども、ホログラフィの大きな特長としまして、これ透明なもの、位相物体と言いますけども、こういうものを三次元可視化計測ができるという特長があります。これは・・・。

高橋:透明なものが見える。ホログラフィだと見えるっていうことなんですね。

粟辻:そう、透明なものの、しかも、三次元でものが見えるというものですね。これが撮影した結果ですけど、ここにノズルの口があります。これ毎秒18万コマというスピードで撮ってはいるんですけども、シューッとガスの先頭が出ていってる様子で、これが見えまして。この白から黒にこう濃淡で表してますけども、この白黒の濃淡が奥行き方向の高さを表してまして、大体白と黒で、そうですね、2分の1マイクロメーターぐらいの高さ変化があることになりますね。

高橋:へえー。どっちのが手前なんですか。

粟辻:これは白の方が手前なんですけど…。

高橋:黒が奥の方なんですね。

粟辻:そうです。最初のうちはこんな感じでシューッと出ていくのは分かるんですけども、しばらくしますと、落ち着いてくるんですけども、更にしばらくすると流れが乱れてくるような様子も…。

高橋:あ、ほんとだ。揺れてきましたね。

粟辻:そうですね。可視化できると。

高橋:これ、何にもしてないのに自然にこうなっちゃうんですか。

粟辻:これは、やっぱり撮影するときに人間がシュッと押しますので、この力加減で、しかも、なんせ20万分の1秒の世界ですから、やっぱりゆらぎがこう出てしまってるというものですね。それで、更に、面白いことが発見できまして、しばらくこうガスを出してますと、すーっと、こちら早送りしてるんですけども、こういう目みたいなのが空間的に発生するというのが見られて、こっちもしばらくしますと出てきますけども、こっちは大写しの方ですけども、あ、出てきましたね。この辺ですね。

高橋:ああー。こっちのが拡大ですね。

粟辻:そうですね。これ、流れは止まってるわけではないんですけども、こういうのが発生して、しかも安定した状態で生まれてくる。これからは、この辺の挙動の調べていこうかなというようなことを考えています。

高橋:ふうーん。こういうものができるっていうことは、今まで分かってたんですか。

粟辻:マッハとか、非常に速いジェット噴射ですと、こういうパターンが出てくるっていうのはよく報告されてるんですけども、これ、そこまで速くはないので、それはどうなってんのかなっていうのをちょっと今から調べようかなというようなところですね。

高橋:これは流体力学の問題ですね。

粟辻:はい、そうです。

高橋:今までのホログラフィとはまた別の研究のようですね。

粟辻:全く別のことですね。その辺の面白いところが自分の興味ですね。いろいろと、広げていきたいというところが。先ほど白黒の濃淡が高さを表してるというふうにお話しましたけども、それをちょっとCG的なことをしますと、こんな感じで流れの立体表示ができる。

高橋:単なるCGではなくて、基は観察データですからね。

粟辻:そうですね、はい。

高橋:観測データを基に3Dで再現してみると。そうすると、こういうガスの流れが立体的に見えるということですねえ。

粟辻:この位相というものの中に、この高さ方向の情報が含まれてますので、それをうまく抽出してあげますと、こういう三次元表示で、まさに三次元の動画像計測ができるという結果ですね。

高橋:透明で見えなかったものが、こうやって目に見えるようになるって、ほんとすごいですよね。

粟辻:面白いですね。

高橋:ほかにも、先ほどのLight-in-flightという技術も計測に使えるんだそうですね。

粟辻:そうですね。こちら、被写体に電球を置いた場合の再生像です。これはホログラムがありますけども、順番に当てる場所を、再生する場所を変えていきますと、右から順番にこういうふうな像が再現されていきます。これをずーっと再生していきますと、まさにこういう動画が得られます。これはこういうふうに組み合わせてあげますと、こんな感じで観察者から見たときの高さ方向の等高線を表せるということになります。

高橋:これは、その電球の表面から反射してきた光をとらえてるっていうことですか。

粟辻:はい、そうです。このホログラムの写真フィルムの方に近ければ近いほど光が早く返ってきますので、そういうことで、この辺が速く返ってきて、徐々に奥になるほど返ってくるのが遅くなるということで、こういう輪切りというか等高線が作成できます。

高橋:なるほど、なるほど。

粟辻:この等高線さえ作成できますと、まさに地図と同じですので高さ方向の計測ができるということで、ちょうどこの電球が光りを通過するスピードでその物体の三次元計測ができるというものですね。

高橋:すごい速さでできるわけですよね。

粟辻:すごい速さです、すごい速さです。はい、そうです。

高橋:これは最初に電球だって分かっているものを見てるわけですけども、何だか分からないものに対して光をピッて当てるだけでその形が分かってしまうと。

粟辻:そうですね、光のスピードで計測ができますので。

高橋:光のスピードでと言うと、具体的にはどれぐらいの。

粟辻:そうですね、1秒間で30万km進みますので。

高橋:それは光の速さですね。

粟辻:このデータを計測するだけですと、そうですね、どれぐらいなのかな、数百ピコ秒、数百億分の1秒辺りでデータをガッと取れるということになりますね。

高橋:ふーん。そういう非常に短時間の映像をとらえることができる、そういう技術を時間顕微鏡っていう言葉で呼んでらっしゃるんですね。

粟辻:そうですね。私が名付けたんですけども、大体、時間を10の13乗倍ぐらい、ずーっと引き延ばすことが可能な顕微鏡としてとらえることができますね。

高橋:面白いですね。時間を拡大する、そういう顕微鏡。10の13乗倍、10の13乗倍っていうと、10兆倍ですか。

粟辻:はい、そうです。

高橋:つまり、10兆分の1秒を1秒に引き延ばすことができる。

粟辻:できますね、はい。今、世界最高速級の高速度カメラというと、秒100万コマとか1千万コマまではまだいかないんですけども、それと比較しますと、100万倍から1千万倍。それぐらいのスピードを得られる時間顕微鏡というふうにとらえていただいても結構ですね。

高橋:100万倍から1千万倍。

粟辻:はい。

高橋:へえー。高速度カメラの限界をホログラフィなら軽々と超えていくということなんですね。

粟辻:はい。

高橋:それは1千万倍も違ったら、景色は全く違って見えますよね。ホログラフィの秘めたる力に本当に圧倒される思いですけれども、これ、この技術は今後どのような方向に進んでいくんでしょうか。

粟辻:ホログラムは昔から動くものの記録と再生が非常に苦手でして、再生の方はまさに究極の立体テレビの方向を目指して多くの研究者の方が進んでいってますね。私もそれは興味はあるんですけども、今は、記録の方で動くものをとらえるっていうところで、科学の最先端がそれこそフェムトとか、アトの領域で起きてる…

高橋:アトというのはフェムトの1,000…。

粟辻:1,000倍、1000分の1秒ですね。

高橋:1000分の1秒ですね。

粟辻:その辺をスローモーションで観察できないかなあとか。

高橋:今はフェムト秒までできてるわけですね。更に1000倍の、速いと言うのか、何と言うのか、拡大率で顕微鏡、時間顕微鏡を作る。

粟辻:そうですね。あとは、今は光を使ったレーザーでやってますけども、エックス線とか電子線で全く同じことをやって、電子とか分子の超高速の動きをスローモーションで見たいなあというのが夢ですね、私の。

高橋:なるほど。分子の動きそのものを見てしまう。

粟辻:スローモーションで見たいですね。

高橋:スローモーションで。それが実現したら、ほんとに教科書を書き換えるという言葉はよく使われますけれども、そういうことが次々見つかってきそうですね。

粟辻:それ夢ですね。

高橋:(笑)それは基礎的な科学の方向ですけれども、応用分野ではどうですか。

粟辻:応用分野ですと、例えば先ほどガスのスプレーの動画をご覧いただいたんですけども、あれを応用しますと、例えばエンジン中に出すガソリンとかがどういうふうに広がってるかっていうのがまだよく分からないような状態なんですね。計測しにくい。そういうのに、こういう技術を使いますと、どういうふうにガソリンが広がっていってるかとか分かり、非常にエコな、クリーンなエンジンができたりというようなところに応用したいなあと思っています。

高橋:そうですね。そういうものが見えてくれば、もっと燃費のいい車、もっとクリーンな車をつくるのに非常に役に立つでしょうね。ホログラフィの持つ力がもっともっと広く世界に知れ渡って、応用が広がっていくのを楽しみに待ちたいと思います。本日は、本当に貴重な映像とお話をどうもありがとうございました。

粟辻:ありがとうございました。

高橋:科学朝日、本日はこの辺りで失礼いたします。次回もどうぞお楽しみに。